第二十三話【学院は白に染まる】
帰還した美鈴達は意外な様相の校庭に出迎えられます。
その後、美鈴と明花の部活探しがスタートします。
「な、何なのでしょうかこれは?」
馬車が校門をくぐったその瞬間、思わず美鈴は声を洩らした。
「が、学院の校庭が白百合だらけに…?」
美鈴とフレイムドラゴン、そして超速星とフレイムドラゴンの死闘によって穴ぼこだらけになっていた校庭は、一転して花壇となり、一面白百合の園と化していた。
そして校庭の真ん中。
月夜の横たわっていた祭壇のあった場所は噴水広場となり、その噴水の像は。
「…あれ、超速星の像じゃありませんか?」
明花が指差した方向を馬車の全員が見た。
「ほ、本当ですわ…。」
「…しかし救って下さった超速星様には申し訳ないですが、この場所には白百合のプリンセス様の方がお似合いと思いません?」
月夜が面白くなさそうに同意を求めた。
「でも白百合のプリンセス、とやらを見たのは月夜君と明花君の二人だけだからねえ…。」
范先生は冷静に月夜を諭した。
「それにしても、何故校庭が白百合だらけの花壇に?」
美鈴の質問に范先生が答える。
「ああ。職員会議で穴ぼこだらけの校庭だと危ないから、工事する事になったとは聞いてたんだ。」
「どうせなら土だけの殺風景なグランドより清楚で美しい外観にしたかったんじゃないかな?」
「な、なるほど。それはあり得ますわね。」
玄関前に馬車が止まる。
まだ校門が開いて間もない時間のせいか、誰も登校してくる者はいない。
范先生が執事さんにお礼を言う。
「今のうちに校舎に入るとしよう。執事さん、ありがとうございました。」
「お礼ならお嬢様にお願いいたします。」
「そうですね。月夜君、この二日間と送り迎え、どうもありがとう。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございます、楽しかったですわ。」
「いえいえ、こちらこそ。」
四人は玄関で別れ、それぞれの行き先へ向かうことに。
「あ、そうだ忘れてましたわ。」
そう言えば一学期も半ばだというのに、未だに部活に属していない美鈴。
「私、在籍すべき部活をまだ決めておりませんでした。」
「私もです。一応バレー部を考えていたのですけど。」
「明花さんはバレエをおやりになられるのですか?」
「いえいえ、球技のバレーボールの方です。」
「ああ、そっちの。………て、そんなのありました?うちの学校に?」
「そうなんですよねー。てっきりあるものだとばかり………。」
【いやいや、待て!そもそもこの世界にバレーボールなんてスポーツ自体が存在しないぞ!?】
仮面の聖霊が慌てていた。
(そ、そう言われてみれば!………明花さん、どこでバレーボールなんて知ったのかしら?)
(と、なると。少し探りを入れてみますか。)
「あの、球技のバレーボールとは、一体どのようなスポーツなのですか?」
「ふぇっ?」
意外な事を聞かれたような反応をする明花。
「………知らないのですか、バレーボール?」
「私は知りません。皆さん、ご存知かしら?」
「いいえ。」
「初耳だな。」
先輩も先生も首を左右に振る。
「………うそ?皆知らないなんて………。」
「どこで覚えたのか存じませんけど、無い部活を探されるよりは違う部活を探した方がよろしいかと…。」
「そ、そうです、ね…。」
どうやら不味い事を口走った事を自覚したらしい明花は冷や汗をかきながら美鈴の言葉に話しを合わせた。
(この明花さんの失言、彼女は私と同じ世界からの転生者の可能性がありますわね?)
【全く同じ世界とは言えないまでも、かなり近い世界で「ゆりかめ」の原作ラノベかゲームを知ってる可能性はありそうだな。】
(いずれ彼女から切り出すまで私からは下手に聞かない事にしましょう。)
【そうだな、俺達の目的はあくまでもゲームクリアだからな。】
(そうとは言え、やはり気にはなります。)
(明花さん、貴女もまた私と同じようにゲーム世界への転生に孤独と不安を感じた事ているのでしょうか?)
【普段の美鈴からは想像もつかないが、彼女は彼女なりに現実世界からのゲーム世界への転生に孤独を感じた事があるらしい。】
【…と、言うことはTS転生して男から女になった事に関しては差ほど気にしてはいないのか、又は元々から受け入れられる素質があったのだろう。】
(名尾君、ナレーションのつもりでしょうけどちゃんと全部聞こえてましたからね!)
