第四十三話【白百合のプリンセスは新たな仲間をナンパした?!】
弓使いの死闘の相手は美鈴から白百合のプリンセスへとスイッチします。
まあ、どちらも同じ美鈴なのですが。
そしてその後、美鈴達に新たな仲間が加わる事に…。
白い霧は晴れたものの、金色の三日月は未だそこに在る。
そしてその金色の三日月は語った。
『残念ですが、貴女は獲物を仕留められませんでした。』
三日月の光は仮面だった。
三日月の形をした黄金の光が薄れて仮面から消えると、そこには純白で露出多目のドレスを身に纏う金髪の美少女が立っていた。
『仮面の剣豪、白百合のプリンセス。』
『ここに降臨。』
彼女の腕にはグッタリとした美鈴がお姫様抱っこで抱き抱えられていた。
「し、白百合のプリンセス様?!」
その姿と言葉に月夜が驚いた。
「美鈴さん!美鈴さんはご無事なのですか?!」
明花は白百合のプリンセスに美鈴の容態を気づかう。
「ご安心を。彼女は気を失っているだけです。」
「「「…よ、良かったぁ。」」」
その言葉に明花と月夜、そして范先生はホッとする。
「ありがとうございました!お嬢様はこちらでお預かりします!」
ここで愛麗が余計な一言を言う。
だが側仕えとしては当然の台詞か。
「ご安心下さい。彼女は私が異空間で保護致します。」
そう言うと美鈴の姿が白百合のプリンセスの腕から消えた。
勿論この美鈴は仮面の聖霊が用意した美鈴人形だ。
遠目では本物にしか見えないほど精巧に作られており、呼吸と体温まで再現されていた。
(名尾君、ちょっと凝り過ぎじゃありませんこと?)
【まあそう言うな。因みにその人形、意思を持って動き回ったり会話する事も出来るぞ?】
(まるで漫画家F・F先生の作品ですわね…。)
そんな感想を抱きながらも美鈴は白百合のプリンセスとしての演技を続けるのだった。
「これで彼女は大丈夫。さあ心置き無く戦いましょうか、科学とやらの魔法を用いる弓使いさん?」
白百合のプリンセスがレイピアを正眼に構えてから、その切っ先をピュッと刺客である弓使いに向けた。
「私の邪魔をするか、白百合のプリンセスとやら。」
弓使いは先ほど美鈴を吹き飛ばした(と、言うことになっている)紫電の矢を手に取り弓へとつがえた。
「この矢の威力を目の当たりにしても、それでも向かってくるつもり?」
「そちらこそ、そんな矢ごときでこの私を仕留められるとでもお思いですか?」
余裕を見せ挑発する白百合のプリンセス。
「大した自信だね、その自信が仇とならなきゃいいけど?」
刺客の弓使いは紫電の矢を白百合のプリンセスに向けて放った。
「己の力を過信するのはどちらか…」
「特とご覧なさいな!」
白百合のプリンセスのレイピアが舞う。
レイピアが白い光を眩く放ち、白百合のプリンセスは剣の光で五芒星を描く。
「その害意を貴女へと還しましょう!」
紫電の矢が五芒星の真ん中へと命中する。
白と紫紺の激しい火花が相対して飛び散る。
紫の光が抵抗するかのように放電していたが、やがて紫の光は白い光に飲み込まれていった。
そして紫電の矢は白く柔らかい光に包まれながら、白光の矢へと変わり、弓使いの方へと向いた。
「白光の矢よ、悪しき弓使いを貫け!」
先ほど弓使いより放たれた速度を越える速さで白光の矢が刺客の弓使いの元を目指す。
「な、何の冗談だ?!」
刺客の弓使いは慌てて紫電の矢を放ち、白光の矢を迎え射った。
空中で激突する紫電の矢と白光の矢。
が、ジリジリ白光の矢に押され始める紫電の矢。
「ど、どうしたの?そんな矢に押されるなんて…!」
そして、紫電の矢は遂に空中で四散した。
「そんなバカな?!」
紫電の矢を破壊し尚も自分に迫る白光の矢を更に二本目の紫電の矢を放ち、何とか食い止める刺客の弓使い。
二本目の紫電の矢は白光の矢と共に力尽きる事で主を護った。
しかしその矢は既に主の元へと帰る力を失い、光となって消えていった。
「そ、そんな事が…。」
刺客の弓使いは目の前で起きた事が信じられなかった。
だが貴重な紫電の矢を既に二本も失った現実を直視せざるを得なかった。
「その紫電の矢も、残りあと一本となりましたね。」
ユラリと弓使いに向かって歩き出す白百合のプリンセス。
「ま、まだまだ荷電粒子の矢は残ってる!」
