第百三十七話【学院祭最終日・その⑩…世話の焼けるご主人様達で御座います】
皆様こんばんは。
私、芽友で御座います。
何時も私の主人である明花様と愛麗の主人であらせされる美鈴様がお世話になっております。
そのお二人ですが、またしても気不味くなられてしまわれまして…本当に世話の焼ける主人達です。
なのでここは私が一肌脱ぐ事に…あ、本当に脱いだりしませんからご安心を。
フード付きマントの上にかぶった砂埃を払いながら美鈴と愛麗の二人がダンスパーティー会場へ足を運ぶ。
その頃には振動と轟音に驚いて会場の扉へと近付いていた生徒達も美鈴の姿を講堂の外に確認すると。
「ああ、何かと思えば美鈴さんでしたのね?」
「あの方のされた事ならまあ大丈夫ですわ。」
「心配する程の事ではありませんでしたね。」
等と口々に言いながら元居た場所へ戻って行った。
状況を理解した闘姫、明花、芽友も立食コーナーへ戻る。
(美鈴さんですものね。)
三人は心の中でこう呟いていた。
…コレで普段から美鈴が周りからどう思われてるか、何となく分かるような気がするな。
で、件の二人は流石に着地の衝撃と音の凄まじさから皆をビックリさせたであろうことは理解しているらしく、苦笑い、愛想笑いしながら歩いて来る。
「全く遅刻の上に驚かせて、今迄何してたんだ(笑)?」
多彩蜂は呆れながらも笑顔で美鈴と愛麗を迎え入れる。
「少々立て込んでおりまして…会場準備やパーティー開始の挨拶には遅れてすみませんでしたわ。」
…立て込んでたと言うより単に森で道に迷ってただけだろう?
仮面の聖霊の俺は千里眼で知ってんだからな。
「お友達なら立食コーナーの方におられましたよ?」
多彩蜂の隣にいた陰潜がその二人を闘姫達のいる方へ連れてゆく。
こうして講堂の壁際に歩きながら講堂の三分の一を占める立食コーナーにやって来た美鈴と愛麗。
「あ、美鈴様、それに愛麗も。こちらです。」
芽友が美鈴達が歩いて来るや、二人に声を掛けた。
「あ、芽友!」
愛麗は嬉しそうに反応するが、美鈴は明花と目が合うなりモジモジしだす。
それは明花もまた同じだった。
芽友が困惑の表情を浮かべると、闘姫はフーッ、と深呼吸してからこう叫んだ。
「早くいらして下さい、お料理がこんなに沢山ありますよ?」
こうなったら、と闘姫は美鈴の食欲に訴えかけるのだった。
ところが
「うう〜…ちょっと食欲ありませんの…。」
「ホントですかお嬢様?」
「ではお嬢様の分まで私が食べておきますね♪♪♪」
あろうことか主人である美鈴の分まで食べようという食欲旺盛な側仕え。
「貴女は少し食い気を押さえなさーい!」
スパーン!
