第二十八話【『友情』を育み『優勝』をかっさらいましょう!】
白百合祭の当日がとうとうやって参りました。
午前中はクラスの出店を裏方として手伝う美鈴と明花。
そして午後からのカップルコンテストを前にした昼食を出店で食べているとき、ちょっとしたハプニングが?
いよいよ迎えた白百合祭、その初日。
これは秋の文化祭に対する春の文化祭のような扱いとなった。
とは言えこれはあくまで今年だけの措置で、来年からは文化祭と白百合祭を統合し、文化祭の名前を白百合祭とする事が決定されていた。
その為か白百合祭は文化祭と同じ前後2日間のお祭り。
初日のメインイベントがカップルコンテスト、そして2日目のメインイベントにミスコンテストが用意されていた。
出場者は希望者が殺到したため、やむを得ず事前審査が教員主体に行われ、審査を通過した二十名のみの出場となった。
カップルコンテストも十組に絞られた。
美鈴と明花はフレイムドラゴン退治の実績から文句無しに両方のコンテストへと出場が決まった。
その審査結果は白百合祭の前日、二人へと届いた。
「美鈴さん、私達カップルコンテストの書類審査は無事通ったそうです!」
元々カップルコンテストの方は乗り気だった明花の名前の方をカップル代表として提出していたので、彼女の方に書類審査の結果の通知が届いたのだ。
「そうですか、それは良かったですわ!」
「因みに明花さん、ミスコンテストの方は?」
「…美鈴さんが通っていれば、私も通っています。」
「何ですか、それ(笑)?」
「つまり、逆に言えば例え通っていても美鈴さんと一緒じゃなきゃ私は出ません、という事です。」
「………あの、それって…つまりは受かってるって意味ですわよね?」
「…あ?!」
「うっかりさんですわねえ(笑)。」
(でもそこが可愛くてたまらないですわよ、明花さん?)
「安心してくださいませ。ちゃんと通ってますわよ、私。」
「じゃあ、コンテスト中はずっと一緒にいられますね!」
明花が跳び跳ねながら喜んだ。
「普段も朝からずっと一緒にいる気がするのは私の気のせいでしょうか…?」
首を傾げる美鈴だった。
そして今日、白百合祭当日を迎える。
「お嬢様、本日のスケジュールでございます。」
「見せて。」
愛麗からクラスでの出店シフト表とコンテスト出場時間とを記入された紙を渡された。
昨夜、愛麗が別々のシフト表とコンテスト進行表を一つの紙に書き写して纏めておいた物だ。
「クラスの出し物への参加時間は幸い午前中に集中してますから、お昼と午後はフリーとなっております。」
「きっと皆さん、美鈴お嬢様と明花さんとが午後からのコンテスト出場されるのを知ってシフト調整してくださったんだと思います。」
「と、言うことは…愛麗、貴女と芽友さんも今日の午後はシフトを空けて貰ってますのね?」
「ハハハ。私達は自分達からお願いして、ですけど。」
「ねえ?私、自分のクラスが何のお店するのか聞いてなかったのですけど…。」
「そこは主だった面々がせっせと準備されてましたから、半数以上のクラスメイトは何もする事無かったので仕方ありませんね。」
「因みに私達のクラスのお店はメイド喫茶でございます。」
愛麗が恭しく頭を下げた。
「あー、それっていつも貴女の普段やってる仕事とたいして変わらないんじゃありませんこと?」
「えー?側仕えの召し使いと西方諸国のメイドとではちょっと違うんですよー?」
「そ、そうなのかしら?」
(取り敢えず衣装が違うくらいなら私にもわかりますけど…。)
「それはそうと、それなら私も少しはメイドらしくなるよう練習すべきだったのでは?」
「あ、そこは大丈夫です。美鈴お嬢様と明花お嬢様のお二方は裏方………つまり厨房ですから。」
「ええ?何故ですか?」
「だってお二方が接客に出られたりしたら、それが目当ての客で教室がいっぱいになり、お店がごった返して営業になりませんもの!」
「…………あ、そうですわね。私と明花さんは例のフレイムドラゴン退治の功労者として今や超有名人ですから確かに目立ちますわよね。」
「…………んもう、そうじゃなくてえ~。」
愛麗は自分の人気と人垂らし振りについては全くの無頓着で、気が付いてすらいない自分のご主人様が焦れったくて仕方がなかった。
そして開店時間。
厨房の美鈴と明花はコック姿で敏腕を奮っていた。
が、何故か厨房は二人だけ。
