第三十四話【武器持ちはメイリンだけ!大丈夫かこの凸凹パーティー?!】
遂に始まってしまった鋼鉄キメラとの戦闘。
月夜がキメラからの魔法攻撃を防ぐ間に美鈴は仮面の聖霊と一緒に策を練ります。
そして思い付いたのが…。
仲間を救うためステージを目指して必死に美鈴が走っていたその頃。
ステージの上では緊張が走っていた。
ザワザワと観客席がざわめいている。
そのステージの上では生徒会長の安月夜が片腕を押さえて立っている文明花を庇うように腕を横に伸ばしていた。
その明花の後ろには困惑と怯えで震えている愛麗。
「こんなおおがかりな魔法を用いるのは、多分私を狙っての事でしょうね。」
「では、月夜さんは逃げなくては…。」
「馬鹿を仰らないで。このステージ上でまともに戦えるのは私くらいのもの。貴女は治癒や防御、後方支援。」
「そこで震えていらっしゃる愛麗さんは美鈴さんの攻撃のみを唯一防げるくらいだそうだし。」
「で、では観客席や校舎にいる攻撃力を有した生徒や教員に応援を…!」
明花がステージを降りようと動いた瞬間、月夜が明花の腕を掴む。
「待ちなさい!」
「貴女がステージから飛び降りるより先にアイツは貴女を黒焦げにするわよ?」
その言葉に、恐る恐る三人を狙っているソイツを見る明花。
【キシャアアアッ】
威嚇するように一声鳴くソイツ。
身体は鋼鉄。
獅子の顔に水牛のような角が生え、
その水牛の胴体と四肢。
鷲の翼が背中に生え、尾は蠍。
「こ、これは…まさか、キメラ?」
「まさか、じゃなくてもそうでしょうね。」
伝説の魔獣とは身体の構成が違う。
しかし複数の獣を組み合わせて作られたのならその意味は同じだ。
「ほらご覧なさい?獅子の口から火炎がチロチロと漏れてる。」
「………本当ですね。」
「あれが、ついさっきまでは一緒にここで楽しく競技に興じていらしたあの子だとは、にわかには信じられませんね…。」
そう言うと、彼女の顔が口惜しそうに歪んだ。
すると、さっきまで明花の後ろでただ震えていただけだった愛麗が叫んだ。
「芽友…本当に、芽友、貴女なんですか?」
「何で、何でそんな姿に?本当に私達を襲うつもりなんですか?」
「愛麗さん…。」
痛ましそうに愛麗の顔を見つめる
明花。
同じく、僅かに俯く月夜。
「答えてよ、芽友!?」
【キシャアアアッ!】
再び鳴き声を発するキメラ。
だがただ鳴いただけではない、獅子の口の奥が輝きに満たされ始める。
「私の後ろに下がって!来るわ!」
月夜が叫ぶと明花が愛麗を掴んで自分の背中へと下がらせた。
【グアッ!】
獅子の口から炎の塊が放たれた。
「亀甲の障壁よ、此処へ!」
月夜が叫ぶと、彼女の手前に巨大な亀が背中をキメラに向けて現れた。
ボウン!!
炎の塊は亀の背中の甲羅に弾かれた。
続けて鋼鉄キメラの獅子顔頭部の角がバチバチと火花を放つ。
月夜は直ぐ様に召喚獣を切り替えた。
「水の精霊、ウンディーネよ!」
月夜は水の精霊を召喚した。
【グゥオオオン!】
今度はキメラが低く一吠えする。
と、その頭上が明るくなった。
「しまった、上から?!」
「ウンディーネ、ミストウォールを!」
パアッと霧が三人の周辺を覆う。
「大気よ、捻れろっ!」
月夜が叫ぶと三人を覆う霧が巨大な渦となる。
何度もその渦の周辺がピカピカと明るくなった。
雷がミストウォールに当たって飲み込まれていく。
霧の渦がその光源をまとって全体的に輝く。
「輝きを放った主へ貸してあげなさい!」
ウンディーネがニッコリ笑ってその手を前に掲げると、光る電光の渦が前方の鋼鉄キメラにぶつかった。
ビシャアアアン!!
轟音が響く。
やがて霧が完全に晴れた。
少しの煙と大量の水蒸気を立ち上らせながら、しかし鋼鉄のキメラはその四肢を踏ん張らせながら平然と立っていた。
ゴカァアアア!!
