第百五十六話【謎を呼ぶお姫様と二つの影?】
皆さんこんにちは…いえ、こんばんわ、かな?
明花です。
本日はいよいよお城からの帰還です。
別れを惜しむ令嬢達の姿。
そこには恋がありました。
…ええ、私達にも恋の鞘当てがしっかりありました!
取り敢えずはこれで華音さんが居なくな
るので一安心、なのですが…。
王城での二日目の会議は魔物騒動こそあったものの、その後は滞りなく終わった。
そして翌日の三日目。
本日は軽めの朝食の後、いよいよ帰路へと着くことに。
既に馬車も貴族達も王城の外に集合し、従者達と合流していた。
「何だかお名残り惜しいですわ。」
「私もです。」
「またお会いしたいのですけど、それは再び王城に招かれないといけませんものね…。」
別れを惜しむ声が令嬢や婦人たちから聞こえる。
社交辞令もあるだろうけど、年頃の若い令嬢達の中には本気で別れを惜しむ声もあるんだろうな。
百合ゲー世界だから今回の出会いから仄かな恋心が芽生えたとしても不思議じゃない。
各地方は大まかに言えば王都を中心に四方へと散らばっている。
同じ地方同士ならばともかく、それぞれ各地方は距離が遠く、それこそ公用のポータルでも用いないと日数がかかり過ぎてしまうんだ。
だから好きな相手や憧れを抱いた人の姿や声を、目や耳に焼き付けて置きたいという気持ちが痛いほど伝わってくる。
「見てくださいな、手を繋ぎあってる方達が…何とも微笑ましいですわね。」
「ええ…この中から新しいカップルが生まれたら、それはそれでおめでたい事です。」
別れを惜しむご令嬢達をじんわり温かい目で見ている美鈴と闘姫。
「…あのー、ご自分達もかなり熱い視線を浴びてる事に気がつかないんですか?」
明花がその自覚の無い二人の会話に呆れていた。
「あらあら、そう仰る貴女もかなり見られてますわよ?」
「わ、私がですか?御冗談を!」
鳳華音からそう言われて焦る明花。
実はそんな華音も結構なファン?から視線を受けてる。
「えと…結局こちらのお嬢様達みんな注目を浴びやすい、という事でよろしいのでしょうか月夜様?」
愛麗は自分達への人気の自覚が薄い主人とその友人達に苦笑するしかなかった。
「フフフ…彼女達はまだまだエンターティナーとしての資質に目覚めていらっしゃらないのよ、きっと。」
「え、エンターティナー…(笑)」
芽友も月夜の言葉にどう反応して良いのか困っていた。
「…ん?」
「どうかなさいましたかお嬢様?」
「いえ、何かさっきからチョロチョロと動いてる女子が…気の所為かしら?」
月夜は人目を気にしながらコソコソ動きまわる女の子を見つけたらしい。
「大方それは恋する相手との別れを惜しむあまり誰かの馬車に乗り込もうとしてる令嬢だったりするかも知れませんね、お嬢様。」
「まさかあ、それじゃ自分の家に帰れなくなっちゃいますよ?冗談が好きね依然たら。」
「フフフ、あり得ない話しではありませんよ。」
コロコロ笑い合う月夜と依然の目には既にその女子の姿は映っていなかった。
さて、こちらでも美鈴との別れを惜しむ華音が美鈴と軽めの抱擁を交わしていた。
「また…お会いしたいです美鈴さん。」
「あら、またお互い学院代表に選ばれれば試合で会えますわ。」
「その為にもお互いもっと強くなれるよう鍛錬を積みましょうね華音さん!」
「え、ええ…(まだ強くなる気なんですのこの方は)?」
ちょっと齟齬はあるようだけど(笑)、美鈴も鳳華音とのお別れを無事済ませたようだ。
華音が美鈴から離れて自分ん家の馬車へ歩いていくと、咄嗟に美鈴の両腕に抱きつく明花と闘姫だった。
二人ともジロッと華音を睨みつけている。
明花は華音とも結構親しくなったと思ったけど、それとこれとは別らしい。
闘姫が今回城に入ったのは二日目の魔物襲撃時の常春萌逃亡の時に、それも白百合のプリンセスとしてだ。
まあ華音の屋敷に滞在した期間もあったけど、この様子では闘姫は特別に華音と仲が良いというワケでは無さそうだな。
