第三十七話【夏休み前の事情聴取】
夏休み前の試験も終わり、羽根を伸ばしたいところだけど美鈴だけが学院長に呼ばれてしまいます。
「試験終わりましたー!!」
愛麗が嬉しそうに叫んだ。
これで試験勉強の毎日から解放される、それは学生なら皆が同じ思いだった。
教室は開放感からか生徒達が騒ぎ始めた。
既に試験用紙は回収され、後は自由解散。
仲良しグループに別れて試験の手応えや夏休みに向けての期待や計画を楽しそうに喋っていた。
中にはグループを越境して話し掛けて来る生徒も。
「ねえねえ美鈴さん、貴女は夏休みどんなご予定?」
「私ですか?」
「そうですわね、早朝は走り込みと体力作り、朝夕は剣の鍛練、昼はまだ読み終えていない魔法の書物を…。」
「うげぇ…。」
聞いた自分が馬鹿だったと悟ったその生徒は美鈴がまだ喋っているうちにコッソリ退散した。
「それからですね、毎日同じトレーニングばかりでは飽きてしまいますから時には野山でハンティングなどを考えておりますの………あら?」
話しを聞いていたはずの生徒が居なくなり、キョロキョロと探す美鈴。
「お嬢様、誰に向かって喋ってらっしゃるんですか?」
愛麗が呆れながら美鈴に話し掛けた。
「美鈴さん、本当に毎日トレーニング漬けされるんですか?」
このストイックなお嬢様には真友(それ以上の関係を目指している途中の)明花も目を丸くした。
「え?皆さんはしないんですの?」
逆に美鈴の方から毎日トレーニングが当たり前の如く聞かれてしまい、答えに詰まってしまった。
「美鈴様、今は成長期だから無理が効くかも知れませんけどそれでも少しは休まれないと。」
芽友が美鈴の身体を気遣った。
「芽友の言う通りですよ。土日くらいはトレーニングをお休みしては如何ですか?」
明花としても夏休み中ずっとトレーニングばかりされては美鈴と一緒にいられる時間が減ってしまうのが心配だった。
「しかし、夏休み中くらいしか実家に帰れないですからね、実家で毎日でもお母様から剣の稽古をつけて貰わなくては…。」
と、ここで愛麗から美鈴の出鼻を挫くような一言が。
「あ、奥様は美鈴お嬢様が夏休みの期間中は御館様と一緒にバカンスに出られるそうです。」
「え?!何でですの?」
「ちょっと愛麗!私、聞いておりません事よ?!」
「それが、奥様からギリギリまでお嬢様にこの事は話すな、と。」
「それ、何時聞いたんですの?」
「ほら、この前お嬢様が教科書をお忘れになられて私が館まで取りに帰らされた事があったじゃありませんか?その時にです。」
「あー、あの時…て、そんな前に?!」
「はい。何でも、『もう暫くあの子の剣は受けたくない!』とか………。」
「お、お母様…逃げましたわね?最強を目指す武家の奥方ともあろうお方が…!」
(如何に最強だろうと寄る年波には勝てませんよね。)
失礼ながら、と芽友が推測した。
(お嬢様も成長著しいし、この前もほぼ互角でしたから、幾ら奥方様でもそれを毎日相手にはしたくありませんよね?)
愛麗も美鈴より奥方様に同情した。
(如何に我が子とは言えあれだけの実力…(しかもあれでまだほんの一部なのですから)を持つ美鈴さんに毎日稽古の相手をさせられては流石に身が持たないと判断されたのでしょう。)
明花は黎家奥方様の心中を察した。
みんな、奥方様には同情するものの美鈴には一切同情しなかったのはそれだけ普段から美鈴の強さと破天荒振りを肌身に感じているからだろう。
「まあ、何はともあれこれでいよいよ夏休みですね!」
浮かれかけている愛麗だったが。
「何を言ってるんですか愛麗?
