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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第二章【一年生の夏休み編】
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第四十二話【私のハートを射止めるのは恋のキューピッドだけにして欲しいものですわ。】

あけましておめでとうございます。

元旦にお届けしたかったのですが遅れてしまいました。

更新を楽しみにしてた皆様、ご容赦ください。


月夜ユーイー先輩の馬車で美鈴メイリン明花ミンファが見たものは。


現れた刺客、それはフレイムドラゴンや鋼鉄キメラなどの怪物とはまた違った「武」の使い手で、かつてない強敵となるのでした。


美鈴メイリン月夜ユーイーファン先生、そして月夜ユーイーの従者が乗る馬車に乗り込んだ。


そして彼女に遅れて馬車に辿り着いた明花ミンファは、まずは馬車の御者に声をかけた。

「ハアハア、な、何が、…あったのですか…?」


「わかりません、いきなり馬車を止めるようにお嬢様が叫ばれましたので…。」

御者も突然の事に困惑しているようだった。


「お嬢様…月夜ユーイー先輩からの指示?」


明花ミンファは息を整えると、馬車へと駆け上がった。


美鈴メイリンさん、一体何が…」

そこまで言って美鈴メイリンの表情を見た明花ミンファ


美鈴メイリンは馬車の席と席の間を緊張の面持ちで見つめていた。


明花ミンファがその視線の先を辿ると。


依然イーラン依然イーラン!」

月夜ユーイーが必死に叫んでいる。

しゃがんでいる月夜ユーイーの腕には彼女の従者が抱かれていた。


「あ…お、お嬢…様…。」

力無く月夜ユーイーからの呼び掛けに応える月夜ユーイーの従者、依然イーラン


彼女の首筋に一本の矢が刺さっていた。

正確には首筋の根元。

出血自体は少ないようだ。

これがもう少し上に当たっていたなら即死もあり得た。


とは言え、今でも危ない状態に変わりは無い。


「二人とも、立っていると危ないぞ!」

ファン先生が窓から身を隠すようにして美鈴メイリン明花ミンファに注意した。

「あ!そうでしたわ、明花ミンファさん、伏せましょう。」

「は、はい。」


「御者さんも身を低くしてくださいな!特に頭と胸だけは射たれないように!」


「ひ?ひいいっ!」

御者は恐れて小さく丸まった。


後で思えば美鈴メイリン依然イーランの出血を見て気が遠くなりかけたのだろう、丁度いいタイミングでファン先生に声をかけられ我に返ったと見える。


明花ミンファは再び依然イーランに目を向けた。

既に彼女の目は人命救助の意思でみなぎっていた。


「そのまま矢を抜かないで下さい、静かに椅子に寝かせましょう。」


「はい…。」

月夜ユーイーはしおらしく明花ミンファの指示に従った。


美鈴メイリンさん、ファン先生、周囲に気を付けて下さい。まだ何らかの動きがあるかも知れません。」


「では先生、この馬車の周囲に結界を張って下さいな。私は向こうの馬車に結界を張ってから警備します。」


「わかったよ、美鈴メイリン君も気を付けなさい。」


「わかってますわ。」


美鈴メイリン月夜ユーイーの馬車から降りると、側仕え達の乗る馬車へと向かっていった。


「…毒矢の可能性があります…幸い本人の治癒力で毒の進行を抑えているようです。」

明花ミンファが目を閉じながら依然イーランに手を翳していた。


「傷は致命傷では無いようです。でも今矢を抜けば出血が酷くなるので、先に傷口を癒した方が良いようです。」


「毒の方は?」


「先生、解毒薬はありますか?」


「何の毒かわからないとね、解毒薬にも相性があるから。」


「…では、小皿を一つ用意出来ますか?」


「代わりにこれを。」

月夜ユーイーがバッグから化粧道具箱を取り出し、引き出しの一つを抜いた。


「これは耐水性があるから化粧品で汚れても後で綺麗に洗えるのよ。」


「ではそれをお借りします。」