注文のほとんどが紅茶とケーキなので調理自体は簡単なのだが。
「忙しい事は忙しいんですけど、何だか流れ作業ばかりで思ったよりつまらないですわね。」
「ええ。しかも魔法道具で大抵の料理も出来てしまいますし、洗い物も魔法道具任せなので今一やりがいが無いのは本当です。」
その分、たまに注文が入る軽食調理には嬉々として手作りまでして取り組む二人だった。
「まあ、その分私達には午後からのコンテストを頑張りなさいという事なのでしょう。」
「そうかも知れませんね。」
二人はクスッと笑いあうと作業に集中した。
そして迎えた昼休憩時間。
「二人共お疲れ様。もう上がって結構ですわよ。」
「あらもう?でも丁度お腹もペコペコでしたからナイスタイミングでしたわね。」
「それじゃ、後はお任せいたしますね。」
二人はエプロンを脱いでクラスメイトに渡すと教室を出た。
「とは言うものの、コンテスト前なのだから食事は軽めに抑えておかねばなりませんね。」
「はい。この前の屋台食べ歩きの時の体型になってはいけませんから。」
二人はその時の事を思い出し、「ウップ」と口元を手で押さえた。
おかげで、どうやらいい感じで食欲をセーブ出来たようだ。
しかしどの出店も旨そうに見えてしまうのは学園祭(ここでは学院祭)ならではだろうか。
「おや、あれは?」
「何か、円盤みたいな料理なのでしょうか…」
「面白そうですね、行ってみましょう。」
……………………………。
「これがその、「くれーぷ」とやらですか。」
「はいよ。で、こっちのソースかけてある方がお好み焼き!」
(お、お好み焼きもクレープも確かに似たような工程の料理ですけど?)
(てもだからと言って同じ鉄板で焼くなんて、ク………クレイジーですわっ!)
気難しい顔をしながら「くれーぷ」と「お好み焼き」とやらを交互に眺める美鈴を見て明花は思った。
(フフフ。やはりこの世界でクレープやお好み焼きを初見の人達はこんな風に見るのかしら。)
実は裏でコッソリと明花がこれらのレシピを流通させた。
別にお金欲しさや陰謀からではない。
単に自分がどうしても食べたくなった前世の食べ物、ただそれだけの理由からである。
拉麺は既にあるので、カレーライスをどうやって作って流行らせるのかが彼女の目下の命題である。
(でも、興味津々で見ている美鈴さんのお顔…はあ、何て可愛らしい…!)
じろじろ自分の方を眺める明花に対し、モグモグとお好み焼きを頬張りながら訝しげに明花を見つめる美鈴。
「?あのー、食べないのですか?冷めちゃいますわよ?」
「はっ!そうでした………て、美鈴さん?」
「ひゃい?」
「な、何でお好み焼きを手掴みで、しかも齧り付いて食べてるんですか?」
「だって、箸だと食べにくいもので…。」
(前世ではコテを使って切って、そのコテに載せたままで食べてたモノでしたが、この世界ではコテがありませんものねー。)
「そ、それにクレープは箸で食べる物ではありませんよ?」
「えー?こっちの『お好み焼き』とやらと似たような食べ物ではありませんかー。」
(前世でもそう思ったものですわ。ただし、甘いクレープと甘辛いお好み焼きとは別々に焼くべきですけど!そこは譲れませんですわ!)
美鈴はそこだけには異常なまでに拘りを持ち、更にはそんな焼き方をした店員(生徒)に対して根に持っているのだった。
勿論、次の朝には忘れてる程度の事だが。
「ともかく、クレープはスイーツでお好み焼きは料理!どちらにもちゃんとした食べ方があるんです!」
「はあ。明花さんは屋台料理に見識が深いのですわね。」
「そ、それほどでもありませんが…。」
「あ、美鈴さん?青海苔付いてますよ?」
「え?青海苔…?」
「はい、お口を開けてくださーい。」
「美鈴さん、あーん、てして?」
「あ、ああーん?」
美鈴がそこそこに口を大きめに開くと。
「ほら、前歯に青海苔♪」
「ふえ?」
何と、明花は美鈴の口の中の前歯に付いていた青海苔を指で取ると、自分の口に入れてしまった。
「フフッ。美味しいですね?」
「ふえっ?!エエエエ?!」
「何でそんなに驚くんですか?」
(だ、だって普通頬っぺたとか、精々良いとこ唇まででしょうがあ~~~?!)
(何故、何故に口の中の、前歯に付いたヤツ取るんですかあ?)
(しかも、しかも、しかもしかも!)
(あろう事か、それを食べてしまうなんてえええ?!)
