第百五十話【今年の最後で出会った黒幕…?】
翌日の新年を招待されたお城で迎えるため入城した美鈴達。
そこで彼女らが出会ったのは…!
「皆様大変お待たせ致しました。」
「これより大広間へと向かいますのでこちらへ。」
その声に振り向くと、そこには鎧姿ながらもスラッとした長身の女性が。
長剣を携え、移動する貴族達招待客を先導する。
通路の周りには衛兵達が槍を持って警護している。
城の中は武力と魔法で警護は万全そうだ。
この様子なら鳳華音と美鈴の心配は杞憂になりそうだな。
少なくとも城の中にいる限りは。
ゾロゾロと王城内の大広間に移動する招待客達。
当然その中には美鈴、明花、華音のご令嬢三人娘とその両親もいた。
(どうなさいましたの華音さん、なにやら厳しいお顔をされておりますわよ?)
(え?私そんな怖い顔をしてまして?)
(言いにくい事ですけど…美鈴さんがおっしゃられるのも無理無いと思われるくらいには、と私も感じてしまいます。)
(何かあったのですか?)
(…まあ、顔に出てしまいますわよ、アレを見れば…)
華音は列の先頭の塊の中でも一際目立つ華やかなドレスを身に纏った一人の女性を指差した。
「ああ…あのとても目立つお方ですわね?」
「本当に綺麗で華を感じる出で立ちですね、でもそれがどうして華音さんのご機嫌を損ねるのですか?」
「お二人は知らないのですね…」
「あの方こそ、私が疑惑と懸念を感じている原因となっている張本人ですのよ。」
「「で、では…!?」」
「そう、南貴族学院生徒会長にして前回貴族学院対抗戦優勝者…」
と、その時。
コチラ側の視線に気付いたのか、件の女性の視線が鳳華音の方へ注がれた。
ビクッとする華音。
しかし驚きや警戒心だけでなく、ほんのり照れてるぞ、この表情は。
その女性は両親らしき人物らに何やら告げると、真っすぐ鳳華音の方へやって来た。
目敏くお気に入りの相手を見つけたのか、それとも最初から此処に来るのが分かっていたのか…?
「お久しぶりね、鳳華音さん?貴女もご招待されましたの?」
「え、ええ…そういう貴女もなのですね…」
「常春萌さん…!」
「ウフッ、そうなのですよ…ところでお隣の方はもしかして…」
「ええ、このお方は…」
言いかけた華音を遮り、美鈴は自ら名乗った。
「お初にお目にかかりますわ!」
「私は中央貴族学院の1年生にして、今年の選抜学院対抗戦の優勝者、八大武家の一つ、黎家が長女…」
「黎美鈴ですわ!」
高飛車な態度で敵対心剥き出しに名乗るその姿はどう見ても悪役令嬢っぽかった。
「あらあら、これはとても御転婆なお嬢様のようね♪」
「それとも、私が華音さんに親しく話しかけたからヤキモチ妬いちゃったのかしら?」
「な、何を…」
華音は狼狽えた。
明花は美鈴の反応を確かめようと美鈴を見つめながら息を呑んだ。
…で、その一方の美鈴はポカーンとした表情だ。
「…はあ、まあそう言う受け取り方もありますわね。」
「というか、本日の私は華音さんのボディーガードも兼ねてましてよ?降り掛かる火の粉や悪い虫がいれば振り払う義務が御座いますので。」
「あらあら、怖い怖い(笑)。」
「今日の『私』は別に華音さんや貴女と事を構えるつもりは全く有りません、どうかご安心を。」
「では、今日はこの辺で、明日またユックリお話し致しましょうねお二人とも♪」
そう言って手を振ると常春萌は先頭へ戻っていった。
「全く、何を考えてるのかしらあの女?もう私にフラレてるというのに…」
ここで美鈴が余計な一言を。
「あの…まだお気持ちがお有りなのではなくて?」
「はあっ?!な、何を根拠に?!」
取り乱してるじゃないか、思い切り。
「わ、私は今は貴女の方を…!」
「お、落ち着いてくださいな?」
「…それよりあの方、明日またお話しするつもりでしたよね?だとしたらその時色々と聞き出せるんじゃありませんか?」
「そ、そうですわねその通りですわ明花さん!」
(ナイスフォローですわ、流石私の真の友!)
