第三十九話【お邪魔虫ホイホイを兼ねたパジャマパーティー?…オマケでちょっとだけいいカンジ☆】
月夜先輩と范先生が参加した事でパジャマパーティーはすぐお開きに。
しかもちょっとした、嬉し恥ずかしなイベント発生♪
女子生徒寮。
男性諸氏にとっては禁断の花園、憧れすら感じさせるその響き。
しかし女子だらけの世界ではさしもの女子生徒寮も、つまりそこはただの生徒寮となる。
………と、なるはずだったのだが…。
「あの~、皆さん?もう少し離れて下さらないと身動きが取れませんのですけど?」
「ええ~?何で離れなきゃならないんですかぁ?」
明花の頬が美鈴の右側の頬にピッタリくっついている。
「離れませんよ?だって美鈴さん逃げちゃうものね?」
反対側の左側頬には安月夜が。
二人の美少女にピッタリ両側を挟まれ、すがり付かれている美鈴。
更には。
「美鈴君、こっちも向いてくれないかな?君の顔をもっと良く見たいんだ。」
美鈴の背後には范先生がいて、美鈴のお腹から腕を回して彼女をやんわり抱き締めている。
(と言うか、今は夏ですのよ?皆さん暑くないのかしら…?)
美鈴の額から汗が落ちる。
そうである。
ここは男性がいない世界。
だからか、女性同士で恋愛し結ばれ合うという百合の世界だったのだ!
「ふ、范先生?随分積極的になられましたね?」
月夜が不機嫌そうに范先生に聞く。
「そうですね月夜先輩、初めの頃は教師らしく常に一歩引いていらっしゃったのに。」
明花も月夜の意見に同意した。
「ふ。私は悟ったのさ。カップルコンテストの時のように遠くからただ眺めているだけでは大事なモノは手に入らないってね。」
(な、何だかこの先生ヤバい方に悟られてますわね?)
美鈴の左側頬がヒクヒクとひきつっているのに気が付いた月夜は思った。
(そりゃ引いちゃうわよね、あの人仮にも教師なのに生徒に手を出すと自ら公言してるようなものだもの。)
いや、アンタの行動にも美鈴は結構引いてるんだけどな?
「お嬢様あ、そんな万年発情期な人達は放っておいて、私達とアチラの涼しいお部屋で楽しく過ごしましょうよお。」
どの口がそんな事を言えるのか、他ならぬ自分こそ万年発情期な側仕えの愛麗から美鈴へのお誘いが。
「そうですよ。ホラ、明花様もこちらへ?」
ご主人様に隣の部屋へと来るように促す芽友。
最初の予定通り四人だけで過ごしましょう、という事だ。
明花もその側仕えと同じ気持ちだったようで。
「そ、そうしたいのは山々なんですけど、ここで今、美鈴さんを離したら…。」
困り顔の明花。
「あ、あの…明花さん?」
力業で強引に振り解くのも可能なのだが、それにはまず明花に一旦離れて貰わないと…そう考えながら右側の方へ顔を向けた美鈴。
一方、明花の方も
「ねえ美鈴さん…」と声をかけた。
彼女もまた美鈴に一度自分が離れるからその時に二人を振り払って下さい、そして一緒に隣の部屋へ行きましょう?
…そう続けるつもりだった。
だったのだが。
二人の意志と行動がかち合うタイミングがたまたま悪かったのか、それとも良かったのか。
…チュッ☆
えっ?
あれっ?
………エエエエー?!
美鈴と明花の唇が、何故か触れ合ってしまったのだった。
大きな瞳をまん丸にして、唇同士をくっ付け合ったままで、美鈴と明花が固まってしまった。
しかも二人の表情は真っ赤だ。
周りのメンバーも事態の理解が全く追い付かず、ただただ茫然自失。
時間だけが経過していった。
そして。
「キャアアア~~~?!」
叫び声をあげたのは美鈴でも明花でもなく、
「は、離れなさーい!」
月夜だった。
「そ、そうだった!何してるんだ、キミ達はあ?」
ようやく我に帰った范先生も月夜と協力して美鈴と明花の身体を引き剥がしにかかった。
「あ、あああ~。…わ、私の美鈴お嬢様がぁ…。」
その間、愛麗は真っ白に燃え尽きていた。
「わは☆明花お嬢様、遂にやりましたわね?」
手の平を口に当てて、してやったりとニヤニヤ笑う芽友。
やりましたも何も、単なる偶然による不可抗力、所謂突発的な事故なのだが。
そして事故とは言えキスしてしまった当の本人達は。
(わ、わわわ!私の、私のファーストキスぅ?あ、しかも相手が美鈴さん?)
(嬉しいけど、もっとちゃんとしたかったのにいい!)
嬉しいような、残念なような複雑な気持ちの明花だった。
彼女はまだ胸のドキドキが止まらない。
同じく、美鈴の胸もドキドキしていた。
(わ、私のファーストキスが…相手が明花さん?)
(女の子同士で…いいのですか?)
