第十四話【締めの技はやっぱりアレだった】
ドラゴンと超速星こと美鈴の戦いは遂に決着を迎えます。
が、簡単には終わらないのでした。
更には今後のゲームシナリオを進めるにあたり困った事が判明します。
超速星が駆け出した瞬間、全身が電光となって大地を迸った。
フレイムドラゴンの側をすり抜けると、鋭角に曲がり反対方向へ。
更にはその反対方向も鋭角に曲がり、そこから一気にフレイムドラゴンの側面へと突っ込む。
衝突かと思われるその瞬間にフレイムドラゴンへ斬撃を浴びせ、その勢いのまま擦れ違って遠ざかる。
それら全てが一瞬の間で行われ、フレイムドラゴンには目の前から消えた超速星が突然真横方向へ遠ざかったように見えた。
それを目で追い、向きを変えたフレイムドラゴン。
不意に胴体への痛みを感じ自分の身体をチラッと見た。
すると。
【な、…ななな?】
フレイムドラゴンの腹部の鱗が切り刻まれて砕けていた。
そして鱗の傷口からは真っ赤な肉が覗いていた。
【い、いつの間に?】
(…フフフ。あの速度で斬り付けた上に傷口は焼いておりますから出血はあり得ませんわ。)
如何に歯止めを施してある剣とは言えどあまりもの高速と剣圧で振るわれた為、浅い斬り方にもかかわらずスパッと鋭利な刃物で切り裂いたような傷口が出来てしまっていたのだ。
しかし美鈴はそこまで計算した上で出血しない斬り方を成し遂げていた。
『どうしたドラゴン、寝坊けていたのか?』
【我の目が、捉え切れないだと?】
『そう。私の名前、超速星は、伊達ではない!』
再び超速星が電光となって輝くと、今度は瞬時に上空に到達していた。
そして。
『巣破亜空っ!』
今度は全身電光のまま火花を吹き出してフレイムドラゴンに体当たりをぶちかました。
ズゴオオオンッ!!!
地面が轟き、大気が震えた。
それはまるで雷を伴う隕石の落下のようだった。
【ぐっご、ぐおおおう………。】
呻き声を上げ腹部がひしゃげかけたフレイムドラゴンの周りはクレーターとなっていて、そのフレイムドラゴンの上に超速星が立っていた。
もはや、これで勝負あったと言えよう。
「ゴホゴホ、ケホッ!」
「や、やり過ぎだ…。」
「何てスピード、そしてパワーなのかしら?…けほっ…。」
周囲に土煙が舞い、それは校庭中央の祭壇付近までに及んだ。
そのため少し埃を被ってしまった范先生と明花が軽く咳き込んでいた。
『おお、二人とも済まない。もう少し力を抑制すべきだったかな?』
「いえ、あのフレイムドラゴン相手に手加減は難しいでしょうから、仕方がありません。」
「ともかく、もうそこまで痛めつければ充分だろう。後は私がそのドラゴンを………。」
『そうだな、私の役目はここまでのようだ。』
【ぐ、かっ、勝ったつもり、か…?】
『これ以上の戦いは無意味だ。』
【ぐぐ………お、おのれ………。】
フレイムドラゴンの全身を覆う焔は消え、元の黒い身体へと戻っていく。
(おかしいですわ?…ヤケにあっさりと退きすぎなような気が…え?待ってください?)
【美鈴、思い出せ。フレイムドラゴンが仮面の剣豪に敗れた後で何をしたかを!】
(ドラゴンの身体を覆う焔が消えていく…身体の表面から消えた焔は…身体の内側に溜め込まれる…そして………ああっ?!)
『まさか、自爆かっ?!』
超速星は咄嗟にドラゴンから離れる。
どんどんドラゴンの焔が消えていく。
『二人とも、離れるんだ!』
「ダメだ!今ここを離れれば安月夜を見捨てる事になる!」
「何事ですか?結界強化では間に合わない事ですか?」
『もうじきこのドラゴンは大爆発を起こす、校庭はおろか校舎全てを破壊する程の爆発だ!』
「そ、それじゃこの結界を多少強化したぐらいでは間に合わない?!」
(考えろ、考えるんですわ美鈴!ゲームでは確か…。)
【お前の得意な事は何だ美鈴。】
【いつもやって来た鍛練は何だったんだ?】
(いつもやって来た………?)