「そ、それもそうね!貴女中々頭良さそうですね?」
「それはどうも。」
華音が美鈴に気があるって内容の話し中なのに、なんかニコニコしてるな明花のヤツ。
ちょっと心の中を読んでやるか。
(華音さんが上手く常春萌さんという方とくっつけば彼女は自動的に美鈴さんからは手を引く事になるわね…♡)
あー…、なるほどね。
と、平和(?)な恋の鞘当てが行なわれている内に大広間へ到着。
真向かいには大きな玉座が三つ儲けられていた。
現国王と公妃、そしてお姫様のか。
…すると前国王と前王妃はここには来ないのか。
美鈴、ガッカリするだろうな。
「国王陛下、並びにお妃様、お姫様のご入場〜!」
玉座の後で扉が開き、現国王達が現れた。
全員が拍手でそれを迎える。
現れたのはやはり三人。
前国王と前王妃の姿は無かった。
「皆、遠路遥々ご苦労。」
「難しい話しは明日にするとして、きょはゆっくり歓談を楽しんで貰いたい、楽にくつろぐように。」
一人一人にグラスが渡され、ワインが注がれる。
成人年齢とはいえ一応まだ学院生の美鈴達のグラスにはグレープジュースが注がれた。
そして。
「では、今年も無事に終わった事に乾杯!」
『乾杯!』
グラスを重ねあう音が響いた。
一口飲み干すと、拍手。
それからザワザワと歓談、会食が進んだ。
「…やはり、前国王と前王妃はここにはいらっしゃらないようですわね…」
美鈴は小皿に載せた料理を一口食べてからテーブルに置く。
「どうされました?」
側にいた明花は美鈴の顔色が気になった。
「ええ…ちょっと食欲が沸きませんので少し散歩して参りますわ。」
「どうしたんだね?君らしくもない。」
「さては間食食べ過ぎたのでしょう?」
両親も思い思いで声をかけてきた。
「そ、そうですわお母様、さすがですわ。」
誤魔化すように美鈴は玄関へ歩いていった。
「あら?私の護衛は…」
「今は周りにいっぱいいらっしゃるから大丈夫ですわ。」
華音にも尋ねられたがこれもやり過ごす。
「えと…まあ衛兵だらけだからわかるんだけど…」
「どうされてしまったのかしら美鈴さんたら…」
「どうしたのかな…」
「お腹が空けば戻って来ますわよ。」
美鈴の後に三人程衛兵がついて行った。
護衛だけでなく一応怪しい動きをしないか尾行も兼ねてるんだろう。
(しっかしさっきからガシャガシャと後で鎧の音がやかましいですわねえ…)
(こっちは少し一人になりたいだけですのに、デリカシーありませんわねここの衛兵達は!)
(まるでどっかの仮面の聖霊さんみたいにデリカシーありませんわ!)
【おい、誰がデリカシー無いだって?】
(そーゆうとこですわよ、名尾君!)
美鈴はコッチを見ていた。
つまり聖霊の仮面に向けて喋ってるわけで、つまりそれは普段から胸元に入れてるわけで…だからアイツは今、自分の胸元を…
…て、いかんいかん!
気を付けないと、ついアイツの温もりや香りまで感知しちまうじゃないか?!
(どうかしましたの?)
【い、いや、何でもない…】
落ち着け俺!
相手は前世男だったんだぞ?
側だけどんなに可愛くても中身は男だ!
ノーサンキューだ!!
【そ、それよりさっきのデリカシーがどうとかだが…】
【失敬な、こっちはコレでもオマエやみんなの事が心配でたまに心を読んでるだけでだな…】
(それがデリカシー無いって言ってますのよ!)
【何だよ、えらくツンツンしてやがんなあ。】
(…あ、そうですわ)
(貴方、千里眼お持ちですわよね?)
