第百四十九話【お城の中はユカイ?魔界?そしてお久しぶりの月夜さん!】
王城に着いてそれぞれの両親とご対面!の美鈴と明花。
すると何故か両家は美鈴と明花の事で盛り上がってしまい…?
ガヤガヤ…
既に王城の門前は新年挨拶のパーティーに招待されたとみられる主要貴族達の馬車の列が出来ていた。
北部地方の鳳家はその一番最後尾に並ぶ事となる。
ポータル前の雪掻きの一件もあり出遅れてしまったようだ。
もしこれが美鈴の竜巻斬を使わず普段通りの人海戦術による雪掻きをした後からだと、王城門到着は昼飯時間を過ぎる事になっていただろうな。
…で、鳳家の馬車がその列の最後尾に並んで順番待ちに加わる。
が、中々遅々として列は減らない。
何を確認してるのか?
と思い先頭を千里眼で確認すると。
「お〜、これはこれは!」
「お久しゅうございます!」
「皆様、お元気でいらっしゃいましたか?」
「オホホ、そちらの方こそ?」
…なんと、各家当主らとその家族が前後の馬車の窓から顔を出して挨拶合戦していた。
て言うか挨拶だけならまだしも、そこから世間話が始まるのが世の常で。
「え〜、順番が押しておりますので、次の貴族様は門をくぐってください…。」
門番の衛兵達も身分の高い高位貴族には強くも言えず困り果てていた。
普通なら積荷改めや身分照会などに5分もかからないと思われる。
しかし主要十二貴族、それらに加えて来賓や諸侯貴族もとなると仮に一団体に5分のところを挨拶合戦のせいでその倍の10分はかかるとして…少なく見積もって約二十団体あるとすれば…
げっ?
200分てことは三時間半近くかかるって事かよ?!
すーすー、すぴーすぴー…。
案の定、最後尾の美鈴達は退屈かつ待ちくたびれて寝てしまっていた。
一番警戒心の強いはずの闘姫までがコックリコックリ。
と、うたた寝する始末だ。
こりゃお昼ご飯前に目が覚めたら丁度順番が回ってくる計算になるかな。
やれやれ…。
…………。
「…ふぁ〜あ〜…、あー良く寝ましたわ。」
大きく伸びをする美鈴。
「…え?やっと中に入れたんですか?」
明花が寝ぼけ眼で目を擦る。
「…馬車から降りないといけませんね、お城の玄関前では一人ずつの招待状確認がありますので。」
「ええ、降りましょう。」
馬車が留め置かれた広場に降りた美鈴達。
と、目敏く声をかけてきたのは。
「おおーっ、美鈴!」
「ここに居ましたの?」
「明花ちゃーん?」
「良かったわ、合流出来て!」
駆け寄って来たのは美鈴の両親と明花のご両親だった。
明花の両親はゲームだと設定上だけで顔を見た事は無かったな。
…実は重要なファクターになるんだが、ここではまだ美鈴には内緒にしとこう。
そしてこの二家族は一応、鳳家にも挨拶を済ませるのだった。
「おお、このコが準優勝の…」
「ははは、黎家御息女程ではありませんよ。」
「は、初めまして、私は今年貴族の末端に置かれる事になりました…」
「おお、噂は聞いておりますぞ?」
「ははは、ではその件はお城の中で詳しくお聞かせ下さい。」
「はっ、是非とも。」
………各家同士の簡単な挨拶も終わり、三家族の両親達がコチラに向かってくる。
娘の方も駆け寄り、二家族は少し離れて固まった。
その様子をやはり少し離れた所から見ている鳳家親娘、という構図が出来上がった。
「お父役母様、お母様、お早いお着きでしたわね。」
「あ、あの…お父役母さん、お母さん、お聞きしたい事が…。」
明花が恐る恐る両親に何か聞こうとした。
あ、そうか。
家としては王城に呼ばれたけど自身まで招待状を貰ってるか分からないし、招待されてても両親がその招待状を持っているとは限らないからな。
学院寮に郵送されて行き違い、の可能性が高いんだったっけ。
「そうですわお母様、私への王城からの新年会招待状は…」
「心配しなくてもここに貴女が来ると思ってちゃんと持って来てございますわよ。」
美鈴の母親が従者に一瞥すると、その従者が静々と件の招待状らしき三枚の書状を取り出し、うち一枚を美鈴の母親に渡した。
「さ、お受け取りなさい。」
母親は美鈴に招待状を手渡す。
「おお…まさしく王家の押印で御座いますわ…!」
美鈴はペーパーナイフを愛麗から受け取り封を切る。
「ふむふむ…。」
「グフフフ…!やっぱり私も招待されておりましたわ!」
拳を天に突き上げ喜ぶ美鈴。
おいこら、そのポーズはちょっとご令嬢らしくないぞ?