【あれーっ?!】
胸元のポケットをパアン!と景気良く叩く美鈴。
ポケットに入っている仮面の中の聖霊の名尾君はヘロヘロになった。
「実は私、中等部では部活に入らず剣の腕と魔法を磨いてばかりだったのでどんな部活があるのか詳しくは知らないのです。だから学院生活最後になる高等部くらいは何処かに入ろうかと思いまして。」
「ですから明花さん、一緒に部活を紹介して貰いませんか?」
思わぬ失言から変な目で見られそうだった明花からしてみれば、これは渡りに船だった。
「は、はい!是非!喜んで!!」
元気良く答えて思わず美鈴の手を握る明花だった。
「そ、そう?喜んでいただけて何より、ですわ…。」
美鈴は明花が思った以上に食い付きが良かったので少し引いた。
「と、言うワケで先生、先輩、ご指導お願いします。」
ペコリと美鈴が
范先生と月夜先輩に頭を下げた。
それを見習い明花も美鈴の横で頭を下げた。
「私にも、よろしくご指導ください!」
先生が苦笑いする。
「まあまあ、頭を上げて、二人とも。」
月夜はやや申し訳なさそうだった。
「せっかくだけど、私も生徒会しか在籍した事なかったから部活についてはあんまり知らないのよ。」
これに范先生のフォローが入る。
「なら、私が…と、言いたいけど。」
「私も教員になってまだ日が浅い。」
「だから二人はちょっと教室で待っててくれ。職員室から資料をさがして持って来よう。」
范先生は言うが早いか職員室に向かっていった。
「じゃ、部活選び頑張ってね。」
手をヒラヒラさせながら先輩は給湯室へ。
「先輩は、ホームルームまでここでお茶ですか?」
「ええ。貴女達も部活の資料貰ったらここで一緒にお茶してもいいわよ?」
「いえ、ここに来るまでに一度お茶は飲んでますから。」
月夜からのお誘いを丁重にお断りする美鈴。
月夜は少し残念そうな素振りを見せたがしつこく食い下がる事もなく美鈴と明花の二人を見送った。
しばらく教室への廊下を歩いていると、突然思い出したように美鈴は呟いた。
「そういえば…愛麗と芽友さん、何処に転移したのかしら?」
「さあ?先に学校には着いているハズなんですけど…?」
…………そこは、学院近くのベーカリー。
「こ、このパン美味しい!」
「ね、言った通りでしょう?」
「ほらよ、焼き立てパンまだまだどんどん焼けるよ!」
パン屋の主人が威勢のいい声で新しいパンを店頭に並べていく。
そこの看板には
【新装開店、パン工房ムシャムシャ】
と、書いてあった。
二人は一度転移をミスってここにたどり着いた。
愛麗が何処かで買い食いしたいという邪念を発散させまくった結果、当初の目的地より少しズレた場所に転移してしまったのだ。
「モグモグ………愛麗さん、今度こそはキチンと学院まで転移しますよ?」
「はーい!お昼やオヤツの分まで買いましたから、もう大丈夫です!」
「では、行きます!」
(あー、パンばかり食べてたら喉に詰まりそうですー、なんかお茶でも飲みたいですねえ。)
ドン!
二人が現れたのは………。
「キャーッ、あ、貴女達突然現れないで下さる?!」
月夜が目の前に突然現れた愛麗と芽友にびっくりした。
「あ、あれ?ここは給湯室?」
「あ!月夜先輩がお茶飲んでらっしゃいまふ、」
「先輩、私にも一杯いただけますか?パンで喉が詰まひそう…。」
「ま、まあよろしくてよ?」
「あひがとうございまふ…。」
「あ、ユックリ飲まないと火傷いたしますわよ?」
「ふぁぁい。………ごくッ、ゴクゴク……。」
「…あ、貴女、熱く…ないの、かしら……?」
【あっ!あじいいっ!!】
「ホラ言わんこっちゃ無いです、はいお水!」
最初からお茶より水を貰うべきだったと愛麗は後悔するのだった。
そこは本来、後悔ではなく反省すべきなのだが。
そして教室で范先生から部活紹介資料を配られた美鈴と明花。
「さあ明花さん、早速今日の放課後からは部活の見学巡りに参りますわよ!」
「はい!一緒に行きましょう、美鈴さん!」
「で、さっきのお話しから明花さんは運動部がお好きなようですけど…。」
「ええと、そこまで体育会系というワケでもないのですけど…。」
「カッコいいモノに憧れますね。」
「カッコいいモノ、ですか?」
「はい。カッコいいモノに近づけるとか、自身がそういうカッコいい存在になれるとか。」
「ほうほう。…なれば明花さん、私と一緒にフェンシングを覗いて見ませんか?」
「フェンシング?でも美鈴さんは既に高校生としては剣において規格外な存在なので、部に在籍する意味無いのではありませんか?」
「それが、私のはソードプレイなのでフェンシングとは勝手が違うのです。」
しかし。
「美鈴君、またまた全勝!」
「ハナから勝負にならないよ、貴女、入部する意味あるの?」
「みんな自信無くすからさ、ここは諦めてくれないかな?」
フェンシング部から追い出される美鈴と明花。
明花の方は完全に美鈴のとばっちりを受けた格好だった。
「………意外でした。同じ剣とは言え別物だと思っておりましたが。」
「いえ、剣の技術的な云々よりも、それ以前に美鈴さんは筋力自体が人として規格外なせいなのが大きいんだと思いますけど………?」
「そ、それではどこの運動部も同じになるという事ではありませんか?!」
「あ、そうなりますか…?」
「参りました、これは想定外ですわ。」
(むしろ筋力から考えたら非常に分かりやすい結果かと。)
美鈴の真剣な気持ちがボケとなり、明花はそのボケに対しツッコミを心の中で言い続けるのだった。
「…美鈴さん、取り敢えず一旦、運動部の見学は保留にして文化部の見学をしてみませんか?」
「………何か、こう、血が湧き肉が踊るようなのは………。」
「文化部にそんなの期待しないでください!」
美鈴の要望は直ぐに却下されるのだった。
二人はどこの部活に入るのでしょう。
そして明花はこの世界には存在しないバレーボールを何故知っているのか。
美鈴の推理通りに彼女もまた現実世界からのゲーム世界への転生者なのでしょうか。




