第二十話【美鈴(メイリン)達は城下町で食べ歩いた!】
実は今回のお話しは一年生前半での大きなヒロイン選択場面となります。
その事をあらかじめ教えられていたにもかかわらず、美鈴は良く考えずに選択します。
と言うよりも、既に選択肢の場面だということは頭の中に無いような…(汗),
陽も少し高くなった頃、ようやく美鈴がリビングルームに姿を見せた。
「皆さま、おはようございますですわ。」
「遅よーございますですよ、美鈴さん?」
美鈴が来るのを待つ間に明花達も少し眠れたおかげでちょっとだけ回復できた。
「今何時だと思ってるんだい?」
范先生だけは昨夜しっかり眠れたので暇だったようだが。
「せっかくの朝のお料理が冷めてしまいますので、貴女の側仕えさん達に食べていただきましたよ?」
呆れ顔の月夜だが、彼女も美鈴を待つ間に少し眠れたので元気になっていた。
皆、美鈴の寝坊様々なのだが敢えて誰もそこには触れないのだった。
「グフフフ、お嬢様、ご馳走様でしたー!」
愛麗が空になったお皿を美鈴に見せつける。
今回の美鈴の寝坊で一番の恩恵を得られたのは、実はこの愛麗かも知れない。
「あら愛麗、貴女どうやってここまで来ましたの?」
「こちらの芽友さんが発動された転移魔法でここまで来ました!」
「すみません、どうしても主人の様子が気になりまして。」
「い、いえそれはもう構わないのですが。」
「それより今、転移魔法と申されましたか?」
「はい、お館様から預かっておりますこのアミュレットに秘められた魔法です。」
芽友が胸元からペンダントのようにぶら下げられたアミュレットを取り出した。
「お嬢様の身辺警護の時にこれを使うように言われました。文一族に伝わる代々の家宝だそうです。」
「ちょ、ちょっと拝見させて下さいな。」
「…どうぞ。」
芽友は首からアミュレットを外すも、チェーンは握ったままだった。
美鈴を信用してないワケではないのだが、もしもの不安がある。
「…先生、もしかしてこの文字…。」
「………どれ。」
先生も懐から眼鏡を取り出し着用する。
「………そうだね、おそらくこれは神代文字。」
「では、やはりこれは神代文明の遺産?」
「そうなんですか?私は両親からそんな事一言も聞いてませんでしたけど…。」
「神代文明の遺産は下手をすれば命を狙われかねません。ですからご両親はご息女の明花様には直接影響が無いように私に預けられたと申されました。」
そう言って、再び芽友はアミュレットを懐に戻した。
「…で。ですね、お嬢様?」
「な、何をニコニコしてるのですか愛麗?」
「このアミュレットがあれば、転移で直ぐに帰宅出来るワケなんですよ!」
「…それで?」
「だから午後からはゆっくり王都の城下町を観光して、学院寮に帰るのはそれからでも良くありませんか?!」
「~先生、ウチのこの側仕えがこんな事申しておりますが、いかが致しましょう?」
「そうだね。門限までに帰れればいいワケだから…。」
「それじゃ、オッケーですね?」
はしゃぐ愛麗。
「…ランチまでまだ時間ありますわね。」
「月夜先輩、取り敢えずお茶だけでもいただけませんか?」
「よろしくてよ。空きっ腹じゃ可哀相だし、蜂蜜たっぷり入れてお菓子もつけてあげますね?」
上機嫌な月夜が気前良くサービスしてくれた。
「………先輩、えらく機嫌がよろしいですのね?」
「ええ。なんでも昨夜賊に襲われたところを美貌の剣士に救われたそうで………。」
明花がノリノリで語り出した。
「へ、へえ~。」
少しどぎまぎする美鈴。
「それで、そのお方が何でも『白百合のプリンセス』と言うお方なのだそうです。」
「し、白百合の…プリンセス、ですかぁ。」
(と、咄嗟に原作のヒーロー名を出してしまいましたが、やっぱり自分で自分をプリンセス呼ばわりするのはキツイですわあ~!)
