第十三話【仮面の剣豪…その名は超速星】
フレイムドラゴンを相手に手に汗握る攻防を繰り広げる美鈴。
そんな彼女をハラハラしながら見守る明花。
そんな時、思いも寄らない人物が現れて…?
美鈴の真意を知らない明花はハラハラしながら戦いを見守っていた。
今のところ一進一退の攻防が続いている。
だが時折ドラゴンの爪を防ぐ鞘付き剣から弾ける火花、咄嗟にかわすフレイムドラゴンのファイヤーブレス。
それらが輝く度に恐くなる。
(美鈴さん、どうか、どうかご無事で………!)
時折目を瞑りながらも必死で美鈴の無事を祈り続ける明花であった。
【…しぶといな。人間にしておくのは勿体ない。】
「それはお褒めの言葉と受け取ってよろしいのでしょうか?」
【そうだ。我は称賛しておるのだぞ?】
「なら、戦いを止めて帰ってもらいたいものですわね?」
【そうはいかん。始まってしまった以上決着させねばな。】
【それに娘、さすがに疲れてきておろう?そろそろ終わらせてやらねば可哀想だからな。】
「フッ、何を仰有いますか?まだクライマックスには至っていないと言うのに!」
美鈴が鞘付き剣を上段に構える。
『竜巻斬!』
振り下ろされた剣から竜巻が放たれた。
その突風の塊がドラゴンを吹き飛ばす。
【ぐおおおおおっ?!】
フレイムドラゴンが校庭の結界の防壁に強か(したたか)に身体を背中から打ち付けられた。
「フフッ、どうですか?私の得意技の威力は。」
【ぐぐ…こんな技まで使えるとはな?】
【益々、益々惜しいぞ人間。】
ヨロヨロしながら立ち上がるフレイムドラゴン。
【小娘、この我を本気にさせる逸材、失うのは実に惜しい。】
フレイムドラゴンの焔が徐々に白くなり、そして青みを帯びる。
【まさか我にこの手を使わせるとはな。】
「…そうですか、ようやく本気になりますのね?」
鞘付き剣を構える美鈴。
「美鈴君、いい加減に鞘から剣を抜きたまえ!」
「そうです、でないと貴女の方が危険です!」
先生と明花が叫ぶ。
「ご心配なく。この方が私は実力を出せるのです。それに………。」
フレイムドラゴンが向かってくる。
「私、血を見るのが嫌なのです。」
「「はあ?」」
心配する二人が一気に脱力する。
(だって、本当の事なのですもの!)
美鈴が涙目になる。
(血を見ると、力が抜けてしまうんですの~!)
どこの世界に血を見るのが恐くて戦えない剣士がいるというのだろう。
だがその例外が彼女らの目の前にいた。
無双の剣士なのに、何故か血を見れない。
それ故の鞘付き剣なのだ。
相手を思いやる気持ちも勿論無くはない。
だがそれ以上に血を見たくない、それが美鈴だった。
【…血を見るのが嫌だと?随分と優しいのだな?】
「べ、別にそんなつもりはございません!」
【そのツンデレなところが益々気に入った!】
「ツンデレ違います!それにドラゴンに気に入られても嬉しくありませんの!」
地団駄を踏みながら剣を振り回す。
当然当たらない。
【フフ、ハハハ!】
【面白いぞ、可愛いぞ、小娘!】
【…そんなオマエを倒さねばならぬとは、我は悲しいぞ。】
フレイムドラゴンが口を開くとライトブルーの焔が輝く。
【さらばだ、小娘…。】
「ふん、そんな攻撃幾らでも避けて…。」
が、そんな場面で。
校門から間の抜けた声がする。
「お嬢様ー、遅くなりましたー☆」
やって来てしまう変態が居たのだった。
何と言う間の悪さ、まるで計ったように美鈴の足を引っ張る愛麗であった。
「あ、愛麗?」
「いかん!早く結界壁から離れるんだ!」
「逃げてください、愛麗さん!」
悲痛な面持ちで待避を叫ぶ明花と范先生の二人だが。
「結界?何でそんなものがぁ?」
事態を全く把握してない愛麗はチョンチョンと結界壁に触れている。
その壁は何の因果か、美鈴の真後ろだった。
「こ、この馬鹿変態側仕えがああ?!」
【食らえ!】
【全開焔竜咆哮撃!】
ゴオッ!!
