第十九話【白百合のプリンセスは二人のヒロインとフラグを立てた!…?】
美鈴は何とか危機を乗り越えます。
が、今度は剣と魔法の戦いとは無縁な新たな刺客(?)達から百合パワーで襲われます(笑)!
白百合のプリンセスこと美鈴は、果たしてこのピンチ(普通チャンスだろ?)を切り抜ける事が出来るのか?
レイピアの切っ先が鋭く光る。
その剣には必殺の意志が込められており、侵入者の賊達はその威圧感に動きを止めたままになっていた。
「今から五つ数えましょう。その間に短剣を捨ててこの部屋を去りなさい。」
「五、四、三………。」
「チッ!行くよお前達、長居は無用だ!」
黒付くめの賊達は諦めたようだ。
ドアを開けて我先に逃げて行った。
(………た、助かりましたわあ。)
危うくヘナヘナとしゃがみこみそうになった美鈴。
だが、短剣を持っていた一人が去り際に手に持っていた短剣を白百合のプリンセスめがけて投げつけた。
「危ないっ!」
思わず白百合のプリンセスの前に飛び出す月夜。
「いけません!」
美鈴はすかさず月夜を抱き抱えて短剣をかわす。
ビイイイン、窓枠に突き刺さった短剣が振動した。
その刃を見るや、
「どうやら毒など塗られてないようです、ハッタリでしたね。」
白百合のプリンセスの言葉に安堵する月夜。
だが。
「あ……そ、その………ぷ、プリンセス、様………。」
月夜が白百合のプリンセスの顔を間近で見つめ、赤面している。
そして互いの身体がピッタリと密着しており、
月夜のふくよかな膨らみと、しっとりとした肌の感触が白百合のプリンセスの露出している肌の部分から感じとれた。
「あ、あの………。」
白百合のプリンセスも頭の中が真っ白となり、何と声をかけて良いのやら見当が付かない。
と、そこへ。
「お嬢様、ご無事ですか?!」
ドタドタと漸く部屋へと駆けつけてきた警備兵士達。
彼女らはそこで床に転がって抱き合う月夜お嬢様と仮面を着けた絶世の美少女剣士を発見した。
二人とも顔が火照っており、まるで今から二人が恋人の時間を始めてしまいそうに見えた。
「し、失礼しましたー?!」
警備兵士達は慌てて回れ右して去って行くのだった。
「で、では私も…。」
漸く立ち上りその場を去ろうとする白百合のプリンセス。
「お待ちください!」
白百合のプリンセスのその手を月夜が掴んだ。
「その………また、お会い出来ますか………?」
その瞳が潤んでいる。
完全に恋に墜ちた顔だった。
美鈴に対しては年上の女性が年下の下級生をジックリと掌中に納めようとする攻めの姿勢だったが、この顔はどちらかと言えば受けの姿勢、このまま奪い去って欲しいと言わんばかりの乙女の顔そのものだった。
白百合のプリンセスの胸がトクンとなる。
(こ、こんな顔されたらヤバいですわ…!)
反則みたいな乙女顔の月夜にヤられそうな美鈴だった。
(は?!い、いえ!これは私への恋などではありません!)
(今の私は、白百合のプリンセス!)
(月夜先輩は、今は私では無くて白百合のプリンセスを見ているのですわ!)
(だからこれはセーフ、ギリギリセーフ!なのですわ、そうですよねっ?!)