明花ミンファが引き出しを譲り受ける。


「少し血を貰うので出血します。後で布を当てて止血して下さい。」


「少し痛くします、我慢して下さいね。」


明花ミンファは息を飲んだ後で、ゆっくりと矢を引っ張る。


「!」

依然イーランがビクッと動く。


「彼女を押さえて下さい!」


頷いて依然イーランの腕と肩を押さえるファン先生、そして月夜ユーイー


矢の刺さった傷口から少しずつ流血する。


その血を指で拭って引き出しに擦りつける明花ミンファ

それが終わると矢から手を離す。


「良く我慢しましたね。」

穏やかに依然イーランに話し掛ける明花ミンファ

「もう彼女を押さえなくても大丈夫です、その代わり止血をお願い出来ますか?」


「私がするわ。」

月夜ユーイーがハンカチをポケットから取り出して傷口に当てる。


「少し押さえながら布を当てて下さい。」


「ええ、それくらいならわかってるわ。」


月夜ユーイーの対処を確認してから明花ミンファが先程拭い取った血液に指先から光を出して照らす。


すると血液から赤色の煙が立ち上った。


「…これは酸性毒と見られます。」


かなり大まかな判別であるが、毒を大別すれば

酸性かアルカリ性なのでそれを中和するのが手っ取り早い対処方法だ。


「先生、アルカリ性の解毒薬はありますか?」


「ああ、それならある。」


ファン先生から解毒の丸薬を受け取り依然イーランに飲ませようとするが。


「うぇっ…。」


中々飲み込んでくれない。


「水と一緒に飲み込んで貰いましょう。」


月夜ユーイーが水筒の水を飲ませる。


が、意識がハッキリしてないせいか水が口から零れてしまう。


「困りましたね。」

どうしたものかと腕組みする明花ミンファ


「…仕方ないわね。」


月夜ユーイーが丸薬を明花ミンファの手から取って水筒の水と一緒に口にする。


そしてそのまま口を依然イーランに近付けて、口と口で直接に丸薬と水を送り込んだ。


ゴク、ゴク…。


依然イーランの喉が鳴る。


「………。」


月夜ユーイーが顔を真っ赤にしながら唇を離す。

「…これで目を覚まさなかったら、許さないんだから…!」

少し怒っているようだった。


(私の、ファーストキス…だったんだから!)


ブツブツ恨み言を依然イーランに呟く月夜ユーイー


「丸薬は遅効性だから早くても効き目が現れるまで小一時間はかかる。」

ファン先生が難しそうな顔で説明する。


「ではそれまでに出来る事をします。」

明花ミンファが再び矢の刺さった傷口へと手を翳す。


癒しの光。


徐々に矢が身体から押し出されていく。


そして、完全に矢が抜けた。


カラン、と矢が椅子の下に落ちる。


依然イーランの傷口は完全に塞がった。


「あと、少し…。」


「まだ治療するの?」


「ええ。傷は治ったけど毒は丸薬だけでは完全に消せないので。」


明花ミンファの手から出る白い光の色が温もりを感じさせる色へと変わる。


更に暖かみのある色で依然イーランの全身が輝く。


「…毒の有害成分の働きを抑えて幾らか魔法的に排出させます。」


今度は黒っぽい靄が僅かに依然イーランの身体から出ていって、消えた。


「ふう。」

明花ミンファが翳していた両腕を下げ、身体の力を抜く。


「…終わったの?」

月夜ユーイーが心配そうに聞く。


「はい。後は丸薬の効果が出て自然治癒が終わるのを待つだけです。」


「そうか、安心した。」


「それで、一体何があったんですか?」


「見ての通りよ。彼女が私を庇うようにして矢を受けたの。」


「その矢はどこから…」


「もう犯人は移動してるだろうな、探すだけ無駄か、それとも…」


「………私達の包囲をしているか、よね。」


神妙な顔つきで周囲を見回す月夜ユーイーファン先生。


「こ、この付近を犯人達に囲まれてると?」

明花ミンファの頬を汗が伝った。


美鈴メイリンさん…!)


明花ミンファは馬車の結界の外にいる美鈴メイリンを見た。


「せい、せいっ!」


カン、カン!


