第三十話【完璧な友情宣言…結果オーライですわっ!】
月夜会長が腹に一物抱えながらのインタビュー。
まだ喧嘩の仲直りが出来てない美鈴と明花はこのまま喧嘩別れさせられてしまうのか?
まだカップルコンテストの本選も始まらない内から出場辞退の危険?
安月夜が美鈴の側までやって来た。
美鈴は焦っていた。
(あ~ヤバいですっ、こんな喧嘩中の私達がインタビューなんか受けたりしたら仲が悪い印象を周囲に与えて二人のカップルとしての評価が駄々下がりしてしまいますわ~(汗)。)
一方、明花の方も。
(ど、どうしましょ?こんな時に限ってあの安先輩にインタビューされるなんて…あの人の事だから、絶対何か企んでるに違いありません!)
取り敢えず危機が近づいている事は二人とも認識していた。
一方、はやる気持ちを抑えながら美鈴の側まで来ていた安月夜生徒会長だったが。
(あら?そう言えばまだどうやって仲を裂いてやろうか考えてなかったわ!)
なんと、あれだけ二人の仲を邪魔する気満々だった月夜はノープランだった!
(そ、そうだわ!仲が良いと言うことはそれだけ長く一緒にいるはずだから当然長所だけでなく短所や嫌な面も知ってるはず。)
(美鈴さんと明花さんそれぞれの悪口を言い合いさせれば仲違いする事間違い無し!これだわ!)
ニヤニヤしながら不審者のような顔つきで、遂に安月夜は美鈴達の前にやって来た。
『こんにっちわー!さて皆さん、これから私は今この学院で一番の噂の二人にインタビューしたいと思いまーす!』
魔法研究部の開発した音響拡声器が会場の四隅に置かれており、そこから音声伝達器を通して安月夜生徒会長が先ほどの言葉を発すると会場の観客達の視線は一斉に黎美鈴に釘付けとなった。
「うおおおーっ!め、美鈴さんだぁー!」
「待ってましたわ、ドラゴンスレイヤー!」
「超速星様が来るまで学院を守ってくれた勇者様ーっ!」
美鈴は主に武勇の面で人気のようだった。
「は、ははは。…ど、どうも、ですわ。」
一応、片手を挙げて声援に応える美鈴。
『おお!早くも黎美鈴さん大人気のようですねー?』
『ではそんな大人気な美鈴さんに質問です!』
(な、何の質問かしら?)
ドキドキする美鈴。
これ以上、明花の機嫌が損なわれ無いことを願う美鈴だった。
(美鈴さんは普通に明花さんの欠点を挙げてもフォローに回るはずだから、少し捻らないとね。)
安月夜は少し頭を使う事にした。
『ええと、美鈴さんとお隣の明花さんとは同じクラスだそうですね?』
月夜がもう一本片手に持っている音声伝達器を美鈴に渡す。
『は、はい。教室の席がたまたま隣同士だった縁もありまして、今思えばそれがきっかけでしたわ。』
『で、実際のところ、二人の仲はどこまで進んじゃってるの?』
口を手で隠しながらクフフフと笑う月夜。
『ど、どこまで、とは?』
その意味はわかっていたが、念のため聞き返す美鈴。
『だからあ。ハグまでなのかぁ、キスくらいはしたのかぁ、それとももっと先まで行っちゃってるのかぁ、とかですよぉ?!』
笑いながら質問して来る月夜だが、その内心では。
(キ、キス以上までやってたら許しません事よ、美鈴さん!?)
今にも嫉妬で襲いかかりそうなのを必死で堪える月夜だった。
「コラッ、月夜君!仮にも貴族学院高等部生徒達の前であるまじき質問は控えなさい!」
范先生が遠くから風魔法に声を乗せて会場全体に注意を促した。
だが彼女も内心は。
(ど、どうなんだ、美鈴君?もう、その…明花君とは、その………い、一線まで越えちゃってるのか?)
(もしそうなら、わ、…私はっ!)
(な、なな、………泣いちゃうもんっ!!)
