第百三十八話【学院祭最終日・その⑪…ダンスパーティーは冬と春のマリアージュ】
やっと明花とダンスする事にした美鈴。
変身を黙ってた事へのわだかまりはもう二人にはありませんでした。
芽友のせいで王都に瞬間移させられ買い物までさせられている闘姫。
その彼女の胸元に入れられている聖霊の仮面の中にいる俺は美鈴達の事が気になり、自慢の千里眼もどきでその現場を視聴していた。
さて明花の方からダンスを申込まれてしまった美鈴だが…。
「あ、あの…」
完全にドギマギしてしまってる。
この不測の事態に、ついさっきまで仮面の剣豪への変身を黙ってた事への気不味さなどとうに吹っ飛んでしまったみたいだ。
(ななな、何で明花さんの方から、わ、私にダンスの申し込みを〜〜?!)
【何でって、そりゃオマエの事を好いてるからに決まってるだろう?】
(そ、それって友達だからですわよね?真の友、としての…)
【あのなあ、彼女のあの真剣な表情を見ろよ?】
俺はこの期に及んで未だ友情と言い張る美鈴に対しホトホト呆れながらもヤツの言葉を否定してやった。
明花の顔は今にもお湯が沸騰しそうなくらいに火照っていて、大きな二重瞼の瞳がウルウルしていた。
(ゴクン。)
そんな明花の表情を見た美鈴も流石に彼女の心情を察したのだろうな、美鈴の逃げ腰だった顔も引き締まりつつあった。
【おい、ここまで相手に行動させておいて断る、なんて選択肢は無いよな?】
俺は更に釘を刺した。
(…勿論、ですわよ…)
(明花さんに恥をかかせるわけにはいきませんわ。)
これでようやく覚悟が決まったのかな?
(でも何であのコの方から申し込んできましたのかしら?)
【テメェがグズグズしてるからだろが!】
【もうダンスパーティーも終盤に差し掛かってんだぞ、早くしろ!】
(は、はい、ですわ。)
俺が一喝してようやく気合いが入ったのか、美鈴は力のこもった目で明花の顔を見詰めるとフード付きマントを脱ぎ去った。
それは銀とクリスタルのアクセサリーをふんだんにあしらったまばゆい白銀のドレス。
これから訪れる雪の季節を表したのかも知れない。
中々のコーディネートだ、誰のセンスだろう?
(勿論私ですわよ!)
【へえ、オマエってドレスのコーディネートも出来たんだ。】
(つくづく失敬ですわね貴方は!?)
俺の失言に憤慨しながらも美鈴は気を取り直し、
「あのっ、明花さん?」
「は、はい!」
「ダンスにお誘い頂き光栄で御座いますわ。」
「しかし、私としては貴女からお誘いを受けるよりも自分からお誘いしたいのですわ。」
「え…」
「で、では…?」
目をパチクリさせる明花。
「ですから、これが私の返事で御座いますわ。」
美鈴はここで一旦、コホン、と咳払いをした。
そして明花の目の前に手を差し出してこう告げた。
「文明花さん、この私と一緒にダンスを踊っていただけませんこと?」
ドキン!
目をパチクリさせてから明花はこう答えた。
「は、はい…勿論、喜んで…!」
明花の目尻から涙の粒が溢れ落ち、続いて次々と涙が流れ落ち始める。
「あ、あれ…」
「やだな…私っ…たら…」
溢れ落ちる涙を手で拭いながら、もう片方の手で美鈴から差し出された手を掴む明花。
「そ、そこまで泣かれる事ですの?」
「単にダンスを申し込んだだけですのに…(汗)。」
美鈴のヤツ、俺や周りには分かるはずの明花の心情を理解してないのか、戸惑ってやがる。
「え、えへへ…。」
「すみません、つい嬉し過ぎて感激しちゃいました♪」
少し鼻声ながらも明花が涙の理由を言い訳した。
「たくもう、ダンスに誘われたくらいでそんなに感激されていては実際一緒にダンスしたら大変な事になりますわよ?」
「…あ。」
「そういえば私、あまりダンスの事は知らないんでした。」
「え?最初に誘っておいてそれですの?」
「す、すみません、私、美鈴さんと踊る事ばかり考えてまして、自分がダンスに疎い事忘れてました☆」
「あらあら(笑)。」
そう言いながら二人は手を取り合い行動のダンスホールエリアへと移動する。
「…これで、もう一安心ですね。」
「…ムシャムシャ…ですねえ。」
「そんなわけで愛麗、私達も踊りましょう?」
「えっ?まだお食事が…」
「時間も料理もまだ余裕ありますよ!」
こうして愛麗は口いっぱいに料理を頬張りながらもほぼ強制的に芽友のダンス相手をさせられるのだった。
「あ、見てみて!」
「何よ?」
「何かしら…」
「あーっ、今年ベストカップルに選ばれたあの二組がダンスしてますわー♪」
「え?本当に?」
「ああ、アレはまさしくドラゴンスレイヤーの美鈴さんではございません事?」
「なんて美しい…まるで雪の妖精か氷の女神のようです…♡」
「お相手のお方は可愛らしい野の花のよう…まるで春に現れた悪戯好きな花の妖精」
「まるで厳しくも尊い冬の雪原と暖かく微笑ましい春の高原みたいな取り合わせですね…♡」
周りでダンスしていたカップル達もダンスを止めてこの二人の艶姿に見入っていた。
しかもダンスに詳しくないと言いながら明花は美鈴のリードが良いのか、それとも美鈴が上手く合わせてるのか知らないけどモタついたり特にミスする事もなく何とかダンスを続けられていた。
少々拙い明花のダンスを優しく美鈴がリードする様に見る者達の心が和んだ。
そこにはただひたすら優しい世界が広がっていた。
………その一方で。
「ギャフっ?」
「あ、すみません芽友。」
「ま、またですか貴女は?」
「怒らないで下さい…ワザとではありませんから。」
「言い訳するよりちゃんと注意して…ヒギッ☆」
「ああっ、ゴメンナサイ(汗)」
芽友は何度も足を愛麗に踏まれて難儀していた。
幾ら一緒に踊りたかったからとは言え、明らかに芽友はダンスパートナーのダンス技量を見誤ったのだ。
というかそもそも愛麗自体にダンスの素質が皆無に近かったんだろう。
美鈴と明花がダンスホール中央で周りの視線を集める中、この二人はヒッソリと陰でダンスと悪戦苦闘しているのだった。
…………。
【おーい、そろそろ買い物終わったかー?】
「お、終わり…ました…」
肩で息する闘姫。
芽友、もう少し手加減しろ。
幾ら何でも日常雑貨まで含めて背中と両手いっぱいの買い物の言いつけはやり過ぎだろう?
