第百四十八話【はるばる来ました王城へ♪】
美鈴達はいよいよ王城へ向け出発!
もっともポータルを抜けてすぐでしたけど…。
早いもので、もう翌日は大晦日である。
ここ、中華王国(この百合ゲーの中での古代中国っぽい王国であって現実世界の中華人民共和国とは一切関係ナシ)北部もチラホラと雪が舞い、このまま誰も家の中で新年を迎えるのだろう。
だが…
「いきますわよっ、竜巻斬!!」
ズドオオーン!!
美鈴が屋敷の敷地外に積もった雪を竜巻斬で吹き飛した。
「うおおおーっ?!」
「こ、これは…凄い…!」
周りで見ていた兵士達や鳳家当主、そして召使い達はその威力に驚愕した。
彼女らは皆、王城手前までの移動に備えて再び大雪が積もっていたポータル前の雪掻きをする為総出でスコップを手にしていた。
どうも彼女らにとって、これが冬季期間中屋敷外への移動前に行う恒例行事らしい。
身体強化魔法と人海戦術を用いても半日はかかる重労働だそうだ。
それを聞いた美鈴が
「あら、私の技なら一分と掛かりませんことよ?」
と、安請け合いした。
…結果、安請け合いするだけの事はあった。
「は、ははは…。相変わらずさすがですね美鈴さんは。」
「お、お嬢様、見事なまでにポータルの建物入口までの雪が消えて道が現れてますっ!」
鳳華音とその従者の小雀は前にも見ていたはずのこの技の本来の威力を改めて知り、唖然としていた。
そう、美鈴は来た時と同じようにまたしても屋敷からポータル建物までの道が雪で埋まっていた為、これを竜巻斬で吹き飛ばしたのだ。
「確かにお嬢様のおかげでポータルの建物入口まで雪の無い綺麗な一本道が出来ましたけど…」
その通りなんだが、何か問題があるんだろうか?
「その道の両側がすっごく高い雪壁になってませんか?」
「荘厳な眺めでしょ、褒めてもよろしくてよ愛麗?」
「いえ…アレが溶けた時の事を考えると…」
「それなら心配いりません、まだまだこの地方の寒気は春の訪れまで続くのでその間にこの雪が一気に溶ける事など無いでしょう。」
「寧ろこんなにアッサリと雪掻きを終え、我々の手間を省いていただき感謝します。」
当主はお辞儀してきた。
「そ、そんな当主様?頭をお上げ下さいな!」
「ははは、大胆でいて、その実とても謙虚な中身をお持ちのようですな美鈴嬢は。」
「…しかしこれほどの雪掻きに向いた魔法と魔力、この地に住むのにピッタリ…これはもう、我が領地の後継ぎに相応しい!」
「お?お父様?」
「どうでしょう美鈴さん、いっそこの華音を娶りここの新たな領主になられては…」
「い?!」
「いえいえ、まだまだご当主様お若いではございませんか!!」
「勿論今すぐにとは言わない、数年先でも良いので華音と結婚し私の後を継いではいただけないだろうか?」
「ま、まだまだ私高等部一年生で御座いますので、卒業まで後二年御座いますし、ですので…」
美鈴かなり焦ってるな。
華音と強引にくっつけられそうになって拒否ってやがる。
これはアレだな、つまり美鈴にとって一番の意中の相手は華音じゃないって事になるな。
なら寧ろ従者の方の小雀は?
コイツとはちょっとだけいい雰囲気になってたけど…。
「父役母様、幾らなんでも気が早過ぎます!」
「こう言う事は…もっと、そう、時間をじっくりかけてですね…(汗)。」
「しかし学院の違うオマエは毎日顔を合わせてるそこの御学友さん達より分が悪いのではないか?」
突然話しを振られてキョトンとする明花、愛麗、芽友、闘姫。
芽友は愛麗一筋だし、
愛麗は美鈴に時折セクハラかますけど芽友と恋仲だ。
だから美鈴と脈があるとすれば、それは間違い無く明花と闘姫の二人だけとなる。
ココにいる面々に限るなら。
そんな事まではここの当主は知らないからこんな発言が出たんだろう。
しかし実の娘が美鈴とそうなるのは満更でも無さそうなのは気付いてたらしい。
「もう!父役母様は黙ってて下さい!」
余計な世話を焼かれて華音がプンプンしてる。
膨れっ面が中々可愛いな。
【おい美鈴、案外このコとくっつくのもアリなんじゃね?】
(何をおっしゃいますか!)
俺は美鈴から思い切り圧をかけられた。
何だ?そんなに怒るような事じゃねーだろ、軽いおふざけだよ。
(貴方のおふざけはカチンと来ますのよ!)
