第三十一話【光陰矢のごとし?急いで口で言え!】
喧嘩から仲直りした美鈴と明花。
しかし意外な実力を発揮した側仕えカップル達が彼女らの前に立ちはだかり、更には意表を突くゲームが用意されていたのでした。
『では決勝へ向けてのカップル選考第一回戦。』
『共同作業ゲームーッ!』
月夜会長の紹介の声と共にパフパフッと音が鳴る。
パチパチ、とまばらに拍手が鳴る。
『このゲームはカップル二人の共同作業を通じてどのカップルが息が合ってるのかを見極めるが目的です、順位に合わせてポイントが入るんだけど…他の選考で獲られるポイントも総合して高得点の二組が決勝へと選ばれます!』
『皆さん、応援するカップル達へのご声援お願いいたしますね!?』
ここでようやく歓声が挙がる。
「美鈴さん、どんな競技かしら?ワクワクしますね!」
「ウフフ、とっても良い表情してるわよ、明花さん?」
二人は以前よりもすっかり打ち解け会ったからか、互いへの言葉使いから他人行儀が消えてフランクになっていた…が、
時間の経過とともに口調が元に戻っていった。
名前も一時的に呼び捨てになっていたが、やはり普段通りの方が話しやすいようで互いに「さん」付けの呼び方に戻っている。
だが前よりも二人が打ち解けた事に変わりはない。
『ではこの共同作業ゲームの説明をします。』
黒板がステージに現れた。
【正確な伝達】
黒板にはこう書かれていた。
『カップルに必要なのは正しくお互いの意志が伝わる事で喧嘩を防ぐこと。』
ドキッ!ギクッ!
美鈴と明花の二人はこれを聞いて非常に気不味い思いをした。
『私がこの黒板に書くお題をそれぞれのカップルが早口でパートナーに伝え、そのパートナーは音声伝達器に早口で噛まずに話して下さい。』
『噛んだらまた始めから言い直してください、ちゃんと最後まで言えたタイムで順位を競います。』
「早口言葉…?」
明花は前世で良くやった早口言葉を連想したのだが。
(まさか、この異世界で前世のあの早口言葉がそのまま使われるなんてありませんよね?)
フッ、と自分の頭に浮かんだ考えを自虐的に嗤った。
「質問がありますわ!」
美鈴が月夜生徒会長の説明で不明に感じた部分の説明を求めた。
「その早口言葉とやらの文章によっては早口で喋り易い言葉、短くてタイムに有利な言葉とそうでない言葉があるのですよね?」
『あ、そうですね。その事についてですが。』
『くじ引きで公正に早口言葉を選んで貰います。だから運もありますね。』
「…な、なるほど。」
美鈴はもう一つの黒板に書かれたアミダくじを見て納得した。
アミダくじの下側は紙が貼られて隠されていた。
『ではくじ引きの代表兼伝達役と、アンカーとなるパートナーをどっちがやるのか1分以内に決めてください。時間が過ぎても決まらなかったらこっちで勝手に指名します。いいですね?』
『よーい、ドン!』
『……………………。はい、1分立ちました!』
『皆さん役目は決まりましたか?決まったら手を挙げてください。』
全員が挙手した。
『では、くじ引き前に隣の組同士でじゃんけんしてください!』
勝ち抜けた組同士でのじゃんけん、負け残った組同士でのじゃんけんを各組代表が行い、くじ引きの場所決めがされていく。
美鈴の組は美鈴が出た。
だが美鈴の健闘虚しく三位に終わった。
アミダくじのスタート部分を決めるだけのじゃんけんだからまだゲームの勝敗とは関係ないのだが、美鈴は結構悔しがっていた。
「くっ、この私とした事がっ…!」
「まあまあ。早口言葉の連係の方が大事ですから。」
明花が苦笑しながら美鈴を宥めるのだった。
一方。
「わあーい、お嬢様に勝ちましたあ!」
愛麗がじゃんけんで一抜けしていた。
「凄いわ愛麗、じゃんけん強いのね?」
これには芽友も大喜び。
「ま、まさかこの私が愛麗ごときにじゃんけんで負けるだなんて…!」
「意外に油断ならないかも知れませんね。」
まさかの伏兵に警戒心を強める明花、そして美鈴だった。
しかし同時に明花には不安があった。
「あの、美鈴さんは早口言葉、大丈夫なんですか?」
「は、早口言葉でございますか?」
そう言えば考えた事なかった。
「じゃあ、ちょっとこれ言ってみてください。…生麦・生米・生卵。」
「なまもごなまこめなまなまも…」
「もっと滑舌良くお願いします。」
「わ、わかってますわ?」
(初めて聞いたのにスラスラ言えたら怪しいじゃないですか!)
