第百五十二話【魔物は邪魔者じゃー!…あれ?】
美鈴は自分に割り当てられた部屋で明花と意味深な会話を。
するとそこへ当然のように乱入者が。
さて前回、自室にと割り当てられた部屋へ明花を連れ込んだ美鈴。
「?何緊張してますの?」
「い、いえ…。」
何故か固くなってる明花。
これまでだって美鈴と二人きりになる事はあったのに、何を今更緊張などするのかな?
「さあさ、隣に来なさいな。」
美鈴はベッドに腰掛けるなり、自分の隣をポンポン、と叩く。
「お、お邪魔しま〜す…。」
ぎこちない動きで美鈴の隣に座る明花。
そう言えば、この前は美鈴が華音に同じ事されてたっけ。
「明花さん…」
美鈴が明花の髪の毛をサラッと撫で掬う。
「ひあっ?」
驚く明花の顔が赤くなる。
「ウフフ…とてもサラサラしてて艶のある髪の毛ですわ、良く手入れされてますのね?」
「そ、そう言われる美鈴さんの髪の毛も眩しく光っておられますよ?」
「クスッ、ありがとうございますですわ。」
美鈴は、明花の髪の毛から手を離すと彼女の肩に手を回した。
「まだ少し離れてますわ、もっと近づいてくださらないかしら?」
そう言うなり美鈴は明花の肩を掴むと自身の方へと抱き寄せた。
グッ。
「キャッ?!」
「明花さん…。」
徐々に美鈴の顔が明花に近付く、…おおっ?これは、もしや………?!
「め…美鈴、さん…。」
ゴクッと明花の喉が鳴る。
そして、覚悟を決めたように明花の瞳が閉じられた…。
…………美鈴の唇が、明花の頬まで近づいた。
「少し、お耳を貸していただけますかしら?」
「ふえっ?…み、耳、ですか…?」
「ええ。」
今度は美鈴の唇が明花の耳へと向かう。
…ああ、やべえ。
何だかクラクラしてきた。
いよいよ美鈴は明花と百合百合な展開に進むっていうのか…?!
と、ここで美鈴の唇は明花の耳の前まで来て止まった。
「…貴女、ご両親について何か思う所がお有りなのではなくて?」
「…???!」
ついさっきまで夢見心地の乙女な顔をしていた明花の顔が、突然ギョッとなる。
美鈴の指摘が図星だったのか?
「な、なに、を…?」
「突然何をおっしゃられるのですか、美鈴さん…?」
明花が身を捩って美鈴を振りほどこうとする。
美鈴はそれを無理に拘束しようとはせず、やんわりと両手を離して明花を離した。
「ごめんなさいですわ、どうも去年から貴女の様子が気になってましたので…。」
「私の様子が、ですか?」
「ええ、それでこれまでの経緯からどうも貴女はご両親に対して何か悩んでらしてる気がしたのですわ。」
「勿論貴女のご家族に対しての事を幾ら真友とはいえ他人である私に話さなければならない、とはなりえません。」
「けれど、幾らかでも私にその胸の内を話す事で心の苦しみが和らぐのなら、話して欲しいのですわ。」
「貴女の苦しみは私にとっての苦しみでもありますのよ、明花さん。」
美鈴は明花の手を取り両手で握った。
「美鈴さん…」
明花は悲しそうな、それでいてほんの少し嬉しそうな顔をした。
…そして、段々苦しそうな顔になってゆく。
「…いえ、貴女にはわかりません、私の本当の苦しみなんて…!」
「そんな事ありませんわ、話してくれさえすれば!」
「では、…い、言います、ね…!」
「はい。どうぞ、ですわ…!」
「では…取り敢えずこの苦しみを伝えます…!」
「美鈴さん、…手を離して下さいっ!」
「え?…み、明花さん、何を…?」
「だから、手が…痛いんですうっ!!」
ギュウウウ〜〜〜☆☆☆
見ると、明花の手が彼女の顔と同じような真っ赤になっていた。
「…あ?!」
どうやら明花の事が心配で、力加減してても気付かないうちに余計な力が入ってしまってたようだな。
「ごごご、ごめんなさいっ!ですわっ?!」
慌てて手を離した美鈴。
(あわわ…つ、つい明花さんの百合パワーで一杯一杯になって力加減が…)
…あー、そういう事か。
明花は手にフーフー息を吹きかけている。
「回復魔法、血流促進。」
明花は魔法で自己治癒力を高めて手を回復した。
「やっと手の感覚が戻りましたよお。」
「申し訳ありませんでしたわ。」
「…それで、最初の質問に戻りますけどやはりご両親についてお悩みなのですの?」
「ええと…やはりさっきの手の件では誤魔化されませんでしたか。」