と、言えばもうアレしか思い付かなかった。
静かに剣を振りかぶる超速星。
剣が変形し、中央から二つの刃へと別れて中には短く鋭い突起状のショートソードが現れて剣先へと移動する。
これで中央に空洞の出来た剣への変形を完了した。
「何をする気だ?」
「超速星様?」
范先生と明花が疑問を口にする。
(狙いは仰角55度。最も遠くまで飛ばせる角度。)
(さあ、やりますわよ。これまでの私の真価がここで問われます!)
『人放打!!』
超速星が剣を振り下ろす。
インパクトの手前で超速星と剣が目映い光を放つ。
『行っけえええ~~~っ!!!』
剣の刃ではない、平たい面となる中央の空洞部分でドラゴンの身体を捉えると、掬い上げるようにドラゴンを叩く。
ズガアアーーーンッ!!!
(人間飛ばし令嬢の通り名は、伊達ではありませんわー!)
『秘剣!ドラゴン飛ばーあしっ!!』
フォロースルーもバッチリ決まっている。
これがゴルフなら300ヤード越えは必至だろうという、完璧なスイングだった。
叩かれたドラゴンの方も思わず身体を丸めてしまい、身体の鱗のデコボコも加わり益々真っ黒いゴルフボールにしか見えなくなった。
そのまるで、ゴルフボールをぶっ叩いて飛ばしたかのようにフレイムドラゴンの身体はそのまま夜空の星となって消えた。
その数秒後。
ドッカアア~~~ンッ!!!
大きな爆発音が上空にて轟いた。
それと共に幾重もの火花や閃光がカラフルな色彩を伴って夜空を明るく照らしながら彩った。
『…ふう。愚かなドラゴンめ。自爆などせずに大人しく帰れば良かったものを。』
これは格好付けやゲームのシナリオに合わせた台詞でもある。
が、美鈴はこの時、本当に心底からそう思ったのだ。
戦いなどはゲームや試合だけで充分。
なにも命を懸けてやり取りまでする必要などはない、どんな理由があるにせよ、そんなの馬鹿げている、と。
(さよならドラゴンさん。また楽しく手合わせをしたかったですわ…。)
少し寂し気に俯く超速星に気が付く明花。
(超速星様が、泣いておられる?)
(あのドラゴンのために?)
(なんて、なんてお情けの深いお方なのかしら。)
この時の明花の感想が後で拡散し、後の『慈悲深い仮面の剣豪』の伝説を彩るのに一役買ってしまうのは誰のせいでも無かった。
『それでは、私はこれで失礼する。』
「あ、待ってください?」
『何かな?』
「その、助けていただきありがとうございました!」
明花が頭を下げた。
「私からも礼を言う。ありがとう、超速星殿。」
『うむ。では、また会おう!』
飛び上がると同時に電光となり、そのまま天空へと飛び去る超速星。
学院の鷹の目で捉えられる姿はここまでだった。
こっそり校門の裏側まで転移した美鈴は既に元の姿へと戻っていた。
そして未だに気絶したまま眠りこけている愛麗の頬っぺたをツンツンと指で押して遊んでから彼女を担ぐと、校門へヨタヨタと歩き出す。
「さ、流石に体力と魔力の消費が激しかったですわ…。」
「これからは聖霊の仮面やその技の使いどころは良く考えないといけませんわね…。」
と、校門を潜る前に急に美鈴の意識だけがゲームチュートリアル画面のような空間へと誘われた。
そこにはクイズ番組の回答者席のような場所に座っている自分と、司会者席らしき席で腕組みしながら気難しい顔をしている仮面の聖霊こと名尾君が座っている。
【クイズ・『ゆりかめ』のお時間でーす。】
「はあ?クイズ『ゆりかめ』え?」
【ラノベやゲームタイトルにもなってる『白百合の園の仮面の闘姫』を縮めて略したのが『ゆりかめ』だよ。間違っても「ゆりかもめ」なんて呼ぶなよ?】
「呼びませんわよ、そんな略称。」
【このクイズはあまりにもゲーム内容を逸脱した展開に走るバカのために、優しくチュートリアルするべくわざわざ俺が作ったコーナーだ。有り難く思うように。】
【さて、確かにあの形態…『電光烈火』はパワーと速度、防御力に特化しているから一番魔力消費が大きい。】
【仮面の剣豪の形態の中でも一番使い処の難しいあの形態からいきなり使うとは無茶苦茶だぞ。】
「え?そうでしたっけ?」
「なんだか気合い入りまくりで良く考えないで変身したらあの形になったのですけど。」
【お前、本当に脳筋だな?】
【そこで問題です!このゲームの元となった本来のラノベで、原作者が主人公の変身する仮面の剣豪に付けたヒーローの名前、覚えてるか?】
「ええと、…白百合の、プリンス…?」
ブブーッ!とブザー音が周囲に響いた。
「え?なんですのこれ?」
【不正解だ。】
と、突然美鈴の頭上から彼女の身体に大量の水がぶっかけられた。
ビシャアッ!!
