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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第二章【一年生の夏休み編】
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第四十一話【臨海学校へ出発!臨戦体勢を整えよ!?】

夏休みも三分の一が過ぎ、いよいよ夏合宿の始まり。


美鈴メイリンは仲間達と共に臨海学校に参加すべく沿岸地帯へと馬車で向かうのですが…。


結局、あれから月夜ユーイーが何かと理由をかこつけて美鈴メイリンたちの部屋へ毎日入り浸ってしまったせいか月夜ユーイーを狙った刺客達は暗殺のチャンスを得られなかった。


そして彼女の護衛のため美鈴メイリンも帰省出来なかったし、彼女の変身のチャンスも来なかった。


美鈴メイリンが心配な明花ミンファも帰省出来ず、美鈴メイリンに手を出す機会を伺っていたファン先生も帰省せず不純交友監視の名目で美鈴メイリンの部屋に入り浸ってしまった。


そしていつの間にか、臨海学校の日がやって来た。


「さあー今日からお待ちかねの臨海学校ですわよ!」


「はい!宿題も研究も終わったし気持ち良く出発出来ますね!」


爽やかな笑顔いっぱいの美鈴メイリン明花ミンファ


「私はまだ半分…。」

ズーンと重い表情の愛麗アイリー、その側で苦笑いの芽友ヤーヨウ

「まあまあ、まだ夏休みは三分の二は残ってるから大丈夫よ?」


「…何だか知らないが、私が君たちを臨海学校に引率する事になっていた。何でだ?」

首を傾げるファン先生。


「生徒寮に入り浸ってるのがバレたからじゃありませんの?」

月夜ユーイーが涼しい顔で釘を刺す。


「あれ?月夜ユーイー先輩、そのバッグは何ですの?」


「あら、言わなかったかしら?私も今年は臨海学校の方に行くのよ。」


「珍しいな、確か君は毎年高原の乗馬合宿の方では?」

ファン先生も不思議がる。


「いつもお高くとまっている上流階級の貴族に囲まれての乗馬合宿も飽き飽きしてまして、今年くらいは新しい体験もいいかな、と。」


「ふーん。」

明花ミンファ月夜ユーイーを軽く横目で睨む。


「つまり、庶民的な下級貴族である私達なら気楽で良い、と?」

明花ミンファは皮肉を混じらせながら月夜ユーイーに尋ねてみた。


「あら明花ミンファさん?貴女少し誤解していらっしゃるわ。」

「ここにいる下級貴族は貴女だけ。隣にいる美鈴メイリンさんは立派な上級貴族ですのよ?」


それを聞いてハッと隣の美鈴メイリンを見る明花ミンファ


そしてみるみるうちに元気を無くしてしまった彼女を見た美鈴メイリンはフォローにまわった。

月夜ユーイー先輩、そう仰られる貴女もこれから下級貴族だらけの臨海学校に向かわれるのでしょう?無用な争いの火種になりかねないその様な物言いは控えた方が懸命かと。」


「あらごめんなさい、私個人は差別意識は無いのだけどそうとられたかしら?」

「すみません明花ミンファさん、別に貴女を侮蔑したワケではありませんので誤解無いように。」


「はい、私は元々貴族でもなんでもない庶民でしたから、こんなのは慣れっこです…。」


そう言い返しながらも少し元気の無い明花ミンファだった。


「あ、あら、そう?」

月夜ユーイーは少し焦った。

何時ものようにやり返してくるだろう、くらいに思っていたのが何だか様子がおかしい。


(ま、まさかこのくらいの事でこんなに?)

(私が少しやり過ぎたのですか?)