美鈴メイリンは飛んでくる矢を剣で叩き落としていた。


「これではキリがありませんわ。」


「出てきなさい、あなた方が私達を、包囲してるのは、わかってるんですから!」

美鈴メイリンが叫ぶ。


と、その声に答えるかのようにフードを被った刺客が森の中から現れた。


「ククク。噂に名高いリー家のご息女、黎美鈴リー・メイリンも影から矢で狙われては一溜りもないと見える。」


「お仲間は?」


「いないよ。全ては私一人でやってる。」


「ほう…一対一の戦いでこの私に挑む気ですの?」


美鈴メイリンが剣を構える。


「そちらこそ、間合いで私の矢の方が優位だということがわからないとでも?」


フードの刺客が弓を構えた。


「…貴女、お名前は?」


「暗殺の密命を帯びた刺客が自らの名を名乗るとでも?」


「それもそうでしたわね。」

ふっ、と息を洩らす美鈴メイリン


「実は貴女とは個人的に一度戦ってみたかった。」


「あらそうですの?貴女が悪党で無ければ光栄でしたのに。」


ゆっくり回り込むように歩く二人。


「…でも残念だわ。」


「こんな形で、それも命を奪う格好で戦いたくは無かったからね!」


刺客が矢を弓につがえると、美鈴メイリンもまたダッシュした。


二連射、そして三連射。


文字通り矢継ぎ早に弓に矢を沿えて射る刺客。


そしてそのことごとくを剣で打ち落とす美鈴メイリン


美鈴メイリンは剣で矢を防ぎながら間合いを詰めていく。


一方で矢を放ちながら弧を描くように走って距離を取る刺客。


この女の脚が意外に速くて、結構侮れなかった。


「待ちなさい!」

美鈴メイリンも矢を打ち落としながら追いかけるも、時折軌道を変えて襲ってくる矢の対処に手惑い、どうしても足が遅くなる。


それに剣で叩かず避けようとした矢も何本かあったのだが、避けたハズの矢がどれも何故か突然に鋭角な軌道を描いて追ってくる。


その矢を辛うじて剣で防ぎ落とす美鈴メイリン


「この矢、避けても追いかけてくる…まさか自動追尾ができるんですの?」


「あら気が付いた?凄いでしょ。」


「でもまあ、打ち落とせば同じなんですけどね!」

実際、美鈴メイリンはその放たれた矢を全て剣で叩き落としていた。


本来なら簡単に追い付ける筈、だがそれは矢によって阻まれたせいか中々思うように距離が縮まらない。


やがて半周する頃、美鈴メイリンに打ち落とされた筈の矢が地面から抜け、続々と刺客の背中へと戻っていく。


「…な?」

その光景に気付いて驚愕する美鈴メイリン


「そんなの、有りなんですかあ?!」

つい立ち止まって叫んでしまった。

不利な状況を嘆くというより呆れてしまったのだ。


「矢が無くなるのを待ってたなら残念ね。私の弓矢は自動追尾だけでなく、帰巣本能まで持つホーミング・アローと言って無限に矢を射れるのよ!」

美鈴メイリンが立ち止まったのを見た刺客もまた、一旦止まった。

この距離をキープするつもりだろう。


(ホーミングって…追尾だけじゃなく、文字通り持ち主の所へ帰るなんて?)

(なんつー魔法ですの!これってチート能力とかですか?!)


「くっ!」

「このままでは拉致が開かないですわ!」


「そう?ならどうする気?」


「…こうしますわ!」


美鈴メイリンの手にしている刃先を潰した練習用の剣が竜巻のような空気の渦に包まれるた。


「ふーん、風魔法?それを私にぶつけるつもりかしら?」


「無駄口叩いてないで、来なさい!」


「あ、そう。ならお望み通り、射つわよ!」


二連射を四回、雨のように美鈴メイリンの頭上から矢が降って来た。


「どう?この矢の雨から逃れられる?」


「…容易いですわっ。」


竜巻斬トルネイド・スラッシュ!』


美鈴メイリンが剣を振るうと剣を纏っていた空気の渦は矢の雨へと放たれた。


すると、美鈴メイリンを中心に彼女の周囲を突風が竜巻となって立ち上ぼり、巨大な空気の渦の壁となる。


竜巻斬トルネイド・スラッシュ防壁形態シールドモード、ですわ!』


美鈴メイリンを襲った矢の雨は、そのことごとくが空気の渦に巻き込まれ、その中に密かに展開されていた空気の刃によって細切れに切り刻まれてしまった。


やがて突風が止むと、矢の残骸はポタポタと地面に落ちた。


「さあ、これで貴女の矢の数は先程までの半分程度かしら?」


「やるわね。」

刺客が真顔になった。


剣道三倍段という言葉がある。


これは武道における間合いの優位差を示した言葉で、素手と剣とでは間合いにおいて剣の方が圧倒的に有利であるという意味だ。


同様にこれは弓矢と剣においても同じで、弓矢が遠くから攻撃出来るのに対して剣は射手の側まで近寄らなければ攻撃出来ず、そこに至るまでに矢の攻撃を受けてしまえば戦いは終わりだ。


