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第百五十五話【赤き陰謀はグレーに紛れ去る】

不気味な常春萌チャン・シュンモンを相手に手間取る白百合のプリンセスですが…


白百合のプリンセスが美鈴メイリンの前に降り立った。

「ご無事でしたか、美鈴メイリンさん?」

「ええ、ありがとうございます。」


「なな、何なの貴女、いきなり空から現れるなんて…」

常春萌チャン・シュンモンが動揺している。


「…私は仮面の剣豪、そこにおられる美鈴メイリンさんとこの国の安寧を守る為に存在する者です。」

チャキッ…白百合のプリンセスはレイピアを手に取った。


「初対面の相手に武器?どういう理由かしら?」


「貴女が先程、美鈴メイリンさんに危害を加えてここから立ち去ろうとする様子を上空から拝見いたしました…故に貴女を危険人物と判断します。」

「貴女…一体何者です?」


「私は南部都市の常春萌チャン・シュンモン、南貴族学院生徒会長を務めておりましたわ。」

「そして、昨年度の学院対抗戦優勝者でもあります。」

その言葉が終わると共に常春萌チャン・シュンモンの姿がヒュン!と消えた。


ガキン!

白百合のプリンセスはこれに良く反応したと思う。

気が付けば常春萌は手にした大刀で白百合のプリンセスを斬りつけていたのだ。

幸い白百合のプリンセスのレイピアはこれを辛うじて防いでいた。

けどかなり危なかったようだ、彼女の頬を冷や汗が伝っていたからな。


「い、今のは…一体?」


「気を付けて下さいませ白百合のプリンセスさん、その人は普通の速さとは違う何かでこちらより先手を打てるようですわ!」


「へえ…中々の観察眼をお持ちのようね美鈴メイリンさん?」

嘲笑うかのようにそう言った常春萌チャン・シュンモンの口元が歪んだ。

どうやら美鈴メイリンの見解はビンゴのようだ。


と、気が付けば常春萌チャン・シュンモンは白百合のプリンセスに接近して大刀の連撃を繰り出していた。

白百合のプリンセスが手にするレイピアが激しく振動する。

「くっ…。」

(何故、私自身ではなく剣ばかり狙って来る…?)

(身体を狙わないのは私をからかってる?それとも…)


(ハッ?まさか、私の剣折るつもりなのでは?)

白百合のプリンセスが焦っている。

このまま連撃を受け続ければ細身のレイピアは折られてしまうかも知れない。

レイピア自体は幾らか「しなって」衝撃を逃がしているのだが、そのしなり具合によっては危うく白百合のプリンセスに常春萌チャン・シュンモンの繰り出す大刀が白百合のプリンセスの身体に届きそうな場面もある。

見ていて心臓に悪い。


白百合のプリンセスも一度距離を取るべきなんだが、それは彼女の剣士としてのプライドが許さないのか。

それとも下手に回避すればそれこそマトモに相手の斬撃を受けてしまうと考えたからなのか。


何れにしろこちらが認識するより早く動く常春萌チャン・シュンモンにこうも先手ばかり取られ続ける現状では有効な戦いは出来ないな。


…しかし腑に落ちない。

常春萌チャン・シュンモンが白百合のプリンセスの事をからかっているにしろ、彼女の斬撃そのものは然程速くは無い。


今は攻め手を封じられているものの、本来は白百合のプリンセスのレイピアによる高速剣の方が遥かに速いと思う。


これは一体…?


その時。

常春萌チャン・シュンモンは唐突に後方にジャンプして白百合のプリンセスから離れた。

見ると、さっきまで常春萌チャン・シュンモンのいた場所の地面には数本の短剣が刺さっていたのだ。

その短剣から白いモヤが発生するや、たちまちその数本の短剣は木の葉へと姿を変えた。

「あら、惜しかったですわ♪」

コロコロ笑う美鈴メイリン

そうか、コレはヤツの仕業か。


「フン。2対一とは卑怯ですわね。」

常春萌チャン・シュンモン美鈴メイリンを睨んだ。

「嫌ですわ、膠着状態でしたから仕切り直しさせてあげましたのよ?」

「…もっとも、あのままでしたら貴女が受けたのはその不意打ちの短剣どころではありませんでしたけど?」


「何を…」

常春萌チャン・シュンモンが何か呟こうとした時、見えない斬撃が彼女の大刀を襲った。

ガキッ!!

