第四十話【月明かりを浴びて舞う妖精のごとき令嬢。】
少し美鈴が嫉妬する出来事が?
その後、美鈴は満月の下で舞う。
その見事な舞いには敵でさえ見とれる。
そしてその夜は…?
美鈴は月夜を襲いに来るかも知れない刺客を待った。
だが、中々その時は訪れず、時間はイタズラに過ぎてゆくばかり。
それでもいつ訪れるかも知れないその時を根気強く待ち続ける美鈴。
時計は既に午後10時を回った。
時折会話しながらも、皆はコクリ、コクリと頭で船を漕ぎ始めていた。
特にベッドの上の明花などは横になってウトウトし始めていた。
彼女にとってはいつもの就寝時間だったため直ぐに寝落ちしてしまった。
「あらあら明花さん、お腹を冷やしますわよ?」
しょうがありませんわね、とクスッと笑ってお腹に夏用の薄い掛け布団を明花のお腹に掛けてあげようと明花のベッドへと近寄ろうとする美鈴だったが。
「おっと美鈴君?そこから先へは行かないように!」
美鈴の前に范先生が立ち塞がった。
「…退いて下さいませんか?私、明花さんのお腹に夏布団を掛けて差し上げたいんですの。」
「ダメだ。君は既に明花君とは、…そ、その…き、きき、…キッスをしてる不純な関係だからね!」
范先生が頬を赤らめ、噛みながら喋る。
「あ、あれは事故ですわ!」
美鈴の顔も真っ赤になった。
「まあまあ美鈴さん、ここは先生の顔を立てて上げて今晩だけは我慢しましょう?」
そう言って月夜が明花のベッドへと近寄る。
「代わりに私が掛けて上げますから。」
夏布団を明花のお腹に掛けてあげる月夜。
「あらあら、明花さんたら幸せそうな可愛い寝顔しちゃって。」
プニプニと明花の頬を人差し指で押す月夜。
「!」
美鈴が何故かショックを受ける。
「今頃、美鈴さんとキスしちゃった事を夢の中で思い出しているのかしら?悔しいわね。」
今度は月夜が明花の頬っぺたを摘まんで「うにゅうう。」と引っ張った。
「フフフ面白い。この子の肌ってとてもモチモチとしてフニフニなのね?」
「ゆ、月夜先輩!早く明花さんから離れて下さいな?!」
ワナワナと美鈴が震えていた。
「あらどうしたの、美鈴さん?」
「も、もう用事は終わったではありませんか。これ以上私の真友の顔で遊ばないで下さいな!」
「…いいけど、その前に私に一言無いかしら?」
腕を組んでブスッとする月夜。
「一言…?」
「えと…あ!そ、そうでしたわ、月夜先輩、明花さんに夏布団を掛けていただきありがとうございました。」
やや不機嫌ながらもそれを堪えて軽くお辞儀して丁寧にお礼の挨拶をする美鈴。
「有無、よろしい。」
満足そうにニッコリする月夜が再び椅子に腰を下ろしてブランケットを掛け直す。
「貴女も夏場とは言え夜から明け方にかけては気温が下がるからちゃんと夏布団を掛けて寝るのよ?」
「お心遣い、感謝いたしますわ。」
「…それにしても明花さんて結構可愛いのね。」
「そ、そうですわね。」
「今まで貴女の事ばかりに夢中で気が付かなかったけど…なるほど、これなら貴女が心を奪われそうになるのも仕方ないかもね。」
「?!」
ドキッとする美鈴。
(ち、違いますわ先輩?私はただ一番大切な友人として彼女の事を…。)
そう言いたかった美鈴だったが、何故か口からその言葉が出ない。
「でも、私は諦めないから。貴女に最も相応しいのはこの私だと信じてるもの。」
キラリと月夜の目が妖艶な眼差しを美鈴へと向けた。
その月夜の視線に更にドキドキしてしまう美鈴。
「わ、わわ、私、…喉渇きましたわ!」
慌ててベッドから降りる美鈴。
「お、お水飲んでお庭でも散歩して来ますわ!」
と叫んで部屋から出て行ってしまう美鈴。
「あら、少しからかい過ぎたかしら?」
残念そうに美鈴の後ろ姿を見送る月夜。
「…君は一体どこからそんな色気を身に付けて来るんだ?」
(私にも彼女らくらいの可愛げや色気があればなあ…。)
イジイジとイジケながら、范先生は心底羨ましそうにため息を吐いた。
食堂のコップを拝借して本当に水を一杯飲んでから深呼吸で落ち着きを取り戻した美鈴はそのまま軽く寮内を歩いていた。
(さてと…)
最初はまず、結界を解いて愛麗と芽友が居るはずの明花の部屋を覗いた。
二人とも仲良く向かいあったままベッドで横になってすやすや寝ていた。
「やれやれ、夏布団くらい掛けなさい?」
まるで母親のような眼差しで二人を見つめる美鈴。
二人のお腹に夏布団を掛けて部屋を出る。
再び結界を施し、明け方には結界が解けるように時限式の細工を施しておいた。
「さて、次は本当に庭へとでましょうか。」
賊を誘うかのようにわざわざ隙を見せながらゆっくりと寮内の庭を散歩する美鈴。
夜空を見上げるとそこには美しい満月が輝いていた。
「うわあ…。」
思わず見とれる美鈴。
月や夜空を眺めていると、何だかさっきまでのごちゃごちゃした気分がスウッと穏やかになっていく。
(夜空には、煌々と輝く満月。それはまるで月夜先輩のように鮮烈な姿。)
(そして柔らかな星々の瞬き、それは明花さんのような親しみ。)
(全てを包み込むような漆黒の夜空、それはまるで范先生のような包み込む愛情。)
美鈴は賊退治も忘れたかのようにすっかりロマンチックな気分に浸っていた。
彼女の瞳は濁りの無い、澄んだ輝きに満ちていた。
そして二階の窓からは月夜と范先生が美鈴を見下ろしていた。
(お二人に軽くサービスしておきましょうかしら?)