自らの鋼鉄の肉体の強靭さを誇示するように鋼鉄キメラは吠えた。
「魔力合戦は今のところは互角かしら。」
「ええ。でも不気味なのはまだアイツはピクリとも動かず襲ってきていない事です。」
明花は冷静に分析していた。
彼女とて自分に長く付き添ってくれた友人でもある芽友が目の前で鋼鉄のキメラという化け物に変わってしまったのだ、平気なワケが無い。
しかし彼女は毅然とした態度でこの事態に対応しようとしている。
この場を耐えれば、もう少し待っていれば、きっとあの人が来てくれるはず。
きっとあの人ならこの状況を打開してくれるはず。
そう信じる事が出来ればこそ、明花はここで月夜と協力して被害を出さないように、出しても最小限に留めなければ、と必死にマイナス感情に堪えていたのだった。
一方、そんな彼女らの心情も知らずに観客席は。
「何これ?予定外の出し物?」
「それにしては真に迫ってませんか?」
「会長の魔法、素敵です…!」
「演技なら、感動ものね?」
「これからどうなるの?」
観客達は皆、ワクワクしながらこのステージ上の展開を見守っていた。
最後方の観客達は少しずつ教員らが静かに避難誘導を始めていた。
月夜からの避難のサインを受け取った生徒会役員が教室に連絡し、徐々に避難を進めていたのだ。
が、避難は中々遅々として進まなかった。
いざという時の為にステージ上を完全に結界障壁で囲ってしまう用意も進めてある。
だがこれを発動してしまえば、そこに残された人間は鋼鉄キメラの餌食になってしまう。
今、ステージ外部に出来る事はステージ上の月夜達が持ちこたえて鋼鉄キメラの気を引いてる間に少しでも避難を進める事だけだった。
だが大丈夫。
救世主はすぐそこまで来ていた。
問題は、その救世主がどうやってキメラを倒すべきか決めかねている事だった。
「あれは、私を待ち構えておりますわね。」
【そうだな。安月夜と魔法合戦に興じていたのは時間を稼いでるんだろう。恐らく両者とも様子見で本気は出してないだろうけどな。】
美鈴はステージ後方にある天井の魔法照明の骨組みの陰から様子を見ていた。
【ヤツの本気は魔法よりもその運動能力と肉弾戦だろう。】
「しかし何故に?私ごときの剣と戦ったところで何が楽しいのでしょうか?」
【おま…それ、本気で言ってるの?】
「だって、私はまだ剣でお母様に一度も勝った事が無いのですよ?」
【…はあ。まあいい、それよりあのステージだけで戦闘を完結させる、しかもあの三人を無傷で助けてキメラを芽友に戻す…かなり難度の高いミッションだぞこれは。】
(どう考えても美鈴と肉弾戦を展開したくてウズウズしてるぞアレは。)
「私がその気で攻撃する…魔法の出し惜しみを控えれば倒す事自体は問題無いのですが。」
「それだとステージは愚か観客席まで被害が及びます。それに芽友は…。」
【おま、だから脳筋な思考は止めろって。】
【威力ばかりに拘るな。要は使い方、つまりお前の好きな言葉で言えば戦略だ。】
「…戦略…。」
【まずは周りの仕掛け。見てみろ?】
「あ、あの魔力は?」
会場の四方、そしてステージ全体を囲むように光の線が見えた。
「なるほど、わかりましたわ。あれで会場全体、そしてステージ全体を囲ってしまうのですわね。」
【あの結界外に三人を避難させればお前は思いっきり戦える。】
「しかし芽友にかけられた呪術がわからなければ…」
「ハッ?そう言えば…。」
魔法鉱石、確かにヤツはそう言っていた。
「あの時、芽友は背中から血を流していました。背中に鉱石が埋まってるんですわ、だからそれを抜き取れば…!」
【おい、美鈴。】
「わかりましたわ名尾君、芽友さんはヤツの中にいます、だから彼女を分離させて背中から鉱石を取り出せばOKですわ!」
【いや、そうだが…お前、芽友の背中の傷見て平気だったのか?】
「それがどうかいたしまして?」
【だから、傷から出た流血だよ!】
「流血………あっ?!」
そうだった。
美鈴は芽友の背中から出た血を見ていた筈なのだ。
「あれ?な、何とも無いですわ…!」
「おかしいです、今までこんな事無かった筈ですのに…思い出しただけで身体の力が抜けてましたのに…?」
【確かに変だな。………もしかしたら…いや、何でも無い。】
「気になりますわね、何か知ってるんですの?」
【いや、それより方針は決まった。あとはその姿のままでいくか?だが。】
「皆さんは私を待ってくださってます。」
【だが美鈴のままでは風魔法と凍結魔法以外は使えない。今回は剣による力勝負では芽友は救えないぞ。】