「しかも、しかもですね?」
「…まだ、何かあるのですか?」
「その白百合のプリンセス様が私の前にも現れまして、ちょっとだけお話し出来たんです!」
『エエエーーッ?!』
奥の方でお茶を淹れていた月夜が驚きの声をあげながらやって来た。
しかし、しっかりお茶とお菓子をトレイに乗せて来るだけの理性はあった。
慌ただしく美鈴の前のテーブルに
トレイごとお茶とお菓子を置くと、明花に詰め寄る月夜。
「それで、それで何と会話なされたのですか?!」
「え、ええと…。」
そのあまりの月夜の剣幕にタジダジな明花。
「せ、先輩の危機を救われた事を話されたのですが、その後直ぐに外で物音がして、」
「そのお方がドアを開けたら、そこの二人が転がり込んで来て…。」
皆の視線が愛麗と芽友にギロッと向けられた。
「で、黙って許可なくコッソリ屋敷の中にまで入って来たその二人を説教していたら、いつの間にか白百合のプリンセス様の姿は消えてしまっていたのです。」
「そ、そう…ですか………。」
月夜はホッと安堵したような表情を見せたが、直ぐに物足りなさそうな、寂しそうな表情に変わった。
「せ、先生!城下町へは先生引率で課外学習という事に致しましょう!」
突然声を張り上げる美鈴。
最初面食らった先生だが
「…そうだね。」
穏やかに笑ってその提案を受け入れた。
「皆、制服は持っているかな?」
愛麗と芽友は制服のままだったし、美鈴と明花も荷物に入れていた。
「じゃ、ランチの一時間後に玄関に集まろう、それまで解散!」
………だが、誰一人解散せずそのまま全員リビング
に入り浸ってしまうのだった。
美鈴の両隣には明花と月夜が、愛麗、そして芽友がそれぞれの主人と対面座りとなる。
側仕えコンビの座るソファーの空いた空間に范先生が収まり生徒達のお喋りに耳を傾けていた。
やがて時間が経過し、六人は玄関に集まった。
「さすがにこの馬車に六人は乗れませんので歩きになりますが。」
「皆さまは馬車で向かってください。私達は転移しますので。」
「じゃあ皆さま、お先に!」
そう言うと側仕えコンビはさっさと転移した。
「では、私達は馬車でのんびり優雅に参りましょうか?」
ニッコリ微笑んで月夜先輩は執事に馬車を走らせるよう指示を出した。
程なくして街の中央広場が見えて来た。
来るときも出店や大道芸などが催されていた場所だ。
あの時はただ遠巻きに眺めながら通り過ぎただけでゆっくり見物も出来なかった。
【さて、ようやく選択肢イベントの時間だな。】
(わ!名尾君、何ですかいきなり?昨夜は出てこなかったくせに!)
【いや、やっと制服に着替えて胸ポケットに入れてくれたからさ。】
【さっきまでの場所は………その…………だ、だから、今まで気絶してて………ポッ。】
(そ、そこ!誤解を招くようなその擬音はやめてくださいな!?)
【だってよ、あんなとこに隠すんだもんなあ。健全な青少年にあの場所はさあ…。】
(シャ、シャーラップですわ!セクハラで訴えますわよ?!)
一体何処に仮面を隠していたのか?それは美鈴の名誉の為、ご想像にお任せしよう。
…………と、思ったのだが黙ってるとかえって変な想像を招くのでその時の様子をバラしてしまうと、
(む、胸の谷間を寄せて作るのって苦労しますわね。)
(もう面倒だからブラの中に入れちゃいましょう!)
………と、言うワケで正解はブラの中、でしたー。
当初は胸の谷間に挟んでおくつもりの美鈴だったが、残念ながらそこまでの谷間を形成出来るほどの胸のサイズが無かったので胸とブラの間に入れていたのでした。
以上、仮面の聖霊こと名尾君からの暴露でしたー!
【わかったわかった、じゃあ話しを切り替えようか。】
【これから月夜お嬢様を救った後の王都の城下町見物だろ?】
(はあ、それが何か?)
【おま、これから大事な選択肢を選らばなければならないという時に…!】
(選択肢?何の?)
【つまり、誰と何処を見て歩くかで一年生前半のヒロイン達の好感度ポイントの順位がほぼ決定するんだぞ!?】
(ヒロイン…月夜先輩と明花と范先生ですわよね?)