ライトブルーの火焔が美鈴を襲う!
ついでに結界壁を面白そうにつついている愛麗も?
「くっ!」
『防護氷壁展開!』
美鈴の目の前に巨大な氷の壁が現れる。
更に。
『防護氷壁三重展開!』
以前、炎龍との対戦でしつこく三匹の火龍に攻撃されて一枚の氷壁を割られた美鈴は、その時の事を思い出して三枚もの氷壁を目の前に展開させた。
これなら最初の一枚を貫かれても三枚目でかなり威力を軽減できるはずだ。
しかし。
「え、え?」
一枚目はあっさり砕かれ、二枚目も貫かれ、そして今三枚目が徐々に溶かされ始めていた。
なのに。
「あああ~、お嬢様の可愛いお尻が汗でピッタリとスカートに浮かび上がってて、素敵ですう~♪」
こんな時にまで要らぬ変態を発揮し、そこから動こうともしない愛麗であった。
氷壁が役に立たなくなればかわせばいいのだが、そんな事をすれば結界壁すら破られた時に愛麗は木端微塵になってしまう。
「身体強化、剣と鞘の材質、強化ーっ!」
美鈴の身体がメタリックカラーへと変わる。
「お、お嬢様の身体がピカピカのツルツルに?」
「で、ですがこれはこれで、中々にそそるものがあ。…ウヘエ、エヘヘヘ…。」
これは別に背後の変態を悦ばせるためにやった事ではない。
全体の強度を上げるだけではなくミラーとなることで熱量を可能な限りに反射するのだ。
最悪、最終的に自らを盾としてでも愛麗を守るつもりなのだ。
だがそんな美鈴の悲壮な覚悟を知ってか知らずか、愛麗は変態丸出しで美鈴の後ろ姿をセクシーに感じて堪能しているのだった。
(こ、この阿呆!もしも無事に帰れた時には折檻程度じゃ済ませません事よ?!)
歯をギリギリと噛み締めながら耐える美鈴。
だが氷壁決壊の時は、もうすぐだった。
【なあ美鈴、これってお前の身体が耐えきれればチャンスなんじゃね?】
(確かに、上手く身を隠せれば仮面の剣豪に変身出来ますわね。)
【展開的にもシナリオに近い。…その馬鹿が来たのは全然予想外だったがな。】
(お喋りの余裕はもう無いです、一か八か!)
【おう、気張れよ!】
遂に、氷壁を貫いた焔が美鈴の剣に届いた。
(今です!)
美鈴は魔法で爆風を発生させ、後方へと飛んだ。
【力を貸すぜ!】
仮面の聖霊もこのタイミングに合わせて結界壁の一部を砕いた。
そこから一気に美鈴の身体が結界の外へ出た。
ジャンプした美鈴の臀部が愛麗の眼前へと迫る。
(お、お嬢様の、おヒップがああ~?)
そのまま美鈴のお尻が愛麗の顔面にヒットし、ヒップアタックを食らわせる格好になった。
ドスン!