夏休みにはまだ宿題と自由研究があるんですよ!」
芽友があらかじめ愛麗に釘を刺しておいた。
「そうですわね。そこで皆さん、終業日の午後から夏休みの宿題と自由研究対策をやっつけてしまいましょう!」
「いいですねそれ!三日間から一週間を目処に片付けてしまえば後はのんぴりと過ごせますものね!」
明花は乗り気だ。
「そうです、夏休み突入してまうとどうしてもだらけて後回しになりますから、まだやる気があるうちに取り掛かるのが一番ですわ。」
「早速帰ってから自由研究のテーマ決めと準備を致しますわよ、愛麗!」
「ええー?お嬢様ー、せっかく試験が終わったんですから少しクラス休ませてくださいよお。」
愛麗が弱音を吐いた。
だが、これは誰もが同じ気持ちだろう。
「彼女の言う事ももっともです。美鈴様、せめて今日明日くらいはゆっくり休養としませんか?」
芽友が愛麗のフォローをした。
だが彼女自身の本音もあるのだろう。
「そうしましょう美鈴さん。疲れがたまってコンディションが悪くなれば本末転倒です。」
「う~ん…、まあ確かに明花さんが言われる通りだと思いますわ。」
「では、明後日から宿題と自由研究対策を開始致しましょう。」
どうやら今日明日のところだけでも宿題対策に追われずに済むと知り、安堵する三人。
「と、それはそれとして愛麗?」
「は、はい。何でございましょう?」
「いえ、先ほどお母様について私が聞いた時に貴女が事実と違う事を語っていたので、訂正しておきますね。」
「教科書を忘れたのは貴女です!荷物の中に貴女が私との二人分教科書を入れてたハズなのに、何でか私の教科書だけ一冊入ってなかったと言うのが事実ですわ!」
「…あれっ?」
首を傾げる愛麗。
「あれっ?…じゃないですわよ?」
「その時の事覚えてます?教科書が入れてある荷物の中から、貴女のお菓子が出て来た事を!」
「あっ…!」
サア~ッと愛麗の顔色から血の気か引いていく。
「荷物にお菓子入れるスペース作るため適当に貴女が抜いた本!それが私の教科書だったんでしょうが!!」
「す、すみません!そうでした!!」
平謝りする愛麗。
更にはその後でフレイムドラコンと戦っている美鈴の足を引っ張っており教科書よりむしろそっちの方が問題なのだが…おかげで美鈴が仮面の剣豪に変身出来たのだからもう美鈴は気にしてないようだ。
「わかってくれればいいんですわ。それじゃ皆さん、帰りましょうか?」
「そうですね、一件落着で良かったです。」
「良かったわね、愛麗?」
「はい、これで今日はもう安心です。」
四人が帰り支度を始めた頃。
「おーい美鈴君、ちょっといいかな?」
「あ、范先生?」
「この前の鋼鉄キメラの件で少し聞きたい事があってね、学院長室まで追いて来てくれたまえ。」
「わかりましたわ。」
「先生、私達はいいんですか?」
「明花君達は…呼ばれていないから帰宅してもいいはずだよ。」
「では皆さん、お先にお帰り下さい。」
「わかりました。美鈴お嬢様、お気をつけて。」
「後で美鈴さんのお部屋にお邪魔しますね。」
「勿論私も一緒にお邪魔させてもらいます。」
「わかりましたわ。皆さん後ほど。」
三人を見送った後、美鈴は范先生に続いて学院長室に向かった。
「でも先生、鋼鉄キメラに関してはこの前職員室で先生方に説明した筈ですけど?細かい内容なら月夜生徒会長さんが書類に纏めて提出されたと聞きましたが?」
「ああ。鋼鉄キメラの方はね。」
「…他に何かあるんですの?」
「あるから呼ばれてるんだよ。」
二人は学院長室の前に立った。
「学院長、入ります。」
『お入り下さい。』
ドアをガチャリと開ける范先生。
「失礼します。」
「失礼いたしますわ。」
二人が中に入ると、学院長席と見られる机の上で手を組んでいる一人の女性が居た。
「初めまして、黎美鈴さん。」
「は、初めまして…え?」
「驚いたようだね。学院長は久しぶりの学院への復帰となるから知らないのも無理は無いけど。」
范先生がニヤニヤしながら美鈴に話し掛けた。
「范先生の仰有る通り、私は春先から体調を崩してしまいまして…ようやく顔を出せるようになったんです。」
「そ、そうでしたか…て、あの、失礼ながら私、何か違和感を覚えるのですけど…。」
「まあ、それが自然だよ美鈴君。」
「さぞ驚かれたでしょう?まさか学院長が…」
学院長が机からツカツカと歩いて此方にやって来る。
「…こんな、中等部の生徒なんてね?」
その女の子は明らかに美鈴よりも背が低かった。
来ている制服も中等部のそれ。
青い髪をポニーテールに纏めている快活そうなその少女は、とても長期間体調不良で休むような子には見えなかった。
「すみません、本当なら今年から私も高等部の生徒だったんですけど出席日数の関係で。」
「あ、大丈夫ですよ?ちゃんと補修と卒業試験受けてますから、秋には私も立派な高等部一年生です!」
「あの…そう言う事ではなくて、ですね?」
美鈴は何と言って良いのやら、と困惑を隠せ無かった。
「わかってます、何故生徒が学院長なのかですね?」
「は、はい。」
「実は私、代理なのです。」
「代理?」
「父役母様が本来の学院長なのですけど、先の魔物との戦に出向かれ重症を負われ、ほんの数ヶ月ですけど私が学院長の代理を務める事になってしまいまして。」
「ほ、他の教師とかではダメなのですか?貴女のお母様とかは?」
「かなり特殊な学院なので基本血族が務めるのが慣例となってます。」
「貴族学院は武術は勿論、とりわけ魔法に関する機密が数多く存在します。それを外へ流出させられませんので。」
「なるほど。」
「て、私の紹介はここまでに致しまして…。」
学院長代理の生徒は美鈴の目を見つめる。
「黎美鈴さんにお尋ね致します。」
「は、はい。」
「ステージ上で貴女方を襲った賊を追われたそうですね?その賊に関する情報をお聞きしたいのです。」
「ああ、そう言う事でしたか。」
美鈴は自分だけが呼ばれた事に対してやっと腑に落ちたのだった。
新登場の学院長代理の女の子。
彼女は百合ゲー世界とどんな関係が?