【お前、忘れてるようだが隠しヒロインの好感度ポイントにも影響する事だからな?!】
(あ、そうでしたわ。その子のポイントも稼がないと最終年度までクリア出来ず、この世界の真相がわからない…つまり、トゥルーエンドに到達出来ないのですわね?)
【その通り!】
(でも、それでしたらトゥルーエンドとは隠しヒロインエンドでもあるという事ですか?)
【ところが、そこはビミョーに違うんだな。】
【隠しヒロインは最後まで選択肢に残らなければならない、しかし最終的に必ず隠しヒロインを選らばなくてもトゥルーエンドになるんだ。】
(と、言いますと?)
【ぶっちゃけ、最後にどのヒロインを選んでもトゥルーエンドには行ける。だけどそこに至るには隠しヒロインも最後のヒロイン選択肢まで残らなければならないんだ。】
(…私、誰ともくっつくつもり無いんですけど?だって、同性同士で恋愛とか…その、………、とかなんて、あり得なくありません?)
【お前の気持ちもわかるが、これは百合ゲーの世界だからなあ。】
(も、もし誰も選ばず、誰ともくっつかずに終わったなら………?)
【ゲームオーバー。コンティニューからやり直しだな。】
(…ま、また人生やり直しするんですかあ?)
【ま、さすがにそれは無い。ジョーダンだ。】
【現実には婚期を逃して独身で過ごすか、誰か執念深く思ってくれるヤツに貰われるか、てとこかな?】
(あら、私は別に一人身でも構いませんわ。家系は養子を貰って継がせればいいですもの。)
【お前、八大武家の血筋の重大さを理解してないな。】
(何をおっしゃいますか?私は次代の血筋も考えて養子選びするつもりで…。)
【お前の両親やお前と同等レベルの力を引き継げる者が、この先外から簡単に得られると思うか?】
(…………あ。)
【ま、そーゆう事だ。それにお前嫌がってる割には月夜お嬢様や明花ちゃんとイチャついてる時は満更でも無さそうだぞ?】
(そ、そんな…事…は………。)
【まあ、まだ一年生だし焦る事ない。今日の所は軽い親友選びな気持ちでいいんじゃないか?まだ先の二年、三年でも一人づつ出会いが有ることだしな。】
(そうですわね。)
(…親友。…今まで私の親友と言えば側仕えの愛麗だけでしたが。)
(今の彼女には芽友という親友が出来ました。)
(私も他の友達を作って交友関係を広げないと、将来八大武家を継いだ後で苦労するかもしれませんものね。)
「……………美鈴さん?」
(親友…私の親友…)
「美鈴さん!?」
「うわっ!?」
明花が顔を近付けていた。
「どうしたんですか?考え込まれてしまわれたようですけど。」
「………い、いえ、……あ、そうでした!私朝食食べてないから少し物足りないなー、なんて。えへへ。」
「まあ、そうでしたの?それならもう着きましたから屋台にでも行きましょうか?」
「え?屋台~♪♪♪」
さっきまでの深刻そうな顔から一変して食いしん坊丸出しな美鈴になった。
(さっきまでの深刻な表情がいたたまれませんでしたけど、元気になられて良かった。)
でも、何をそんなに悩んでいたのかが気になる明花だった。
美鈴と明花が馬車から降りると、既に広場の中央にある噴水の前に皆が集まっていた。
「お嬢様方、この先に美味しいお菓子や料理の専門店がいっぱい並んでるそうなんです!一緒に行きませんか?」
芽友が愛麗と手を繋ぎながら誘う。
「美鈴お嬢様、私はその後でアダルトなショップにお嬢様と一緒に行きたいのですが…」
次の瞬間、愛麗の足を芽友が思い切り踏んづけた。
悶絶しながら悦びの表情の愛麗が小声で「ご褒美~」と言っていたが、それを無視する芽友。
「あら美鈴さん、さすがにランチの後でまた食事はしませんよね?」
「私はこの先にドレスや装飾品、普段着のお店を見て回るつもりですの。ご一緒にいかが?」
(それに美鈴さんと一緒に白百合のプリンセス様のお話しもしてみたいですし。)
安月夜は白百合のプリンセスに首ったけになっていたハズだが、どうやらそれはそれ、これはこれ、という事らしい。
