第二十五話【修羅場の刻…美鈴(メイリン)は貝になりたかった?】
とうとう、あの二人が激突してしまいます。
美鈴はこの場をどう切り抜けるのか?
「お、落ち着いてください部長さん?」
明花に言われてスーハー、と深呼吸をする王部長。
「と、とにかく私は嬉しい!」
「そんな凄い新入生達が二人共にわが部に入って貰えるなんて、こんな凄い『ワンチャンス』?滅多にない!」
「「は?!」」
王部長の言葉に美鈴と明花の疑問の声が重なった。
「あの、王部長さん?」
「おお、済まなかった黎美鈴君。待ってくれ、今から入部届けの用紙を…。」
「いえ、ですからそうではなくてですね?」
明花も今日はまだ見学に来ただけだと言おうとしたのだが、王部長は完全に舞い上がってて聞く耳持ちそうな様子は無い。
「どうします、美鈴さん?」
「どうすると言われましても…。」
困り顔の二人の目に映るのは、ごそごそ机の引き出しを漁る部長。
「あったー!」と、叫んで二枚の入部届け用紙を二人の顔に向かって翳す王部長。
「さあさあ、早く書いてくれたまえ!まだ生徒会室は空いてる時間だから、充分間に合う!」
「あの、その事なのですが。」
「すっかりその気になられてる所すみませんけど、私達は今日はあくまで見学に来ただけなのですわ。」
美鈴が申し訳なさそうに言う。
「え?!」
「ですので、ここに入部するか否かはまだ決めていないという事です。」
更に明花がキッパリと入部の意思は未定であることを告げる。
「そ、そんなああ~~~?」
へたりこむ王部長。
「そんなにしょげないでくださいまし?まだ入部する気が無いとも決めてませんから。」
「そうですよ、それより私達はせっかく見学に来たんですから、ここの部活動の魅力を紹介していただけませんか?」
美鈴も明花もいたたまれなくなったのでフォローをする。
「………うん、わかった。ここがいかに面白い部活動なのかを紹介しようじゃないか!」
すっくと立ち上がった部長は部屋の奥にある研究室に二人を案内所するのだった。
「研究室という名前だけど、実際には実験室や工房といった使われ方がメインなんだ。」
王部長の言う通りで、部屋の中の机や棚には何に使うのか良くわからないような道具や、まだ作りかけの何かが置いてあった。
「これらは全て魔法によって作用する道具だったり、魔法を強化する道具等だよ。」
「あ、この辺に置いてあるのは魔法道具を作る為の工作道具。これは魔法の計測器。どれも魔法で動かしたり魔法で効果を増やす事が可能だ。」
「で、こっちの机にあるのはまだ作りかけ。あの棚に置いてあるのは完成品だ。」
「このファイルも魔法道具の設計に?」
「なにやら図面や数式が書いてありますわね。」
明花と美鈴が本棚から二、三冊のファイルらしきものを開いてパラパラとめくる。
「それはあんまり見ないでくれたまえ。まだ設計段階で手を着けて無いものも多いんだ。何せみんなアイデアだけは色々と積極的に出してくれるんだけど実際作るとなると時間も労力も、…そして何より先立つモノが足りなくてね。」
頭をポリポリと掻きながら頬を赤くする王部長。
「でもどれも実際に使える。ただ、まだまだ世に出すには安全対策や改良を加える必要があるモノが多いからおいそれと貸し出すことも出来ないんだけどね。」
「へええ~。」
「変わったデザインのもありますねえ。」
美鈴と明花は
物珍しそうに眺めた。
「あ、そうですわ!因みに先程の透視ゴーグルとやらは何の為に作られたのですか?」
「いい質問だ!あれは倉庫の中の試験問題を盗み見たり、可愛い子の制服の下がどうなってるか見たいという好奇心を満たすため………。」
「…作られたのは誰ですか?」
「勿論私だ!凄いだろう!?」
「「へえええ~~~…。」」
美鈴と明花の冷たい視線が王部長に突き刺さった。
「やだなあ~。そんなに見つめられると照れるじゃないか?」
どこまで厚顔無恥な人なんだろう?と呆れる美鈴と明花の二人であった。
せっかく発明品や研究品を見せて説明する事で上がっていた王部長と魔法研究部に対する二人の評価はここで一気に駄々下がりしたのだった。
(…美鈴さん。ここの部長さんは少し性格に難有りのようです、見学はここまでにして帰りましょう。)
(そうですわね、このような方と部活動するのはごめん被りたいですわ。)
「~で、これがだねー?」