それだけ実戦において剣は弓矢より不利なのだが、美鈴メイリンは剣の腕も然ることながら、魔法によってそれを覆したのだ。


「貴女が魔法で対抗するなら、私も魔法で対抗する。それで状況は再び私の方が有利に戻る。」


バチバチと火花が飛び散る矢をつがう刺客。

電光粉砕撃ライトニングスマッシャー!」


その矢は美鈴メイリンに襲いかかる。


「なんの!」


再び剣で打ち落とそうとする美鈴メイリンだったが。


「ダメだ、美鈴メイリン君!」


後ろの馬車から聞こえたファン先生の叫びに反応して身を翻す美鈴メイリン


矢は火花と共に地面へと突き刺さる。


「えっ?」


美鈴メイリンの背筋に冷たいモノがゾゾ~ッと走った。


シュウウ~。


「地面が、溶けて抉れてる…?」


「チッ、惜しかったわね。」


放たれた矢が再び刺客の背中へと戻る。


「この威力…ただの雷魔法の上乗せではありませんね?」


「あら正解。」

「そうよ、確か荷電粒子…とか言ったかしら?知覚出来ない小さな粒を光の速さに加速さたモノで矢を覆ったのよ。」


「そ、そんな魔法聞いた事がありませんことよ?」


「………そうね、私も聞いた事が無かった。今までは。」


「教えなさい、貴女の黒幕は誰ですの?この魔法の技術は一体?」


「雇い主の名は教えられない…ただ、魔法の名前なら教えてあげようかしら、冥土の土産にね。」


再び火花の矢をつがえる刺客。


だが今度は紫電を帯びた三本の矢だ。


威力は先程と比較にならないだろう。


名尾ナビ君、ヤバそうなので出番ですわ!』


【わ、何だありゃ?】


『荷電粒子を纏った矢だそうです。さっきはアレのローパワー版で地面が抉れましたわ。』


【荷電粒子?何だってそんな科学兵器みたいな魔法が?】


『今はそれを論じてる場合じゃございません!』


【…背に腹は変えられんだろう、仮面の剣豪になるしかない。】


『では、カムフラージュは…』


【任せろ。美鈴メイリン人形も何時でも出せる。】


『お願いしますわ!』


防護氷壁アイスシールド展開!」

美鈴メイリンが氷の壁を出現させた。


勿論これだけで到底防げるとは考えていない。


だが風魔法で変な方向へ軌道を反らせたらどんな場所でどんな被害が出るかわからない。


ここは天下の公道なのだ。


仲間達の馬車も結界で覆われているものの、アレを防ぎ切れるかどうかはわからない。


「この魔法は『科学サイエンス』と呼ばれてるそうよ。良かったわね、これで貴女も安心して浮かばれる事が出来るでしょう?」


ニコッとしながら刺客は紫電光を纏った矢を三発、同時発射した。


美鈴メイリンさん?!」

美鈴メイリンさん、逃げて!」

美鈴メイリン君ー!」


美鈴メイリンがカッ!と目を見開いた。


そして。


三本の矢が氷の壁に着弾した。


凄まじい爆発音と共に氷は弾け、辺りは真っ白な水蒸気が充満した。


周りは何も見えなくなった。


そして仕事を終えた三本の紫電の矢が刺客の元に戻って来た時、彼女は勝利を確信した。


「フハハハ、やったわ!」


(少し、残念ではあるけど…。)


高笑いの後で複雑な表情を見せる刺客。

だが彼女は本来の仕事を果たすため、改めて月夜ユーイーの馬車に視線を移した。

(あの結界、かなりの難敵だけど…この紫電の矢があれば!)

刺客は背中から紫電の矢を抜こうと矢を摘まむ。


美鈴メイリンさーん!」

白い霧の中、明花ミンファの叫び声が響き渡った。


その声に答えるように、霧の中で三日月が輝いた。

武術と魔法、そして科学の融合。


こんな魔法を使う相手に美鈴メイリンはどう戦うのでしょう?

そして科学を持ち出す黒幕とは一体?


美鈴メイリン達は無事臨海学校に辿り着けるのでしょうか?


また今年も連載を続けますのでよろしくお願いいたします。

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