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第二話【可憐なる令嬢の過激なる日常】

前回の人間飛ばしご令嬢とその召し使いのある日の朝起きた出来事の記録をお見せいたします。

言うまでもなく、彼女達がこの作品の主人公です。

そして彼女の家族が登場致します。

この親達にして、この娘あり…。


「お嬢様あ。」



「………九十三、九十四………。」


屋敷の庭で、一心不乱に木刀を素振りする令嬢がいた。


「おはようございますお嬢様。」

「ご精が出ますね、朝から鍛練ですか?」

二人の召し使い女達が令嬢に声をかけた。


「…九十五。」


「あらおはよう、もうお着替えの時間かしら?」


「いえ、まだその時間には早うございます。」

「起きがけに庭を散策しておりましたらお嬢様をお見かけしたもので。」

「そう。あとちょっとで切り上げるから朝風呂に付き合ってちょうだい。」


「「よ、よろしいんですか?!」」

二人は目を輝かせて喜んだ。


「?よろしいもなにも、それが貴女達のお仕事でしょ?」

令嬢にしてみれば幼い時からの当たり前な事なので彼女らの喜ぶ意味がわからなかった。


が。


「「えへ。えへえへへへえ。」」

召し使い二人の邪気を感じて彼女らの意図をようやく理解した。


「…………。…………百!」


「ゴメン、やっぱり一人で入るわ。」

木刀をそこらにポイッと投げ捨てると、そのお嬢様である美鈴メイリンはスタスタと歩き出した。


重力が小さいためか、ゆっくり歩いているのだが早歩き並みのスピードだった。


「め、美鈴メイリンお嬢様?」


美鈴メイリンは悪寒を覚えた。


(汗が冷えたのかしら?)


美鈴メイリンが木刀を地面へ置きっ離しにしていたので召し使いがそれを拾って持ち上げようとした。


「しょうがないお嬢様…………ん?」


ぐぐぐっ……。


「お、重い?何これ、全然持ち上がらないんだけど?」


「あら貴女知らなかったの?」


美鈴メイリンお嬢様の素振り用の木刀、鉛入りで35㎏の重さなのよ。」


「さ、35㎏の木刀で素振りですってぇ?」


…もっとも、これは我々の住む世界の地球上の重力に換算しての重さに変換した数字だ。


この世界の弱い重力下での数値に直せば、それの約三倍。

105㎏分にも相当する。


普通なら日常業務で鍛えられているとはいえ、とても少女の召し使いに持ち上げられる重さではない。


美鈴メイリンは魔法でやや身体強化して適度に負荷をかけながら素振りしていた。


召し使いもそれに習って彼女達レベルの魔法で何とか木刀の重さを軽減しながら木刀を掴む。


が、彼女は結構非力であるのか中々持ち上がらない。


もう一人の召し使いが協力して二人がかりでやっと持ち上がった。


「さ、早く片付けてお嬢様の湯浴みのお手伝いに参りましょう?!」


エッホ、エッホ…。


二人の召し使いたちはガニ股になりながら一生懸命に木刀を運んだ。


別に彼女達が非力なワケでは無く、この世界における重力下においてはそれだけ少ない筋力で事足りる生活だからなのだ。


一方、既にバスタブのお湯に浸かっている美鈴メイリン


「はああ。また二の腕が逞しくなってしまいましたわ。」


「手の平のマメ、湯上がり後で剃り落としておかないと。」


(それに引き換え、少しばかり控え目ではありませんか?私のお胸は。)


(もっと自己主張しても宜しくてよ?寧ろ、目立ちなさい!)

人知れず自らのやや育ちの遅い胸にカツを入れる美鈴メイリンであった。


(一体何で私、こんなに鍛練ばかりしているのでしょう?)


彼女は彼女なりに疑問に思っていた。


自分は何不自由無く暮らせる筈の貴族の娘として転生してきたはずだ。


体型こそややスリムながら、かなり見た目はイケてると自負している。


ゲームヒロインとしての能力もカンストされていた。


………なのに何で毎日汗だくになって鍛練し続けなければならないのか?