すっかり調子に乗ってきた王部長が更なる魔法道具を見せようとする。
「あ、あの私達これから用事がありましたので、これにて失礼させていただきますわ。」
「ええ、少し急ぎたいのでそろそろおいとましようと思います。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ?あと一つだけ見せたいモノがあるんだ!」
王部長が慌てて手にしたモノは。
「これは魔法のパワーアップを実現する強力アイテムだ!」
「「魔法のパワーアップ?!」」
さすがにこの名前の響きには美鈴も明花も気にならずにはいられなかった。
部長の手にしたモノはベルトだった。
「因みにそれは、どんな魔法もですか?」
「ああ、どんな魔法もだ!」
「誰にでも使えるのですか?」
「勿論!魔法の使い手のレベルを問わず倍加させる!」
「そ、それは確かに凄いですけど…認可とか審査はどうなっているのですか?」
「は?認可…審査?」
「ええ。王都の役所の中に新開発の魔法や魔法道具を審査する機関がありまして、そこで安全性や独自性、更に量販時の特許申請から販路などの販売調整、利益や負債、税金の計算までしていただけるのですけど………。」
「あの、部長さん?どうされたんですか、顔色が悪くなってきましたけど…治療が必要ですか?」
明花が状態異常の確認をしようと部長の顔に手を翳す。
「い、いや!大丈夫だ!…そーそー、認可や審査、ねえ?」
「はい、単に個人で所有しているだけならいざ知らず、何かの間違いで魔法による公共物破壊や重傷者を発生させたり国の安全を脅かしたりすれば相応の罰金や刑罰にもなりかねませんから用心してくださいまし?」
「そ、そーだねー。まあ、その辺は生徒会にこんな凄いの作ったよーって知らせてあるから大丈夫!」
「美鈴さん、それって大丈夫なんですか?」
不安気に美鈴に聞く明花。
「私より、むしろ明花さんの方が販売等には詳しくありませんか?」
「いえ、私はまだ商売関連の知識に乏しくて。」
「そうですか。…これは生徒会云々より顧問から役所の方へ手続きされるべき事だと想うのですが。学生の身分で法や行政関連に詳しい人などほとんどいませんからね。かく言う私も大まかな知識だけで具体的にどうするかまではわかりません。」
「そうですか。…部長さん、ここの顧問はどなたですか?新開発した魔法道具の認可や審査に必要な登録はその方にお願いされてますか?」
「いや…それが、顧問の先生はつい最近の魔物のアジトへ討伐遠征に出掛けられてしまって現在不在なんだ。一応、それまでの発明品等はちゃんとやってくれてると思うんだけど。」
その言葉に美鈴の頬がピクッとした。
「………つい最近の、魔物の討伐…?」
「め、美鈴さん、それってまさか月夜先輩のご両親が先日向かわれた場所では?」
「…部長さん、その顧問の先生が向かわれたのはいつですか?」
「5日程前だったかな…たしか討伐の第一陣で斥候も兼ねていたとか………。」
「…それって…!」
明花が絶句する。
「嫌な予感、しかしませんわよね…。」
美鈴が奥歯をギリッと噛み締めた。
取り敢えず王部長からは保留という形で入部届けを受け取った二人は、その足で生徒会室へと向かった。
「あら二人共、いらっしゃい。」
生徒会室では紅茶を嗜みながら書類に目を通す安月夜生徒会長と、その他の役員達がいた。
「どうしたの?生徒会役員に立候補したくなったとか?」
「い、いえ。実はさっき魔法研究部の王部長にお会いしまして…。」
「まあ、あの人に会ったの?結構変わった人だったでしょう?」
クスクス笑いながら再び紅茶のカップに口を付ける安月夜。
「は、はあ。確かにちょっと変わったというか、エッチというか…。」
「そ、そんな事より美鈴さん?」
脱線しそうだったので明花が軌道修正を催促した。
「あ、ああそうでしたわ。あそこの顧問の先生は今何処におられますか?」
「ああ、そう言うこと?」
安月夜が右手を美鈴達二人の前に差し出した。
「ん?何ですか先輩、握手ですか?」
「いやだ、何をボケてるの美鈴さんたら。」
「入部手続きでしょ?案外早く入部を決めたのね、魔法研究部に。」
「ええ?!」
「ち、違います先輩!今日はまだ見学だけで後日返事をする事になってまして…。」
「あら違うの?…あ、じゃあアレね?」
