第百四十四話【雪中の御屋敷は春爛漫?】
美鈴達はポータルの向こうに現れた雪壁に途方に暮れるのですが…
『トンネルを抜けたら、そこは雪国だった。』
…なーんてCMのフレーズが昔あったとか。
等とオレが考えてると。
「ポータルを抜けたら、そこは雪国でしたわーっ♪」
馬車から降りた美鈴がはしゃいでいる。
他の仲間もゾロゾロと馬車から降り、目の前の雪壁を眺めて呆気に取られている。
【確かに雪国だな…】
王都近郊にある美鈴宅地下にある公用ポータルを使ってみんなは馬車で北部地方へ移動したわけだが…。
「こ、これは…想像以上に雪国ですね(汗)。」
「し、しかしこれでは…馬車が進めないんじゃありませんか?」
明花と芽友はその目の前にあるあまりの雪量に唖然としている。
「ポータル出口が、まさかの雪壁とは…」
白百合のプリンセスこと闘姫もこんな大雪は見た事が無いらしい。
「えと…お嬢様?ここは一つ、火魔法でトンネル掘って行くしか…」
「アホですの?この先何kmこの雪壁が続くのかもわかりませんのに。」
だいたい、美鈴が学園側に申請してるのは風属性の風魔法と水属性である凍結魔法、後は有翼飛翔魔術、超加速魔術だぞ。
つまりこれら以外の魔法は機密上、公に披露出来ないのだ。
だから美鈴は火魔法もとっくに修得済だろうが、表立って使えないのだ。
…で、やいのやいのと皆が言ってると。
ドオオオン!
いきなり目の前の雪壁が崩れた。
「ふーっ、やっとポータル手前の雪掻きが終わりましたねー(汗)。」
「うむ、皆の者ご苦労であった。」
キョトンと見ていた美鈴が、その顔を見てやっと言葉を発した。
「ふぉ…鳳華音さん?」
「え…?め…美鈴さん?!」
と、唐突にふわっと鳳華音の身体が宙に舞った。
その様子を眺めてると、突然彼女が足元から火を噴いた。
「やっと、やっと会えましたねーっ♪♪」
ゴオオッというジェット噴射音が鳴った時には既に鳳華音の身体が美鈴に激突…
かと思いきや、すかさず美鈴が展開していた氷の三重障壁に鳳華音は思い切り突っ込んでいた。
ゴガッ、グワッ、ボコオッ!!!
鳳華音は三番目の氷を上半身だけがぶち破り、美鈴と対面していた。
「アハハァ、私が怪我しないようにちゃんとクッションを作ってくれたんですねえ〜♡」
いやいや、どう見ても我が身を守る為だろう?
「あ、危ないところでしたわ…この障壁も以前より強化したばかりだというのにこの威力とは…」
美鈴の顔が引き攣り、氷点下にもかかわらず冷や汗をかいていた。
「華音、大丈夫かい?」
氷の障壁の後ろから声がしたかと思うと、アッサリ氷の障壁は溶かされた。
おかげで溶けた氷の水を被った鳳華音はびしょ濡れだ。
「ハックション!…助かりました、父役母親。」
「父役母親…では貴女が鳳華音さんの?」
鳳華音の背後に現れた紳士姿の女性は挨拶してきた。
「初めまして、私は鳳華音の父役母親であり、北部地方の領主でございます。」
「こ、これはご丁寧に!」
ビシッと姿勢を正す美鈴達。
「皆様が華音の待ち焦がれていたご友人の方々ですね?どうぞあちらの我が屋敷へおいで下さい。」
鳳華音の示した方向、つまり雪壁があった向こう側には広大な土地と何棟もの建物、更にはその奥に視認できる大邸宅があった。
「ば、馬車で来た甲斐があるというものですわね、これだけ広ければ(汗)。」
鳳当主は従者の連れてきた馬に颯爽と跨ると、華音を後ろに乗せてから先導を始めた。
その後を、再び美鈴達搭乗した馬車が、カッポ、カッポと蹄を鳴らしながらユックリ付いてゆく。
「へええ〜、見事な迄に除雪されてるんですね〜。」
明花は雪一つ無い邸宅周辺と敷地を見て感嘆の声を上げた。
「除雪したのは先程のポータル周辺だけです。」
「実は当館の敷地全体の温度が魔法のおかげで敷地外より高いんです。」
フフン、と鼻を鳴らし自慢する鳳華音。
「ええっ?そ、そんな事が可能なんですか?」
明花は華音の説明にビックリすると、美鈴や闘姫に尋ねてみた。
「…まあ、一個人の魔法でそんな効果を持続させるのは不可能ですね。」
闘姫が顎に手をやり思考を巡らせてる。
「となると後は何らかの装着や魔法陣によるシステムと思われます。」
「そうですわね…そう言えば仙人の元で学んだ知識に地脈というモノがありましたが、もしかしたらこれですかしら?」
「地脈…もしかして大地に流れるエネルギー、とかですか美鈴さん?」
「その通りですわ明花さん。」
「確かにどんな仕掛けにしろ長期的に魔力を補充し続けなければどんな魔法や魔術もその効果を持続させる事は出来ませんからその可能性はありそうですね、美鈴さん。」
「ですわ姫さん、それに…ほら。」
美鈴は敷地内の至るところに設置されている先の尖った幾つもの塔を指差した。
「あれはおそらく大気中…又は空や天からのエネルギーを集める装着とも考えられますわ。」
「何故そう思われますか?と言うか鳳家はそれを何に使用されてるのでしょう?」
「使用用途はわかりませんが、地脈エネルギーを利用してないならあの塔が集めた魔力やエネルギー等がこの敷地内の積雪を食い止めてるかも知れないですわね。」
「フフフ…皆さんって、思った以上に聡明なんですね。」
鳳華音は楽しそうに笑った。
「ではやはりあの塔の羅列が?」
「美鈴さんは良い観察眼をお持ちですのね♪」
「私も具体的には知らないのですけどあの塔のおかげで我が家の敷地は年中穏やかな気候で住めるのですよ。」
「娘の言う通りで、我が家は代々あの塔により護られていると言えるのですよ。」
「あの塔の働きはそれだけではありません、対魔族用の結界でもあるのです。」
「対魔族、ですか?」
「屋敷と敷地だけに留まらず、街全体を守護する結界を張る役目があの塔にはあるのです。」
当主は目を細めながら塔について語った。
その言葉からは塔に誇りと愛着すら感じられた。
そうこうしてる間に馬車は邸宅の玄関に到着し、全員が大広間に通された。
そこには豪華な料理が用意されており、俺達は改めて自己紹介をしながら料理に舌鼓みを打った。
…まあ、オレは仮面の聖霊だし?
せっかくの料理も食べれない上に向こうに認識されない(まあ認識されたらそれはそれで困るんだけど)からスッカリ蚊帳の外だったけどさ…。
(拗ねないで下さるかしら名尾君?)
(ウフフ…聖霊様も寂しいなんて思われるんですね?)
(残念でしたねー、代わりにお料理はこの私が沢山食べてあげまふーっ、ゲプッ!)
あまり嬉しくない声を美鈴、闘姫、愛麗からかけられる。
まあコイツらなりに気を使ってんだろうけどさ?
「美鈴さん、ちょっといいかしら?」
鳳華音が美鈴の側にやって来た。
「あら何かしら華音さん?」
「後で…私の部屋へ来て下さらないかしら…♪」
「んぐっ?」
美鈴は食べていた料理を喉に詰まらせかけた。
ぶじ、鳳家に歓待される美鈴一行。
華音からの美鈴へのお誘いは嵐の予感?