どちらも手にしたいという、意外に貪欲な女性のようだ。
「ハハハ。お洒落にグルメか、どれも魅力的なお誘いだね美鈴君?」
「あら、そう言う先生はどちらへ?」
貶されたように感じたのか、少し機嫌悪そうに月夜先輩が范先生に尋ねた。
「いや、私に着いてきても退屈なだけだよ?」
「古書店の学術書や魔術書巡りをするんだ。これが私の休日での一番の過ごし方で、趣味だからね。」
「へえー、そうなんですか。それなら先生のお部屋にも、さぞ沢山の蔵書が置いてあるんでしょうねえ。」
「いや、私は部屋にはあまり本を置かないんだ。欲しい本を本気で揃えようと思ったら無一文になってしまうからね。」
范先生は苦笑いした。
「だから普段は学院の図書室から借りてばかりさ。その方が種類や量も豊富に選べるし、なにより埃をかぶったまま。なんてことも無いからね。」
「先生、そのうちお勧めの本があれば何冊か紹介して下さいな。」
美鈴も魔術や武術関連の知識欲は旺盛なので興味があるようだ。
「ああいいよ。そのうち学院の図書室に来るといい。私は放課後仕事が無い時は図書室に居ることが多いからね。」
「…あれ、そう言えば元々何の話しでしたっけ?」
「私達の側仕えからグルメ観光のお誘いを、そして先輩からお洒落関係のお店へのお誘いをされたところです。」
「先生のはお誘いというより古書店巡りの趣味を話されただけな感じでしたけど。」
この先生、過去に美鈴達に自己紹介をせがまれて趣味の読書について語ってはいたが王都の城下町古書店巡りの件までは語らなかったし、放課後図書室に居ることも今初めて知った。
先生を攻略したり好感度を上げる目的があれば多いに参考になる情報だ。
「それで、私は先程馬車の中で話されたとおりに一緒に屋台を覗いて食べ歩きしたいのですけど…。」
「美鈴さんも、朝食べてないから物足りないと言ってらしたものね?」
明花からイタズラっぽく顔を覗き込まれる美鈴。
(まあ…物足りないのは本当ですし。)
(何より屋台!という響きが前世の記憶を刺激してくるのですわ。)
前世の記憶を探って屋台の食事を思い出すだけで美鈴のお腹は「ぐう~っ」と鳴った。
「あらあら。」
月夜が目を丸くした。
「美鈴様、お腹の虫が…。」
「お嬢様ー、やっぱり私達とお食事に行きたいんですねえー?」
「ハハハ。美鈴君は朝食べてなかったから仕方ないか。」
「じゃ、決まりですね?美鈴さん!」
「ええ!早く参りましょう!」
美鈴は差し出された明花の手を取った。
そして二人は屋台の区画へと駆け出して行った。
「ああ~、お嬢様ぁ、そっちじゃありませんよお~!」
「愛麗さん、私達のお嬢様達は豪華な料理や高級なお菓子よりも庶民的なお味が食べたいようですね。」
少し残念そうに肩を落とした二人だが、直ぐ気持ちを切り替えてお店の方へと向かっていった。
「残念ね。せっかく私が直々に美鈴さんをコーディネートしてあげようと思いましたのに。」
月夜は執事を従え行き付けの店に入って行った。
「さて、それじゃ私も古書店巡りに行くとしますか。」
先生も書物の店が並ぶ通りへと消えて行った。
………………………………。
「わ!どれも美味しそうですわ!」
辺りに漂う臭いがたまらない。
「何から食べます?どれにします?!」
今の美鈴と明花の二人にはヒロイン選択など関係無かった。
ひたすら食欲!
…しかしこの選択結果は各ヒロインごとの好感度ポイント累計へと確実に加算されているのであった。
【やはりメインヒロイン明花が優勢って事か。】
【美鈴気を付けろよ。あまり明花とばかり親しくなると2年目を迎えられないぜ?】
【それと…隠しヒロイン、大事にしろよ?】
仮面の聖霊こと名尾君は少し先行き不安になっていた。
やはり美鈴はゲームのシナリオに流されるままなのかも知れません?
彼女が本能のままに進むと2年目を迎えられない可能性も出てきました。
それを防ぐためにも隠しヒロインの好感度を上げなければならないのですが、誰かわからないから隠しヒロインなワケですしねえ。