「い、一体何ですのこれ?…ふぁ、ファーックション!」
「か、風邪引いたらどうする気ですの?」
【安心しろ。これは精神世界の出来事だから身体は風邪をひかん。】
【で、さっきの答えだが残念な事に一文字だけ
抜けてる…プリンスじゃなくてプリンセスだ!】
【さっきのお前の変身姿の一体どこが『白百合のプリンセス』だ?アレじゃまるで某◯◯刑事や時空◯◯や仮面◯◯◯ー、じゃないか!】
【いかにも男の子の喜びそうなメタルや装甲ヒーローそのものの姿だったぞ、お前、前世の趣味反映させ過ぎ。】
「…別に意識したワケではないのですけど。」
【お前は意識してないだけで色んなとこで大雑把だし男っぽさが滲み出てるの!】
「そうでしょうか?ちゃんとお母様から厳しく貴族の娘としての淑女らしい英才教育を施されてきたのですけど…?」
【あの母親の英才教育の半分は剣を振り回す事だったような気がするんだが…?】
「そこは、それ、この通り強くなれましたわ!」
【本当、脳筋母娘…。】
【とにかくだ、次の質問。】
【白百合のプリンセスと呼ばれた基本形態は次のうちどれが最も相応しいでしょうか?】
【A・あらゆる魔法が強化される『真面狩』、ダガーを護身用に所持し、身体は最大火力を発揮する魔力砲ともなる杖を持った金色のローブ姿になる。】
【B・幻惑能力強化と運動能力向上の『不可視擬』、身体は双剣を手にした軽装な紫のチャイナドレスになる。】
【C・あらゆる能力をバランス良くミックスして発揮する『聖錬潔白』、レイピアが武器で、王冠とリボンを髪にあしらい身体の色は清純な純白で露出多めな動きやすいドレス姿。】
【さあ、どーれだ?!】
「う~ん、どれも引っかけのような気がしますわ…。」
どこに引っかけ要素があるんだ?と思う名尾君であった。
そしてコイツ、本当に学院の主席か?とも疑いたくなった。
もしかしたら学力はゲームによる補正であって、地頭はむしろ悪いのではなかろうか、とも。
「ん~、これにします!」
「ズバリ、魔力強化の『真面狩』ですわ!」
【………して、そのココロは?】
「だって、最大火力の魔力砲でしょう?身体の色も金色だし、まさしくプリンセスに相応しくありませんこと?」
【…お前ってヤツぁ~よお?】
ブブーッ!!