瞳がうるうるしそうになるのをジッと堪える范先生だった。
『えー、ええっと………ですね?』
美鈴はチラッと明花の方を見た。
これには明花も困っていた。
「彼女とは何も無い」
普通なら美鈴はこう答えていただろう。
だが先ほどまで二人は喧嘩していたのだ。
このまま縁を切るつもりならまだしも、本当は仲直りしたいのを意地を張ってるだけなので言葉選びには慎重にならざるを得なかった。
(ど、どうしましょう?)
(どうも明花さんが不機嫌なのはおそらく。)
(私が深い仲では無い、頼まれたから自分の方からではなくて仕方なく一緒に出場してる…そう取れるような発言したからなのでしょうね。)
ただツンツンしてただけではなく美鈴なりにこのままではマズイと感じ、状況を冷静に分析・判断していた。
(戦場で危機を放置しておけばそれは命取り。なるたけ迅速かつ的確な状況の判断と分析、そして対応をせねばなりせんものね!)
その動機は実に美鈴らしいものだったが。
(まあ、誰でもせっかく誘ってあげたのに嫌々付き合いで来たー。とか別に仲良くなんかねーよー。………的な事言われたら面白くありませんものね、わかりますわ。)
かなり的確な分析だが、詰めが甘かった。
そこはやはり美鈴らしいと言うか。
女性として生まれながら、とことん女心というものが分かっていない美鈴だった。
(そうですわ!なれば、私は貴女と仲良しだ、もっと仲良くなりたいとアピールすれば良いのですわ!)
(…………親友として!)
最後の余計な一言は言わない方が良いと思うぞ、美鈴。
すうーっ、と深呼吸をしてから美鈴は音声伝達器へと言葉を紡いだ。
『私と明花さんとは、大の仲良しですわ。』
『そ、そうなんですか…?』
迷いなく言われて少しタジタジになる月夜。
『………まあ、ここに一緒に出場してるくらいだから仲良しなのは…そうなんでしょうけど。』
『でも、私が…コホン、私達が知りたいのはそれがどのくらいなのか?恋人らしい付き合いをしてるのか?それを具体的に教えて欲しいんですよ!』
そうだー、そうだー。と、周りからも声が挙がる。
『はあ。ずっと一緒に居ますわ。それぞれの部屋を出て登校してから寮の自分たちの部屋に戻るまで。』
『あ、寮でも時々互いの部屋を往き来したり、一緒にお茶を飲んだりとかしてますけど。』
『そ、それくらいなら友達同士でもされてる方達は中にはいらっしゃるはずよ?』
『まあ、そうでしょうけど…学生の身分としてそれくらいが健全な交際の範疇だと存じておりますけど…会長が仮に恋人が出来たのなら、もっと凄いご関係をされたいのでございますか?』
『ぐっ…そ、それはっ………!』
歯を食い縛り返答に詰まる月夜生徒会長。
ここで迂闊にも具体的な事を述べれば学生としての立場が危うくなるし評判もがた落ちとなるだろう。
月夜に同調していた生徒達も周囲の空気が美鈴寄りに変わったのを感じてか黙りこんでしまった。
これはそろそろ引き際か?月夜もそう判断するしかなかった。
だが美鈴が明花の顔を横目で確認すると、まだ彼女は微妙そうな顔をしていた。
彼女は単に感情任せになるだけの愚か者ではなく賢い女性なのだから、おそらく理屈では仕方ないと納得しているのだろう、だが女としての感情の部分をまだ満足させられる答えを得られてないらしい。
(はあ~、仕方ないですわねえ。)
『じゃ、じゃあ今度は明花さん!貴女に質問よ?』
「ふえっ?!」
いきなり月夜生徒会長から音声伝達器を差し向けられビックリする明花。
『当然ここにいると言うことはそう言う気持ちなんでしょうから貴女は美鈴さんの事どう思ってるのか言えるわよね?!』
周りからも「言っちゃえ、言っちゃえー。」
と、やんやの声で囃し立てる。
『え~、ええと…。』
今度は明花の方が困ってしまった。
いつもなら美鈴に対してぐいぐい積極的な明花だったがこうして公衆の面前で愛の告白じみた真似をする事になるなんて想像していなかった。
それに幾ら本音で美鈴が好きで深い関係になりたくても当の美鈴の気持ちがまだわからない。
いや、前から親友と呼ばれてるのだから、まだ彼女の自分に対する気持ちはそこまでなのだろう。
そんな段階で「好きだから恋人になって欲しい」等と告白しても、色好い返事など貰えるワケが無い。
それどころか「友達のままでいましょう?」とフラれるのがオチだ。
つまりこれは「まだこの二人はそんな深い恋仲まで行ってない」と感じている月夜から投じられた必殺の一手なのだ。
このまま明花が自分の気持ちを打ち明けて美鈴にフラれるという、公開処刑。
名実ともに明花は恋人レースから離脱、自分にチャンスが回って来るという月夜の筋書きだ。
(さあ、サッパリキレイにフラれなさい、明花さん!)
