第百二十五話【学院祭・最終日…その③生徒会『ヤク』員どもの午後】
弁論大会から何やら燻り始めているようです。
対する美鈴達は相変わらず呑気なようですが…。
美鈴達は穏星空と食堂のテーブルで昼食がてら会話していた。
その会話の内容から穏家と安家が弁論大会でセンシティブな件を扱った弁論をした生徒からディスられた…ついでに穏星空も侮辱された事が分かった。
「庶民からすれば貴族や体制への不満が無くなる事はありませんからそれ自体は仕方の無い事だと私も理解はしております。」
「ですが同じ貴族である学院生徒から自分と家族を名指しで侮辱される事に対しては我慢がならないのです!」
「…お気持ち、お察ししますわ…。」
カチャ…とフォークをテーブルに置くと、美鈴は鎮痛の面持ちとなった。
チーム美鈴メンバー全員も同じように手を止め暗い表情になる。
「わかって下さいましたか…私の悔しさが。」
穏星空は美鈴達が自分の心情を理解してくれたと思いホッとした。
…が。
「貴女のお気持ち、い、痛い…ほど、良くわかりました…わ…。」
美鈴の額に油汗が目立ち始める。
「私達も…です…。」
それが伝染したのか、他のメンバー達も同じように汗をかきながら…何故だか苦笑いする。
ここで苦笑いするか?
「で…ではまた何かありましたら、後ほどという事で…。」
「わわわ、私達、は…そう!これから生徒会の仕事が…!」
「そ、そうですね副会長!」
「そうです、私も書記ですから…参与も必要です、ね?」
「あ、あは…は…はい…!」
チーム美鈴改め、生徒会長以外の新生徒会全員が席を立った。
「ですので、これで失礼いたしますわ!」
食事料金は前払いしてたからか、全員猛ダッシュで食堂を後にした。
「はあ…生徒会の仕事って忙しいんですのね?」
ポカンとしながら見送る穏星空だった。
……………そして。
「范先生!」
突然職員室にチーム美鈴が雪崩込んだ。
「な、何だ何だ?」
見回り休憩を兼ねて軽めの昼食としてパンを食べてた范先生は驚いた。
「先生、あの薬下さい!」
「以前、王都でいただいたあのお薬ですわ!」
「…へ?」
ただならぬ雰囲気の美鈴と明花から捲し立てられた范先生だが、自然とその手は件の薬の入ってる万年筆へと伸びていた…。
…………。
コンコン。
「…入ってますわあ〜(汗)。」
コンコン。
「ま、まだお待ち下さい…ませ…くっ…。」
コンコン。
「ご、ゴメンなさい…あと、ちょっ…ちょっと…。」
コンコン。
コンコン。
「「うぐううう〜っ?!」」
ザワザワ…。
校内一階にある二箇所のトイレのうち一つに人集りが出来るらしい、とその彼女らの声が告げていた。
彼女らはまだ我慢出来るようだが、中々空かないトイレに苛立ち始めていた。
「ねえ…まだあ〜?」
「ちょっと、まだ入ってるの…?」
「ここの三つと向こうの二つだけ異様に長いのですよ…。」
「試合が始まるっていうのに、勘弁して欲しいですわ…。」
…と、いうわけで運動部による紅白試合が始まるまでの数十分、校舎一階のトイレが占拠され中々開かないという一幕があった。
その原因が美鈴達によるものなのか、そこまではわからない。
だってそこ、女子トイレだし。
如何に仮面の聖霊役である俺でも、男である以上その中を覗けないでしょ?
そして時折、
『ウゲゲロゲ〜ッ!!』
という乙女らしからぬカエルのような大合唱がトイレの個室から聴こえるのであった…。
ああ、コイツらのファン?にはとても聴かせられたもんじゃないな…。
(な、なら中継しないで下さいまし?聞かないで下さいまし!名尾君〜(涙)…オエ〜ッ…。)
………す、すまんすまん(汗)。
……………。
「アンタ達、遅い!」
体育館では既に新生徒会長の多彩蜂と安月夜を始めとする旧生徒会役員が待っていた。
「何かあったの?中々引き継ぎに来ないから心配しちゃった。」
月夜達が心配そうに美鈴達の顔を覗く。
「す、すみませんでしたわ、ちょいと野暮用がありまして…。」
月夜は訝しげに美鈴に尋ねた。
「…何かトラブルでも?」
「…と、トラブルと言えばトラブル、ですけど…?」
アハハ…と乾いた笑い声で誤魔化す美鈴。
他の面々も明後日の方に目を逸らしている。
まさか全員が食い過ぎでトイレに籠もってゲロ吐いてたせいで引き継ぎに遅刻した、なんて言えないよなあ。
「…もしや、お昼前の弁論大会の件かい?」
ここで多彩蜂がこう尋ねた事は美鈴達への助け舟となった。
『そうそう!それですわ!』
…と美鈴の口から出かかっていたが、アヤツは敢えてそれを飲み込んだようだ。
グッと堪え、意味有りげな伏し目で少し周りを焦らす。
「それは…その…。」
しかも何か意味ありげな言い方しやがって。
ああそうか、こうやって相手の思っている事が如何にも的を得ているように思わせてるんだな?