不正解のブザーが鳴り響いた。
「ええー?何で、何ですのお??」
オロオロと慌てふためく美鈴の頭上に、今度は金属タライが降ってきた。
ガコオ~~ン☆
「あ痛ぁ~っ☆」
「…な、何をなさるんですのお?」
【不正解だからだよ!】
【さっきから『白百合』、のプリンセスだと言ってるじゃないか、金ピカとか紫とかのコスチュームの方を選ぶか、普通?!】
「で、でも後の二つは能力的に少し地味じゃありませんこと?」
目尻に涙の粒を浮かべてタンコブの出来た頭頂部をさすりながら美鈴はそう返した。
【…次が最後の問題。今度こそ間違えるなよ?】
【さっき倒したドラゴン、ラノベやゲームではヒーローはどのようにドラゴンを葬ったでしょう?】
「え?あのやり方じゃダメだったんですの?」
【そもそもいつもの鍛練と言ったのに、なんでそこで人間飛ばしを思い付くんだ?剣以外なら魔法の鍛練しかないだろうに!】
「あ、そうでしたわ。あれは鍛練には入りませんものね…。」
タハハ、と舌をペロッと出す美鈴。
【結果オーライだけど本来のやり方ではないからな、今後の事を考えるとなるべくシナリオに沿ったやり方でないと先が予測し辛くなるぜ?】
「あー、それもそうですわね。」
「んーと、ゲーム通りの倒し方、倒し方…?」
【あと十秒で答えろよ。】
「急かさないでくださいな!」
【ほれ、あと8秒!】
「う、くっ…。」
【あと5秒、…4、3、2…】
「あ、ハイハイ!わかりましたわ!」
【では、解答をどうぞ。】
「正解は、凍り漬けにする!ですわ!」
満面の笑みで正解を確信する美鈴。
【ほお。…んで、何でその答えに?】
「相手は焔を体内に大量に溜め込んでました。高熱の塊なのですから、対抗してメッチャ冷やしてやれば良いのですわ!」
フフーンと、してやったりとばかりに名尾君をニヤニヤ見る美鈴。
が、
【【【ブブブブブーーーッッッ!!!】】】
先ほどまでとは比較にならない程の大音量で不正解のブザーが空間全てを揺るがした!
両耳を押さえる美鈴。
「な、何で?!一体どうしてなんですのー?!」
【美鈴よ、良く考えてみろ?】
【幾ら身体の表面ばかり冷やしたところで無意味だろ?】
【現にあのドラゴン、最初に美鈴の凍結魔法で手足を凍らされた時にあっさり手足に付いてた氷を溶かしてただろ?】
「ああ、そう言えば。」
【あの時に気が付けよ?いいか、中まで凍ってたら表面だけの解凍じゃ追い付かない。】
【中身まで凍ってたとしたら、時間をかけてゆっくりじわじわと内側から温め直していかないと、いきなり熱したら身体の組織はバラバラになっちまうぞ。】
【それをヤツはあっさり溶かしていた。つまり中までは凍って無かったということだ。】
【加えて爆発前のドラゴンは身体の中心に自身の高熱の全てを蓄えていた。】
【お前がヤツを凍り漬けにするならそれを上回る凍結魔法の力をヤツの全身だけじゃなく、その中心部から凍らせる必要があった。だけどさっきの解答からだとそこまで考えてなかったんだよな?】
「そ、そうでしたの?!」
「や、やらなくてよかったですわ…。」
ホッと胸に手をやる美鈴。
知らずにやっていたら爆発は止められなかっただろう。
【で、正解はどうだったか?】
【それは、『重力で圧縮する』だ。これが正解。】
「あ、そう言えばそんな技も使えましたわね。」
【何処かで爆発させるにしても運んでいては間に合わない。だから白百合のプリンセスは重力魔法結界でドラゴンを封じ込めて圧縮した。凄まじい重力により爆発は外に逃げる事が無かったと…これが本来のシナリオだよ。】
「そ、そう言われてみれば、そうだったような気がしますわね…?」
バツが悪そうに頭をかく美鈴は冷や汗を垂らしていた。
【お前は戦いや怒りで頭に血が登ると肝心な事をすぐさま忘れるんだな。…では、不正解だったという事で。】
(つ、次は何が来ますの…?)
美鈴が上を見上げたその瞬間、顔面に大量の粉が降ってきた。
バサアッ!!
プッ、ゴホッ、ゲホゴホッ…エヘン、エヘン、ゴホッ…!?