「当たり前ですわ、昨年から続く貴女の心のお悩みと先程の手の痛みとは苦しみの質や発生タイミングからして全くの別物ですもの。」
「理性的ですね、美鈴さん。」
「私もそんなふうに理知的に物事を判断出来ればどれだけ楽だったでしょうか…。」
「明花さん、やはりちゃんと話していただけませんこと?」
「私は貴女の苦しみを和らげたいですし、貴女のお力になりたいんですの。」
「しかし、これは私の危惧する通りなら文家の一大事になるかも知れないんです。」
「だから話したくない、と?」
コクンと首を縦に振る明花。
「では私の口から私なりの推測をお話しさせて下さいな。」
「簡潔に言ってしまえば…貴女は文家は、あの新血脈同盟と何らかの繋がりを疑ってらっしゃる、そういう事ですわね?」
明花の目が大きく開かれた。
図星、か。
けど彼女の両親が本当に新血脈同盟と関わってるのかはまだこの時点では断言出来ないはず。
まあシナリオの変化も不明なだけに俺も安直な判断は出来ないのだが。
「…それは確証あっての疑惑なのですの?」
「や、やだなー美鈴さんたら〜、私そんな事一言も…」
くだけた口調になる明花。
前世口調なのか庶民口調なのかはわからないが、
口調に気をつけるほど余裕が無いと見える。
で、そこまで言いかけた明花だったが、美鈴の表情を見てその先を続けられなくなった。
美鈴、凄く心配そうな顔してた。
それを見た明花はポツリと語り出した。
「…いえ、貴女の言われた通りです、私はずっとそれが不安でした…。」
「と言うより商売を行う上でそのような怪しげな人達が居るらしい地域の南地方へも出掛ける家族が心配だったんです。」
「何か、ご家族と新血脈同盟に接触があったんですの?」
「いえ、明確にそのような事があったのかは存じません。」
「しかし商売事業に加えて下級とはいえ貴族にも取り立てられ、お金の流れや人脈に不透明な部分が出てはいないか、それが気掛かりでして。」
「幾ら家族と言えど私はお店や研究所の経営事務に関わる権限がありませんのでそれを調べる事も出来ないのです。」
「なるほど…だから余計に新血脈同盟の影響がご家族に及ぶのを危惧されておられたわけですわね?」
「…はい…、新血脈同盟の事さえなければまだ心配も少なかったのですけど…。」
「そこはまだ明確な心配材料が無いのでしたら杞憂に終わると信じましょう、まだ起きもしてない事をアレコレ悩んでも仕方がありませんわ。」
「そうですけど…」
「それに!」
ビシッ!
美鈴は天井を指差した。
「何れは新血脈同盟ごときとは比べ物にならないくらい、もっと大きな敵が復活するかも知れませんのよ?」
「それに比べたら新血脈同盟ごとき、たかが人間同士の反乱分子に過ぎませんわ、そうではなくて?」
少しおどけて美鈴は言った。
「そ、そう…ですね…。」
最初やや呆気に取られた明花だったが、やがて表情が綻んだ。
「その通りですね、そんな相手に比べたら同じ人間同士の事くらい、何とかなりますよね?」
「ですわ!」
エッヘン!と腕を組む美鈴。
「どう?少しくらいは胸につっかえてたモノがとれましたかしら?」
「ハイ、かなりラクになりました。」
二人は微笑んで見つめあった。
……ん?
何かコイツらポーッとしてないか?
「明花…さん…。」
「美鈴、さん…♡」
徐々に二人の顔が近付いてゆく。
コ、コレは…もしかしなくても、そうなのか?!
俺がドキドキしてる間にもドンドン二人の顔は近付いてゆく…。
オマケにお互い瞼も閉じてしまった!
つまり、そう言う事なのか美鈴?
今度こそ、今度こそオマエは明花をー?!
ガチャ
「あーっ、ヤッパリここにいたのね二人とも!」
突然扉が開くと月夜の声がした。
美鈴と明花は反射的にピョン!と離れた。
ただし美鈴の腕力が強かったから明花だけベッドに仰向けにボスン!て倒れてしまったけどな。
セーブしてたんだろうけど咄嗟の事だったから焦ってたんだな美鈴も。
「な、ななな…何ですの月夜さんっ…?!」
(あ、危ねーっですわ!雰囲気に流されて危うく明花さんとっ…(汗))
「…あ〜、コレはお邪魔しちゃったかしらあ?」
口元に手を当てクフフとほくそ笑む月夜。
さっきまでの美鈴達の状況に気付いたか?