電光を纏った別の矢を構えて牽制する弓使い。
だが白百合のプリンセスの眼光は弓使いを捉えたまま。
「くっ!」
弓使いは迷いながら矢を放つ。
「甘いですね。」
白百合のプリンセスが輝くレイピアに更なる光を纏わせて振るった。
するとまだ間合いから離れているというのに荷電粒子の矢は真っ二つに割れて地に落ちた。
荷電粒子が暴走の火花を発してから「ボン!」と二つに裂かれて落ちていたその矢は弾けた。
「貴女の魔法の使い方は、なっておりません。」
ゆらあ、とレイピアを構える白百合のプリンセス。
その目の光を見て弓使いは萎縮する。
「魔法とは、こう使うのですよ?」
白百合のプリンセスの仮面の下の表情はニッコリ笑っている。
すると、裂けて弾けた荷電粒子の矢がくっ付くと再び荷電粒子を纏って浮遊する。
それは刺客の弓使いへと飛び、彼女の足元に落ちて刺さるとその足元で爆発する。
「キャッ?!」
少し呆然としていた弓使いは思わず後ろ向きに
転んだ。
その拍子に彼女のスカートが捲れてしまう。
頬を赤くし目線を逸らす白百合のプリンセス。
無言で立ちあがりスカートを直す弓使い。
「今の…まさかわざと?」
ジロッと白百合のプリンセスを睨む弓使いの頬が赤い。
「いえいえ、とんでもない…不可抗力です。」
白百合のプリンセスは取り繕った。
不可抗力なのは確かだが、そのスカートの奥はバッチリ見えてしまっていた。
(ホントにワザとじゃありませんもの!)
真っ赤な顔でプルプル震えていた弓使いだが、ここで変な意地が働いた。
「わ、私だけ見られるのは納得がいかない!貴女も転ばせてスカートの中身を見てあげるからね!」
「何でそうなるのですか?」
ハア?と呆れる白百合のプリンセス。
だが直ぐシリアスな表情になる。
「今の貴女の技量では私を転ばせるなど出来そうにありませんけどね?」
「…くっ…。」
その言葉に刺客の弓使いは何も言い返せなかった。
紫電の矢を落とされた事で彼女がそれまで持っていた絶対の自信が揺らぎ始めていた。
紫電矢以外の荷電粒子の矢自体も、もう既に片手で数える程しか残されてはいない。
後は普通の威力のホーミングアローだけだ。
さっきの美鈴にすら容易く叩き落とされてしまう程度の矢だ。
それがこの白百合のプリンセス相手に通用するとは到底考えられない。
彼女には弓使いが絶対の自信をもって放った紫電の矢をことごとく消滅させられたのだから。
この場から退散する時の為の血路を切り開くためにも、残された最後の一本となる紫電の矢と合わせて荷電粒子の矢の二本か三本程度は残さないとダメだろう。
だがそう考えるとこれ以上白百合のプリンセスを相手にしていては逃げられるものも逃げられなくなってしまう。
弓使いは完全に撤退のタイミングを見誤ったのだ。
ここで漸く弓使いは気が付いた。
確かに弓使いは美鈴を相手に戦った時、紫電の矢で勝ちを得たのかも知れない。
だがその時点で月夜暗殺の任務は失敗していたのだ。
美鈴との勝負に夢中となり、彼女を倒すために切り札となる手札を見せてしまった。
本来あの矢は任務遂行のため、月夜に向けて放たれるべき必殺の矢だったはずだ。
毒矢を従者が捨て身で主人の月夜への命中を阻止した時点で彼女の馬車へ向けて二の矢として紫電の矢を放つべきだったのだ。
結果として彼女は、捨て身で主人を庇った従者に気持ちで負けていた。
そこまで主人のために行動出来る従者に弓使いは恐怖した。
そして本来の武器であるホーミングアローの手持ちの半分を美鈴に壊されてしまった。
切り札を出さざるを得なくされた時点でもう勝負は決まっていたのだ。
対して美鈴と従者は月夜を護るべく己に出来る役目を見事に果たしていた。
そう考えると美鈴の目的はあくまでも月夜を護る事で、自分との勝負は二の次だったという事になる。
それならむしろ勝つ必要すらない。
それに美鈴は紫電の矢を防ぎ切れなかった(と、弓使いは思い込んでいる)のだが、それでもまだ彼女からは力を隠していた事が彼女から発散される気配でヒシヒシと感じられていた。
(まさか、ワザと負けた?この展開を引き出す為に、白百合のプリンセスを間に合わせる為に私との勝負を捨てて時間を稼いでいたとでも?)