美鈴は窓際の二人にニコッと笑い掛けて手を小さく振る。
月明かりと星々の瞬きに照らされた乙女の美鈴。
彼女は今宵、剣仙から妖精の踊り子へとジョブチェンジする。
そして美鈴は華麗なステップを踏み出しダンスした。
月明かり、そして星明かりを浴びながら優雅に踊る美鈴。
そのロマンチックな姿に目を細めながら美鈴を眺める月夜と范先生。
(嗚呼、いけないわ。心が疼いてしまう、貴女って罪な子ね美鈴さん。)
(出来る事なら、ここから飛び降りて君の側で一緒に踊りたい…!)
月夜と范先生は激情を抑えながら美鈴の軽やかな舞いにいつまでも見入っていた。
それは彼女達だけでは無かった。
すっかり毒気を抜かれたのは刺客として用意された者達もまた同様だったのだ。
美鈴の舞いに魅せられた刺客達はまるで魔法にでもかけられたように殺意も作戦目的も忘れてその場で夢の世界へと誘われてのだ。
やがて踊りを終えた美鈴が部屋へと戻ると、窓の側で満足そうに眠りこける月夜先輩と范先生がいた。
「…せめて寝場所で寝て下さいまし?」
美鈴は二人をそれぞれ片手で持ち上げ、自分のベッドの方へと放り投げた。
そして。
「ふぁ~あ。何だか私まで眠くなってしまいましたわ。」
「今夜は賊を捕まえるより結界防御で暗殺阻止するとしましょう…。」
術式を編んで朝まで持ちこたえる結界を部屋中に張り巡らした美鈴は、フラフラとベッドに横になった。
そして魔法の灯りを消す。
「おやふみなひゃい…。」
何か近くで良い匂いというか、心地好い温もりが感じられたような気がしたが、既に眠りに入りつつあった美鈴は気にしてられなかった。
(…明日は…私も月夜先輩のように…)
(明花さんの頬っぺたで遊びたいですわぁ♪)
グフフフと笑いながら眠る美鈴であった。
…そして朝。
まだ側仕えコンビは寝ている。
月夜と范も寝ている。
それも向かいあって抱き合いながら。
(ウフフ…美鈴さぁん、もう話さないわぁ…。)
(美鈴君…やっと、やっと私の思いに応えてくれるんだね…?)
…つまり、夢の中で互いに美鈴と抱き合ってるつもりなのだ。
さて、明花の方はと言うと。
「…………な、何で?」
「zzzz………。」
「何でここに?」
「zzzzz……………。」
無邪気な寝顔を真友に晒す、愛しい人が、何故か自分と同じベッドに。
いや、同じベッドどころかしっかり抱き付かれていたのだった!
「え、えと…め、美鈴…さん?」
「zzzzzz……………………。」
(ほ、本当に寝てらっしゃるのね…。)
こんな時が訪れて欲しいといつも考えていた明花だったが、いざ本当にこんな事になってしまうと驚きと困惑で何も出来なかった。
ただの美鈴の抱き枕と化してしまう明花。
だが。
(これはもしや、夢?)
(夢ならそのまま、ずっと覚めないで…☆)
明花はそっと美鈴の身体に腕を回し、彼女を抱き締めるのだった。
………そして、朝8時。
夏休みの生徒寮に残った六人が一斉に目覚めた途端、寮内は驚きの叫びと悲鳴に包まれるのであった。
嗚呼、美鈴の運命や如何に?
………余談であるが、刺客達も朝に目覚めて結局未遂に終わり、雇い主達からこっ酷く叱られたのだった。
(………昨夜は仮面の剣豪になれませんでしたわ…次こそは必ず!)
今夜こそはリベンジに燃える美鈴だった。
そして。
(今夜こそは必ずもっと美鈴さんと!)
(今夜こそは必ず美鈴さんとの仲をもっと深めねば!)
(今夜こそは必ず美鈴君に夜這いを!)
三者三様に萌えていた。
側仕え達はと言うと。
「おかしいですね?何故に愛麗に何もせずに寝てしまったのでしょう?」
「昨夜は危ない所でした…こうならないためにも、やはり今夜は美鈴お嬢様に夜這いを…ウヘ、ウヘウヘへ…♪」
…すいませ~ん、この寮に変質者が三名ばかりいまーす。
結果オーライで月夜への暗殺は取り敢えず阻止されました。
しかし夏休みはまだ始まったばかり。
まだ宿題も片付けなければならないし、臨海学校や学院代表選抜戦への訓練も。
美鈴は毎日充実?
そして月夜の明花への悪戯に美鈴が嫉妬?
彼女の内面にも変化が訪れて来たのでしょうか。