美鈴は心の中で野球の審判のセーフ判定の動作をしつこく繰り返していた。
「どうかお答えください!………そ、それとももう、二度とお会い出来ないのですか…?」
月夜の瞳が揺れる。
(素顔の私ならまた会えるじゃないですか………て、そーいう事ではありませんよねえ。)
フッ、と軽く息を吐いて頬笑む白百合のプリンセス。
「また貴女の身に危険が及ぶ時、私は現れるやも知れませぬ。」
「また再会するその時まで、涙は取っておいて下さいな。」
月夜の涙を指で拭ってあげる白百合のプリンセス。
「プリンセス、またお会い出来るその時を、お待ちいたしております…。」
涙顔で無理矢理ニッコリしてみせる月夜。
白百合のプリンセスはそれに笑顔で返すと、
「それでは、また会う日まで!」
マントを翻し白百合のプリンセスはその姿をうっすらと周囲に溶け込ませながら消えていった。
「白百合の………プリンセス、様…………。」
月夜はポーッとしたまま彼女の消え去った方向を眺め続けるのだった。
一方、月夜の夜這いから美鈴を守るため美鈴の部屋で警備していた明花だったが。
「………くぅ…すぅ………。」
すっかり寝入ってしまっていた。
明花の身体も幻影香の効果時間が切れたのだろう、既に本来の姿に戻っていた。
そこへ。
(あー、疲れましたわ。さすがにもう襲っては来ないとは思いますから、一眠りしておきましょう。)
白百合のプリンセスの格好のままで部屋の中に姿を表した美鈴。
と、
「あらっ?!」
床に立って現れるハズが少し計算違いをしたらしい。
部屋の中央で椅子に座っている明花の膝上に白百合のプリンセスは乗っかってしまった。
「ふぇっ!?何々?何ですか一体~?」
可愛くビックリする明花。
「ご、ごめんなさい、失礼しました!」
慌てて飛び退く白百合のプリンセスだった。
「驚かせてしまいました、怪我はありませんよね?」
「は、はい。~あの、ところで貴女は?」
「わ、私は~…白百合の、プリンセス…です…。」
(じ、自分からプリンセスとか言っちゃうのって、何か超恥ずかしいですの~っ?!)
…………て、何を今更?
照れまくる美鈴に対し明花は興味津々と言った感じで白百合のプリンセスに質問してきた。
「どこの国のプリンセス様なのですか?」
(そ、そー来ますわよねえ、普通ー?)
設定など何も考えてなどいなかったのだから、もう正直に答えるしかない。
「この名前は先程、賊に襲われそうになられた月夜さんをお助けした時に名乗った仮の名前。」
「実は私はこの前の仮面の剣豪…超速星です。」
「え?!まさか、フレイムドラゴンを倒された、あの時のお方なのですか?!」
「ええ。あの時は電光烈火の鎧を身に纏っておりましたので顔は全く見えませんでしたからわからないかも知れませんね?」
「そ、その節はどうもお世話になりました!」
明花がお辞儀をしようとしたのに気が付き、やっと思い出したように彼女から離れる白百合のプリンセス。
(もう少し、あのままでも悪くなかったですわね…)
クフフフッ。と、満更悪くなさそうな笑みを浮かべる白百合のプリンセス。
(………て!いけませんわ、何を考えてるのですか私はっ?!)
(恐ろしい。)
(明花さんの百合パワーは仮面の剣豪に変身していても、どうやらその魔法の防御を掻い潜って浸食してくるようですわ!)
これは油断ならない、と更なる警戒を意識する美鈴だった(棒)。
「し、しかし。」
「あら、何か?」
「あの時とは貴女の雰囲気が違うようです。」
「あの時、フレイムドラゴンと闘われている超速星様は、もっと厳しく猛々しい、勇敢なイメージがあったのですが…」
(『秘剣・ドラゴン飛ばし』の時だけはまるで美鈴さんみたいでしたけど…)
「あ、あの時は電光烈火の鎧を纏っていたのでその影響を受けていたのですわ、きっと。」
(…前世の影響もかなり丸出しだったようにも思いますけど。)
「はあ。ですが、今の貴女はとても優雅でお優しい、物腰柔らかな感じが致します。」
「そ、それは誉め言葉として受け取ってよろしいのかしら?」
「ええ、何だかその、私の良く知るお方に似てらっしゃるというか、………その、とても大切な人に………。」
チラッとベッドで寝ている美鈴を見る明花。
「!!!」
白百合のプリンセスは赤面した。
そして直後に気付く。
(そ、そうでした!このまま彼女がここにいたら、私は美鈴に戻って寝る事が出来ないではありませんか?!)