「で、ではこれから飛んで帰ります…!」
闘姫は片手の荷物を置いた後で聖霊の仮面のコピーである白百合のプリンセス専用仮面を取り出し顔に付ける。
ピカッ☆
「仮面の剣豪、聖練潔白!」
「またの名を、白百合のプリンセス!見参!」
…パチ…パチ…。
人もまばらな晩秋の夜の公園で、たまたま通りがかった帰宅途中らしい老婆が意味も分からず拍手してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
その形ばかりの拍手に、取り敢えずお礼を言う白百合のプリンセス。
何だか侘びしいな。
「そ、それではこれにて!」
白百合のプリンセスは地面に置いた荷物を掴むと空へと舞い上がった。
そのまま中央貴族学院へと白百合のプリンセスは飛び去る。
…何だかさっきの婆ちゃんがコッチ見ながらモゴモゴ言ってる。
気になって千里眼もどきで声を拾ってみたところ、こんな事を言っていた。
『…白、じゃわ…ポッ(笑)。』
ポッ…じゃねえ!
その婆さんは何時迄も白百合のプリンセスの飛び去る姿に…いや、もっと詳しく言えばそのスカートの中身に見惚れていやがった。
彼女には黙っとくとしよう。
で、ダンスパーティーはどうなったかな?
パチパチパチパチパチ………☆☆☆
どうやら美鈴と明花のダンスが終わり、周囲から盛大な拍手を戴いたやうだな。
コッチとはエライ差がある。
照れながら声援に応える美鈴と、その横で恥ずかしそうにくっついている明花。
あーこれはもう白百合のプリンセスがどう挽回しようとしてもこの二人が公認のカップルとして完璧に学院中に認識されてしまったようだな。
いよいよ明花ルート確定か?
それはそうと、ヒロインルートとは別に物語の進行にはまた別のルートがあるんだった。
それが新血脈同盟ルートだ。
これは物語の根幹に至る真のエンディングに至るまで避けては通れないルート。
どうやらこれまでの経緯を鑑みるにこのルートにも入っていそうだな。
となると、あの戦いは勿論、大魔王率いる魔族の軍団との決戦もまた確定したかも知れない。
なんせ魔族四天王の一人をやっつけちゃったもんなー。
…ま、それはまだ先の事だ。
それまでのイベントとしてはパワー火山の山脈辺りで火の魔法鉱石採集イベント、冬のお泊りイベント、王宮への新年の挨拶イベントと、冬は冬で
行事が満載だ!
…で、実はパワー火山での火の魔法鉱石採集の方は実際のところ特にアクシデントも無く終わったんで割愛しようと思う。
な理由で物語は…そう、美鈴が勝手に決めてしまったあのコの実家へのお泊りイベントへと進むのだった!
…あ、一応付け加えとくと白百合のプリンセスともちゃんとダンスしてくれたぞ美鈴は。
何とウッカリ白百合のプリンセスに変身した姿で会場に来てしまった彼女に日頃のお礼だと言って美鈴が一曲ダンスを相手したのだ。
白百合のプリンセスは感激でこれまた大泣き。
取り敢えず彼女を歓待するという名目で会場から逃げ出した美鈴達はそのまま生徒会の仕事をエスケープしてしまったけどな。
翌朝、彼女らだけがダンスパーティーのあの片付けさせられたのは言うまでもない。
「何でこーなりますのー?」
「お嬢様が片付け忘れたからですよー!」
「まあ、私達も忘れちゃいましたもんね。」
「すみません、私が闘姫さんに買い物頼み過ぎてしまったばかりに…」
「それについては皆さんで運ぶの手伝って下さいましたからもう良いんですが…」
「ホラホラ君たち、早く片付け無いと明日は終業式だよ!」
後片付けの命令を出した多彩蜂はニヤニヤしながら五人の片付けを見張るのだった。
………学院祭・一年生編…完………
何とかダンスパーティーも終わり、次の舞台からはいよいよ冬のシーズン!