その答えは朝食の席にて明らかになるのだった。




長方形に細長いテーブル。


その短い一辺の椅子に美鈴メイリンが腰掛ける。


美鈴メイリンの他には彼女の側仕えの召し使いが一人いるだけ。

その召し使いは昨日美鈴メイリンとグルになって人間飛ばし記録に協力していたあの召し使いだ。


愛麗アイリー、今日はお母様がまだいらっしゃらないのですね。」


「え、ええ。左様でございますね。」


愛麗アイリーが目を泳がせている。


「…何か悪い事でも?」


「い、いえとんでもない!」


「………私、少し急用を思いだしましたので、お母様には宜しくお伝え………。」


「ああーっ?お嬢様、暫しお待ちを!」

テーブルから離れようとする美鈴メイリンを必死で押し留めようとする召し使いの愛麗アイリー


そんな漫才を繰り広げる余裕は無い筈の二人だが、現実逃避しないとこれから待ち受けるシーンを想像してしまいそうなのだ。


『…美鈴メイリン!』


テーブルの向こう側の大扉から中年女性の声がする。


そして大扉が開かれ、華美で派手なドレス姿の女性が現れた。


「お母様、お早うございます。」

美鈴メイリンは努めて平静を装いながら頭を下げて挨拶をした。


そしてもう一人が遅れて入室してくるのだった。


「お早う美鈴メイリン。今日も一段と可愛いよお。」

ニッコリ笑って両腕を広げる人物。


「お早うございます、父役母様おとうさま。今日もご機嫌麗しく。」



この世界に男性はいない。


だが子供は産まれる。


それは夫婦となる女性の片方が男性役を引き受け一時的に肉体を男性化させる事で、女性のままの伴侶を妊娠させて人口減少を解決してきたのだ。


これは高次元の魔法によるものだ。


父役母様おとうさまがいらしたという事は、もしかしてお見合いの話ですか?」


「ハハハ。流石にそれは無いよ。」


「私達は家系の為に無理矢理結婚させるなんて真似は致しませんわ。」


「で、ではそこは安心して良いのですね?」

メイリンは安堵した。


「そうです、そこは問題無いのです…が…。」

メイリンの母親はこめかみに指を当てて頭痛を堪えていた。


「実は先日、街を通りかかった際に小耳に挟んだのです。」


「何でも無礼者達をぶっ叩いて飛ばして遊んでる令嬢がいるとか…………?」


【ギクッ!】

美鈴メイリン愛麗アイリーは焦った。


流石に昨日は調子に乗ってやり過ぎた感はあった。と、反省はしていたのだ。


「お、お母様?確かに昨日は無礼者を一人だけ剣に鞘を付けたままで叩いて懲らしめましたが、それがたまたま遠くに飛んでしまっただけでして別に遊んでいたワケでは…。」

苦しい言い訳だが、話の筋は通っている。


彼女とて、毎日のように何人もの無礼者を叩いて人間飛ばしをしているワケではない。


飛ばしても大丈夫そうな人間、飛ばされても仕方なさそうな人間、それも日々の少ない自由時間の合間の余興として行ってるだけ。


まだ、たかが両手で数える程度だ。




…………結構多いのかも知れない。



「そうですか、あくまでもシラを切るつもりですか。」

お母様とやらは静かに剣を抜く。

昨日の美鈴メイリンと同じで鞘に納めたままで美鈴メイリンへとその剣の切っ先を向ける。


「はあ…………お母様、稽古をつけたいのなら最初からそう仰いませ。」


仕方なく愛麗アイリーから鞘に納めた剣を受け取る美鈴メイリン


「来なさい。日頃の貴女の修練の成果がどれ程のものか、確かめてあげましょう。」


「お母様、朝食までの10分間で終わりにしてくださいね?」

言うが早いか、美鈴メイリンはテーブルへと飛び乗ると、一気に駆け足でお母様へと突っ込んだ。


かなりの猛スピードの剣の突きだったが、これをお母様は難なく受け止める。


「なるほど、以前よりは突きの威力が増えましたわね。」


「お褒めに預りありがとうございます。」


「あら、褒めてなんかおりませんわよ?」


美鈴メイリンの剣(鞘に納めたままの)を受け止めながら跳躍したお母様はそのまま美鈴メイリンの頭の上を飛び越えた。


そして空中で身体を捻り、美鈴メイリンの背後に向き合いながらテーブルの上に着地。


着地と同時に後ろ向きの美鈴メイリンに剣の突きを見舞う。


が、美鈴メイリンはこれをお母様に背中を向けた姿勢のまま剣で受け止める。


「後ろ向きのままで剣を受け止めるとは、随分余裕を見せますのね。」


「はい、私なりに成長している所をお見せいたしたくて。」


お母様の剣を受け止めたまま、鋭く身体を捻り、お母様と正面から相対する美鈴メイリン


お母様が剣を払い、テーブルの中央へと移動する。

それに従い美鈴メイリンもテーブルの中央へと続く。


「では、ここからは本気で参りましょう。」


「あの、お母様?念のために確認しておきますが…。」

「魔法は無しで、ですよね?」


「当然です。互いに本気でそのような事をしたらお屋敷全体が跡形も無く消滅してしまうでしょう?」


(それに魔法ばかりはとても貴女には勝てませんからね…。)


