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第四話【宿命と宿題の天秤】前編

今回は愛麗アイリーの変態ぶりがナリを潜め、彼女はひたすら弄られ役となっております。

前回がちょっと飛ばし過ぎでしたけどね。

また、美鈴メイリンは普段は愛麗アイリーに素っ気ない態度ですが、実は彼女の事を大切に思っている事がわかります。


「この学校に通うのも、後数日ね。」

センチメンタルな表情で告げる美鈴メイリン


「はい、お嬢様。…ですが、あの…。」



「そう思えば、最期に出された課題を片付ける事など、酷く些細な事。そうですよね?」

今度は優しく舐めるような目線で愛麗アイリーを見つめる。


「そ、それは、確かにそうですけどぉ。」


「ですので、私がここでしっかりと見張って差し上げます。」


「お嬢様ぁ~。」


「だから、さっさと宿題終わらせろっていってるんでございますわよ、このトンチンカン側仕えがっ!!」

突然憤怒の形相で愛麗アイリーを威嚇する美鈴メイリン


「びええええ~ん、お嬢様が、お嬢様が怖いい~~~~!!」

鼻水を流しながら本気で怯える愛麗アイリーだった。



誰もが帰った教室で、美鈴メイリンに見張られながら溜まった宿題を片付ける羽目になった愛麗アイリー


彼女は確かに忙しい。


召し使い、更には美鈴メイリンの側仕えでありながら彼女に付いて学校まで通っている。


「私だって、貴女がとても忙しい身体でいるのは理解していますのよ?」


「は、はいい。」


「それに貴女はやれば出来る子です、だから時間を作りさえすれば片付けられるハズ。」


「そうですよね?愛麗アイリー?」


ニッコリ微笑む美鈴メイリンだが、今日の愛麗アイリーにはこの笑顔の裏に潜む般若のごとき顔が目に浮かぶようで生きた心地がしなかった。


美鈴メイリンはとても親切だ。

現に側仕えの為にワザワザ自分まで居残りしてくれている。


それだけ愛麗アイリーの事を大切に思っている事でもある。


それが嬉しく無いわけがない愛麗アイリーなのだが。


「あ、あの、お嬢様?今日は他に優先したい事がお有りになられたのでは?」


「いいえ?【今の】私に貴女よりも大事な優先事など存在しませんことよ?」


この言葉に一瞬頬が緩みそうになる愛麗アイリーだったが【今の】という部分にお嬢様の本音を垣間見たようだ。


「ほ、本日は西の剣豪と呼ばれる炎獄の炎龍イェンロンからの最期の果し合いを受ける日ではございませんでしたか?」


その言葉に、美鈴メイリンの頬がヒクヒクした。


(ええそうですわよ!だからさっさと宿題片付けろっつってんですわよっ!!)

…これが美鈴メイリンの本音だった…。


ここで言う果し合いとは、東西南北中央にそれぞれ位置する貴族の学校、貴族学院の、初等部(つまり小学校)を除く中等部、そして高等部それぞれの学院代表同士による、季節に一度切りの一対一の決闘。

本気で戦うのだが生命の危険や身体の欠損、後遺症等が無いように救命防壁を用いての戦闘となる。

この救命防壁は痛みや熱、衝撃といった感覚は通すし怪我や死に至らなければダメージも通る。

そして攻撃を受ければそれだけ救命防壁も消耗する。


この防壁を相手から完全に取り去れば勝ちとなる、そういうルールだ。


この試合は貴族学院に入学し、代表に選ばれた名誉があればこそ、逃れる事の出来ない宿命でもある。


「ええ。どうせあのクソヤロー女の事です。『ワイの事恐れたんやろー、中央にいる疾風の美鈴メイリンも落ちぶれたもんやなー、ワッハッハ!』とか高笑いしてるに違いありませんわよ!」

ハッハッハッ!…とヤケクソ気味に笑う美鈴メイリン

(全く、貴女のせいですわよ愛麗アイリー?)