月夜は後ろを振り返って戸棚から書類を取り出して二人に見せた。
「…………何でしょう、この用紙は?」
「中央貴族学院、白百合祭。」
「そのコンテスト出場用紙よ。」
「こ、コンテストの出場用紙?」
「あ、丁度いいですね美鈴さん!ついでだから貰っておきましょう♪」
言うが早いかさっさと月夜から出場用紙を受け取ってしまう明花。
しかも、二人分。
「あら、二人という事は…ま、まさか?!」
「はい、カップルコンテストに出ます。私と美鈴さんの、二人で。」
「め、美鈴さんっ?!貴女私という恋人がありながら…。」
と、月夜がここまで言うと。
「会長、こ、この子と会長はデキてたんですか?!」
「そんな!私はずっと会長の事をお慕いしていたというのに…!」
「キャー☆遂にあの会長様にも恋人があっ?!」
「スクープよスクープ!広報委員に連絡しなくちゃ!」
「め、美鈴さんと仰られましたわね、その辺のとこ、どうなんですか?本当に会長と深いお付き合いをされてるんですか?!」
「い、いえ…まだ私はそのようなお付き合いは…。」
「私と一夜を共にいたしましたのよねえ?」
意地悪な笑顔で話しをややこしくする月夜。
「月夜先輩、話しを捏造しないでください!あの時は私や范先生も一緒に貴女のお屋敷に泊まってましたよね?」
「更に私はあの夜も次の夜もずっと美鈴さんのお部屋で貴女が来ないか見張ってましたけど結局来られなかったではありませんか!」
「み、明花さん?貴女は一晩中ずっと美鈴さんのお部屋にいらっしゃったの?…それも二晩続けて?!」
月夜はクールな表情を崩して狼狽した。
「先輩が美鈴さんを夜這いしてくるかも知れませんでしたからね、必要に迫られたからであって邪な意味はありませんから!」
不敵な笑みを浮かべる明花。
「な、な、な、…?!」
ワナワナと怒りに震える月夜。
バチバチと彼女の背後から魔力の火花が飛び散り出す。
「や、やる気ですか?先輩…。」
ごくっと唾を飲みこみ、明花も魔力を高める。
明花の指先にポオッと光が灯り、彼女の目から金色の光が輝いた。
月夜から立ち昇った火花のうちの一筋が吸い寄せられるように明花の元へと届く。
と、その火花は明花の手前1メートルで見えない壁にバチッと弾かれた。
これは意図した月夜からの攻撃ではなく彼女から溢れた魔力が自然と攻撃対象に向かって流れ出したもので、それを明花の発する魔力が防御壁として作用する事で防いだ現象だった。
だがこれに対して周りの反応は。
「キャーキャー!一人を巡って二人の恋の争いよ!」
「これは、どちらが勝つのかしら?」
「負けるな、先輩!」
「会長、やっちゃえ!」
「明花さん負けちゃダメ、美鈴さんを守って!」
……………割りと面白がっていた。
(魔法研究部顧問の安否を確認しようと思って来ましたのに、何故こうなってしまったのでしょう?)
途方に暮れる美鈴。
だが。
「美鈴さん!私の方が明花さんよりも好きですよね?なんせフレイムドラゴン相手に命懸けで私を助けてくださいましたんですから!」
「とんでもない、美鈴さんは私と席も隣同士で普段いつも一緒に行動してます。ですから私の方が好きなんですよね?美鈴さん!」
「は、はあ?!」
遂に美鈴に飛び火した。
【おいおいヤバいぞ。こんな事が范先生に知られでもしたら…。】
(評価駄々下がりですか?名尾君?)
美鈴の頬をタラアっと冷や汗が伝う。
「わた、私ちょっと急用が…。」
ゆっくり扉に手をかけて開く美鈴。
すると扉の向こうの廊下には。
「…………モテモテのようだね、美鈴君…?」
ニコッと笑う范先生。
しかしそのこめかみはピクピクしていた。
「なにやら不穏な魔力の衝突があったようなので気になって来てみれば………成る程、こういう事なんだねえ?」
そう言う范先生からはひんやりとしたオーラが溢れ出した。
美鈴の凍結魔法ほどではないがその冷気の矛先は月夜と明花に向かっているのは明らかだった。
【三大怪獣激突!】
…そんな昭和の某怪獣特撮映画のタイトルの劇場ポスターが美鈴の頭の中をよぎった。
さながらゴ○ラが月夜、モ○ラが明花、ラ○ンが范先生のように美鈴の眼には見えていた。
………余談であるが、彼女らが怪獣なら美鈴はそれを退治できる○ルトラマンというところか。
…訂正、○ルトラウーマンだった。
ごくっと唾を飲み込む美鈴。
(か、かくなる上はっ…!)