「何か仰いましたかお母様?」


「いえ、何でもありません。来なさい!」


「はい!」


二人がテーブルの上で激しく剣(鞘付きの)で火花を散らしあった。


「お、お館様。止めなくても良いのですか?」


「なあに、剣に鞘を付けてるだろ?これは殺し合いなどではなく稽古。だから大丈夫さ。」


「それにあと三分で勝負は付く。いつも通りな。」


「………はあ、相変わらず奥様は容赦がごさいませんね。」


「バカを言え。日々強くなる娘の為に引き出しを開け続ける戦いに余裕などあるものか。」


「…その引き出しすら、もう底を尽きかけておるよ、アイツは。」


「…まさか?」


「いずれ美鈴メイリンの剣は妻を越える。それはもうすぐだろう。」


そして三分10秒後。


『あーれええ~………。』

美鈴メイリンが屋敷の屋根を突き破って飛ばされた。


「今回は何時もより10秒も耐えたのか。これはその日は本気で近いかもな?」


「お嬢様あ~!」

感心するお館様に目も暮れず、落下していく美鈴メイリンを追って一目散に屋敷を飛び出す愛麗アイリーだった。


そしてテーブルの上でへばってある奥方。


「だいぶ疲れたようだな?」

お館様が激闘に疲れてヨレヨレの妻に声をかける。


「あ、あの子、我が子ながら化け物じゃありませんこと?」


「その更に上を行く君には彼女も言われたくないだろうけどね。」

苦笑するお館様。


「このまま行けば、もう二、三度手合わせすれば私の役目も終わりになりそうですわ。」


「そうなると残りは…貴方との魔法同士による手合わせになりますわね。」


「馬鹿を言いなさい?私と彼女がそれなりの力でぶつかれば、この領地一体が消し飛んでしまうよ。」


「それもそうですわね。」

立ち上がる奥方に手を添えるお館様。


「それにしても、あの愛麗アイリーという娘、美鈴メイリンの事が余程好きだと見える。彼女の伴侶に考えてあげてもいいかも知れないな?」


「~それを決めるのは彼女自身ですわ。それに何より…。」


「何より…何だい?」


「あの子、百合アレルギーですもの。」




大木の枝に引っ掛かった美鈴メイリンのスカートが頭上の枝に引っ掛かり、美鈴メイリンの股間の下着が丸見えになっていた。

隠したくても彼女の袖や靴までが、木の枝が邪魔で動かせない。


「あああ、お嬢様!何とおいたわしや…。」

パシャパシャ!



「そう言いながら、私のはしたない姿をカメラに収めるのはお止めになって!」

美鈴メイリンは顔を真っ赤にして抗議の声をあげ、嫌がる。


「いえいえ、こんな芸術的お姿を残さずして、側仕えなど務まりません!」

完全に自分の趣味を業務とでっち上げてだらしない顔を晒しながらカメラを美鈴メイリンへの向け続ける愛麗アイリー


「あ、愛麗アイリー?」


「後で覚えときなさあ~いっ!!!」


美鈴メイリンの叫びが虚しく青空に響いた。


その日の夜、美鈴メイリンの部屋から愛麗アイリーの阿鼻叫喚の悲鳴が夜通し聴こえてきたという。


何があったのかは二人とも黙して語らない。


が、この側仕えが小声でボソッと洩らしたと言う。


「結構、ご褒美でした…………!」


彼女の手足には縄の後と薄い火傷の跡、そして小さなミミズ腫れがちらほら見えていたと言う…。






主人公の更に上を行く実力者の両親。

こんな化け物家族に敵う相手などいないと思われます、今のところは。

お館様は側仕えの娘を気に入っているようで、彼女はうまく令嬢の外堀を埋めている様子。

ご令嬢、お気をつけ遊ばせ(笑)。

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