今か今かとその時を待ちわびる月夜。
『あの、その、わ、私は…。』
はわわわ…と、すがるような目で美鈴を見つめる明花。
それを受けてか、一旦息を吐き出してから深呼吸した美鈴が明花の方を見てニッコリと笑った。
「もう、恥ずかしがり屋さんですね明花さんは。」
ボソッと小声で明花に話しかける美鈴。
美鈴は音声伝達器に魔力を込めながら話しかけた。
『…明花さん、貴女は私にとって、この学院で一番の仲良しさんですわ!』
『つまり、私はこの学院内において貴女の事が一番大好き、そう言ってるのです!!』
ワアッ?!
「メ、美鈴…さん?」
心なしか嬉しそうに表情が和らいだ明花。
(これはきっと、効きましたわね?)
その効果を、手応えを感じてほくそ笑む美鈴だった。
会場内が驚きと歓声に包まれる。
『ちょ、ちょっと美鈴さん?それってつまり…!』
月夜が慌てて美鈴を問い詰めようとする。
何とかさっきの発言を否定したかったのだが。
『はい、私達は親友以上の、大親友なのですから!』
「…………………………………え。」
呆気にとられる明花。
『は?』
音声伝達器を持って固まる安月夜生徒会長。
シーン…。
盛り上がった会場が一気にシラケた。
『でも、私がこの学院の中で一番好きなのは明花さん、貴女なのは間違いありません!』
「あの…??それって私は喜ぶべき事なのでしょうか?』
言われた明花も反応に困り、戸惑っている。
すると。
「何を仰ってるんですか、明花さん?!」
美鈴の側仕え、愛麗が明花に向けて怒鳴った。
「ウチのお嬢様にあそこまで本気で好きだと言って貰えた相手なんて、まだこの世に存在しないんですよ?何て羨ましい立場なのか、貴女全然分かっていませんよっ!!」
「あ、愛麗?」
これには美鈴も驚きを隠せなかった。
「今まで私がどれだけモーションかけたり襲いかかったりしても全然靡かなかったあのお嬢様にそこまで思って貰えるなんて、…う、羨まし過ぎます!」
「私だったら喜んで抱き付いて、そのまま押し倒して、それから…………。」
徐々に「ハアハア」と愛麗が欲情し始めたので、芽友がハリセンで愛麗の頭をスパーン!と叩いた。
「………はい、そこまで。」
クールに澄まし顔をしている芽友だが、その背後からは憤怒に燃えるオーラが漂っているのだった。
「…愛麗?後でお話しがあります。いいですね?」
ニコーッと笑いながら芽友が愛麗に可愛い声で話しかけた。
「………は、はあーいー………(汗)。」
冷や汗をタラア~ッと頬に垂らしながらヒクヒクと苦笑いする愛麗だった。
「え、ええと。………そうですね、私がちょっと欲を掻きすぎたようでした。」
「ありがとうございます、美鈴さん。私の事をそこまで思っていただけたなんて…嬉しいです。」
両手を美鈴に向けて差し出す明花。
それを受けて彼女の両手を握る美鈴。
「…これで、私達はもう一段階、仲良しの階段を昇ることが出来ましたわ。」
「仲良しの階段を、昇る?」
「ええ。私達は親友から大親友、そしてその更に上に到達しました。」
「これこそ、雨降って地固まる!ですわっ!」
美鈴が嬉しそうにパアッと笑った。
その屈託の無い、あまりに無邪気な美鈴の笑顔に益々惹かれてしまう明花。
「ち、因みに美鈴さん?大親友の更に上の段階とはどういう関係なのです、か?」
恐る恐る、そして何か期待しながら明花が美鈴に訪ねた。
「それは勿論。」
サッ、と指先を天へと掲げる美鈴。
【究極の友、真友ですわあっ!】
音声伝達器へ向けて大音量で美鈴の一声が放たれた。
その美鈴の言葉は会場全体に大音響となって轟くのだった。
そして会場全体が大爆発した!!
