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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第二章【一年生の夏休み編】
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第三十八話【嗚呼、嵐の予感?それとも祭りの予感?】

一風変わった学院長代理との少し物騒な話しも終わり、終業式も終わった日。


明花ミンファがパジャマパーティーを提案すると、どこから聞きつけて来たのか月夜ユーイー生徒会長とファン先生が参加の申し出を。


と、美鈴メイリンの様子に変化が。


学院長代理を名乗る青髪ポニーテールの生徒からカップルコンテスト決勝のステージに混乱をもたらした犯人について聞かれた美鈴メイリンは、賊と見られる相手について知っている事を述べた。


「賊は剣の使い手としてはかなりの腕前でしたわ。魔法鉱石による呪術を用いて人間を化け物に変えられるようでしたが、これは他の術者から預かった魔法鉱石に元々呪術が込められていた可能性が高いですわね。」


「賊は自分の身元に関する事は喋っておりませんでしたか?」


「いえ、特には…ただ。」


「ただ?」


「権力者を憎む傾向がありましたわね。」


「そして自らを傭兵だとも。」


「………そうですか。では警察にそのように伝えておきましょう。」


「あ、ですが。」


「他にも何か情報があるんですか?」


「いえ、さっきの権力者を憎む傾向と自らを傭兵と洩らした事に関してはそのまま鵜呑みには出来ないかと。」


「演技?意図的な情報だと?」


「その可能性も考えてみれば、剣の腕が確かな事以外はまだ伝えない方が良いのかも知れませんわ。」


「…なるほど。」


「あと、その賊は依頼主から暗殺部隊を借りていましたわ。」


「暗殺部隊!?」

学院長代理生徒とファン先生の顔に緊張が走った。


「それで良く無事だったね、美鈴メイリン君。」

心臓に悪い、とファン先生が洩らした。

「いくら強いといっても君にもしもの事があったら…。」

ファン先生は本当に心配そうだ。


「あら?ドイツもコイツもコヤツもオヤツも、フレイムドラゴンの比ではありませんでしたわ?」

ファン先生の不安に対して空元気で答えてみせる美鈴メイリンだったが。


(正直、中々相手を出血させずに倒せなくてヒヤヒヤものでしたわ。)

と、心の中では冷や汗をかいていた。


彼女はその時ふと思い出した。


(そう言えば、芽友ヤーヨウさんの出血。)

(なるべく見ないようにしていたとは言え、何故私は平気だったのでしょう?)