美鈴がハリセンで愛麗の頭を叩く。
「で、でもお嬢様?まだあんなにお料理が沢山…」
「貴女一人でガツガツ食べたりしたら黎家の品性が疑われる事になりますわ!」
「…では、どうするんですか美鈴さん?」
闘姫は期待通りの展開となったからか、ほくそ笑む。
「…食べますわ、一応礼儀ですもの。」
ムスッと目を逸らしながら美鈴は返答した。
この正直じゃない美鈴の態度にクスッと笑う闘姫だった。
ツカツカ、と立食コーナーの闘姫の前まで来る美鈴。
「隣、よろしくて?」
「構いませんよ。」
闘姫はスッと一人分スペースを空ける。
「あ…」「え…」
「ご希望通り私の隣を空けておきました。」
闘姫は楽しそうにクスクス笑いながら言った。
闘姫は明花、芽友と共にその場に居た。
芽友は明花の側仕え、つまり従者だから彼女より一歩引いた位置に立つ。
だから闘姫の隣に居るのは当然の如く明花となるのだ。
つまり彼女の隣に美鈴が来るという事は明花の隣にも来る事になる。
美鈴が両手に花、の状態で二人に挟まれる恰好だ。
「あ、あうあう…」
「…え、えと…その…」
最初は悪戯が成功した気分でしてやったりと思っていた闘姫だったが、モジモジしあってる二人を見るうちに段々機嫌が悪くなって来た。
「美鈴さん、この唐揚げとても美味しかったですよ?」
「あ、それからこの回鍋肉も中々イケました!」
闘姫は明花から美鈴の気を逸らさせようと美鈴に次々と料理を手渡した。
「は?はあ…ありがとう御座いますですわ…。」
「あ、あの…」
明花は突然の闘姫による攻勢に気を取られた美鈴に思わず声をかけるも
「な、なるほろ…これは…美味ひれすわ…」
美鈴はチラチラ明花の事を気にするも、気不味さから逃れられてこれ幸い、とばかりに料理を口にし始めた。
(私、何時迄も敵に塩を送る程寛容ではありませんので…ゴメンナサイ明花さん?)
闘姫は明花への態度を友人モードから恋の好敵手モードへの切り替えを完了していた。
美鈴とのワダカマリを解きたくてもそのキッカケを掴めないまま美鈴の気を逸らされた闘姫に対し、
(な、何で邪魔するんですか?)
(…あーそーですか、そーゆーつもりなら…!)
何と明花の闘志にも火が着いてしまったようだ。
「美鈴さん!!」
いきなり明花は美鈴が持たされた皿を取り上げテーブルに置く。
「な、何をなされますの?」
更に明花はガシッ!と美鈴の両手を掴んだ。
「私と…踊って下さい!!」
おおっとお?
まさかの、ヒロインキャラからの主人公へのダンスの申し込みだーっ?!
コレは予想外だった!!
…て、もう完全に百合ゲー展開じゃねーじゃんか!
そんな俺の心の中でのツッコミを他所に、今まさにゲームを無視した展開が眼前で繰り広げられている!
「し、しまった…」
出遅れた?と焦った闘姫もまた美鈴にダンスを申し込もうとしたのか手を伸ばした…が…
「スミマセン。」
その手を芽友が掴んだ。
次の瞬間、闘姫と芽友の姿は消えた。
「え?」
愛麗は一瞬の事に唖然とした。
「ちょっと買い物お願いします。」
芽友は闘姫を道連れに王都のデパートまで瞬間移動したのだ。
そして闘姫に買い物の内容のメモを握らせると自分一人だけで中央貴族学院のダンス会場へ戻った。
主人である明花の恋路の邪魔となる闘姫を一時的に追い払ったのだ。
「ふえ?…や、芽友…さん?」
「ウソ………何かコレって酷くありませんか?」
ヒュ〜…
木枯らしが吹く夜道。
デパートは閉店時間が迫っていた。
「しかも買い物メモだけ渡してお金貰ってませんけど…私が立て替えるんですか?」
律儀な事に彼女はしっかりと頼まれた買い物をこなすのであった。
「帰りは変身して飛んで帰らないとダンスパーティーが終わっちゃう…(泣)!」
両手に買い物袋をいっぱい持った闘姫は涙目だった。
後で俺が慰めてやろう、ウン。
で、闘姫こと白百合のプリンセスにここまで損な役回りさせたんだから仲直りしないと怒るよ美鈴、明花?
少し白百合のプリンセス様であらせられる闘姫様には申し訳ありませんでしたが、ここは尊い犠牲というか御足労おかけする事に致しました。
私が作った短いダンスタイム、どうか有効にご活用なさいませ明花様、そして美鈴様!
お二人のご武運…ならぬ恋愛運をお祈り致します!