第三十五話【消し飛べキメラ!甦れ芽友(ヤーヨウ)!】
鋼鉄キメラ相手に仮面の剣豪に成らずに立ち向かう事になった美鈴。
彼女と仲間達の即興パーティーはこの危機を乗り越えられるのか?
「勝負ですわ鋼鉄キメラ!」
キメラの懐に潜り込んだ美鈴が躊躇なく剣をキメラに突き立てた。
ガキインッ!
火花が散った。
だがそれだけだった。
「チッ!」
舌打ちをする美鈴。
「美鈴さん!」
明花の叫びと共に感じた悪寒に従い美鈴が身を翻す。
頭上からキメラの前足がバアン!とステージを叩き着けた。
その前足はステージの床を踏み抜いた。
ゆっくり前足を上げる鋼鉄キメラ。
「な、なるほど。体重の乗った馬鹿力でぶっ叩かれたら粉々ですわね。」
美鈴はキメラの周囲をクルクルと旋回して眩惑する。
「チャンス!」
今度は月夜が電気鰻を召喚した。
「エレクトリックビイム放射!」
電気鰻の全身から雷が鋼鉄キメラに放たれた。
「グゴガッ?!」
鋼鉄が痺れた。
「美鈴さん、今のうちに鋼鉄の装甲の隙間を狙って下さい!」
「ありがとうございます、月夜先輩!」
「いやあーっ!!」
剣の切っ先を鋼鉄キメラの首元に突き立てる美鈴。
見事に装甲の隙間を貫く剣。
「グエエエ~ッ?!」
キメラが苦しそうに呻く。
そこからドボドボと真っ黒な血が零れる。
(うむ。この血は真っ赤じゃないから大丈夫ですわね。)
(でも、何故芽友さんの血を見た時は平気だったのかしら?)
「月夜先輩、アレ見て下さい?!」
「…!あれは…。」
零れ出た血が固まり始め、やがて人型となった。
「な、何ですのこれ?」
剣を引き抜くと、更なる流血がまた複数の血液人間を増やしていく。
美鈴がキメラの首に刺さった剣を引き抜くとそこの傷口は塞がり、新たな金属の装甲がそこに生まれた。
「万が一金属の装甲を破られた時の為の対策済み、というワケですか。」
「美鈴さん、後ろ!」
今度は月夜からの警告が聞こえた。
バック宙しながらその場を離れる美鈴。
するとさっきまで彼女の居た場所にズドン!とキメラの尻尾が突き刺さった。
蠍の尻尾だ。
その尻尾の刺さった部分の床板はみるみる内に腐り始めた。
「あ、危なかったですわ…!」
安心も束の間、今度は黒い血の塊で出来た人形達が動き始めた。
その数、約3体。
「はあっ!」
ズバズバと黒血人形達を切り裂く美鈴。
だがこの人形達、切られてもくっついて復元してしまう。
「こ、これじゃキリがありませんわ!」
美鈴が左手を翳して冷気を集める。
すると黒血人形もキメラも足元から凍り始めた。
キメラは下半身、黒血人形はたちまち全身が凍りついた。
再び美鈴の剣が閃くと、黒血人形は八裂きにされる。
「月夜先輩!」
コクリと頷いた月夜が新たな召喚獣を召喚した。
「出でよ、ワイバーン!」
彼女の頭上に翼竜が現れた。
やや小型ながら、ソイツは口から火を吐いた。
すると、一発で黒血人形達は蒸発して消えた。
「凍結されてたのに、あそこまでの高温!」
美鈴は素直に感心した。
「ちゃんと他は熱したりしないように制御も出来ますのよ?」
月夜が少し得意気に話した。
「さて、アレをどうするかですが。」
今のところ美鈴が下半身を凍らせているのでキメラは動けない。
「鋼鉄の装甲の間を剣で突けばさっきの通り。かといってこのままマトモに攻撃しても跳ね返されるだけ。難儀な相手ですね。」
明花が思案する。
「いえ、弱点はありますわよ?」
「どこかしら?」
「口の中ですわよ、月夜先輩?」
「待って?まさかキメラが口から火炎を放つのに併せて?」
「それが一番ベストですわ。」
「危険過ぎます!」
「大丈夫。きっと愛麗が守ってくれますわ?」
「ふえっ?」
突然話しを振られて困惑する愛麗。
「愛麗、今度は貴女か前に出なさい。あの鋼鉄キメラの火炎攻撃を防ぎきったその隙に私がヤツの口を切り裂きます!」
「そしてそのままヤツの体内へと侵入し、芽友さんを引っこ抜いてみせますわ!」
「うわ…ちょっとグロそうです、それ。」
明花がその場面を想像して口元を押さえた。
「美鈴さん、芽友さんはそのままキメラの体内にいるとは思えないんだけど。」
「と、言いますと?月夜先輩?」
「多分だけど芽友さんは異次元みたいな感じの場所でキメラと重なり合うように存在してるんじゃないかしら?」
「い?いじげん?」
「…わかりにくければ、霊体に近い状態かしら?」
「生きてるのに霊体?」
「簡単に言うと物理的にはそこにはいない、そう思うのよ。」
「それではキメラを倒しても芽友さんは?」
「キメラはさっきの方法で倒せるかも知れない。だけど芽友さんを助け出すには彼女を化け物に変えた魔力鉱石を何とかしないと。」
「それなら彼女を助けてから抜き取るのは不可能という事になりますわね。」
「じゃあ、魔力鉱石の魔力自体を!」
「それしか無いでしょう。それには私達全員の魔力をキメラの中心部分に集めなければなりません。」
「みんな?彼女を救いたい気持ちをここに集めましょう!」
月夜は美鈴の剣の切っ先を指差した。
「わかりました!集中します!」
明花が意識を集中してパワーを高める。
彼女の身体から白いオーラが立ち上る。
続いて月夜も前進からピンク色のオーラを放った。
「芽友さん…。」
愛麗には戸惑いがあった。
(私は、今までずっとお嬢様一筋でした。)
(貴女とはお友達。それ以上では無い、そう思ってました。)
(だけど、今は貴女を助けたい。また私に笑いかけて欲しい、そんな気持ちでいっぱいです!)