……………ような一瞬の錯覚を会場にいた全員が共有した。
「美鈴さん、耳がキーンとしたじゃありませんか?」
月夜が文句を言った。
「あ、あら?ごめん遊ばせ。」
オホホホと笑って誤魔化す美鈴。
「それよりどうでしょうか、この今の私の貴女への思いは?」
ニコニコしながら明花に向き直る美鈴。
「め、美鈴、さん?」
プルプル震えている明花。
「美鈴のバカーッ!!」
「え、えええ?」
一世一代のつもりで、恥ずかしいのを我慢してまで公衆の面前で公開告白した真友宣言だったのだが。
一体、何がいけなかったのだろう?と頭を捻る美鈴。
だが。
「バカで鈍感で男っぽくて!………でも、でも!」
明花が美鈴の胸に飛び込んだ。
「でも、そんな貴女だから、私も大好き!」
明花の着痩せするふくよかな胸が、美鈴のまだ小さな膨らみへと押し当てられる。
「ちょ、ちょっと…み、明花っ?!」
美鈴はその刺激に意識が飛びそうになる。
「だから、これからもずっと一緒にいさせて?私が貴女にとって一番でいられるように!」
「み、明花………。」
乙女な顔でトロンと見つめてくる明花を男前な顔で見返す美鈴。
そんな絵になるカップル達へ向けて、会場全体から祝福のように拍手の音が降り注いだ。
(くっ!こ、これでは逆効果じゃないの?!)
悔しそうに歯軋りする月夜。
だが悔しさをこらえ、この場の空気を切り替える事にした。
このままだと二人の仲に割って入る余地が無くなってしまう。
まだきっとチャンスはある、そう前向きに思い直す事にした安月夜生徒会長だった。
『ハアーイ!!皆さん、静粛にーっ?!』
『………あ、そこで約一名気絶してる教師がいるので保健室にでも押し込んどいて下さいな。』
当然ながらそれは、美鈴に明花が抱き着いた時点で気絶した范先生だっだ。
『………て、そこの二人っ!いつまでくっついてんの?進行の邪魔っ!!』
ほとんど八つ当たりのように美鈴に抱き付く明花を無理矢理剥がす月夜生徒会長だった。
『さ、さて。では気を取り直して次のカップル紹介に参りましょう!』
(本当、気を取り直さないとやってられないわよ、こんな司会なんて!)
心の中にはザーザーとスコールのような大雨が降っている安月夜生徒会長だった。
そして次のカップルインタビューの順番が回って来た愛麗と芽友だったのだが。
「…………でね?あそこのお店なんだけど……。」
「おお?それはいいですわねえ…。」
側仕えの二人組は、すっかり和気あいあいと、そしてイチャイチャし始めたご主人様達を見てひたすら疲れた顔をしていた。
『あ、あのー。どうしたのかな?何だか二人共お疲れなようだけど………?』
「ええ。お嬢様方にはわからない苦労が私達側仕えにはありましてね…?」
ちょっと皮肉っぽくなっていた芽友。
「あのお嬢様達の後で私達へのインタビューなんて、罰ゲームじゃありませんか?」
愛麗も自分たちの空気感を感じて愚痴っぽくなった。
『…………同情するわ………。』
その月夜生徒会長の視線の先にはキャッキャッと、コンテストそっちのけで笑い会う美鈴と明花。
(ああもう!インタビューの邪魔!)
イライラしながら泣く泣く仕事をこなす月夜生徒会長なのだった。
『…………さあ、インタビューこれで終わり!』
『いよいよこれからが本選です、皆さん、準備はいいですか?!』
「はいっ!!」
出場者全員が元気良く返事した。
再び会場は期待の歓声で沸き上がるのだった。
美鈴気合いの真友宣言!
意外な結果オーライでむしろ前より二人は仲良しに。
美鈴の方も元々明花への百合アレルギーは発症してなかったのですが、もうすっかり彼女との百合関係への抵抗は感じられなくなりました。
しかし百合ゲーのトゥルーエンドは大丈夫なのか?