「ふ〜、安心しました、これで美鈴さんも堂々と王城の中へ入れますのね?」
(やれやれ、イザという時の為の催眠魔道具使わなくてすみましたわ…アレは後からバレたら洒落になりませんものね。)
…なんていう華音の心の声くらい、地獄耳の権能を持っている俺には丸聴こえだった。
おいおい、中々とんでもない事考えてやがったな鳳華音のヤツ。
と、美鈴親娘のこのやり取りを聞いていた文家の当主と奥さんは。
「…おお、そうだった」
「そうね、私達も…」
「はい明花、受け取りなさい。」
母親から一枚の書状を手渡される明花。
「!…これは…」
「ちゃんと貴女の分も用意されていたわ。」
「実家に戻らなかった貴女と行き違いになるといけないからもし王城まで来た時の為にとわざわざ持って来たのよ?」
「あ、ありがとう御座います、お母さん!」
明花は母親に深々とお辞儀をした。
「さ、私達はこの方々とは同じ貴族同士とはいえその階級が違いますからコッチの方へ離れていましょう?」
母親は明花の手を取ろうと手を差し伸ばす。
「え?…で、でも…」
母親から身分をわきまえるように促された明花は戸惑った。
そこへ。
「お待ち下さいな、文家の奥方様。」
凛とした涼やかな声が響いた。
「…貴女は…」
「美鈴さん…?」
「初めまして、私は八大武家の次期当主、黎美鈴で御座いますわ。」
華麗な身のこなしで明花の母親に挨拶する美鈴。
「で、では…貴女が明花の慕っている御学友?」
明花の父役母親も美鈴を凝視する。
「これはこれは文家ご当主さま、お初にお目にかかりますわ。」
「おおお…では、この方が…。」
文家当主は感度にわななきながら美鈴に頭を下げる。
「い…嫌ですわ、私は単に学院での真友のご両親に挨拶したまで、そんなに畏まらないでくださいまし?」
「い、いえいえ!」
「せっかく明花が心に決めた方とそのご両親にこうして巡り会えたのです、コレを機に両家の親交を深めたいと思います…!」
「おお、それは良いですな!」
「おほほ…あ、あの暴れん坊の美鈴にも、遂に春が来ましたのね…(涙)。」
喜びながらも感激でウルッとする黎家両親だった。
「お、母様?お父役母様?!」
「は、恥ずかしいですよお母さん、お父役母さん(汗)!?」
往来でこっ恥ずかしい事をぶち撒ける両親達に当の本人たる娘二人は顔を真っ赤にした。
「…あー、何か周り無視して盛り上がってますねー…。」
「気の所為かしら、私も同意見でしてよ…。」
闘姫と鳳華音はジト目でこの様子を見ていた。
「娘よ嘆くでない、良い見合いの話しを父役母が見繕ってあげるから…」
「ま、まだ負けてませんことよ!」
「そうです!まだ明花さんに美鈴さんの伴侶の座を渡すわけには行きません!」
成り行きでこの二人はガシッ!とスクラムを組んだ。
…で、美鈴達の側仕えコンビはと言うと。
「ねえ芽友、このままウチのお嬢様と明花様が結ばれちゃった方が平和な気がしませんか?」
「流石は私の恋人ですね、同じ事感じてましたか。」
「ついでに言えば私達も堂々と一緒に寝泊まり出来るようになります。」
「なるほど!流石は芽友♪」
「…恋人ならそこまでくらい考えてくださいよ…」
と、いつの間にか美鈴達を囲むように人集りが出来ていた。
コイツと家族らが騒ぎ過ぎるからか、玄関前で待機中の貴族らが興味を持ったらしい。
ザワザワ…。
「ほ〜う、あのコが今年の全学院対抗戦で優勝を飾ったという…」
「近くにおられるのは準優勝だった、あの…」
「おい、それよりあのコは今年貴族になった例の魔法医学の…」
「そ、そうでしたか?」
「…はて、あの金髪の少女、何処かで見たような気が…」
ザワザワザワ………。
美鈴だけじゃなく一緒にいる華音、闘姫、明花も注目されだした。
「やっほー美鈴さん、何か面白い事になってるわねー?」
長い金髪をたなびかせながら手を振る美女がいた。
「皆様、お久しぶりでございます。」
月夜の従者、依然もいた。
「あ、アレって月夜先輩じゃございませんこと?」
「ホントだ…あの方も呼ばれてたんですね。」
(お、お母様、お父役母様、何か変に注目されてますわよ?)