(芽友さん!どうかまた、私の側に戻って来て下さい!)
愛麗から紫色の光が放たれた。
三人の光が美鈴の剣に集まる。
美鈴も念を剣の切っ先へと込める。
すると金色の輝きが美鈴から立ち上った。
「行きますわよ!」
「グアッ!」
キメラが抵抗して口を開き、火炎を放った。
「愛麗!」
「はいっ!」
愛麗から防御壁が展開されてキメラの火炎を防ぐ。
火炎は止んだ。
だが防御壁を消すのが一瞬遅くてキメラの口はまた閉じてしまった。
「ああ!惜しい!」
「すみません、上手くコントロールできなくて。」
仕方ない。
ついさっきまで美鈴お嬢様の攻撃しか防御出来ないと思ってろくに練習すらしてこなかったのだから。
「安心なさい。あとはこの私にお任せを。」
美鈴がニヤリと笑った。
「開かぬなら、開けて見せようナンとやら、ですわ!」
「え?」
明花がキョトンとした。
(何故その諺を美鈴さんが?)
だが今はそれどころではないと、明花は取り敢えず忘れる事にした。
助かったな、美鈴。
「では参ります!」
切っ先の輝きが、その渦が、更に大きくなった。
「これが、シン・トルネイドスラッシュですわ!」
美鈴が剣を振りかぶり、そして振り下ろす!
四人分の輝きが渦を巻いて鋼鉄キメラに襲いかかった!
その光の渦は強引にキメラの口を押し開け、その内部へと到達する!
「……………………?!」
キメラは咆哮するも声に成らず、そのまま固まった。
全身を光の渦か覆い、そして切り裂く!
鋼鉄キメラは身体中を輪切りにされ、光となって霧散した。
その後の空間に小さな光が灯っていた。
やがてその光は大きくなり、人の形となった。
徐々に人間の姿となり、遂に芽友へと変貌した。
「…皆さん。」
「助けていただきありがとうございました。」
ゆっくりと頭を下げる芽友。
「芽友、本当に貴女?」
愛麗が恐る恐る話しかける。
「はい。貴女とカップルの、芽友です。」
そして、彼女の名前を叫びながら愛麗は芽友に抱き付いたのだった。
ステージの結界は解除され、結局カップルコンテストの決勝は有耶無耶に無くなってしまった。
「え~、突然のトラブルのせいで決勝は無くなってしまいましたが、ここは私の独断と偏見で結果を決めさせていただきます。」
月夜会長は美鈴と愛麗両方の腕を掴んで上げさせた。
「両方優勝!反論は認めません!」
「ええ?いいんですか、会長?」
美鈴が驚いた。
「言いもなにも、仕方ないでしょ?どっちにも決められなかったんだもの。」
「そうですね、これはお祭りですもの♪」
明花は笑って納得した。
「そうですね、お互い仲良く優勝なら角が立ちませんし、良いことです。」
芽友も安心していた。
「嬉しいです!」
愛麗もこの采配を受け入れた。
客席からも拍手が降り注いだ。
だが一人だけ。
「う~、納得いきませんわあ~?」
美鈴だけが勝利に拘り続けていた。
「まあまあ、美鈴さん?」
それを苦笑しながら宥める明花。
「二人とも、次はいよいよミスコンテストね。」
「出るからには優勝は渡さないわよ?」
「そ、その挑戦、受けて立ちますわ!」
瞳に炎を燃えたぎらせ、途端に元気になる美鈴。
彼女は嬉々として月夜と視線をぶつけあった。
困り顔で小さく笑う明花、そして二人の側仕え達。
このお嬢様達、月夜や自分たちを襲った刺客の事など、とうに忘れているのだった。
覆面の傭兵が呟いた。
「………何と平和な奴らだ?」
「真面目に命を狙うこっちが馬鹿馬鹿しくなるんだけどな。」
「任務は失敗。取り敢えず帰って叱られるとするか。」
「あーあ、憂鬱ですな。」
「それも給料の内、てな?」
月夜達を狙った覆面の傭兵と暗殺集団達は呆れながら中央貴族学院を後にするだった。
後日談。
ミスコンテストは行われるはずだったステージが半壊したため中止となった。
「わ、私の花道があ~っ!」
「私の決戦の場があ~っ?」
学院に自身の美貌をアピールするつもりだった月夜と、とにかく勝って優勝したかった美鈴の二人の落ち込みようは凄かったらしい。
「負けず嫌いで一番にならないと気がすまないのは、二人とも同じなんですね。」
呆れた明花の呟きに范先生も首肯いた。
そしてそれを横にイチャイチャとお菓子を食べさせ会う芽友と愛麗の二人の姿が、嘆きまくる美鈴・月夜のコンビとは対象的なコントラストを浮かび上がらせているのだった。
高等部入学編・完
これにて高等部入学編は終わりです。
次回からは、学院代表編となります。
各貴族学院代表同士が決闘でぶつかり合うという、中等部で行われていた、アレです。