「何っ?!」

常春萌チャン・シュンモンがその斬撃の方向を見ると白百合のプリンセスが光の灯ったレイピアの切っ先を常春萌チャン・シュンモンの方へと向けていた。


「ふうーっ。」

白百合のプリンセスが唇から細く吐息を吐く。


ミシミシミシッ…

ポキッ。

常春萌チャン・・シュンモンの大刀に亀裂が入り、根元からポッキリ折れた。


「こ、これは?!」

常春萌チャン・シュンモンは驚愕した。

「無詠唱魔法?しかしこれほどの…」


「剣技には剣技で応えるのが礼儀かも知れません、が、それは競技においてのみ。」

「私は実戦に身を置く者です。」

そう言い切る前に白百合のプリンセスは常春萌チャン・シュンモンの頭上に何かの塊を投げた。

それは常春萌チャン・シュンモンの頭上で拡がる。

「鎖?」

逃げる為に踏み出す常春萌チャン・シュンモン

しかしそれより速く鋲が彼女の周囲四方へと穿たれた。

「お話しはまだ終わっておりませんですわよ?」

美鈴メイリンだった。

その鋲に吸い寄せられるように鎖は常春萌チャン・シュンモンを包んで捕らえた。


「くっ?」

もがく常春萌チャン・シュンモン

だが四方に伸びて押さえつけてくる鎖が彼女に絡まり、益々自由を奪ってゆく。


「もう逃げられませんよ。」

白百合のプリンセスが常春萌チャン・シュンモンを冷たく見下ろした。

「さあ…美鈴メイリンさんを害そうとした罪、その身にとくと分からせて差し上げます…」

白百合のプリンセスは得物をレイピアから鞭に変えて振り被る。

「す、ストップストーップ!!」

「白百合のプリンセスさん、ちょっとキャラ変わってませんこと?それじゃまるで月夜ユーイー先輩ですわ!?」

美鈴メイリンの言葉にハッとする白百合のプリンセス。

「い、いけません!あの月夜ユーイーさんとイメージが被ってしまうとは、私とした事が飛んだ失態ですっ(汗)!!」

美鈴メイリンの言葉に我に返ったか。


しかし月夜ユーイーも飛んだ言われようだな。

まあ白百合のプリンセスが以前、月夜ユーイーにされた事を思い出せば無理も無いけどさ。


「…失礼、つい私とした事が熱くなってしまい判断を誤りました。」

誰に言うとでもなくそう言うと、白百合のプリンセスは手にしていた鞭を空間に消した。

「と、おふざけはここまでにして…」

今のはおふざけという事にしたいようだ。

俺も美鈴メイリンも敢えてソコには突っ込まなかった。

ただし二人とも彼女を気遣って、というよりも話しを早く進めたかっただけだが。


「ふ…。く、くくく…。」

肩を震わせて笑いを堪える常春萌チャン・シュンモン

そうか、さっきの白百合のプリンセスの言動をボケに取ってくれたんだな、良かった良かった。

(んなワケがありませんですわよっ!)

美鈴メイリンに叱られた。

なんで?

だから改めて常春萌チャン・シュンモンに注視してみたんだが。


「こんな事で私を拘束した気になってるなんて、おめでたい方達ですこと。」


「負け惜しみはよして下さいな?」

「それより貴女には聞きたい事がありますの、こちら質問にちゃんと答えて下さいな。」


「貴女、新血脈同盟とやらの集まりの中心人物でいらっしゃいますわね?」


「巷ではそう呼ばれてるわ。」


「ではそれを認めますのね?」


「公然に知られてるから隠す気もないですけど?」


「単刀直入に聞きますわ」

「国家の転覆、など考えていらっしゃいませんわよ…ね?」


ゴクッ。

俺は息を呑んだ。

ここで常春萌チャン・シュンモンがどう答える?