案の定、月夜はこれに乗っかったようだ。
「…そう、やはりあの弁論内容が気にくわなくて、それで…。」
「いえ違いますわ月夜さん。」
「私達はあの弁論者と一人の生徒が食堂で言い合いになってる現場を目撃しただけですわ。」
「言い合いになってた?…それで、その生徒達から事情は聞いたのかい?」
多彩蜂は美鈴に尋ねた。
「私達が話しを聞こうと致しましたら弁論者の方は出て行かれてしまわれましたわ。」
「ですが、もう一方のお話しを聞く事は出来ました。」
「弁論者と言い合いになってた方の生徒だね、その子は何と言ってたの?」
「それが…そのお方はそこにおられる安月夜元生徒会長の従姉妹でしたのよ、多彩蜂現生徒会長。」
「わ、私の従姉妹…?」
「それじゃ、言い合いになってたのって…。」
ガラッ。
生徒会室の扉が開いた。
「はい…私でございます月夜さん。」
部屋に入って来たのは、件の生徒。
穏星空その人だったのだ。
「星空!」
「それじゃ本当に貴方が侮辱されたのね?」
「はい…でも美鈴さん達に話したおかげでだいぶスッキリしましたけどね。」
「そう…。」
「では星空さんは月夜さんとじっくりお話しなさって下さいませ。」
「そうだな、私達新生徒会は午後からの見回りに行かないといけないからな。」
張り切る多彩蜂は新生徒会メンバーを連れ立って校内の見回りへと向かった。
「見回りついでに問題の弁論者を探そう。」
「あら新生徒会長、ちゃんとあの生徒から尋問する気ですのね?」
「ああ、ソイツが新血脈同盟の関係者なら情報をどれだけ持ってるか気になるからね。」
「…前に月夜さんから小耳に挟んだのですけど、多彩蜂さんは以前彼女にご自身が新血脈同盟との関連を仄めかすような事を言われとか?」
闘姫からこう言われた多彩蜂だけど、顔色一つ変えずこう言い返した。
「…ああ、月夜さんと対戦した時の事か。」
「勿論覚えてるよ?」
「何せ私の技のキラービーム…教わった相手は新血脈同盟に加わった人だからね。」
「お師匠さんですか?」
この芽友からの質問に多彩蜂は笑いながら答えた。
「教わった、と言う意味では師匠なのかな?」
「その、前から疑問に思ってましたけど、結局のところ新血脈同盟とは普段どのような活動をされておりますの?」
「君たちも聞いた事あるだろうけど少しばかり過激な思想を広めて勧誘活動しているらしい…私の知る限り今のところはそれだけのようだけどね。」
勿論連中の活動がそれだけでないのを美鈴達は知っている。
臨海学校での一幕があったからな。
だがこの件は一般生徒にはあまり公にはなっていないらしい事が多彩蜂の言葉からわかった。
…或いは、単に忘れられているかだ(汗)。
ここで明花が少し青褪めた顔で多彩蜂にこう尋ねた。
「…その人達は組織の規模が目標まで拡大した時、どのような活動を行うつもりでしょう?」
「そうだね…やはり本来の目的の為の行動に移ると見るべきだろう。」
「尤もいまの段階だと推測の範囲でしかないけどね。」
「それはもしや…国家転覆、とかではありませんわよね?」
「どうだろう?仮に最終目標がそうだとしてもいきなりそんな悪手なんかしないんじゃないかな?」
考え込んだような闘姫が口を開いた。
「ではこんな質問は如何でしょう?」
「大魔王復活後の人類への総攻撃の為に魔族側による人類側分裂工作、その為に用意された勢力が新血脈同盟なのではありませんか?」
「なるほどね、そんな考えもありだな。」
多彩蜂は特に驚きもしなかった。
というより彼女もまたそのような可能性を考えた事があるのかも知れないな。
明花が心配そうに喋った。
「でもそれが本当だったとしたら、新血脈同盟の裏で糸を引いているのは魔族という事に?」
「それこそまだ憶測の段階に過ぎませんわ。」
「可能性としてそれぞれの話しは頭に入れとく必要はありますけど、気にし過ぎてもしょうがございませんもの、心配は程々にですわ、明花さん?」
美鈴は明花の肩にそっと手を置いた。
「そ、そうですね。」
明花は幾らか落ち着いたのか、ホッと息を吐いた。
「だから貴方は予定通り医務室でお休みなさいな?」
美鈴は明花の腕を取り医務室へと連行してゆく。
「ああ〜、そんな引っ張らないでくださいー?」
「ホラ愛麗、ついでにこのまま私達で受け持ちの見回りへ参りますわよ?」
「はーい、お嬢様〜♪」
「それじゃ私達もこのメンバーで見回りに行こうか?闘姫君、芽友君。」
「はい、任務とあれば。」
「かしこまりました。」
「…二人とも、少し硬くないか(笑)?」
まあ無理も無い。
三人とも普段から特別に親密度が高い関係では無いからな。
だからどうしても事務的な反応になりやすいんだろう。
……………。
「では、私達は体育館で行われる紅白試合の見回りへ向かいますわ。」
「明花様、夕方迎えに来ますね?」
「…はい、残念ですけど…」
「お二人ともお気をつけて。」
「あ。」
「どうかしましたの?」
「いえ…これから行われるのは紅白試合、なんですよね?」
「ええ、それが何か?」
「…本当に気をつけて下さいね?…少し、嫌な予感がしまして…。」
「大丈夫ですわ、新生徒会メンバーは皆ツワモノ揃いですもの!」
美鈴は自分の胸をドンと叩いて見せた。
お約束の食べ過ぎイベントも無事こなし?
いよいよ舞台は午後からの紅白試合へ!
果たして美鈴は自分が出場出来ないこれらの試合を観ても我慢出来るのか?
…と、そんな事より何か起きるのか?