う〜ん、前世の距離感だとソリが合わなくなってる気がする。
やはり前世男でも今世で女子にTS転生してたら何か会話にも支障が出るらしい。
(…名尾君て、ホント馬鹿ですね…!)
おい、ちょっと何時もより言葉にトゲあるぞ?
「コホン。と、ともかく早く王城へ出立しませんとせっかく作った道がまた深い雪で閉ざされてしまいますわよ?」
「おお、それもそうか。」
「では皆の者、出立する者達は皆、馬車にのるように!」
我に返った当主は馬車への搭乗を促す。
「やれやれ、ようやく出発ですのね。」
華音は父役母親が余計な事を言い出したばかりに予定より出発時間が遅れた事を愚痴った。
カッポレカッポレ…。
各馬車はユックリ進み出す。
「で、お嬢様?」
「何ですか小雀?」
「せっかくのボディーガードなのに美鈴さんは同じ馬車に乗らなくてもよろしかったのですか?」
「…あああ〜っ?!」
そう、何故かボコボコガード役を仰せつかったはずの美鈴は何時もの仲間達と同じ馬車に乗っているのだった。
「ちょ、ちょっと?今すぐこの馬車を止めなさい!」
「慌てるな華音、どうせ王城門前では順番待ちになる。」
父役母親は騒がしい娘に苦笑しながら華音の無理強いを止めた。
………。
「あちらの馬車、何だか騒がしいですわね?」
「きっと美鈴さんがこちらの馬車の方に乗られたからですよ。」
「良かったんですか?一応ボディーガードとしてココに来られてたのに。」
「ああ、ポータルですぐ王城前に着きますし、そこから王城内で襲撃される事もありませんでしょうから。」
(ま、何らかの謀略があるとすれば寧ろ王城に入ってからかも知れませんけど)
美鈴はそう考えてから闘姫に目で合図を送った。
すると微かに姫もコクッと頷いた。
かつてはこの国の姫でもあった過去世があるだけに(それも庶民出で召し上げられたという)美鈴の意図に気が付いたのかも知れない。
ま、その様子を見て明花はちょっとだけ嫉妬したのか頬が膨らんでいたが。
「各馬車、ポータル内に入り込みました。」
ポータルの外から警備兵の声がした。
「うむ…では移動を開始する。」
「目標地点、王城の入場門手前!」
「移動開始!!」
当主の掛け声と共にポータル内が淡い光に満ちてゆく。
「ここのポータルの魔力は我が家のそれとは違うようですわね。」
美鈴は前の馬車にいる鳳華音に風魔法で言葉を飛ばしながら話しかけた。
「ええ、同じ八大武家とはいえ黎家のは主に仕える四大名家の家が違いますからね。」
華音の返事はそのまま送られて来た風魔法が美鈴へと戻り届けられた。
「なるほど…言われてみれば月夜さんとは別系統でしたわね。」
四大名家とは王城を守護する為に配置された最高上位貴族にあたる。
それぞれが四方向四聖獣の印を冠する。
その霊力や魔力による守護を授かろうという意味があるらしい。
これらについてはいずれ明かされるだろう…
…多分。
と、言ってる間に馬車はポータルを抜けていた。
「見えましたぞ。」
当主の言葉に馬車の窓から顔を出す美鈴達。
「おお〜…あれが王城、ですか…。」
初めて見る明花達は感嘆の声を挙げた。
「久しいですわ。」
「ええ…とても、懐かしい…」
闘姫からすれば実に数百年ぶりの里帰り、いや実家への帰宅になるのかな。
「ふう…また今年もこの時が来たか…」
感動する女子達とは違い、当主はプレッシャーを感じているようだ。
まあ無理も無いか、せっかくの年に一度の一番おめでたい日にこの国一番の上司になる主君と顔を突き合わせなけりゃならんわけだからな、そりゃ気も重くなるわな。
「さて…あの方もここにいらしてるのかしら…?」
華音も表情が厳しくなった。
そう言えば南学院の常夏海の姉が脅迫の犯人と思ってるんだったな。
「さて…果たして新血脈同盟とやらは動きを見せるのでしょうか。」
闘姫が早くも辺りを警戒する。
「ま、何にしろ城の中に入れなければ手も足も出ませんわね?」
美鈴はお手上げポーズを取る。
知ってるぞ。
そー言う時のオマエが本当は実はどう転んでも大丈夫っていう自信があるって事をさ。
果たして華音を脅迫した犯人とは?
新血脈同盟に動きはあるのか?
そして美鈴と明花は招待状を親から受け取れるのか?