「…なまむぎ…なまごめ…なまたまご…。」
「もっと早口で。」
「な、…」
「…ナマムギナマゴメ、ナマタマゴ!」
「…少し難ありですかね?でも噛まずに間違えずに言えたなら合格ですね。」
「で、ではどっちをやります?」
「伝達を美鈴さんがして、私がアンカーをやります。」
「あの、言葉の意味は考えずとにかく文面の音だけを一字一句間違えず正確に伝えてください、後は私が何とかしますから。」
(前世の記憶の中にある文面なら大概大丈夫なハズ…!)
『因みに魔法の使用は厳禁です。もし使ってもこの魔法部開発の装置で違反者がわかりますし、魔法使用の発覚時点で即コンテストの出場券自体が失格となりますので要注意を!』
「ま、マジですかあ?」
美鈴の奴め、あわよくば超加速魔法で早口をとも考えていたのだが先手を取られてしまった。
だが普通に考えて、そんな超加速で喋ったら誰にもちゃんと喋ってるのか聞き取れないぞ?
「美鈴さん、大丈夫です。」
「とにかく噛まずに正確に。これを心掛けていきましょう。一番いけないのは焦って速く言おうとすること。」
「わ、わかりましたわ。」
「まだゲームは序盤です。全部1位を目指すより、とにかく失格だけは避けてポイントを獲得していきましょう。まだ勝負を懸ける場面ではありませんから。」
「な、何か緊張してきましたわ。」
「なら、私の手を握ってください。」
美鈴は遠慮なく明花の手を握った。
「…落ち着きましたか?」
「え、ええ。スーッと。」
「明花さん、貴女は何故そんなに落ち着いてますの?」
「だって、美鈴さんと一緒ですから。」
「ふぁっ?」
「貴女と一緒なら怖いものなどありません、この前のフレイムドラゴン退治の時に感じました。」
「貴女程勇敢な方を私は知りませんでした。あの時、私はこの人と共にいようとハッキリ思ったんです。」
そう言って明花はニコッと微笑んだ。
(勇敢、ねえ…?)
美鈴は前世では苛められっ子で引きこもりオタクだった。
今世ではその反動からかとても外向的で人を恐れない。
だが本人は自分の勇敢さをあまり意識してないようだ。
むしろ前世の記憶から自分はもっと強くなければという意識が強いようだ。
「私は自分で勇敢だとは思いませんけれども、そう評価していただけた事は感謝しますわ。」
「貴女が勇敢でないならそこら中の兵士が腰抜け呼ばわりされてしまいますよ…?」
明花は美鈴の謙遜を越えた自己評価の低さに開いた口が塞がらなかった。
『それでは芽友・愛麗組から順番にクジの開始点を選んで下さい!』
各カップル代表はそれぞれ色分けされた丸いシールを渡された。
これを自分が選んだクジの開始点の場所に貼るのだ。
芽友も二番手も躊躇なく貼っていく。
「ううん…ここでどれを選ぶかで有利にも不利にも働きますのね…。」
美鈴はクジの書かれた黒板の前で考え込む。
『美鈴さん、後がつっかえてるからお早めに選んでね?』
ドッ!と観客席から笑いが起きる。
「わ、わっかってますわっ!」
余計に焦る美鈴。
「う~ん、かくなる上は目を瞑ってテキトーに…。」
ペタッ。
「ハハハ。これで本当に運任せですわ。」
サバサバと笑いながらも実はメッチャ気にしてるのか、しゃがんで項垂れる美鈴であった。
「美鈴さん、顔を上げて下さいったら。まだ文字通りスタート地点じゃありませんか。」
「それはわかってますわ?でも、選んだ責任を感じてまして…。」
「もう!まだクジの結果すら出てないじゃないですか?」
『では、全員選ばれたのでクジの結果を見てみましょう!』
アミダくじの下側の隠されていた部分が開放されると、それぞれのゴール部分にはアルファベットが書かれていた。
『では、机の上の各アルファベットの封筒を取ってお題を確認してください。』
『見てもお題に何が書かれていたかはまだ言わないでくださいね?!』
「じゃ、開けますわよ?」
美鈴が明花の目の前で封筒を開いて中に入っていた紙を広げた。
一緒に覗き込む二人。
「わ。」
「ええっ?」
互いの顔を見合わせる二人。
その紙に書かれていた言葉とは。
【少年老いやすく、学成り難し。】
…………………………。
二人とも、どう反応して良いのかわからなかった。
((こ、これの一体どこが早口言葉なんですかああ~~~っ?!))
二人は心の中で絶叫した。
他のカップル達はどんな早口言葉を用意されていたのかわかりませんが、何を基準にこの言葉が選ばれたのか全くわかりませんね(笑)。
多分、生徒会長の月夜が
「適度な長さの文を並べとけばいいのよ。」
なんて適当に選出したのかも知れません(笑)。