「国家の転覆とは大きく捉えられてるわね、それは少し語弊があります。」


「語弊?」

少し訝しげに白百合のプリンセスが聞き返した。


「私は対魔族への姿勢に対して提言させていただいただけです、今のままでは生温いのでもっと効果を得られる体制にするべきです、とね。」

「それに新血脈同盟という集まりも別に私が組織したワケではありませんのよ?」



「それは…どういう…」

美鈴メイリン常春萌チャン・シュンモンにより具体的な説明を求めた時だった。


ブオン!!


巨大な翼竜が城上空の結界を破って侵入して来た。

「な?」

ソイツは捕らえられている常春萌チャン・シュンモンの側に着地した。

翼の風で捲れそうになるスカートを美鈴メイリンと白百合のプリンセスは必死に押さえてる。

鎖で押さえ付けられてる常春萌チャン・シュンモンだけがスカートを気にせずに済んでるのは皮肉だな。


こうして間近で見ると、翼竜は月夜ユーイー自慢の従魔のワイバーンとは大きさの桁が違うぞ。

二周りは大きく見える。

しかも見た目も遥かに凶暴そうだ。

翼の生えたドラゴンそのものだ。


「残念、せっかくのお話し中だけど迎えが来たからここで帰るとするわ。」

キンキン!

いつの間にか両手に持った短刀で難なく自身を拘束する鎖を断ち切る常春萌チャン・シュンモン


「あら、やはりその程度の鎖では貴女を縛り付けられませんでしたわね?」

美鈴メイリン常春萌チャン・シュンモンから逃げられそうなのに平然としていた。


「続きはまたいつかのお楽しみです。」

そんな気無いだろうに。


「少しお待ち下さい、あと一つだけ…」


「待てないわね。」

ヒョイ、と巨大な翼竜に飛び乗る常春萌チャン・シュンモン


常夏海チャン・シァハイさんの影の槍、授けたのは貴女なのではありませんか?」


一瞬だけ常春萌チャン・シュンモンの動きが止まった。


「貴女は彼女に私を始末させるため競技の範疇を超えた攻撃を仕掛けさせる為の細工…影の槍という武器の形をした従魔を学院対抗戦に持ち込ませた…違います?」


「…。」

無言だった。


そのまま巨大翼竜は南方面へと飛び去った。


「行ってしまわれましたわね…。」


「追いかけなくて良かったのですか?」


「ええ。」

「今下手に彼女を捕まえては却って事の全貌が分からなくなりますもの。」


「だから敢えて泳がせる、と?」


「これが吉と出るか凶と出るかは分かりませんですけど、ね。」


「彼女の剣技、というよりあの能力は侮れないですし、魔法についてもまだまだ隠してるようです。」

「私はリリースするのは賛同しかねるのですが。」


「あら、あのまま追って敵地に突っ込んで、そこから本格的な全面戦争に発展するよりは良いでしょう?」


「だから逃さず捕まえておくべき…」


「それについては先程述べましたわ?」


「さ、今はそれより魔物と戦っていた月夜ユーイーさんや鳳華音フォン・ファインさんの様子を見に参りましょう。」

美鈴メイリンが城の中へ踵を返すと、白百合のプリンセスは大きく息を吐いてから

「…はい、わかりました。」

気持ちを切り替えて美鈴メイリンの後を付いていくのだった。


「結局、彼女は私達の敵で間違い無いのでしょうか?それに…」

「お城での魔物騒動…それが彼女の仕業という確証もございませんわ、あの巨大翼竜も彼女が呼んだかもわかりませんし。」


【そう、結局全ては闇の中…いや、モヤの中だな、それも限りなくグレーな。】


モヤの中だけにモヤモヤ致しますわ。)


【緊張感削ぐな!】

言うと思ったがな。


プッ…w

白百合のプリンセスはさっきまでの険しい表情が柔ぎ、思わず噴き出すのだった。




結局、新血脈同盟に関しては有力な情報を得られませんでした。


しかし常春萌チャン・シュンモンはかなりの強敵のようです。

ですが彼女が明確に敵側かと言えばまだ現時点では不確定なのも事実。

何ともモヤモヤしたままお城での騒動は終了するのでした。


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