【…もしかして…前国王夫妻の様子を調べろ、とか言うんじゃ…】
(あら良くわかりましたわね、さすが前世で親友だっただけの事はありますわ♪)
あのね…。
【まあ結界とか無ければの制限付きだぞ。】
(頼みますわ。)
美鈴は安心したのか少しばかり庭園を彷徨いてから大広間へと戻って行った。
…仕方ない、他ならぬアイツの頼みだから後でちょっとだけ覗いてみるとしよう。
結局その日は常春萌が鳳華音にチョッカイ出す事もなく無事に終了した。
真夜中。
コッソリと部屋を抜け出した美鈴は明花を誘って華音の部屋へ。
「やっぱり新年を迎えるなら深夜パーティーですね♪」
明花は嬉しそうにワクワクしていた。
しかも女子同士でパジャマパーティーを兼ねた女子会ともなれば美鈴を独占したい気持ちよりも前世の記憶にあった大晦日の年越しや女子会、パジャマパーティーを楽しめる喜びが勝っているようだ。
因みに明花はまだ美鈴と俺が前世の記憶を持つ転生者だとは知らないし、知らせてない。
だから俺達の前世世界と明花の前世世界が同じか否かは確かめ合ってないから不明だ。
なわけで唯一転生者じゃないのはこの中で鳳華音一人だけと言う事になる。
…ただ、これを無邪気にも本気でパジャマパーティーだの女子会だの年越しだのと思って楽しんでるのは明花一人だけのようで。
「ウフフ、どうせなら闘姫さんや側仕えの二人も一緒に呼びたかったですね♪」
「ええ…そうですわね…」
美鈴は絶えずあらゆる方向へ視線を向けていた。
明らかに周囲を警戒している。
「あら…私どうせなら美鈴さんと二人だけが良かったのに…」
実は美鈴が魔法医学や治癒魔法に長けた明花がいれば心強い、と言って連れて来たのだ。
「あ、これ荷物に入れて持ってきたお菓子です、良かったらどうぞ♡」
明花得意の手作りクッキーだ。
「あら嬉しいですわ。」
美鈴はパクつき笑顔を浮かべる。
「ムフ〜♡」
そして幸せそうな顔になる。
「華音さんもどーぞ?」
「え、ええ。」
美鈴の笑顔を見てたら食べたくなったんだろう、華音もクッキーに手を伸ばした。
コリコリ…。
「…ん。まあ…♡」
華音の顔も綻んだ。
「ちゅ、雀?早く紅茶を淹れなさい!」
「それから貴女も一緒に摘みなさい」
「ハイッ…クスッ…」
小雀も加わり四人は華音のベッドの上で新年を迎える事に。
…なぜ小雀は招待客でもない従者なのに入れたのか?
実は彼女も有力貴族の娘なのだ。
今回は両親と共に招待されていた事が両親から教えられた事で判明。
こうして合流出来たわけだ。
カラーン、カラーン♪
「…、教会の鐘が…」
「まるで除夜の鐘ですね〜」
「ジョヤノ、カネ?それなんでしょうか明花さん?」
「あ、アハハ〜?…お、…お上品な音、やの〜?鐘の音が…て、つい西地方の方言が出ちゃいました〜、アハハ〜!」
笑って誤魔化す明花。
うん、結構苦しいダジャレだぞソレ。
「ウフフ、確かに良い音ですわね。」
「数年前からでしょうか、このように新年を迎える時に教会が鐘を鳴らすようになったと聞いてます。」
「ええ、…何でも鐘の音は魔を払うとか。」
「これは私の憶測ですが、もしや噂に聞く大魔王復活…それへの警戒からでしょうか?」
「あり得ますわね、もう時間はあまり残されていないかも知れませんもの。」
美鈴と華音の二人が真剣そうに話すのを見てバツが悪そう無顔をする明花、それを不思議そうに見る小雀。
どれどれ?
(あうう〜、すみません〜!)
(アレ、実は以前私が前世を懐かしんで一度だけ教会にお願いしてみたら新しい行事として定着しちゃったみたいで…)
ああ、そういうオチか。
遂に登場、常夏海の姉にして目下疑惑の人物でもある常春萌!
まだ少し彼女に気がありそうな鳳華音が若干不安ではありますが…さて?