(あ〜、確かにこんな場所でお話しを進めてはなりませんでしたね…)
「…で、では文さん、この話しはまた後ほど…」
「は、はい、そうでございますな…」
「では何卒ウチの娘をよろしくお願いいたします、黎家の皆様。」
「オホホ、コチラこそ♪」
……。
「…い、いけませんわ…ウチとそちらの両親、すっかりその気になってますわ…」
ハァ〜、とため息をつく美鈴。
「そうですね…でもそんなにため息つかなくても良いじゃありませんか美鈴さん?」
明花は頬を膨らませた。
「し、しかしですわね?これじゃお城に滞在中は常に好奇の目に晒される事になりますのよ私達?」
「い、いいじゃありませんか、別に何も疚しいことなんかありませんもの私達!」
「え、ええ…まあ…」
(…え?確かに何も無かったかも…)
(ビミョーに違うような気もするけど…な、何もありませんでしたわ…よね?)
「さ、さあ、私達は清く正しいお付き合いの友人同士なんだから何も恥ずかしがる事なんてありません。」
(…アレ?)
(な…何も恥ずかしい事なんて…ありませんでしたよね…?)
…な〜んか誤解を招くような事呟く二人だが、そんな自信の無い二人に代わって答えるとしよう。
この二人、本当にエッチな関係になんかなった事など無いぞ!
…ちょーっとビミョーにそうなりかけたような事もあった気がしたけど、思い出せないくらいだから仮にそんなんがあったとしても多分ノーカンだろう、ウン、きっとそうに違い無い。
……て、余計紛らわしい言い方になっちまった?!
イヤイヤ本当に何も無かったてば、ホント。
そんな風にガヤガヤしてると扉が開いて招かれた貴族達は玄関へ進んだ。
「では愛麗、貴女達はここまでですわ。」
「芽友、王都観光しながらゆっくり待っててくださいね?」
「お嬢様〜、せめてお城のお菓子くらいお土産に持ち帰ってくださいよ〜?」
「明花お嬢様、腹黒い腹の探り合いをされるかも知れませんけど、そこは難しく考えず天然な返しで誤魔化して下さい。」
「では美鈴さんは私へのボディーガードも兼ねてお預かりしますね、闘姫さん?」
「ええ、もし美鈴さんが窮地に陥った時には仮面の剣豪さんが駆けつける手筈になっておりますのでご安心を。」
ピクッ
「仮面の…剣豪…」
明花が小さく反応した。
ああ、そうだっけ。
明花にはもう仮面の剣豪・超速星を名乗っていた電光烈火の正体を美鈴が一体化した姿だと知っているんだったな。
オマケに何故か俺の声まで聞こえるようになってたんだっけ。
まだ彼女の方から追及されてないからすっかり忘れてた。
(その件ですけれど…やはり私のほうからちゃんとお話しすべきなのでしょうか…)
【う〜ん…それはオマエの判断に任せるわ美鈴】
(んな丸投げな〜?!)
かくして美鈴、明花、華音の三人はお城の中での新年会へ。
闘姫、愛麗、芽友はお城の外で王都観光へ。
見事な迄に分断されたな。
まあお城の中は美鈴の両親を始めとした八大武家と四大名家勢ぞろいだし、戦闘になっても寧ろオーバーキル状態だろうから心配無いだろう。
寧ろ戦闘能力で言えば闘姫だけで後は防御魔法だけの愛麗と瞬間移動魔法が使えるアミュレットだけの芽友。
この三人組の方こそが危険かも知れない。
取り敢えず後は翌朝まで各部屋でユックリするだけだし、三人組も宿に泊まるだけだから今日のところは問題無い…そう思いたいな。
「じゃ、行こっかー♪二人とも?」
いつの間にか近寄っていた月夜が明花と美鈴の間に入って腕を組んでいた。
「ああーっ?!安家のお嬢様、美鈴さんは私のボディーガードを兼ねてますのよ?!」
「あ〜ら?そんな事知らなかったんですもの、御免遊ばせ♪」
ケラケラ笑う月夜だった。
「何か、小悪魔さでは華音さんも月夜さんには敵わなそうですわ…」
「同感てす、美鈴さん(笑)。」
美鈴と明花は久々に会った月夜を間に挟んで苦笑した。
危うくその場で明花と婚約させられかねない空気から何とか逃れられた美鈴でした。
…いや、そこはもうノリと雰囲気で婚約しちゃえ!
と思った読者も多かったのでは?
さて、次回は現国王が登場。
かつて美鈴を可愛いがってくれた旧国王の登場はあるのでしょうか?