そのまま倒れ込む二人。
「ムギュウ…?」
美鈴の身体…と言うかお尻に押し潰された愛麗は、そのまま気を失った。
それも、とても幸せそうな顔で。
愛麗が死んでない事を確認した美鈴は咄嗟に立ち上がると愛麗の身体を引きずって校門の外に出た。
校門の陰に愛麗の身体を隠して一息つき、ふと右手の剣を見る。
さすがに彼女の剣は鞘ごと溶けてしまっていた。
主の身代わりとなったのだ。
愛麗とは真逆な、良い剣だった。
(今までありがとう。)
慈しむようにそっと美鈴は剣を地面に置いた。
そして、キッと校内に視線を向ける。
「やるなら今です、さあいよいよ変身ですわ!」
美鈴が胸元のポケットから二つ折りにした仮面を取り出し、目元に当てる。
【へへへ、やっと出番だな?】
「その通り!」
【さあ、呪文の掛け声、行け!】
「参ります!」
美鈴が次々とポーズを繰り出しながら呪文を叫ぶ。
『電光・仙光・烈光!闇を引き裂く天駆ける星と成れ!』
(別に変身ポーズは必要無いと思うのだが、この方が気分が上がりその分パワーアップするのだから余計な事は言わないでおこう。)
…仮面の聖霊は心の中でツッコミを入れながらも、ちゃんと自分の呪文は忘れずに叫んだ。
【そして宿りたまえ!大いなる星の聖霊よ!】
『【速攻変化!!】』
仮面の聖霊と美鈴の詠唱が重なる。
美鈴の身体が光輝く。
全身が光のシルエットとなり、そのボディラインが細部までくっきりと浮かび上がる。
愛麗が見たら鼻血もの、明花が見たら興奮し過ぎで失神ものだろう。
そして仮面を中心に兜のようなヘルメットと全身の鎧が形成され、装着される。
最後にヒラヒラした輝く布地が鎧からたなびく。
『【完装!】』
飛び上がり、そして結界上空から侵入を試みる美鈴。
その頃、まさか美鈴が健在、しかも変身しているとは夢にも思わない明花と范先生。
「そんな、そんな…美鈴さん…。」
ヘナヘナと膝からくずおれる明花。
そしてそれを抱き抱える范先生。
「しっかりしろ、まだドラゴンは生きている。」
「ここで私達がしっかりしないと、安月夜は助からないぞ!」
「でも、でも、…美鈴さんがいないのに、どうやって?」
涙を流しながら訴える明花。
「ドラゴンが弱るまであと少しだ。それまで結界を維持しなければならない。手伝ってくれ。」
「その後でドラゴンを送り返せるほどの魔力が先生に残されていますか?」
「………わからない、だが今はやるしかない。」
「美鈴君の頑張りに報いるためにも!」
「…!」
「はい、美鈴さんのためにも!」
涙をぬぐい立ち上がる明花。
(でも、美鈴さん、本当は生きてらっしゃいますよね?)
(どうか、どうか、ご無事で…!)
彼女はまだ美鈴は生きていると信じ、心の活力とした。
ゆっくり振り向いたフレイムドラゴンが、今度は明花達の方を向いて大きな口を開く。
【ふう。小娘との戦いで我も消耗が激しい。】
【契約とはやや違うが、安月夜の命を奪うのに変わりはあるまい。】
「…このドラゴン、まさか私達もろとも?」
「結界を強化しましょう、それしかありません!」
二人は結界に力を注いだ。
結界の輝きが大きく増す。
【その程度の結界、吹き飛ばしてくれる!】
フレイムドラゴンがブレスを放とうと、口の中に焔を溜め込む。
「くっ!」
「お願い、美鈴さん。私達に、力を!」
【さらばだ!】
フレイムドラゴンからブレスが放たれる、その刹那だった。
上空の結界壁を割り、何かがドラゴンの真上から降って来た。
『巣破亜空ッ!!』
火花散る拳を火焔まみれのフレイムドラゴンの頭頂部へと叩き込む鎧騎士。
【んがぁぁあ?!】
突然の頭上からの不意討ちにフレイムドラゴンの首が地中にめり込んだ。
(名尾君、これからはこの姿の時は貴方の声をお借りします!)
【おう、持ってけドロボー!】
『大丈夫ですか、お嬢さん方。』
結界強化のため構え続ける明花達に向かって語りかける鎧騎士…美鈴。
「す、すまない、助かった。」
呆気に取られながら礼を言う范先生。
「あ、あなたは?」
同じく、そう喋るのがやっとな明花。
(来た来た、来ましたわ!ここで名乗るのがヒーロー名です!)
『私は仮面の剣豪とでも呼んでくれ。』
「はあ、それはわかりますけど。」
「やはりお名前の方をお聞かせ願えますか?」
『そうだな、強いて言うなら…。』
『私の名前は、【超速星】、とでも覚えておいて貰おうか。』
「【超速星】、様ですか?」
『如何にも。』
(くふふふ。前世の記憶に目覚めて、いつか来るこの時を待つ間考え続けていたヒーロー名、遂に言えましたわっ!!!)
