第三十二話【ステージ上の決戦!そして新たな戦いの火蓋?】
カップルコンテストは決勝戦まで進みます。
そこまではいつものドタドタなのですが決勝戦前の一悶着の最中、思わぬ事件が発生します。
犯人は誰なのか?
美鈴は周りを見渡した。
皆、一様に早口文章の紙を見ては首を捻ったりクスクス笑ったり、口をパクパクさせたりしていた。
『では早速一組目から順番に伝達ゲームを始めたいと思います。』
『用意はいいですか?…それでは、スタート!』
月夜生徒会長がストップウォッチみたいなのでタイムを測っている。
…いや、どう見てもストップウォッチだな、アレ。
丸い金型製だから昔学校とかで使われてた機械製品のタイプだ。
おそらく職人さんが作りあげたゼンマイ式のモノだろう。
そして一組目に与えられたお題は。
『な、なまむぎな…まご、め、なま、たまごー!』
「「えええ~っ?!」」
美鈴と明花はビックリした。
まさかの自分達が先程まで練習した早口言葉そのものだったから。
「………はい、時間は少しオマケで七秒っと。」
「少し噛みそうだったけど一応合格です。」
「ああー良かったあ、何とか最後まで言い切れましたわー。」
抱き合って喜びあう最初の一組目。
続いて愛麗達。
愛麗達はじゃんけんで本来一位だったから最初にお題挑戦となるハズだったのだが。
「いけません、これはヤバいです!」
「まさか、こんな難問が待ち構えてるだなんて…!」
二人は顔面蒼白だった。
じゃんけんでは強かったのにクジ運はそこまででは無かったようだ。
自信の無い二人は出番を二番目の組に譲り、それで出来た僅かな時間に練習を試みたのだ、が。
「では二組目、用意はいいですか?」
「で、出来れば一番最後の組に……。」
「それは出来ません、さあ始めますよ!」
「よーい、スタート!」
「………………。」
「と、とうきょうとっきょ、きょきゃきょく、ゆうびんきょくー!」
「はいミスったー、もう一回!」
「ええ~ん(泣)!とうきょうとっきょ、きょかきょく、ゆうびんきょくー!」
はあはあ、と息をする愛麗。
「タイムは…十五秒。」
「ウワアーン、駄目駄目でしたあー!」
「泣かないで愛麗、次の競技で挽回よ!」
「芽友さあーん。」
抱き合って泣く二人を苦笑いで見つめる出場者らと観客達。
「はい、泣き止んで下がってちょーだいねー。」
月夜が邪魔とばかりに二人をステージの真ん中から押し出す。
「さあ、三番手!自信の程は?」
「ちょっと安心しました。間違えさえしなければ大丈夫だなって。」
「ほうほう、かなりな自信のようですが…では始めましょう!」
結果。
「嘘?…ご、五秒、僅か五秒ですっ、これまでの最短記録です!」
ウオオオーっ!とどよめきが沸き起こる。
「やった、やりましたわ明花さん!」
ガッツポーズの美鈴。
「流石です、美鈴さん!」
この二人も抱き合って喜んだ。
(チッ、中々やるわね!)