何より、美鈴が粘る事で目の前の白百合のプリンセスは月夜の危機に間に合ったのだろう(弓使いの目線ではそう思えた)。
(この者達は…覚悟が違う!)
(…従者も美鈴も己を犠牲にしてでも月夜を守った。)
(そして白百合のプリンセスは月夜だけでなく美鈴を護って現れた…。)
(お…恐ろしい連中だ!)
刺客の弓使いは月夜の身を守って戦う少女達に恐怖した。
………まあ、全部この弓使いの勝手な想像による思い込みなのだが?
従者も美鈴もそんなに深く考えて行動していたワケではなく、考えるより身体が勝手に動いているに過ぎない。
荷電粒子の矢と紫電の矢に手をこまねいていたのはいつもの面々に真の実力をまだ見せるワケにはいかないからで、別に紫電の矢を防げない事は無かった。
それはこれまでのいずれの場面でもそうだった。
仮面の剣豪の姿となり別人の振りをする事でそんな制約が取っ払われるからこそ美鈴は仮面の剣豪に変身しているのだ。
それと周りへの被害を出さず仲間を守りきる、その二つくらいしか美鈴は考えていない。
作戦などその場で考える、美鈴にとってそれがいつもの事だ。
美鈴の信条は
(シンプルイズベストですわ。)
これに尽きる。
横文字にすればカッコいい響きの気もするが何の事はない、要するに思考が単純なのだ。
なのに弓使いは勝手に自分の思い込みによる想像に押し潰されていた。
この二人の問題的な思考が噛み合い、結果として美鈴の有利に働いたに過ぎない。
美鈴があわよくば白百合のプリンセスに変身するためのタイミングを計っていたのは確かだが、別に自分が弓使い相手に勝っても良かった。
ただ紫電の矢を相手にすれば自分も周りも危険だし、勝つ為には自分の真の実力をバラしてしまう危険があると判断して白百合のプリンセスへの変身を選んだに過ぎない。
だがそんな事は弓使いが知る由も無く。
(任務は既に失敗していた…なのに逃げるタイミングすら逃していたなんて…!)
頭を抱えたくなる弓使い。
気のせいか涙目になってるような。
だが彼女が後悔や雑念に苛まれている間にも、白百合のプリンセスは弓使いに近づきつつあった。
そして剣の間合いまで近づくと、左手からロープを現出させた。
「…選んで下さい。このまま私に斬られるのか、それとも大人しく投降して皆に謝罪するか。」
(本当は斬ったりしませんけどね、血が出ますから。)
「どのみち私の命は無いのか…。」
最早完全に勝負を諦めた弓使い。
勝負云々よりもマイナスな想像に負けて勝手に精神的に自滅したのだ。
「いえ。貴女が月夜さん達に謝罪し、罪滅ぼしに安家に服従するのであれば命だけは保障されると思います。」
「…選べと言いながら、選択肢など無いじゃないの。」
「では、投降するという事でよろしいのですね?」
力無く首肯く弓使い。
彼女は潔く敗けを認めたのだ。
内心斬らずにホッとする白百合のプリンセスこと美鈴。
白百合のプリンセスにロープで拘束されると、彼女は月夜の乗る馬車まで連れて来られた。
「月夜さん、私は彼女を貴女の部下、そして味方として使われる事を提案致します。彼女はとても有能です、きっと貴女方の貴重な戦力となって下さる事でしょう。」
「そんな?依然を死なせかけたコイツを?!」
驚く月夜。
いくら自分が一目惚れした白百合のプリンセスの言葉とはいえあまりにも意外なその言葉に戸惑いを隠せなかった。
これには弓使いも驚いて白百合のプリンセスの方を見る。
「な、何を言い出すんだ?月夜さんの言う通りだぞ、私は彼女の命を狙い、その従者を危うく死なせかけたんだぞ!」
「でも、誰も死ななかった。」
その白百合のプリンセスの言葉に絶句する弓使いと月夜。
「うっ?」
「そ、それは…。」
弓使いと月夜は二の句が告げられなかった。
「これは私から貴女へのプレゼントです。」
「ぷ、プレゼント…?(ポッ)」
こんなプレゼントなどあったものではない!と普通なら思うはずだ。
だが白百合のプリンセスにぞっこんな(彼女はこの状態の時は美鈴よりも白百合のプリンセスを優先する)今の月夜にとってそれはとても甘美な響きだった。
「では、そう言う事で。」