今、美鈴の脳内で天使達が舞い降りラッパを吹いていたのは無理もない事だろう。
因みに元のゲームではこのヒーロー名は自由に変更出来た。
何故かというと、ゲーム原作のラノベで原作者の付けたヒーロー名が
『白百合のプリンセス』だからだ。
全然ヒーローらしさ皆無で主な男性ファン層からの評判は悪かった。
少数ながらも一部の女性ファンからは気に入られたのでこういう仕様となったそうだ。
それはともかく。
そんな会話をする彼女らの後ろで炎の飛沫が乱れ飛ぶ。
そしてようやくフレイムドラゴンが地中から首を引っこ抜いたのだった。
【お、おのれ、不意討ちとは騎士の風上にもおけぬヤツめ!】
振り向く美鈴…いや、超速星。
『か弱い乙女達を蹂躙し抹殺しようとする輩に真面に向かいあう道理など無い。』
【オマエは何者だ?】
『さっきも名乗ったのだが聞こえてなかったのか?なら、もう一度だけ言おう。』
『私は仮面の剣豪。名は超速星。』
超速星は顔を仮面で覆ったフルフェイスヘルメットの兜、肩から両腕、両足、胴体を軽合金らしき鎧で覆ったメタリックヒーロー調のデザイン。
このメタリックヒーロー調デザインは美鈴の前世での男子の時の好みが反映されてるかも知れない。
元はもう少し西洋騎士らしいデザインだった。
肩や腰からドレス調の柔らかな生地がヒラヒラと舞っているのは女性としての意識からか。
そして兜や鎧には電飾が施されているのかチカチカとLEDらしきものが点滅している。
これもまだ前世で男子だった頃の好みの反映だろう。
そして色はプラチナ。
その縁を鮮やかなブルーが走る。
ブルーのラインの中にはイエローのLEDが点滅し、更にプラチナの部分にもブルーのLED光が点滅して走り、それぞれが流動状態を表現していた。
そのカラーの取り合わせは正しく中央貴族学院制服のカラーリングそのものだった。
この学院の制服も白地に青のラインを取り入れ、制服の下のカッターシャツとリボンも青地だった。
そしてもう1つ、正装用にチャイナドレスも用意されているのだが、こちらも白地と青が基本と成っていた。
抜けるような青空と雲。
大空を思わせるイメージ。
それがこの学院のデザインの基となる光景だった。
その意味は、旅立つ若者達の未来が宇宙へと向かう清々しく爽やかな青空のようであれと言う願いを込めたものだった。
そんな大空から降って舞い降りた超速星こそは中央貴族学院の守護者の如く見たものの目に写った事だろう。
そしてこの光景はいつぞやの美鈴と炎龍との勝負の時のように上空の鷹の目を通して避難所のスクリーンに写し出されていた。
この時、間違いなくこの学院の「ヒーロー」誕生の瞬間だった。
以前仮面の聖霊が美鈴に約束した通り、超速星がヒーローとして学院中に認知されたのだった。
【うおおおおーっ、超速星ー!!】
【超カッコイー、超強えー、超イケてるー!】
【誰これ?何これ?学院のヒーロー爆誕?!】
その騒ぎには教師達までが一緒になり、学校の避難所は最早手の付けられない『超速星』祭りとなっていた。
シナリオではさすがにここまでの大騒ぎにはならなかった。
まだそれを知らなかった美鈴と仮面の聖霊は目の前のフレイムドラゴンを倒すべく、超速星に成りきっていた。
『行くぞ、フレイムドラゴン!』
超速星が腰の剣を抜いた。
だがその剣には美鈴の要望から刃留めがされているのだった。
剣を構えた超速星のLED製電飾のような黄色い目が鋭い眼光を放った。
ピンチをチャンスに変えて、遂に仮面の剣豪へと変身を遂げた美鈴。
変身前の実力でも勝てたかも知れないのですが、更なるパワーを得て超速星へと変化した彼女に敵う悪などいないはず!
次回、超速星VSフレイムドラゴンの決着!