「あのー、お二人は華音さんとのお別れの挨拶は…」
美鈴が二人に話しかけたが…
「間に合ってます!」
明花は頭に血が上って冷静さを失ってるな、普段の彼女ならこんな失礼な事はしないだろうけど。
「敵に隙を見せるわけには参りません!」
おい闘姫、敵って…(笑)。
まあ、でもそれは華音の方も同じなんだろう、彼女もこの二人に挨拶しなかった。
三人はまだ親友とは呼べないけど友人関係であり、同時に恋のライバル関係。
つまりはそういう事だな。
美鈴を巡る恋の鞘当てが終わらない限り、この三人は互いへ素直になる事が難しいかも知れないな。
…と、まあそんなお別れの時間を済ませ、それぞれの家族は馬車へと乗り込む。
ここからポータルではなく大魔法陣による帰還魔法で各家のポータルへと送り届けられるのだ。
ゾロリと王城の城壁外へと円形に並んだ馬車。
それらの足元に巨大な光りの魔法陣が発生する。
「それでは皆の者達よ、また今年もこの国を頼むぞ!」
「帰還魔法、発動!!」
国王が叫ぶと大魔法陣を囲む魔導師たちが詠唱を開始する。
そして。
「帰還!!」
王妃の声で大魔法陣に光柱が発生し、馬車を包み込んだ。
この時、何気に俺の耳にこんな会話が届いた。
「…ん?」
「どうされましたお嬢様?」
「…いえ、何か既視感が…」
「既視感?」
「ええ、何かしら、何かが動いたような…?」
馬車の中での妙な違和感を感じる月夜。
オマケに既視感ときたもんだ。
既視感、て事は以前にも同じ事があったって事だよな。
…う〜ん、もしかしてだが、また何か一騒動ありそうな…。
さて、光が消えて来た。
そろそろ王都近郊に着く頃だ。
考えてみりゃ美鈴達は元々王都近郊なのだから大雪で足止め食らわなければ何も帰還魔法使って帰還する必要も無かったんだよな。
そりゃ王城からなら丸一日か二日はかかるけど。
月夜の自宅は元々王都だし。
明花の実家だけは王都より遠い東寄りの第五都市だから日数かかるけど。
…あ、そういや明花は実家の馬車の方に乗ったんだっけ。
彼女はまだ実家に里帰りしてなかったから丁度良かったかもな。
…となると、美鈴の側にいられる闘姫は俄然チャンスなワケだ。
(クフフ、グフフフ…!)
…言ってる側から闘姫は澄ました顔しながら心の中で下卑た笑いを堪えてやがる。
変な妄想してなきゃ良いが。
う〜ん…正直彼女を応援すべきなのか、少々複雑だ。
俺としては美鈴と明花をくっつけて、闘姫を俺が口説きたいんだけど。
まあ俺が告白したところで成功の確率は限りなく低いのだが。
…等と俺が思考を巡らせてる間に光の柱は消えて来た。
どうやら景色を見るに、ここは王都内じゃなくて王都の近郊らしい。
王都を囲む壁を遠くに、のどかな景色が拡がる。
ここからなら中央貴族学院か美鈴の実家の方が近いな。
と、
『み、皆の者に緊急連絡がある!』
突然王様から連絡が。
この連絡は風魔法らしい。
まだ帰還魔法の魔法陣とギリギリ繋がってるから聞けるけど、もう持たないだろう。
そこへこんな映像も。
馬車から見える空?にスクリーンみたいのが現れた、ノイズだらけで良く見えないけど。
『娘が…姫の姿が見つからんのだ!』
『もし見かけたら急いで知らせるのだ、よいな…』
ここで一旦、音声が途切れた。
あ、そういう事か。
今スクリーンみたいのに映し出されてるのはお城にいた姫様らしい。
そういえば確かにお城で何度か見た事がある…。
やがて魔法陣の光は完全に消えた。
同時にスクリーンも王様からの声も完全に届かなくなった。
目の前にはこんな騒ぎなど嘘のようにのどかな草原が広がっていた…。
「お姫様が行方不明?」
「それは一大事です!」
「あのあの、見つけたらご褒美貰えるんですか?」
「こんな時に何考えてますの愛麗?」
「そうです、お姫様と言えば世継ぎを産む大事なお身体です、つまり今後の国家の存亡に関わる一大事なのです!」
闘姫は前世で王族にいた事もあるからかなり本気で心配していた。
【まあそれは今俺達が騒いでどうなる事でもないさ。】