とは思っていても、声には出さない美鈴メイリン


だがそんな美鈴メイリンの心の声に流石に気が付かない愛麗アイリーではない。


「お嬢様…。」


「ホラそこ、間違っておりますわよ?ここは………。」


「あ、そう………そうですか、なるほど、さすがお嬢様ぁ。」


「ウフフ、これくらい当たり前ですわよ………て、ちゃんと自分でやらなきゃダメですわよ?」


「はい、ありがとうございましたー!」


(…でも、このままだと本当に不戦敗にされちゃいますわね…中央学院中等部の名誉に懸けて、それだけは………。)

チラッと愛麗アイリーの方を見る美鈴メイリン


彼女は必死に溜まった課題に取りかかっていた。

こなす速度こそ遅いが、誤字脱字も少なく間違いは即座に訂正、説明された事を直ぐに取り入れ正解を導く。


(本当に、やれば出来る子。でも量がこなせないばかりにいつも不当な評価をされてしまう可哀想な子。)

美鈴メイリンはその愛麗アイリーの姿に、前世での自分の姿を重ねて見ていた。


その美鈴メイリンの優しい眼差しに気が付いたのか、愛麗アイリーがニッコリ笑って返すと、恥ずかしそうにそっぽを向く美鈴メイリンだった。


(お嬢様はお優しい。そしていつも私の事を大切に思って下さる。)


その割には過激な攻撃を加えているようだが。

勿論変態行為を仕掛ける愛麗アイリーに原因があるので全く可哀想とは思わない。


(しかしこのままでは私がお嬢様の足を引っ張ってしまう、それは側仕えとして避けねばならぬ事!)