「…………さん、黎美鈴リー・メイリンさん?」


「あ、はい。何ですの学院長さん?」


「もう用件は終わりましたので帰られて結構ですよ?」


「ああ、そうでしたか。それでは私はこれで。」


そっと部屋を出る美鈴メイリンを見送るファン先生と学院長代理。


「警備をもっと強化しないとなりませんね。」


「ええ。モンスター相手ならともかく、悪人相手とはいえさすがに生徒に人を殺させたりは出来ませんからね。」


「幾ら美鈴メイリンさんが強いとは言え、生身の人間同士で殺し合うのは未経験の筈。」


「はい、それなのに彼女は優し過ぎます。せめて卒業までくらいは、その手を血で汚して欲しくありません。」


さっき美鈴メイリンがボーッとしていたのは強がっていてもやはり相手の命を奪いかねない実戦における対人戦闘は堪えたのだろう、そう推測していた。


その推測に対して美鈴メイリンの実際の胸中は少し斜めにズレていたのだが。



「…彼女を、愛してらっしゃるからですか?ファン先生。」


「それもありますが、教師として生徒にはせめて在学中くらいは純心なままでいて欲しいからです。」


「そうですね。私も父役母上ちちうえから学院長代理を任されて以来、様々な闇を見せつけられて来ました。」


「体調を崩されたのも、それが原因だそうですね。」


「正直、早く学院長代理なんて辞めたいです。でも、知ってしまった事実を今更知らなかったことにも出来ません。」


「お気の毒に。ただの生徒のままでいられたら楽しい学院生活を送れましたのに。」


「でも、何れは知る事でした。なら、それが早いか遅いかの違いでしかありません。」


「そうですね。」


美鈴メイリンさんはこれから沢山の戦いを経験されるかと思います。心が折れなければ良いのですが。」


「いえ、彼女は剣仙ですから。」

「確か、身も心も剣たればこそ、剣仙の称号が得られる…でしたね?」


「ええ。私とした事が迂闊でした。剣仙の心は決して折れたりしませんでした。」


二人は美鈴メイリンに過剰なまでの信頼を寄せた。



…………………………。



「ううう~~~。」


「こ、心が、折れそうですわ…。」


「頑張って下さい、美鈴メイリンお嬢様!」


「もう少しの辛抱です、耐えて下さい美鈴メイリン様?」


「ま、まだですの~?」


「もうすぐです!すぐ出来上がりますから!」


「早く…してくださいませ…。」


「出来ました美鈴メイリンさん!」


「おおっ!待った甲斐がありましたわ!」


バア~ン☆


美鈴メイリンの目の前に黄金の輝きを放つオムレツが置かれた。


「こ、これが明花ミンファさんの得意料理、オムレツですのねっ?!」


寮に帰るなり突然ハードトレーニングを始めた美鈴メイリン


鋼鉄アイアンキメラ事件の賊の話しを学院長代理、ファン先生の二人としてきたためか緊張感に支配された美鈴メイリンは一心不乱にトレーニングを続けた。


そしてかなりのカロリーを消費した結果。

「もうお腹ペコペコでしたわ~♪」

オムレツをバクバク食べる美鈴メイリン


丁度その時、明花ミンファが久々に得意料理のオムレツを美鈴メイリンに食べさせてあげようとしていた事もあり、美鈴メイリンは空腹と戦いながら明花ミンファの料理が出来上がるのを待っていたのだ。


(ムフ☆これで美鈴メイリンさんの胃袋を掴む事に成功しました!)

ホクホク顔になる明花ミンファ


(ホントはカレーライスを作りたかったのだけど、スパイス集めや調合が面倒だから変更してみたのよね。)

カレールーとカレー粉は偉大であると再認識した明花ミンファであった。


このオムレツも本来的ならオムライスにしたかったのだがケチャップが作られてないこの世界ではトマトケチャップ作りから始める事になる。

(取り敢えずオムレツなら上に何のソースかけても合いますからね。)


オムレツの具にはモヤシや野菜、豚肉を炒めたモノにしてみた。

ソースは豆板醤をベースにした餡掛け風で纏めてみた。


美鈴メイリンには好評のようだ。


空腹状態だったからさぞかし美味しく感じた事だろう。


(うう~、懐かしいこの味!たまりませんわあ~☆)


明花ミンファさんのこのお料理の腕、お嫁に欲しくなりますわ!」


…ハッ?!とする美鈴メイリン

今の台詞は前世で良く女子達が友達同士の間で女子力高い子に対して普通に使われていた。

美鈴メイリンもそのノリで言ったのだが…。


「ほ、ホントですか?美鈴メイリンさん♪」

明花ミンファがすっかり舞い上がってしまった。


「お、お嬢様ああ~(涙)。」

愛麗アイリーは目からドバドバと滝のような涙を溢し続ける。

「私という者がありなが…グフッ?!」


「あら愛麗アイリー、ご主人様の相手が決まったからって、感動のあまり嬉し泣きするなんて~?」

芽友ヤーヨウ愛麗アイリーの背後に回って彼女の口を塞いだ(汗)。


「あ、あの明花ミンファさん?今のは一般論ですからね?それからそこの二人も誤解無いように!」

あわてふためく美鈴メイリンと、ぬか喜びから一気に落胆する明花ミンファ

そして嫉妬から愛麗アイリーに卍固めを極める芽友ヤーヨウ


生徒寮の食堂は暫し修羅場と化した。


漸く落ち着きを取り戻し、今度は人数分のオムレツを作って並べる明花ミンファ


「「「「いただきまあーす。」」」」


ご飯を食べながらオカズにオムレツを食べる。

他の生徒達を差し置き、これが早目の夕飯となりそうだった。


「これって中に具じゃなくてご飯入れたら天津飯みたいになりませんか?」

愛麗アイリーがこの料理に興味を示した。


「いいですわね、それ!」


「では、今度は炒飯チャーハンを作って中に入れてみましょうか?」


「わあ!それは美味しそうですね♪」

芽友ヤーヨウの瞳の中に星が光った。


それってつまり天津炒飯てんしんチャーハンという事になるのでは?