「み、明花さん?貴女もしかして換わったご趣味とかお持ちで?!」
「いえ別に?」
キョトンとする明花。
「で、でででも、貴女さっき私の前歯に付いてた、の、海苔をお食べに………!」
ブルブル震えている美鈴が、実は自分の行動に恐怖してる事にやっと気が付いた明花。
「あ、さっきの私の行動、何かおかしかったんですか!?」
「ふ、普通はそこまでやりませんもの…。」
「ご、ごめんなさい。昔家でママにやってもらってた事を弟や妹達にやってあげてたから癖になっちゃってたみたいですね…。」
「ま、ママ?」
「あ、お母様と言う意味です。」
「へえ?明花さんのお母様は世話焼きなのですね?」
「は、はい。そうで………あ、あれ?」
(私、何か勘違いしてる…?)
「それにご兄弟に弟さんや妹さんまでいらっしゃるなんて羨ましいですわ………。」
その美鈴の言葉を聞いて、明花の頬を冷や汗が伝った。
(そ、そう言えばこの世界はっ……!)
「父役母親が魔法の力で一時的に子作りする能力を授かるこの世界では何人も兄弟を作れませんからね。流石は魔法医学の先駆者の家系ですわ。」
段々と明花の顔色が悪くなる。
目尻に涙まで浮かび始めた。
「…そうだ、こんど芽友さんに明花さんのご家族やご兄弟方のご紹介を………。」
「わー、す、すみません!親戚の子供達の事をうっかり兄弟扱いしてましたー!」
(ヤバいヤバいよ私!一体何処で間違った?)
(な、何故かしら?ついこの間まで上手くこの世界と馴染んでいたつもりだったのに…。)
(どうして、どうして美鈴さんを前にすると、こんなにもボロが出てしまうの?)
(私が美鈴さんを前にすると無防備になってしまうからかしら?)
「…あの、明花さん?どうかされましたか?」
「い、いえ。大丈夫です…。」
流石に気分が優れないようだ。
これでは午後からのコンテストに支障が出てしまう。
(ちょっと調子に乗ってからかい過ぎましたかしら?)
(でも面白いというか、明花さんがあまりに可愛いからつい苛めたくなっちゃいました、ごめんなさい!)
(これからはもう………程々しておきますわね♪)
「まあ、前にも申したではありませんか?」
「ちょっとさっきのはビックリしましたけど、そんなちょっと変わった所があってもそんな明花さんを私は受け入れますわ。」
「ほ、本当ですか?」
「私、この頃少し変なんです。」
「体験した事のないハズの記憶や知識などがつい最近の事のように当たり前の事のように頭に浮かんだりして………さっきのもきっとそうだったんだと思います。」
(前世の、それも異世界の記憶だなんて言えないからこんな表現にさせて貰いました。ごめんなさい、美鈴さん!)
「成るほど、だからあそこまで先鋭的な魔法医学の開発に携わることが出来たのですわね?」
(そこはゲームキャラと同じなんですけど、やっぱり私と同じような世界線の記憶を持った転生者、という疑惑は捨てきれませんわねえ。)
「とにかく、私はこれからもそれらは貴女の個性として捉え、共に乗り越えて行く所存でございますわ。」
「わ、私なんかのためにそこまで?」
「ええ。だって貴女は私の大事な…………」
(?)
「………大事、な………その…………?」
(い、今私は一体何を言おうと………?)
「だ、大事、な…?」
明花が目をキラキラとさせて、美鈴の次の言葉を待っている。
「し、親友!なのですから!」
「これ、私前にも言いましたから!そうですわよね?」
「は。はい、確かに………。」
ショボーンとする明花。
「何をしてらっしゃいますの?もうすぐカップルコンテストの時間ですわよ?」
美鈴が明花に右手を差し出す。
「美鈴さん?」
「一緒に出場して優勝をかっさらいますわよ!」
「私達に勝てるカップルなど存在しません!」
「だって貴女は私の大事な親友なのですから!」
「…………はい!」
「私も、貴女の事が大事です!」
美鈴の右手を握り返す明花。
「そう、私達は親友!だからこそベストカップルなのですわ!」
(まだ今のところは、ですけどね?)
明花は取り敢えず現在の所は妥協してみせるも、将来は絶対それ以上の関係になってみせる、と固く心に誓うのだった。
そして同時に思った。
この学院に自分達以上のカップルなど存在しない、と。
美鈴⇒元男でゲーム世界への転生者
明花⇒元腐女子、異世界からの転生者?
同じ転生者のこの二人、しかし少しずつのこの違いはどんなドラマを生み出すのでしょう。
今のところアドバンテージは美鈴の方が握ってます。
しかしいずれ互いに正体を明かし力を合わせる時が来る……………だったら胸アツなんですけどねえ?