そこにワンテンポ遅れて華音が。
「酷いですわ美鈴さん、私を置いて明花さんと二人だけだなんて!」
少し怒ってた。
でもこの様子だと直前まで美鈴と明花の二人がいい雰囲気だった事までは気が付いてないようだ。
「あーっ!明花さんがベッドに横たわっているという事は、まさか美鈴さんは明花さんの事を押し倒して………?!」
ワナワナ震える華音。
「ち、違います、誤解ですわ!」
「ねえそうですわよね、明花さん…」
すると明花はこんな言葉を呟く。
「…あと、少しだったのに…」
残念そうに零した。
そうだな、あとちょっとでキス…て、ちょっと待て!火に油を注ぐなっつーの!
言い方紛らわしーっ!
てか。コレってワザとか?だったらエグいぞ!
「…ふ、不潔………不潔ですっ、美鈴さん!」
カチン☆
「そ、そー言われる貴女こそこないだ私をベッドに誘ってたじゃございませんこと?!」
「あら意外と大胆ねー、鳳家のお嬢様は(笑)」
月夜はこの状況を楽しんでると見える、まあ元々そんな人だったからな。
と、
「そ?!そんな事があったんですか美鈴さん!?」
今度はガバっと明花が起き上がり美鈴を問い詰める。
「こ、こないだそのすぐ後で皆様が押しかけた時の事でございますわよ、私ちゃんと拒否したんですのよ?!」
「明花さん、美鈴さんと距離近いですわよ、離れてくださいな!」
今度はツカツカと華音が明花に詰め寄る。
結果的にコレが美鈴との距離も縮める事になったわけで。
「貴女まで距離詰めなくても良いじゃありませんか!」
明花は当然こういう態度を取る事に。
「落ち着いてくださいな、二人とも…」
「「美鈴さんはどっちとくっつきたいですか?!」」
「いいっ?何でそうなりますのーっ?!」
「あらあら、モテモテね美鈴さん(笑)?」
「見てないで助けて下さいまし、月夜さーん?!」
………王城内、方や重要な会議が行わている最中だと言うのにもう一方ではこんなお嬢様方の呑気な騒動が起こっていた。
………と、その時。
キュイイイン、キュイイイン、キュイイイン………!
聴いた事も無いような音が鳴った。
それに気づかないのか三人は美鈴の取り合いになっていた。
「離して下さい!」
「貴女こそ!」
「ふ、二人とも、ストップストップ…!」
「貴女達、ちょっと静かにして!!」
月夜は只事では無い雰囲気を城内に感じ取ったようだ。
「今の音…確か緊急警報…?」
そして月夜は扉近くの一部を開くと、その中にある丸い置物に話しかけた。
これは離れた場所や隔絶された場所との会話を可能にする通話魔石というらしい。
王城みたいな重要な施設に設置された緊急時用の装置だそうだ。
「…聞こえますか?私は安家長女の安月夜と申します。」
「一体何が起こったのですか?」
『…こちら通路警備兵、部屋からの通話ですか?ならその場所から出ないで下さい!』
この兵士らしい言葉には頭に血が上ってた明花と華音も冷静さを取り戻した。
この二人から解放された美鈴と共に三人で月夜の側まで来ると、固唾を飲んで月夜と兵士?の会話を聞き入った。
「何が起きてるのか説明していただけないかしら?」
『魔物です、魔物が会議中の会議室に!』
「「「「!?」」」」
『それだけではありません、魔物は城内至る所に…うわあっ?!』
ガキイッ、キン!バキッ!ドサッ!
『おい、大丈夫かしっかりしろ…』
『ゴワアアアーッ!』
魔物らしき咆哮が聴こえた。
ガギゴッ!と通話魔石から音が鳴った。
通話はここで切れた。
多分向こうの通話魔石が魔物の攻撃の巻き添えを食らって破壊されたんだろう。
【おかしい…ココには魔法陣が至る所に配置され魔法による外部侵入対策は完璧に近いと思えたのに…】
(それについては後で考えますわ、今はそれよりココを乗り切る事が肝要ですわ。)
「…華音さん壁を作りますわよ。」
「はあ?壁って…」
「明花さんは私達の後ろへ。」
「は…はい!」
「月夜さん、魔法の準備よろしくて?」
「…!」
「来る、のね…?」
「ええ、おそらく後5秒…」
「皆さん、ドアから離れますわよ!」
空気は先程までとは違って緊迫する。
ドドド…と小さな音が近付いてくるのが壁の向こうから聴こえる。
「…3、2、1…」
「ゼロッ!」
途端に美鈴は巨大ベッドを掴むや、ソレを扉に向けて投げつけた。
グワシャアッ!!
扉とベッドが侵入者に粉砕されたのはその直ぐだった。
崩れた入口に立っていたのは4本の巨大な牙を持つ大イノシシのような魔物だった…。
当然のように乱入して来たのは月夜と華音の二人。
…だけかと思いきや、とんでも無い乱入者が。
しかも城内各所にそれは居たようで…?