「だから困ってますのよ、どうやって仮面の剣豪に、そしてどの剣豪になれば良いものか。」
【なら美鈴、仲間に頼ってみたらどうだ?】
「仲間って………月夜先輩や明花さんに、ですか?」
【もう1人忘れているぞ。】
【大サービスに教えてやる。愛麗、あの子の防御魔法は絶大だ。お前以外の攻撃もほとんど無効化出来るぞ、本当だ。】
口あんぐりな美鈴。
【正直信じられんだろうけどな。】
【つまりメンバー構成はこうだ。】
【壁役に愛麗。彼女にあらゆる攻撃を防いでもらう。】
【そして安月夜。彼女は召喚魔法で後方からの攻撃メインに防御魔法兼務とマルチな担当。三人の中で一番優秀だからな。】
【そして文明花は回復や治癒が得意らしいが、その他の支援魔法もいけそうだな。】
「ならば、アタッカーは…」
【そこにお前が入らなくてどうする?】
「ですわよね。」
美鈴がニヤリと笑った。
【良し、ミーティングはここまでだ。】
「行きますわよっ!」
美鈴は天井からステージへと宙を舞ってキメラと月夜達三人の間に割って入った。
高所から飛び降りたにも関わらず、静かに美鈴は着地した。
「皆さん、お待たせ致しましたわ。」
「美鈴さん!」
「美鈴さん、ご無事で!」
「お嬢様あ!」
「わっ?!ちょっと、皆様?!」
せっかくキメラと三人の間に割って入ったというのに、三人はワチャワチャと美鈴にすがり付いて来てしまった。
「す、ストップ、ストーップ!?」
美鈴が強引に三人を引き剥がした。
彼女がちょっとその気になれば造作もなかった。
「見てご覧なさい?あの鋼鉄キメラさんですら呆れてますわよ?!」
美鈴の冗談かと思われたが、本当に鋼鉄キメラはヤル気が減って欠伸をかましていた。
「ささ、皆さん私の指示に従ってください。」
「あの鋼鉄キメラを倒して、芽友さんを助け出しますわよ!」
「「「ハイッ!」」」
三人の声が綺麗に重なった。
そして美鈴が先程の仮面の聖霊との作戦通りに三人にテレパシーで指示を出す。
三人は美鈴のテレパシーにも驚かされたが、それは「あの美鈴さんだから」と納得された。
(何だか引っ掛かる言い方なんですけど?)
やや不服ながらも説明を続ける美鈴。
愛麗の壁役には愛麗からマジビビりされたものの、彼女の防御魔法の完璧さを説き、そして最後は美鈴らしく勢いで捩じ伏せ…訂正、納得させた。
因みにこのテレパシーでの会話の時間、鋼鉄キメラが気長に待っていたワケでは無い。
テレパシーによる会話は脳内で行われるので口と耳を使った会話と違ってほぼ瞬時に行われるから、かかっても精々二、三秒程度だ。
「…では、そう言う事ですので。」
「美鈴さん、会場内の役員達に作戦の伝令が済みましたよ。」
「月夜先輩も念話使えたのですね?」
「上位の魔法使いは全ての術を公には明かしません。生き延びる為にも、ね。」
月夜が実際に命を狙われる現場に何度も居合わせた三人には説得力のある言葉だ。
(では、美鈴さんも、やはり…。)
明花は美鈴もまた公表されていない技や魔法を幾つか隠し持っていることに気が付いた。
だがそのうち一つが仮面の聖霊の加護による仮面の剣豪への変身、それも四つの形態への変身だとは夢にも思わなかった。
「さて、覚悟はよろしくて?鋼鉄キメラさん!」
美鈴が剣を鋼鉄キメラに向けた途端にステージが結界に包まれた。
【ゴガァ?!】
鋼鉄キメラが狼狽える。
「さあ、これでアナタは袋のネズミ。そのデカイ図体でこの狭いステージを存分に動き回れまして?」
勝ち誇る美鈴。
だがキメラの機動性は侮れない。
獣の俊敏さは元々人間の比では無いのだ。
四つ足のそれも魔法強化された獣に飛びかかられたり攻撃を続けられたら、いかに美鈴とは言え完全に回避出来る保証は無い。
しかも背後の仲間を庇いながらなど不可能に近かった。
だからこそ、その背後の守られるべきメンバー達による魔法使い達の即興パーティーなのだ。
(大丈夫。きっの上手くやれますわ。)
美鈴は自身の剣と仲間達の魔法の実力を信じて鋼鉄キメラへと突っ込んだ。
(美鈴よ、もしかしてその子………)
僅かに浮かんだその考えを一旦棚に置いといて、今は彼女らの勝利を願う仮面の聖霊だった。
本来、このパーティーには范先生と芽友もいるハズだったんですが、二人とも今回は退場してしまったのでこの三人がメンバーになってしまいました。
美鈴達即興パーティーは、果たして芽友を救い出し、この騒ぎを食い止められるのか。