と、美鈴メイリンは思ったのだが、敢えて口にはしなかった。

美味しい事に間違いないだろうから。


「さて、お腹も膨れた事ですし早速自由研究について…」


「もう、美鈴メイリンお嬢様ったら!それは明後日からに決めたじゃありませんか!」


「でも、私は良いネタが出来ましたよ。お料理の研究というネタが!」

明花ミンファがフライパンを燦然と掲げた。


「ああ~、明花ミンファお嬢様、ずるいですう!」

芽友ヤーヨウが悔しがる。


「ホラ見なさい愛麗アイリー?何を研究するかだけでも決めておくと後が楽ですわよ?」


「どうせ美鈴メイリンお嬢様はいつものように攻撃魔法や剣技の研究、で終わらせるつもりだから良いですよ!」


ギクッ!とする美鈴メイリン


「はあー、自由研究のネタどうしましょうか、芽友ヤーヨウ?」


「そうですね…効率的な掃除の仕方や洗濯の仕方の研究、等はいかがでしょうかね?」


「まあそれなら普段の業務がてら出来そうだけど…。」


「なら、二人共それに決めちゃったらいかがです?」


「………まあ他に思いつきませんから、そうします。」


「さあ、これで研究ネタも決まりましたわね!」


ここで明花ミンファから提案が。

「みんな、終業日の夜はパジャマパーティーと洒落混みませんか?」


「ふむ。面白そうですわね。翌朝にはそのまま宿題を片付けるための勉強会に突入出来ますし。」


「いえいえ、先ずは美鈴メイリン様はトレーニングから始められるのでは?」


「流石ですわね芽友ヤーヨウさん、すっかり私のルーティーンを把握しておられますわ。」


「それはもう、明花ミンファお嬢様のご結婚相手となる美鈴メイリンさんと、その側仕えで私の将来の相手となる予定の愛麗アイリーの事なら何でも調べますから!」


芽友ヤーヨウの思いっきり重い愛情とストーカーじみた執念を感じた三人は固まった。


明花ミンファさん?お互いに少し側仕えの教育を考えないといけませんわね?」


「奇遇ですね、実は私もそう思ったところです。」


美鈴メイリンお嬢様?何で私まで…!」


「貴女は普段から自覚無さすぎですわよ!」


そして終業式が………終わった。


ガヤガヤと騒がしい一年生の教室へと飛び込んで来たのは。



美鈴メイリンさん!」


美鈴メイリン君!」


「おや、月夜ユーイー生徒会長にファン先生ではありませんか。」


「本日は初めて顔を合わせましたわね、ごきげんよう。」


二人から遠ざからんとばかりに仲間と共に席を発とうとする美鈴メイリン


「ま、待って?聞きたい事があるの!」


「何ですか?私、これから皆で街までお出掛けする約束がございますの。」


月夜ユーイー美鈴メイリンの側にいる明花ミンファ達にキッ!と鋭く視線を送ると、


ブンブンと首を左右に振る明花ミンファ愛麗アイリー芽友ヤーヨウの、いつもの三人。


その様子が「そんな予定は無いぞ」と語っていた。

つまり単に美鈴メイリンが二人の相手を面倒臭く思っただけなのだ。


この二人はモロに自分への愛情を公言しており、正直うざったいのだ。


だが彼女らの好感度ポイントをイタズラに下げ過ぎてもいけないのでそこそのの付き合いはしてきた。


それは明花ミンファも同じでは?と思われるかも知れないが、彼女とはマブダチなので普通に付き合いがあるし、迫られそうになったら上手にはぐらかしている。


これは館に住んでる間中、愛麗アイリー達召し使いからの求愛を避け続けた経験がモノをいった。

それだけ彼女らには鍛えられたのだ。


ただ、やっぱり四六時中何人もから求愛されるのは正直疲れるので明花ミンファ一人で充分なのだ。