(…でも、思ったよりも嫌な気持ちしなかったですわ。女の子同士だというのに…。)
(はあ…明花さんの唇。)
(美鈴さんの唇…。)
((柔らかかった…。))
二人は瞳を揺らしながら互いに見つめあい、そして唇をそっと人差し指でなぞるのであった。
その後どうなったかと言うと。
「私がここ、両方の部屋の真ん中で寝ずの番をするから、キミ達二人は別々の部屋で寝なさい!みんなももう解散!いいですね?!」
范先生からのレッドカードが出てしまったためにパジャマパーティーは早々のお開きとなってしまった。
「よいしょ。」
ズズッと椅子を引摺り范先生の反対側に席を陣取った月夜がブランケットをかけて寛ぐ。
「…何をしてるのかな、月夜君?」
「あら。見張りと称して夜這いを企む不心得者がいやしないかと心配になりましたので、こうして見張らせて貰う事にしたんですけど、それが何か?」
ふん!と疑いの目を范先生へと向ける月夜。
「な、何を言っとるのかな、キミは?」
少しどもる范先生。
「ホラ怪しい。」
月夜がジト目で范先生を睨む。
「あの…私達は同じ部屋でいいんですかぁ?」
芽友に両腕を縛られた愛麗が助けて欲しそうに范先生に
声をかけた。
「ん?別にキミ達は怪しくないから問題外。さあ行った行った。」
シッシッ、と手で払い除けられる愛麗。
実は一番怪しい関係になりそうな二人なのに、今の范先生にとって美鈴以外は些細な事にしか見えないらしい。
「先生~。」
悲しそうな顔の愛麗とは別にニコニコしている芽友が本来の明花の部屋へと愛梨を連行して行く。
かくして、愛麗と芽友は美鈴を巡る争いから早々に脱落するのだった。
まあ愛麗はともかく芽友はハナから争いに参加する気は無さそうだったが。
「あはは…。愛麗の方があんな顔するなんて初めですわ。」
渇いた笑いの美鈴は明らかに芽友に対して引き気味だった。
「すみません、これでもう愛麗さんは芽友に貰われてしまいましたね。…御愁傷様と言いますか…。」
「気にしないで下さいな。側仕えとしての仕事さえキッチリこなして貰えればプライベートには干渉しませんから。」
(あら?あの子がキッチリ側仕えの仕事をこなしきった事って今までありましたかしら?)
まあいいか、と深く考えない事にした美鈴だった。
そしてまた、取り敢えず問題児の側仕えが良い相手?に貰われてくれてホッとした美鈴だった。
「こら二人共、あんまり喋ってないで早く寝たまえ。」
「ですが先生、まだそんなに夜も更けていませんことよ?」
「そうですよね、普段ならまだ起きてお話ししたり部屋を普通に行き来したりしてる時間です。」
「まあ、確かに寝るにはまだ少し早い時間よね。」
生徒三人から不満の声が出始める。
「う、うむ。そうか。」
早く三人が寝てくれないと美鈴君に夜這いも出来ないじゃないか…と危うく本音が洩れそうになる范先生だった。
(…さて、予想通りに月夜先輩は私の側から離れませんわね。)
(明花さんと先生は防御や回復の魔法が得意だから心配いらない。)
(そして側仕え二人にはお茶に睡眠薬を仕込みましたから朝までグッスリの筈だし、部屋への結界で誰も入り込めなくしましたから大丈夫。)
さっきの愛麗が芽友に連れ去られた事は、すぐ眠ってしまうから大丈夫だと言う安心感から美鈴も放っておけた。
これが本当に愛麗の貞操の危機なら幼なじみの親友だけに美鈴も流石に放っておかなかっただろう。
(これで賊は私の前でしか月夜先輩を狙えない筈…さあ、来るなら来なさい!)
美鈴は楽しく会話しながらも常に周囲への聞き耳を欠かさなかった。
魔法で寮の内外の音を事細かに拾い、名尾君からの直伝による千里眼を用いて視覚でもおかしな様子が無いか探っていた。
………実は夏休みに入る前、美鈴の基へと手紙が届いていた。
それは安月夜の執事からの手紙だった。
『突然のお便りで驚かれた事でしょう。』
『しかし私からどうしても貴女様にお伝えしたい事がございます。』
『月夜お嬢様への刺客が近日中、それも夏休みに入る頃には襲いに来るとの、信頼出来る情報筋からの連絡がございました。』
『お嬢様の安全、お頼み申し上げます。』
『報酬としましては…お嬢様のお身体、そしてお嬢様との婚姻…』
そこまで読んで、美鈴は手紙をグシャグシャに破り棄てた。
(報酬なぞ無くたって、無事に守り抜いてみせますわ!)
(来る学院代表選抜戦で遅れや不覚をとらぬ為にも、ここで皆を守り切らねばそんな資格すらありませんわ!)
何故か一人、瞳に轟々と闘志の炎を燃やしている美鈴を不思議そうに見ている明花達三人であった。
(…でも、ちょっとだけあの報酬に興味あるかも…?)
邪な考えが頭に浮かび、ブンブンと頭を振る美鈴だった。
そしてまた、その様子をまたしても不思議そうに見ている明花達三人である。
事故とは言えお互いにとってのファーストキスをしてしまった美鈴と明花の二人はいい感じに?
これで二人の仲は益々深まるのでしょうか?
そして美鈴の予想通りに賊は月夜を狙って来るのか?




