第百四十二話【一人娘に大甘なのは世の常か】
美鈴の父役母親が帰宅。
ここの親子らしい熱い挨拶の後で娘からオネダリされる父役母親は…。
「ただいまー、美鈴ー!!」
玄関から大きな声がする。
「父役母様?!」
仲間達とカードゲームに興じていた美鈴はゲームを途中で放り出すと早足で廊下に出た。
本人はかなりユックリのつもりだろうが彼女に付いていけたのは仮面の剣豪である闘姫くらいのもんで、明花と芽友がやっと部屋を出たころには既に美鈴は階段を駆け下りていた。
足捌きの速度はそんな速くしてはいないのに何でかな?
…と、思ってよく見ると美鈴と闘姫は一歩で進む距離が明花達の倍近い。
更に見比べると、闘姫の方はまるで滑るように移動してるんだけど美鈴の方はと言えば歩幅そのものが長い。
と言うことは、おそらく闘姫は少し浮かびながら地面を蹴ってるんだろう。
美鈴は意識せずとも早歩きがホップ・ステップ、みたいな感じで前方へジャンプしてるらしい。
てか家の中くらい普通に歩けよ?
「おおっ、美鈴!」
バッと両手を広げて美鈴を迎え入れようとする父役母親。
「父役母様〜♪」
美鈴が駆け寄る。
傍から見れば微笑ましい父娘の再会シーンなのだが…。
「行きますわよっ、父娘母様!っ」
「来なさい、美鈴!」
それは突如始まった。
二人は途端に険しい表情へと豹変していたのだ。
何と美鈴は全身に突風を纏わせ、父役母親もまた両腕の間に魔法陣を発生させると炎の壁を発生させた!
「竜巻撃破ー!!」
美鈴は突風の先端を拳へ集約して突進する。
「火焔障壁!!」
父役母親は両手を前に突き出し火焔の壁で美鈴の拳を迎え撃つ。
そして、娘の放った風魔法の突撃とそれを防ぐ父役母親の焔の障壁が正面からぶつかりあった!
ドオオン!!
爆発音が玄関に轟く。
…しかし母親の時と言い、つくづくここの親子は骨の髄まで戦闘系なんだな。
母親とは剣技、この父役母親とは魔法でのぶつかり合いがまさかいきなりな再会の挨拶代わりとは…。
等と俺が呆れ…いや、感嘆しているうちに気が付けば焔と風は霧散し、父役母親の突き出した両手の僅か手前まで拳を伸ばした美鈴が佇んでいた。
「また新しい技を習得したようだね、美鈴?」
「父役母様こそ絶妙な力加減でしたわね?」
【どういう事だ?】
(つまり父役母様は、私の攻撃に込めた威力を相殺出来るレベルにあの焔の壁のパワーを抑えたのですわ。)
(本来あの技はただ相手の攻撃を受け止めるだけでなく、そのまま押し込んで相手を吹き飛ばすか粉砕する攻防一体の技なのですわ。)
【な、なるほど…】
(これはこれは今代の仮面の聖霊様、娘が何時もお世話になっております。)
【あ、貴方も俺…いえ、私の声が聴こえるんですね?】
(ははは、私と妻は聖霊の仮面の前の持ち主でしたからな。)
【お二人で一つの仮面を?】
(特例でね、二人で状況に応じてそれぞれに使い分けたのですよ。)
(そうだったんですの?)
(まあその話しはまたの機会にしようか。)
「あ、そうですわ父役母様、実はお願いしたい事が…」
「それも含めて先ずは応接間に移動しよう、階段の前で待っているお友達も一緒に、ね?」
父役母親は明花達に手を振るとウインクをした。
と、その中にいる闘姫を見つけ
「おおっ…貴女は…」
お辞儀をした。
「…お久しぶりです、ご当主。」
闘姫は挨拶を返した。
そうか、父役母親の当主が聖霊の仮面を使用していたのなら白百合のプリンセスこと聖練潔白とその元の姿を知っていても不思議じゃないか。
…………。
「御帰りなさい、アナタ。」
「ただいま、キミと娘の顔を見れてホッとしたよ。」
ギュッ、と抱き締めあう夫婦。
コホン、と美鈴が咳払いすると二人はいそいそと離れた。
「では改めて皆さんにご紹介致しますわ。」
「皆さんはじめまして、私はこの館の当主であり美鈴の父役母親である黎鈴蘭です。」
「もう御存知でしょうが改めて自己紹介します、私が美鈴の母親、黎麗美で御座いますわ。」
「はじめまして、私達は美鈴さんの同級生です。」
「私は文明花、このコは側仕えの芽友です。」
「芽友です。」
二人はお辞儀した。
「改めまして、私はこのお二人と同じく同級生、という立場の闘姫を名乗っております。」
闘姫も改めて正式な挨拶をした。
「ささ、みんな座って楽にしなさい。」
応接間のソファに全員腰掛けると
「失礼します」と召使い達がお茶をそれぞれの前に置いた。
最後にお菓子がコトッとテーブル中央に置かれた。
「さていきなりですが父役母様、私は先程述べた通りお願いが御座いますの。」
美鈴はしずしずとお茶を口に付けてからそう言った。
「なんだね?何でも言ってごらん、美鈴の望みなら大抵は叶えてみせるよ?」
一応女性ながら父役だけあって娘には甘々なようだな、これは何処の世界でも変わらないらしい。
目尻まで下がってら。
「都市間ポータルの使用を許可下さいな。」
途端に父役母親の目が厳しいものに変わった。
「ほう…アレをかね。」
「理由次第だね、述べてみなさい。」
「ここにいるお友達を〜、私と一緒に北方の都市へ送り届けて欲しいんですの〜♡」
瞳をキラキラさせながら笑顔を父役母親へと向ける美鈴。
オネダリする為とはいえ、目一杯ぶりっ子しやがって!
普段のヤツ…前世も含めて知ってるオレからすれば気持ち悪いことこの上ない!
…まあ、側だけ美少女なのは認めるが。
「何故この厳しい冬の北方都市へ?」
「…実は北方の親友宅とお泊りの約束しておりますの。」
「いや、幾らオマエが親友との約束だからってあのポータルは公務の使用に限定ててだな…」
「因みにその親友とは…」
「鳳華音さんですの。」
ピクッ。
「鳳…華音…?」
「北方都市の…まさか…いや、そうか…」
ブツブツ独り言を呟く父役母親。
そして彼…いや彼女は美鈴にこう言った。
「許可する!美鈴の頼みだ、断るわけにもいかんしな!」
父役母親はパアッと笑顔でこう言うのだった。
「アナタ…相変わらず娘に甘いのですね…」
美鈴の母は頭を押さえて愚痴るのであった。
……一方その頃。
「やったー!!補習終わりましたー!!」
愛麗は教室でバンザイをした。
「これで後はお嬢様に連絡して芽友に迎えを…」
ここでコイツはハタと思った。
「…あれ?お嬢様にどうやって連絡取れば良いのでしょう?」
「うわああ〜っ?これでは迎えに来て貰えません〜っ!!」
嘆くな、明日になれば迎えに来る約束だろうが!
てなわけで翌日には美鈴と芽友が愛麗を迎えに来て一行はようやく鳳華音の待つ北方都市へ出発する予定だ。
まあ…大丈夫だろ、多分。
愛麗もようやく美鈴達と合流出来そうです。
いよいよ一行は北の地方、北方都市へと向かう事に。