「あっ!魔物が現れましたわ!」
ピッと廊下の外を指差す美鈴。
しかし。
「何を誤魔化してるのかな君は?この学院にそう簡単に魔物が入り込めるワケがないだろう?」
范先生が騙されないぞ、という姿勢で美鈴を一瞥しながら廊下の外をチラッと見る。
みんなも「んなワケないでしょ?」と思いつつチラッと廊下の外の方へ視線を移す。
そのほんの一瞬だけがあれば充分だった。
『超加速魔術発動!』
僅か一秒の間に美鈴は玄関まで移動を終える。そして…
「皆様、さいなら~っ!ですわっ!!」
校庭を疾走して一目散に寮まで帰ってしまう美鈴だった。
かくして、三大怪獣の一触即発を前に、○ルトラマンこと○ルトラウーマンは敵前逃亡したのだった。
(三体もの怪獣を相手にするのだ、戦力的に見てこれは戦略的撤退と言えよう。きっとそうに違いない!ですわ?)
美鈴は自分の撤退を正当化するのだった。
「い、いつの間に?!」
目をパチクリさせてそれを見送る明花達。
奪いとるべき対象となる当人がいなくなり三体の怪獣からは闘気が薄れ、怪獣らは凡人へと戻った。
「やれやれ。」
范先生は拍子抜けすると、生徒会室から出ていった。
「…………あ、そういえば結局貴女達は何の用事でここに来たのかしら?」
我に反った月夜が生徒会長らしく明花に応対した。
「あ!そうでした。魔法研究部顧問の先生が魔物討伐の第一陣に出向かれたとの事ですが、まだ帰られていらっしゃらないのですか?」
「…………その件ね。」
月夜は静かに視線を落とした。
「私の両親が向かったのは第三陣。その時点で健在なのは第二陣が半分。…ここまで言えばお分かりかしら?」
「そ、それじゃまさか、第一陣の皆様は?」
「………ほぼ壊滅よ。」
明花も周りで聞いていた生徒会長役員達も絶句した。
「…………ただ、全員帰還出来なかったワケでもないの。数名は命を取り留め現在療養中よ。」
「じゃあ、その中に顧問は?」
「ええ。幸い助かったわ。重傷だから暫くは学院に来れないそうだけど。」
「でも何故学院からは連絡が来ないのでしょうか?」
「なにぶん今回の戦場は思わしくない状況ですもの。イタズラに不安を煽りたくないのでしょうね。」
「ご両親は、ご無事なのですか?」
「伝令によれば一進一退の攻防だそうよ。…既に八大武家のうち三家が投入されてるらしいわ。」
「それでも一進一退とは…相手もかなりの戦力が集中しているのですね。」
「ええ。こうなればいよいよ、美鈴さんのご両親も前線に投入されるかも知れないわ。」
「あの美鈴さんのご両親であられるお二方が?!」
黎家の今代当主とその妻の戦闘能力の高さの評判は有名である。
その凄さは国内でも一、二を争うと聞く。
「………最悪それで勝てなければ、総力戦も視野に入りかねないでしょうね。」
「だ、大丈夫ですよね?あの、美鈴さんを育てて鍛えたご両親なのですから。」
「そうね。あの美鈴さんのご両親が出て下されば勝てない戦ではないと思うわ。」
美鈴の実力の、その一端とは言え目にした事のある彼女らだからこそ、その両親が負ける筈が無いと絶大の信頼を感じるのだった。
………その美鈴は。
(あーヤバいです、百合の修羅場です。もう二、三日は学院には行きたくありませんわあ~。面倒臭いですう~!)
帰るなりベッドの布団を被って引きこもりを決意しているのだった。
さながら口を綴じた貝のごとく。
前世の引きこもり癖がぶり返したのだろうか?
その怠惰で意気地無しな美鈴の姿は、とても国や世界を守って戦う人間には見えなかった。
「放っておいてくださいな!」
名尾君の語るナレーションにケチをつける美鈴だった。
何とか逃げた美鈴でしたが、これでは范先生はおろか明花や月夜の評価まで駄々下がりかもですね?
何とも男らしさが足りない美鈴。
………あ、今は女か。