月夜は内心面白くはなかったものの。
「凄いですねー、早口得意なんですか?」
彼女は私情を挟まず仕事に専念した。
何故なら、こんな公の場所で二人への私情を露にしたら批判の嵐をうけて自分への評価が下がりまくるからだ。
それから後の組も善戦したものの結局、美鈴達のタイムには一歩及ばなかった。
これでこのゲームは美鈴と明花がトップとなった。
加えて言うなら、愛麗と芽友のカップルが最下位となった。
そこから愛麗達もどうにか巻き返したのだが、美鈴達の総合順位には一歩及ばなかった。
そして遂に迎えた決勝戦。
「いよいよこの学院のベストカップルが、ここで決まります!」
「明花さん、これまでの競技やって思ったのですけど、これ本当にベストカップルを決めるための戦いなんでしょうか?」
「確かに単なるゲーム合戦でしかない気はしますけど…まあお祭りだからそれでいいんじゃないでしょうか?」
「要するに対抗戦が見れればそれでいいという主旨なのですわね?」
「どうしましたか?ヤル気が薄れました?」
少し悪戯っぽく美鈴の顔を下から覗き込む明花。
その笑顔が可愛らしくて、美鈴は胸がときめいた。
「まさか。私達がベストカップルである事を堂々と示すためにもこの一戦、絶対に負けられませんわ!」
誇らしげな、尚且つ不敵な笑顔で返す美鈴。
そんな彼女の自信満々な表情を見た明花は、思わず顔が綻んだ。
「それでこそ私の美鈴さんです!」
言ってしまってからハッとして思わず口を手で塞ぐ明花。
「そ、そうですわね…。」
何やらドキッとする言葉を言われたような気がする美鈴。
明花も真っ赤になって恥じらっている。
もっと積極的な発言を前にしたばかりだから今更何を恥ずかしがっているのやら。
(き、気のせいですわ、きっと聞き間違えに決まってます!)
現実逃避する美鈴には悪いが、確実に好意をぶつけられてたぞ(笑)!
一方、決勝の対戦相手に残ったのは。
「ふ、ふふふ。お嬢様、ここで会ったが百年目…遂に決着を付ける時が参りました!」
「明花お嬢様、お互い手加減無し、真っ向勝負です!」
大方の予想通り、愛麗と芽友の二人が勝ち残っていたのだった。
「ふ。そちらこそ首を洗って待ってる事ですわ!」
完全に悪役令嬢のような顔付きになってる美鈴。
こらこら、お前はあくまでもプレイヤーキャラ、このゲームの主人公だからな?
その顔は不評を買うからやめろっつーの!
「フフフ。そうですね、お二人とも、お手柔らかにね?」
明花はこれはあくまでもお祭り、ゲームなので結果的にでも最後に勝ちさえすれば良いのだとお気楽ムードだった。
…ここまでは。
まさか、月夜生徒会長へと忍び寄る刺客の巻添えを自分達が食らうとはこの時ステージ中央に立つ四人には知る由も無かったのだ。
『では最終決戦、それは…』
『あっち向いてホイッ!でーす!』
「は、はあ…?」
「さ、最終決戦が…」
「あっち向いて、ホイ…ですか?」
「何故にこれが最終決戦に選ばれたのですか?ご説明くださいませ!」
四人はそれぞれ複雑な表情で月夜生徒会長を見詰めた。
『うーん、実は私も競技種目を選ぶのに結構迷ったのよ?』
『魔法を厳禁として体力や運動能力、学力にあまり左右されないゲームを選んで対等化するのは大変だったんだからあ、思ってたよりも…。』
「確かに、それぞれ得意な能力を発揮できる競技なら結果は見えてるし、それでは観戦してて面白くなりませんものね。」
「オマケにこれは一応カップルの息があってる事を示す前提ですものね。」
『流石ね美鈴さん、明花さん、その通りよ!わかってるわねえ。』
「…で、だからと言って最終決戦があっち向いてホイ、と言うのはあまりにも納得が行きませんけど?」
美鈴が率直に意見した。
これに明花も同意する。
「そうですよ、それまでの競技と比べても明らかに華やかしさがありません。」
「どうしてこんな地味な競技…いえ、これはもう競技ですらありません。単なる遊び…を選ばれたのですか?」