「お嬢様!お願いがございます!!」


「…は、はい?何ですの、愛麗アイリー…?」


突然叫んだ愛麗アイリーに虚を突かれ、戸惑う美鈴メイリン


「私は腐っても美鈴メイリン様の側仕え、その側仕えがお嬢様の足手まといになどなってはなりませぬ!」


「いえ、貴女は既に立派な足手纏いの役目を果たしている最中ですよ?」


「そ、それはそうなんですが…(汗)。」


「ですから、これ以上貴女の足手まといになどなりたくはないのです!」


「なら早く課題を片付けなさーい?そしたら足手まといは卒業ですわよ、今日のところだけは…。」


「正論ではそうです。しかし現実にはこのペースでは深夜に及んでしまいます!」


「では、どうしろとおっしゃるの?」


「………私を、決闘の場所にお連れ下さい!」


「な?何を言ってるのです?!」


「お嬢様が戦ってらっしゃる間も私は課題に取り組みます!」


「あ、貴女ね…。」


「大丈夫です!お嬢様はお強いし、パパッと直ぐに勝っちゃいますよね?」



それこそ正気の沙汰ではない。


戦ってる本人達こそ派手な攻撃をするが、それはちゃんと救命防御壁に護られいるからこそ出来る話だ。


まだ中等部とは言え各学院の代表である彼女らは最強の魔法や魔術、そして武術の達人達。


今回対する炎獄の炎龍イェンロンは絶大な炎の龍を操って攻撃して来る魔法と拳闘術の使い手。

この拳闘術とは何も素手だけでは無い。

武器も用いた戦いを前提にした、実戦形式の総合武術なのだ。


そして美鈴メイリンは普段は魔法をセーブしており風魔法と冷凍魔法のみの公開としているが、剣に懸けてはそれこそ全力の全開、手抜き無し。

…剣に鞘を着けたままなのは相変わらずだが、それは彼女なりの絶対譲れない部分なのだから仕方がない。


そんな二人が相いまみえる場所は台風や雷、噴火の嵐に匹敵する危険度と言える。



「そ、そんな危険な場所になど貴女を連れて行けません!もしもの事があったら…!」


「しかし、もうそうしなければお嬢様は不名誉な不戦敗を被る事に…!」


「どーせ今更出向いた所で遅刻で負けにされちゃいますわよ。」

ハアッ…とわざとらしい薄笑いで誤魔化す美鈴メイリン


「それに貴女、いつもその自慢の防御能力で私の攻撃によるダメージを最小限度に留めておりますけど。」


「…私以外の攻撃、防ぎ切れるのですか?」


「…あっ?!」


ポカーンとする愛麗アイリー


「そうだった、私今まで美鈴メイリン様への愛で耐えられたんだった。」


「…私への愛、というのは聞かなかった事にして…。」


「ではこうしましょう。」


ヒソヒソ…。


「エエエエエ~~~?!」


「嫌なら止めましょう。」


「い、いえ!やってみます!」


職員室。


の、隣。


そこには教師が交代で寝泊まりする宿直室が有った。


そして今日の宿直当番。


物凄い形相で顔が傷跡だらけの教師(♀)が筋骨隆々の姿で宿直室にいた。


「ぐふふふ~ん♪」


「きょ、今日も可愛いよおん。」


彼女は自分の自慢の愛犬の愛くるしい姿を写した写真立てを眺めていた。

「今日は帰れなくてゴメンねえ。ペットホテルのお姉さんの言う事聞いて、いい子にしててねえ。」



そんな場所を訪ねる愛麗アイリー


「し、失礼しまあす。先生、いらっしゃいますかあ…?」


「あらあ、愛麗アイリーさんじゃない。どう?宿題終わりそうなの?」


「そ、それがどうしても今日は帰らなくてはいけなくなりまして…。」


「あらそう?なら今日は無理せず帰っていいのよ。…その分は明日に追加する事になるけど、仕方がないわよねえ?」


「そ、それは困りますっ!」


厳つい顔と身体つきからは想像も出来ないほど可愛いらしい仕草と声で語りかけるその教師は顔に大きく3本の傷がある強面だが、思ったより優しく、怖くなくて拍子抜けしそうな愛麗アイリーだった。


(こ、怖いけど…でもやらなきゃ!お嬢様のため、お嬢様のためなんだから!!)



…ではこのミッションについて説明しよう。


要は愛麗アイリーの防御が美鈴メイリン以外にも通用するのかが判ればいいのだ。

美鈴メイリン以外からの攻撃からも身を守れれば問題は無いのだ。


その検証に相応しいと美鈴メイリンが判断したのが強面の筋骨隆々で怒らせると怖いと専ら噂の教師(♀)だ。

実は彼女は愛麗アイリーに課題の山を与えた張本人であり、今日はたまたま当直で宿直室にいた。


と、教師が手に持つ写真立てに写っている犬に気が付く愛麗アイリー

(あ!これは、もしや使える?)


「あー、なんか不細工な犬の顔ですねー、何ですかそれー?!どこの不細工犬ー?キャハハハハッ☆」


「ぶ、不細工、な、犬………?」


写真立てのガラスが先生の親指に加わる力でピキリとひび割れた。


(や、ヤバい、怒ってますう!)


「…コホン、今何と仰いましたか?」

教師は努めて冷静さを取り戻そうとする。

このままではいけない、ミッションに支障が出る。

愛麗アイリー、もっとです、もっと怒らせなさい!貴女に教えた相手を怒らせる言葉が、今こそ活きる時ですわ!)


(え?あの、意味わからない言葉使いですか?)


(そーです!さあ、休んでないでテンポ良くやっちゃいなさいな!)


「い、…いーえねー?あんまりにも可愛くねー犬を可愛いと思って愛でてるなんて、めっちゃウケるっていうかー?このセンセーもチョーかわいそうだなーとか思ったワケー、わっかるー?」


(わ、私ったらボギャブラリー何だかおかしくなってないですかあ?)

念話で会話する愛麗アイリー美鈴メイリン

(いいわよ、その調子!それに結構喋りがイケてる、ナイス、アイリー!教えた通り!)


(い、イケてる?何ですかそれ?…お嬢様もお言葉使いがおかしくなられてませんか?)


(き、気のせいよ気のせい!さあ、ドンドン行きましょうか?!)


相手をイラつかせるために美鈴メイリンは、つい前世でのイメージの悪い喋り口調を愛麗アイリーに教えてしまったのだ。


前世でテレビを見ている時に、悪口をギャル語で話せば相手をイラつかせるのにかなりの効果を発揮すると感じた事が役に立っていた。


「あ、愛麗アイリーさん?貴女、私に、何か恨み、でも、あるの……………。」

教師が強く拳を握ると腕の筋肉がピクピク蠢く。


大量の宿題で居残りさせられてるのだから自業自得とは言え全く恨みが無いワケじゃないだろうに…そう思いながらも美鈴メイリンはこの相手を小馬鹿にして怒らせるミッションにノリノリになっていた。


(よっしゃ、もうちょっとですわよ愛麗アイリー、頑張れ、最後のもう一押し!!)