愛麗アイリーなら最悪ぶっ飛ばせば済むし、芽友ヤーヨウがいれば彼女が何とか愛麗アイリーをシメてくれる。


と、それはともかく。


「これだけ質問させて。貴女、今晩パジャマパーティーを開くそうね?」


「いえ、それについては明花ミンファさんが考えられたので、私はただ参加するだけ…」


美鈴メイリンがここまで言いかけると月夜ユーイーファン先生が食いついた。


「「私達もそれに混ぜて!!」」


「は、はあ?」

口をあんぐりとさせる美鈴メイリン


「あらら、人増えちゃいましたね?」

呑気な愛麗アイリーだが。


「…チッ、これじゃ二部屋は無いと寝れなくなります。誤算でしたね、お嬢様。」


「ご、誤算って?!」

明花ミンファは単純に楽しい夜を友人同士で明かしたかっただけなのだが。


「フフフ。貴女に抜け駆けさせませんよ明花ミンファさん?」

(あわよくば美鈴メイリンさんをモノにしようとするその魂胆、とっくにお見通しです!)

ゴゴゴ…と背後に炎を燃えたぎらせる安月夜アン・ユーイー


「せ、生徒同士で夜の集まりなんて不純行為に発展しかねないからね?教育者の私がしっかり監視させてもらいます!」

だが、そう言いつつもファン先生の顔は下心満々だった。

(あわよくば、皆を眠らせてこの私が美鈴メイリン君と………グフフフ!)


「あーあー、何だか皆さん良からぬ事を企んでおられませんか?」

まるで他人事のようにこの状況を楽しんでいる他ならぬ標的とされている当の美鈴メイリン


それを聞いて愛麗アイリーは奮い立つ。

「何ですかー?美鈴メイリンお嬢様に不埒な事は許しませんよ?」

美鈴メイリンお嬢様に不埒な事をしていいのは、この私…モゴモゴ。」


愛麗アイリーに不埒な事していいのは私だけ。そうよね、愛麗アイリー?」

芽友ヤーヨウ愛麗アイリーの背後からコブラツイストを極め、彼女の口を手で塞ぐ。


「ああん、これって私が余計な提案をしたからかしら?」


その時、美鈴メイリンがそっと明花ミンファの手を握った。

「いいじゃありませんか、今はこの馬鹿騒ぎを楽しみましょう。」

「こんな時間もまた、きっと尊い思い出になるはずですから。」


美鈴メイリンさん…?」


「ね?」

明花ミンファに向けてニッコリ頬笑む美鈴メイリン


少し不思議に思いながらも美鈴メイリンに微笑み返す明花ミンファ


その明花ミンファの笑顔に満足した美鈴メイリンは深く息をする。


「さあ、それで帰りましょうか。今夜は楽しく…いえ、愉しくなりそうですわよ?」


そう、楽しくもあり、愉しくもなりそうだ。

美鈴メイリンはペロッと唇を舌で舐めた。




「皆さん!これから今夜の準備にとりかかりますわよっ?!」


美鈴メイリンの瞳が輝いていた。


名尾ナビ君、いつまで寝てますの?)


【お?お前が俺を呼ぶという事は…。】


ニヤリと笑う美鈴メイリン


「今宵、愉しい宴の開幕になるかも知れませんわ。」


「?」

キョトンとする明花ミンファ


【もう正直俺もこの先の展開が読めなくなってきてる。元のゲーム世界とかなり変わってきてるぞこのゲーム世界。】


(だからこそ、ワクワクするんじゃありませんか?)


美鈴メイリンを先頭にゾロゾロ生徒寮へ向かういつものメンバー。


やがて空は曇り出す。


遠くで雷鳴を轟かせながら。


何か起こりそうな予感。


美鈴メイリンはむしろそれを予測してるかのようですが…。


その夜は文字通り嵐の予感?

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