白百合のプリンセスは満面の笑顔を仮面の下から覗かせながら踵を返す。
「お、お待ちになって白百合のプリンセス様!」
「こ、このまま私達と臨海学校に参加して下さいませんか?」
「この弓使いが逃げたり狼藉を働かないよう、見張る人も必要ですし。」
月夜としてはまたとないこのチャンスに白百合のプリンセスをこのまま逃したくなかった。
彼女とはこれからもっとイチャイチャしたかったのだ。
「その役目は美鈴さんが適任です、私はこれにて。」
そう言うと白百合のプリンセスは宙を舞う。
そして高速で飛び去り、光となって消えていった。
「せっかくまたお会いできたのに………。」
ギュッと胸の前に置いた手を握りしめる月夜。
「プレゼント、ありがとうございましたー!」
月夜は白百合のプリンセスからのプレゼントを貰い受けた。
これで弓使いの処遇は決まった。
皆がボンヤリ上空を眺めていると、呑気な声が聴こえてきた。
「皆さん、ご心配おかけしましたわ!」
その声の主は美鈴だった。
木陰からフラっと現れた美鈴。
所々制服が破れているがそれ以外に目立った外傷も無さそうだった。
美鈴は月夜の馬車に乗る。
「美鈴さん、お怪我は?」
明花が直ぐ様に美鈴の身を案じて彼女に近寄る。
「心配ございませんわ。」
「でも、お洋服が破れてますよ?」
「え?」
良く見ると、確かに着ている洋服の所々に小さな破れやほつれが見られた。
葉っぱや汚れも見られた。
「あちゃー、ちょっと繁みを強引に抜けて来たから破けちゃったかしら?」
「ウフフ。美鈴さんたら子供みたいなんだから。」
そう言うわりには嬉しそうにニコニコしている明花だった。
「と、ところで依然さんのご容態の方は如何でございますか?」
「心配してくれてありがとう美鈴さん。今は落ち着いて眠っているわ。」
「そうですか、それは一安心ですわ。」
すやすや眠る依然を見て命が無事で良かったと美鈴は安心した。
と、同時に馬車を乗り換える際に依然と擦れ違った時に感じた微妙な違和感を再び感じた。
(…背筋がどこかおかしい?)
背中に何かを仕込んでいる可能性がある。
だが身を呈して主人の月夜を守ったのだから刺客の可能性は限りなく低い。
となれば月夜の従者は護衛任務も兼ねているのだろう。
常に刺客の襲撃が考えられるのだから考えてみればそれも当然か。
そうであるなら飛んできた矢に反応して咄嗟に月夜を庇えた事も納得がいく。
「…で、この女が今回の犯人なワケだが…。」
范先生が刺客だった弓使いを拘束しているロープを引っ張り美鈴の目の前に持って来る。
「白百合のプリンセスから聞いておりますわ。確かにこの方が味方となれば心強いですわね。」
「だが、私は紫電の矢をあと一本しか持っていない。荷電粒子の矢もあと四本。」
「今はダメですけど、必要に迫られる場合には作らせますわ。」
「作らせる?あの矢の作成と入手は誰にでも出来るワケではないのよ?」
「うちの学院には変人と変人達の巣窟が御座いますの。多分イケますわ。」
ニヤリと笑う美鈴。
「あ。…まさか、美鈴さん?」
明花にも美鈴が当てにしてる人物達に心当たりがあった。
「ま、それは夏休みの工作という事にしますわ。」
「時に貴女、お名前は?」
「君に拒否権など無いからな、そこはわかってるな?」
范先生が厳しく対応する。
「先生、これから仲間になるんだからなにもそこまで…。」
美鈴がそう言いかけた。
だが。
「…いや、命を助けて貰うだけでも有りがたい身だし、信用が得られるまでは仕方ない。それに従うわ。」
「私は南方貴族学院中等部所属二年生、」
弓使いはフードを取った。
「李若汐。」
三つ編の黒髪を服の背中から引っ張り出しながら、若汐は名乗った。
まだ幼さすら感じさせる素顔。
身長も良く見ると美鈴よりもやや低い。
「あ、貴女は中等部の生徒でしたの?!」
「はい。実は今回の月夜さん暗殺の件にはやむを得ない事情があったのです、どうか赦してください。」
若汐は下を向いたまま自身の身の上話を始めるのだった。
どんどん勝手に想像して勝手に盛り上がって勝手に自滅する弓使い…。
どこまても楽観的な美鈴とは正反対な性格です。