【幸い月夜達の馬車も近くにいるから、心配なら話し合って見るといい。】
「そ。それもそうですわね!」
俺の助言を受けて美鈴と闘姫は馬車を降りると月夜達の馬車へ向かった。
「貴女達も聞いたわね、エライ事になったわ。」
「月夜さん、まだお姫様は王都内におられるのでは?」
「では手分けして捜索を…」
「待って闘姫さん、それなら既に城の手の者が行動開始してるはずよ?」
「ワザワザ王様が私達諸侯に知らせを送った…その意味わかりまして?美鈴さん。」
「…あ!」
「つまりそれは、私達諸侯の馬車にお姫様が潜り込んでいる、と…?」
「可能性の問題だけれど、あり得ない話しでは無いわ。」
「で、では急いで馬車の中を調べてみますわ!」
「手伝います!」
「じゃあお願いね。」
「お嬢様、念の為に私達の馬車もお調べになった方がよろしいかと…。」
「そうね、頼むわ依然。」
「あの…お嬢様もご一緒に見て下さいませんか?」
「お姫様が魔法の使い手なら魔法で隠れられてる可能性がありますので。」
「もう、仕方無いわね。」
まずは依然が馬車の下部に潜り込んだ。
「どう?」
「…人が隠れられそうな場所はありませんね。」
「じゃあやっばり馬車の中かしら?」
二人は馬車の中に戻った。
ここも人が隠れられそうな場所など見当たらないんだが…。
…ん?
「…おかしいわね。」
「いかがなされましたか?」
「いえ、あのブランケット、乗る前にあんなにはだけてたかしら?」
「そう言えば…」
「…!」
「…ね、ねえ依然?」
「この馬車に乗った時、私確か既視感を覚えたって…言ってましたよね…?」
「はあ?…た、確かに言われてみればそのような…。」
月夜のコメカミにタラ~ッと冷や汗が。
その頃、美鈴達の馬車。
「…やはり誰も乗ってませんでしたわね。」
「しかし考えようによっては私達の馬車に乗っておられなくて一安心でした。」
「どうしてですの、姫さん?」
「姫様ともなれば下手な扱いをするわけにはまいりませんから、一時足りとも気が抜けません。」
「そ、そういうものですの(汗)?」
【妙なプレッシャーかけさせるな闘姫、こう見えて美鈴は意外と生真面目なんだから。】
「で、ですが仮面の聖霊…いえ、名尾様、事はこの国の…」
【わーってるって、でもまだお姫様とやらが目の前にいるわけでも無いんだし今から緊張してても仕方ないだろう?】
「な、名尾君てタマには良いこと言いますのね♪」
【フ…一応オトコだからな。】
この後下ネタを続けたかったけど美鈴のヒンシュクをかいそうだから止めておいた。
「…あら?」
「どうしましたかお嬢様?」
「愛麗、貴女あんなお人形さんなんか持ち込みました?」
「いいえ?お嬢様、私何歳だとお思いですか?」
「ですわよね…」
「…」
「あの…その人形…」
闘姫がそう言いかけた時。
「ところで仮面の剣豪様は本日からは学院寮へのお泊まりでよろしかったのですよね?」
美鈴の父役母親である、黎当主からそう呼ばれ、
「あ、はいそちらでお願いいたします。」
真面目な闘姫は当初の予定通り、ついそう答えてしまった。
(しまった…)闘姫の顔にそう書いてあったけどもう遅い。
中央学院への到着に然程時間はかからなかった。
名残り惜しそうに馬車から降りる闘姫。
「あの、その人形…」
「どうかしましたの?」
美鈴が聞き返したが、馬車は走り出してしまった。
「お気をつけ下さい〜…」
闘姫の声が遠くに聴こえた…。
「…ん?」
暫くして馬車が止まった。
「どうしたのだね?」
「当主様、御屋敷の前に…」
当主は馬車を降りて門の前に佇む影へ近寄った。
「き、君達は…」
その二つの影は申し訳なさそうに頭を下げた。
私の家族の馬車にはお姫様らしき人はいませんでしたけど、とんでもない事になってしまいましたね。
ところで美鈴さんの馬車にあった人形は何なのでしょう?
闘姫さんは何が言いたかったのやら。
そして美鈴さんの御屋敷の前に立っていた二つの影とは…?
次回をお楽しみに!