芽友が詰め寄る。
『じ、実を言うと…。』
「実を言うと…何の理由からです?」
美鈴がジトッとした目線で月夜生徒会長を見詰める。
『ね、ネタがもう無かったのよお~!』
遂に月夜生徒会長に泣きが入った。
『うっ、ううっ…ギリギリまで徹夜してまで考えて、結局誰もいい案が出せなかったから、しょうがなくこれにするしかなかったのお~、え~ん…。』
「!ちょ、ちょっと泣かないでくださいまし?」
美鈴が慌てて月夜に駆け寄る。
「会長なりによく考えた上での判断だったのですね?そうとは知らずご無礼をお許しくださいませ。」
『…許してくれる?』
「勿論ですわ、さ、だから泣き止んでくださいませ?」
『うわーい、美鈴さん大好き!』
月夜生徒会長が美鈴に抱き付いた。
思わず手にしていた音声伝達器を放っぼりだしてしまうほどだった。
「「「あああ~?!」」」
これには明花ら三人から悲鳴の声が挙がった。
「ちよ、ちょっと、月夜さんたら?」
「ウフフ、ズーッとこうしたかったわ、美鈴さん♪」
美鈴もモゾモゾと抵抗してはいるが、抱き付いた月夜の服や身体の感触、そして彼女から漂ってくる香りに危うくやられそうになっていた。
「ちょっと会長、離れてくださーい!」
「嫌よ!こんなチャンス滅多にないもの!」
「ズルいです会長、私もお嬢様に抱き付きたいですー?」
「愛麗?浮気は許しませんからねー?」
なんだかステージ上は滅茶苦茶なカオス状態と化していた。
だが。
「いいぞー!やれやれー!」
「みんな頑張ってー!ハハハ♪」
「誰が美鈴さんを射止めるか、これが本当の勝負ねー?」
「負けた子は私が貰ってあげるー!」
観客席は、これはこれとして楽しんで盛り上がっているのだった。
むしろ競技中よりも盛り上がってるようだ。
そんな、くんずほぐれつな展開を四人がステージ上で見せ、誰もがステージにしか注目していない時を狙って、ソイツは仕掛けてきた。
(今なら安月夜を狙える上に、邪魔な連中全部を纏めて始末出来る!)
ソイツは指先の狙いを月夜生徒会長へと定めた。
(さらばだ、四大名家の跡継ぎの一人よ。)
バシュッ!
その指から放たれた鉱石は魔力の光を伴って真っ直ぐ月夜生徒会長へと向かった。
……………ハズだった。
「もーう、会長さん、お嬢様から離れ…」
愛麗の身体が狙われた生徒会長の背中を覆ったその時。
「危ない、愛麗!」
無防備な彼女の背中を守るため、
ただ一人この騒ぎから一歩離れて周りを見れた娘が一人だけ、いた。
「あっ?!」
背中にその攻撃を受けて倒れる少女。
パタン、と音がした。
初め、その光景は誰にも理解されなかった。
ようやく落ちついた美鈴達が異常に気が付き、彼女へと駆け寄る。
「どうしましたの?」
「え?何が一体?」
「ま、まさか…。」
「芽友、芽友!?」
明花と愛麗が芽友を抱え上げる。
「しっかりして、芽友?」
「ど、どうしてこんな事に?」
「…??あ、愛麗?無事だったのですね?」
「私の事より、芽友が…。」
ワナワナと震え出す愛麗。
芽友の背後に出血が見られたのだ。
「………強い邪悪な魔力が芽友の背中に見られます。」
明花が手を翳し冷静に分析する。
「くっ、ここは明花に任せますわ!」
「美鈴さんどこへ?」
「会長、私は賊を追いかけます!邪悪な魔力が向こうからプンプン匂ってましたわ!」
ステージの袖から逃げて行くソイツを追って美鈴は駆け出した。
(芽友さん、どうか無事でいてくださいませ!)
美鈴は後ろ髪引かれる思いで、それでも今は真っ直ぐに芽友を負傷させた犯人を追い掛けるのだった。
そして明花による魔法医術を用いた治療の続く最中、芽友の瞳は怪しく光る。
だが、芽友の事が心配な彼女らは誰一人としてその異変に気が付かないのだった。
芽友は負傷よりも邪悪な魔力の影響の方が心配です。
そして美鈴が追い掛けた刺客、ソイツは何の目的で月夜を襲ったのでしょうか。
学院を襲う闇を美鈴は払う事が出来るのか?