明花ミンファの元気の無さが腑に落ちないながらも少し反省する月夜ユーイー


それを見たファン先生と美鈴メイリンは顔を見合せ、ヤレヤレと目を伏せた。


すると門の方から声がした。


美鈴メイリンお嬢様、明花ミンファお嬢様ー!アン家からの馬車が到着しましたー!」

愛麗アイリーが賑やかに迎えの馬車の到着を告げた。


これからまる1日かけて一番近くの沿岸地帯へ出かけ、現地集合となる。


この日は夕方宿に泊まり、翌日から二日間の合宿、四日目の朝に解散となる。

そして三日目の夜には夏合宿恒例の、アレがある。


「そう言えば月夜ユーイー先輩は生徒会長でしたよね?」


「ええ。私の実質的なお仕事はこの合宿まで。秋には後任を決める選挙と引き継ぎ…だったのだけど。」


「例の代表選抜戦、ですか。」


「そう、その流れで今年いっぱいは生徒会から離れられなくなりそうなのよ。」


「ちなみに生徒会選挙はいつに?」


「二学期が終わるまでには次期生徒会メンバーを決めたいところだけど…中々いい次期候補が見つからなくて。」


「そうですか、大変ですわね。」


「ええ。…出来れば貴女達と側仕えさん達がなってくれれば解決するんだけどね?」


「単に頭数が揃ってるからではありませんかそれ?」


「バレたかしら?」


クスクス笑う月夜ユーイー美鈴メイリン


今の会話に微笑みながらゆっくり明花ミンファの方を見るファン先生だったが。


「ふ、ふふふ。」

ぎこちなく乾いた笑いを周りに合わせるように振り撒く明花ミンファ


(ヤレヤレ、これは重症かな。)

それとなく美鈴メイリンに目配せをするファン先生。


その視線に気付いた月夜ユーイー


「…美鈴メイリンさん…。」


「わかってますわ。」


コクリと首肯く美鈴メイリン


それから何度となく休憩で馬車を止めた時、美鈴メイリンは側仕えコンビの乗るもう一台の馬車の方に明花ミンファを誘って乗り換えた。


入れ替りに月夜ユーイーの馬車の方には月夜ユーイーの屋敷から来ていた彼女の従者が移る事に。


美鈴メイリンはその従者とすれ違った時、ほんの僅かに何かが頭をよぎった。

だが明花ミンファの事に気を取られていたと見える美鈴メイリンは特に気に止める素振りもないまま側仕え達の乗る馬車へと乗り換えた。


「ここは少し我慢だよ、月夜ユーイー君。」


「…わかってます、私の失態ですから。」


「君らしくも無かったよね。」


「どうかしてました。あの子が羨ましくてつい焦ってしまい…。」


「気持ちはわかるよ。」


「先生は平気なんですか?」


「平気?とんでもない。」


「私は君達ほど器用じゃないからね。」

「それに結局はすべて美鈴メイリン君次第なんだから焦ってもしょうがないだろう?」


「それは頭では理解しております。」


「君は私に比べればまだ恵まれた立場なんだから、明花ミンファ君にあまり気を取られずに自分の出来る事をすればいい。」


「そう仰られる先生も、私よりあと二年も美鈴メイリンさんといられるじゃありませんか?」


「私は一応教師だよ?大っぴらに彼女にアプローチかけられないよ。」


「…まあ、それはともかく明花ミンファ君には後でちゃんと謝罪した方がいい。美鈴メイリン君に近付く以上、彼女との付き合いもまだ続くワケなんだから。」


「…少し面白くありませんけど、そういたします…。」


ややムクレ顔ながらも本当は明花ミンファが心配な月夜ユーイーだった。


(フフン、素直じゃないな月夜ユーイー君も。)