どうしたものやら?と美鈴が考え始めると。
ごそごそ…。
何やら外で物音が。
(シッ!明花さん、先程の賊が戻って来たかも知れません!)
(ええ?では、今度はまさか美鈴さんを?!)
(貴女はここでジッとしていて下さい。私が様子を確認します。)
(は、はい。)
ゆっくりドアに近づく白百合のプリンセス。
そして、唐突にドアを開く。
「何奴?!」
「「キャアアア~~ッ?!」」
ドアから部屋へ飛び込んで来たのは
「あ、お嬢様?…こ、これは、その…。」
「あ、あれえ?何でこの部屋に明花様があ?」
「ええ?!芽友に、それと愛麗さん?!」
「何で貴女達が………て、それよりどうやってここまで来られたのですか?」
部屋の中がちょっとした修羅場と化したその隙を狙って部屋の隅に隠れ、白百合のプリンセスから元の姿へと戻る美鈴。
そしてこっそりとベッドに潜り込み、ダミー人形を消して入れ替わる。
(やれやれ、やっとこれで眠れ…ます、わ……。)
もうあかん、とばかりに美鈴はそのまま眠りについた。
コッソリ潜入してきた芽友と愛麗の二人へガミガミ放たれる明花の説教を子守唄にしながら朝までぐっすり眠る美鈴。
そして翌朝。
「あー、グッスリと良く眠れた!」
大きく伸びをして着替えた范先生。
元気良く大広間に現れた彼女が先に訪れていた面々に声をかけた。
「おはよう、諸君!」
が、
「おはようございます…。」
「お、おはよござ…」
「ござーまふ…。」
結局夜通し説教し続けた明花も、そして説教され続けた側の。
芽友と愛麗。
三人とも目が真っ赤でその目の下はクマが出来ていた。
「あら先生おはよござーます…。」
一方、三人に頭を下げられていた月夜の方もどことなくポケーッとしており、明らかに寝不足の様子が見てとれた。
「ど、どうしたんだい?皆寝不足そうだよ?」
「それに芽友君に愛麗君、君たちいつの間に来ていたんだい?」
「それを話せば長くなりますが…。」
明花はクラッとする頭を手で押さえた。
その対面で欠伸を噛み殺しながら月夜も答える。
「私の方はあちらの方達とは別で、昨夜賊に入られ狙われたところをある方に助けていただいて…。」
「ある方?」
「そのお方の名は、『白百合のプリンセス』、です。」
ポッと頬を染める月夜。
「へえ?誰だそれ?皆、知ってるかい?」
「あ、その方なら………。」
口を開きかけた明花だったが。
(………いえ、まだ黙っておいた方がいいかも知れませんね。…あのお方と超速星様が同一人物とはまだ私ですら信じられませんもの。)
猛猛しい武将のような甲冑姿の超速星と気高く優雅で気品溢れる昨夜の白百合のプリンセスとではあまりにキャラが違い過ぎる。
(一体どちらがあのお方の本当のお姿なのかしら?)
その本当のお姿の彼女は。
「…………グフフフ………またまた、お宝、げっとおおお~………。」
また前世でプレイしたゲームの世界を夢の中で楽しんでいた。
前世の時と同じ少年のような、無邪気な寝顔を晒しながら。
こっそり潜入してきた二人は呆気なくお縄に。
この二人らしいグダグダな結果でしたね。
明花ちゃん、何もそこまで叱らなくても…と思いますけど身分的には下手をすれば彼女らは手打ちにもなりかねませんから必死にもなりますよね。
月夜とその両親なら軽く注意するだけだと思いますけど。
刺客達の謎もまだありますが、次回は帰宅途中で城下町を観光する予定です。