既に涙目でうるうるしながら恐怖で崩壊しつつある愛麗アイリー


「わ、ワンコが、チョー頭が悪そー…お、親の顔、が…見てみたい、わ、わわ……!」


「な、ん、だ、と………?」

そっとテーブルに愛犬を写した写真立てを何とかそっと置くと、遂に教師がノッソリと愛麗アイリーに近寄り出した。


(あ、あううう、ご、ゴメンなさああい!)

愛麗アイリーは心の中で豪泣きした。


「てめえ、何を言いやがったあ!」

プッツンした教師が大きく振りかぶって、愛麗アイリーに殴りかかる。


「ひええええええ~~~っ?!」

頭を守ってしゃがみこむ愛麗アイリー


…………が、何時まで待っても衝撃はやって来ない。


(…ん?)


「~あ、あれ?」

恐る恐る目を開けて様子を伺う愛麗アイリー


すると。



「………ゴメンなさい、愛麗アイリー。」


「お嬢、様?」


「私、つい守っちゃいましたわ。」

ペロッと舌を出す美鈴メイリン



そこには、デコピン一発で倒されてノビている教師と、教師をデコピンして人差し指を上ち上げたまま愛麗アイリーを庇うように立っている美鈴メイリンがいた。


愛麗アイリーのピンチを見ていたらついミッションであることを忘れ、勝手に身体が動いてしまったのだ。


これは、愛情からなのか単なる条件反射なのか。


いずれにせよわかる事は、美鈴メイリン愛麗アイリーを護らずにはいられない事だった。


「お嬢様…。」


「怖い思いをさせて、ゴメンなさい。」


「お嬢様ああ~~~!」

美鈴メイリンに抱き付く愛麗アイリー

愛麗アイリーったら…。」

我が子をあやすような眼差しで愛麗アイリーを撫でる美鈴メイリン


と、少しだけノホホンとホンワカする二人だった。


………凄くいい話のようにまとめた美鈴メイリン

だが、こんな事の為だけにわざわざ怒らされた上にデコピンまでされて気を失った教師の方はたまったもんじゃないだろう。


そんな事には全く考えが及ばない、実に困ったお嬢様と側仕えの二人組だった。



「いけない、早くしないと!」


愛麗アイリー、もう迷ってる暇などありません!」


「はい、もう覚悟は出来ております!」


「飛びますわよ!」


「はい、どうぞ!………………えっ、飛ぶ?」


「羽アアアアッ!!」


有翼飛翔魔術ウイングフライトっ!!」


愛麗を抱き締めたまま、美鈴メイリンの背中に輝く翼が生えた。


「う、うう~ん。…わ、私は、一体…?」

美鈴メイリンにデコピンで倒された教師がようやく目を開けた。

すると彼女の眼前には

「先生、後で謝ります!急いでるので、これにて失礼!」


取り敢えず罪悪感はあったらしい。


足の裏から光を噴出しながら頭上の空間を切り裂き、天井に穴を空けて飛び去る美鈴メイリン。そして彼女に抱き抱えられた愛麗アイリー


因みに、愛麗アイリーはとっくに気を失っていた。



「あ、あの子、…何て凄い魔術を……。」


彼女は美鈴メイリンが天井に穴を空けた衝撃でテーブルから落下して足元に転がった、壊れた写真立てを拾い上げた。

「ふ。いい魔術を見せてもらったんだ。チャラにしてやるか。」


この先生、見た目とは違ってかなりのお人好しのようだ。


「………課題以外は、ね。」

ニヤリと優しく微笑み、再び割れた写真立てに写る愛犬を愛でる教師だった。


………。



「…いけないわ!その前にまず天井の穴を何とかしないと!」


教師は慌てて用務員を探しに行った。


果たして美鈴メイリンは果し合いに間に合い、勝つ事が出来るのか。

そして、闘いのダメージから愛麗アイリーを守り切る事が出来るのか?

話が思ったよりも長くなったので、前編と後編の二つに分ける事にしました。


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