月夜ユーイーに気付かれないように口元を僅かに吊り上げるファン先生だった。


そして従者も主人である月夜ユーイーの横顔を黙って見つめていた。


その頃、美鈴メイリンはまだ少し元気の無い明花ミンファに付き添い、側仕え達と同じ馬車に乗っていた。


「お加減が優れませんの?」

美鈴メイリンが労るように明花ミンファを気遣う。


「いえ。何でもありません、気になさらないで美鈴メイリンさん。」

薄く笑みを浮かべる明花ミンファ

その主人の様子に、芽友ヤーヨウも何かあったと気が付いた。

「お嬢様、お疲れでしたら私は御者の隣に座り、愛麗アイリー美鈴メイリン様の隣に座らせますので横に…」


「そ、それいいですね!」

思わず興奮する愛麗アイリー

自分が美鈴メイリンの横に座れるのが嬉しいらしい。


「だ、大丈夫よ?」

明花ミンファはせっかくの芽友ヤーヨウからの申し出をやんわり断る。


すると直ぐに残念そうな顔になる、わかりやすい愛麗アイリーだった。


明花ミンファさん、何か心に引っ掛かるものがあるのなら、ここで吐き出してしまった方が楽になりますよ?」


「そ、そんな事は別にありません。」

少し狼狽える明花ミンファ


「なら、なぜそんなに寂しそうなお顔をされているのですか?」


「えっ?!」

思わず両手で頬を挟む明花ミンファ


「…もしかして明花ミンファさんは貴族間の上級下級という分け方に壁や疎外感を感じてらっしゃるのですか?」


「ちょ、直球ですね美鈴メイリンさん。」


「…直球という意味はわかりませんけど、当たっているという解釈でよろしいですか?」


もちろん直球の意味くらい美鈴メイリンもわかっている。

だがそれを認めてしまうと転生者であることがバレてしまう。


他にも転生者がいないとも限らないし、それが味方である保証も無いので、明花ミンファには悪いがここで前世の知識によるやり取りをするワケにはいかなかったのだ。


明花ミンファさん、私は貴女が凄い人だと思ってるんですのよ。」


「私が…凄い?」


「庶民から貴族になれるだけでも既に充分に凄いのに、加えて魔法医学にかけての優秀さは誰もが貴女を認めてくださってますわ。」


「でも、それでも私はやっと下級貴族になったばかりの成り上がり者なんです。」


「いえ、そんな事気にする必要は…」


「でも、私が下級貴族では美鈴メイリンさんと…」

「貴女と、釣り合わないじゃありませんか!」


「あ…。」

ハッと口を押さえる明花ミンファ


「そ、そういう事、でしたの?」

美鈴メイリンが照れていた。


明花ミンファお嬢様?そんなにご自分を卑下する事をお考えになられていたのですか?」

芽友ヤーヨウが悲しそうに言った。


「私は明花ミンファ様はとても素敵なお方だと思います。悔しいけど私よりよっぽど美鈴メイリンお嬢様の隣に相応しいお方だと思いますよ?」

少しぎこちない表情の愛麗アイリー


若干無理して喋っているのは芽友ヤーヨウを意識してる事もあるが、素直な愛麗アイリーの気持ちでもあった。


愛麗アイリーもまた明花ミンファの友人の一人として彼女に自信を持って欲しい気持ちだったのだ。


「少なくとも私達は全員が、上級下級や主人の側仕えの関係であっても壁を作らず付き合える友人同士だと思っておりますわ。」


美鈴メイリン様がここまで仰って下さったのです、ここはご厚意に甘えましょう明花ミンファお嬢様?」


芽友ヤーヨウ…。」


「あのー、お二人は一度喧嘩されてましたよね?あれ以来お二人は互いに遠慮なく付き合える仲になったと私は思っていたのですけど、違ったんですか?」

愛麗アイリーがまともな正論を述べた。

あの変態の愛麗アイリーが。


「上級とか下級とか、そういう見方は確かにあります。だけど上級と下級が付き合ってはいけないのですか?」


「い、いえ?そんな事は…!」


「でしたらいいじゃないですか。私は明花ミンファさんを誰よりも大切な友人として選んだのです、これからもずっとそうであって欲しいのです、ダメですか?」


「そ、そんな…ダメなワケは…!」


「じゃあ、決まりですわね!私達はこれからもずっと一緒です!」

美鈴メイリン明花ミンファをギュッとハグした。


「め、美鈴メイリンさん?!」

明花ミンファの目が真ん丸になる。


「おおおーっ?!」

どよめく芽友ヤーヨウ


そして


「あああー!?」

悲鳴を上げる愛麗アイリー


「………もう、悩んでた私がバカみたいじゃないですか…。」


美鈴メイリンに抱き締められた明花ミンファの頬に紅が差し、そっと美鈴メイリンの背中に両手を伸ばして、添えた。


(あ、何だかドキドキしてきましたわ…これはヤバいですね?)


やってしまってから、このままでは明花ミンファとのエンディングへと一直線になるのでは?とようやくこの状況を危惧する美鈴メイリン


しかし今この状況で無理矢理に明花ミンファを振り解けばせっかく立ち直った明花ミンファがまたドンヨリしてしまう危険性がある、と美鈴メイリンは考えた。


どうしたものか、と美鈴メイリンが悩んでいると。



キキィーッ!


前方を走っていた月夜ユーイーの馬車が急に止まった。


遅れて美鈴メイリン達の馬車も停車した。


「何かあったのかしら?」

芽友ヤーヨウが後ろを振り返り御者に声をかけた。

「どうかされましたか?」


「分かりません。前の馬車で何かあったのかも。」


その言葉にハッとした美鈴メイリン


明花ミンファさん、もしかして月夜ユーイー先輩に何かが?」


「先輩が?」


「降りましょう!」


二人は馬車を降り、月夜ユーイーファン先生の乗る馬車へと向かった。


月夜ユーイーの乗る馬車で何が起きたのか。


彼女は無事なのか。


そして臨海学校は無事迎えられるのか。

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