美鈴がひたすら咳き込んでいた。
顔や身体中の表面を粉で真っ白にしながら。
【これで白百合の名に恥じないくらい真っ白になったな?………取り敢えず色だけは、な。】
【ではまた来週、この時間までサヨウナラ~♪】
いつまでも咳き込む美鈴を他所に名尾君の姿が消えて行くと、いつの間にか美鈴の意識は校門の裏側へと戻っていた。
(み、見てなさい。今度こそは!)
クワッと夜空を見上げる美鈴。
(次こそはっ!)
(クイズに全問正解してみせますわーっ!!)
【~そうじゃないだろ、美鈴?】
頭を抱える仮面の聖霊だった。
そうなのだ。
美鈴がゲームシナリオをちゃんと思い出し、その通りに行動するだけなのだが。
彼女の記憶が所々抜けているのは転生による影響なのだろうか。
一つ言える事があるとすれば、この日以来ゲームでのフレイムドラゴンとの戦闘シーンでドラゴンの爆発から皆を守る選択肢の中に新たな選択肢が加わったという事だ。
【ドラゴンを剣でぶっ叩いて夜空に飛ばす。】
これが新しくゲームに加わった選択肢となった。
因みに余談ではあるが、ヒロイン達の好感度上昇ポイントは重力魔法結界で圧縮して封じ込めた時の半分となるのであった。
そして、何とか戦いを終えた美鈴は気を取り直して校門をくぐる。
「おーい明花さーん、范先生ーッ!」
「おお、美鈴君!無事だったか!」
驚きながらも顔が綻ぶ范先生。
そして。
「…め、…美鈴、さん…?」
ポロポロと涙が再び零れ始める明花。
「ごめんなさーい、暫く気を失ってましたわー。」
「それより誰がドラゴン片付けてくださいましたの?もしかして先生?」
「いや、私はムリだよ。これは超速星が…」
と、そこまで先生が言いかけた瞬間。
「美鈴さあ~ん!」
明花が美鈴の元へ駆け出した。
目に涙をいっぱいに浮かべながら明花が身体ごと美鈴にぶつかっていく。
彼女の思いを込めて。
「ちょ、明花さん?!」
そして思い切り明花の身体が美鈴へと正面からぶつかる。
受け止めきれずに仰向けに倒れる美鈴。
泣きじゃくり抱き付く明花。
(み…明花、さん…。)
そんな彼女を、そっと抱き締める美鈴であった。
「心配かけて、ゴメンなさい。…ですわ…。」
「め、美鈴さ~ん…。」
泣き顔の明花の顔がおかしくてプッと小さく笑った美鈴が明花の目に浮かぶ涙をそっと拭った。
………と、
「ぐ、ぐるじいれす、お嬢様ぁ~っ。」
美鈴の背中から二人分の体重に押し潰されて悲鳴をあげる愛麗だった。
「あら愛麗?…これは私を危ない目に合わせた罰ですわ。暫くそうしてなさい!」
「そ、そんなあ。もう、私、ダメえ。」
グッタリする愛麗。
「美鈴さん、さすがに退いた方が…。」
泣き止んだ明花が心配そうに話しかけた。
「愛麗しっかりなさい?」
美鈴に頬をペシペシ叩かれる愛麗。
「あああ~、お嬢様の、ご褒美い~☆」
「何だ、平常運転でしたわ。」
「愛麗さんて、根っからの変態なのですね?」
この明花の言葉にプッと吹き出す美鈴。
釣られて明花も笑い始める。
やがて二人が大声で笑い始めると、ワケもわからず愛想笑いする愛麗。
それをヤレヤレと困り顔で頬笑みながら見守る范先生。
そして、事なきを得た安月夜先輩は。
変わらずに壇上で楽しい夢を見るように微笑み続けているのだった。
(現れましたわ。私の…王子様が…。)
その日は中央貴族学院高等部の正式な祝日となることが後の職員会議で決定した。
その祝日に付けられた名前は【超速星の降った日】。
学院の危機が救われた救済記念日として学院のカレンダーにのみ刻まれる事になるのであった。
全ては丸く収まったようで何よりです。
次回からはまた平穏な学院生活に戻ると思います。
それにしてもドラゴン騒ぎの原因は何だったのでしょう。
安月夜と彼女の家庭教師の謎はまだ解かれていません。