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第百二十三話【学院祭・最終日…その①百合ゲーの持つ無理ゲーの片鱗?】

何時ものドタバタ展開、ラブコメ展開から始まる今回のお話しですが…。


さて、爽やかな秋晴れの朝。


本日は学院祭二日目に当たる最終日である。


午前中は弁論大会、午後からは運動部による紅白試合、そして夕刻からは優雅なダンスパーティーという流れ。


美鈴メイリンは紅白試合で活躍出来ると張り切っていた。

しかし美鈴メイリンは魔法研究部だから当然今のままでは参加出来ない。

だから弁論大会前に勇んで各運動部の紅白チームの助っ人に自分を売り込みに向かったのだが。



…………。


「助っ人?ダメだよアンタだけは。」


「何故ですの?」


「学院対抗戦優勝者のアンタの試合見た全員の意見が

黎美鈴リー・メイリンだけは運動競技の試合に参加させちゃいけない!』

…で、一致してんの!」


この言葉に対して…


「ガガ~~~ン!!!」


と、美鈴メイリンはショックを受けた。


補足すると

「ガガ~~~ン!!!」

…と、言う音は美鈴メイリンが心境を口に出した擬音だ。


「そ、そんなあ〜っ?!」

ガッツリと膝から崩れ落ちる美鈴メイリン


…まあ、予想は出来たけどな。


「仕方がありませんよ、アレだけ対抗戦で活躍されてしまわれては…。」

明花ミンファが優しく美鈴メイリンを抱き起こす。


「私も参加出来ないんです、落ち込まないで下さい。」

勿論、闘姫ドウ・ヂェン明花ミンファとは反対側から美鈴メイリンの身体を支えた。

明花ミンファに対抗心丸出しだな。


闘姫ドウ・ヂェンは今朝方、寮から出かける前にチーム美鈴メイリン全員に対して以前自分の身に起きた事を正直に話した。


皆、思ったよりも深刻な事では無かったとわかり安心した。

何より当事者本人である闘姫ドウ・ヂェン自身が口に出して打ち明けた事でホッとしていた。


………のは良いのだが。


「あのう、美鈴メイリンさんの心のケアは私一人で充分ですから。」

困ったという表情で明花ミンファ闘姫ドウ・ヂェンに対して手出し無用を告げると。


「何を言われますか?」

「私は戦いに於いて常に美鈴メイリンさんと協力しあう義務があるんです、ここは私にお任せを。」


「何時何処で誰と誰が戦ってるとおっしゃるんですか?」


「何時戦いが起きても良いように美鈴メイリンさんをお守りするのも私の役目ですから。」


「それなら美鈴メイリンさんが万全の状態で戦えるように私が健康面をサポートします!」


「いえいえ、今の美鈴メイリンさんには精神的な不調が見られるのでその間私がお守りしなければなりません!」


二人は美鈴メイリンの腕を取り合い引っ張っていた。


「あ、あの…ちょっと痛いのですけど…。」

しかしヒートアップし始めた二人に美鈴メイリンの訴えは聞こえなかったらしい。


ギリギリ…。


「は、な、し、て、下さい〜!」


「あ、あなた、こそ〜っ!」


「い、イタタタっ…!」


「お二人とも、そのくらいにしないと美鈴メイリンさんの腕が…。」

芽友ヤーヨウ、大丈夫ですよ。」

「でも愛麗アイリー…」

「まあ見てて下さい、ウチのお嬢様はあれしきの事ではダメージなんて負いませんから。」


「…あ。」

この愛麗アイリーの言葉にハッとする芽友ヤーヨウ


「ほら、お嬢様のコメカミに青筋が(笑)。」

愛麗アイリーは楽しそうに笑った。


「い、い、か、げんに…なさって〜!」

グググ〜ッと美鈴メイリンが両腕に力を込めると、難なく左右からしがみつく二人を剥がしてしまった。


「あっ…」

「はうっ…」


…?

なんか二人の反応がおかしい?


プニュプニュ。


(はっ?)

(この感触、確か前にも…?)


「あううう〜っ(照)」

涙目になる明花ミンファ


「ま、またですかぁ…?!」

ワナワナと震える闘姫ドウ・ヂェンの目に怒りの炎が灯る。

 

「えと…まさか…(汗)?」

冷や汗かきながら美鈴メイリンが左右をチラ見すると。


ガア〜ン!!


【な、何してんだテメェ?!】

俺も思わず叫んでしまった。


「こ、こ、これはっ…!」

アワアワと何か言い訳しかける美鈴メイリン

バツが悪そうだが、そりゃそうだ。


(ナ、なんで私の両手が明花ミンファさんと闘姫ドウ・ヂェンさんのお胸にいい〜っ?)


やっと美鈴メイリンが二人から手を離した。


【コラ、何か言うことはないか?】

俺は羨ましい気持ちを抑えながら聞いた。


「…ご、ご…。」


「…午後…?」

闘姫ドウ・ヂェンが訝しそうに尋ねた。

その瞳はしっかり美鈴メイリンを睨んでる。


一方の明花ミンファは真っ赤な顔しながら胸を両手でガードしている。


「…ご、…ごごご…」

「ごめんなさい、ですわあ〜っ!!」

ドピュン!!


美鈴メイリンが咄嗟にダッシュで逃走しやがった!


「ま…待ちなさあーい!!」

それを闘姫ドウ・ヂェンが追いかけた。


「おやおや、良かったですね美鈴メイリンさん?」


「ん?何が良かったのですか芽友ヤーヨウ?」


「思わぬ形で闘姫ドウ・ヂェンさん相手に競走で運動出来たじゃありませんか?」


「…ああ、なるほど。」

「確かに学院生徒でお嬢様の競走相手が務まりそうなのは白百合のプリンセスである闘姫ドウ・ヂェンさんくらいのものですからね〜。」


………と、5分もかからぬ内に闘姫ドウ・ヂェンは引き上げてきた、それも一人で。


「あれ?美鈴メイリンさんは?」

明花ミンファ闘姫ドウ・ヂェンに聞いた。


「見失いました…おそらく途中で超加速魔術でも使われたんだと思います…。」


…………実のところはちょっと違った。


俺は千里眼で追いかけたから知ってるけど、アヤツは途中で入った狭い部屋の天井に張り付いてやり過ごしてただけだったのだ。


(フッフッフ〜、私はこう見えて『隠れん坊』の美鈴メイリンと異名を取ってるのですわ!)


【何故『隠れんぼう』が得意なんだ?】


(それは実家の館の召使い達を煙に巻く為ですわ!)


(実は思春期を迎える頃から召使い達の私を見る目が怪しく成り始めましたの。)


【ああ…ここは百合ゲー世界だから…。】


(それで身の危険を感じた私は彼女らからの求愛行動を避けるため気配を消して隠れるようになったらいつの間にか隠れるのが得意になりましたのよ!)

エッヘンと胸を張る美鈴メイリン


おい、ロッカーの中に隠れてるせいかロッカーがガタガタ鳴ってるぞ。


【そうか、こういうのを『芸は身を助ける』って言うんだな。】


(ですわね♪)

エヘヘへへ〜♪と笑う美鈴メイリン


【だが、俺がこの事を闘姫ドウ・ヂェンに知らせたらどうなるかな?】  


(ちょ、ちょっと名尾ナビ君?!)


お、慌ててる!

ククク、これは楽しい♪


「まあそれはともかく、昼飯までにちゃんと仲直りしとかないと気不味くて飯も不味くなるぞ?」

俺はからかうのはソコソコにして真面目にアドバイスした。


(わ…わかってますわよ…。)


【まあ闘姫ドウ・ヂェンも今は頭に血が上ってるだけだと思うから少し時間置いて頭冷えるの待てばいいさ。】


(あ、あの…明花ミンファさんの方は?)


【ん?別に怒っては無さそうだったけど?】


(そ、それは余計にどうして良いか分かりませんですわ…。)


【一応謝れば?】


(それだけで良いのでしょうか?)


【単に事故なんだろ?そこまで心配する事ないじゃん別に女の子同士で胸を触ったくらいで。】


ここで心底呆れた様に美鈴メイリンが『ハア〜…』とため息を吐いた。


(はあ………、あのですね、ココは百合ゲー世界ですのよ?)


【ん?だから?】


(胸を触っちゃった事で気があるなどと思われましたら大変じゃございませんか!)


【え?オマエ明花ミンファに気があるんじゃ無かったの?】


(な…ななな、何で私がっ?!)


【エラくキョドってないか?】


(キョドってませんわっ!?)

益々ムキになるところがかなり怪しい…。


…………等と俺らは頓珍漢な念話を繰り返していた。


おかげで美鈴メイリンがロッカーから出て来て機嫌の直った明花ミンファ達と合流し講堂の弁論大会に向かった時には既にお昼前になってしまった。


しかも最後の弁論出場者の時に。


「…結局、魔法研究部のワン部長の弁論には間に合いませんでしたわ…。」

申し訳ない無さそうに言う美鈴メイリンだが自業自得だ。


「お嬢様が何時までも隠れていたからですよ!」

愛麗アイリーがプンプンしてる。

全くだ。

でも。

「どうせあなたは聞いてる途中で寝てしまうでしょう?」

美鈴メイリンからの返しに「ニャハハ〜」と笑って誤魔化す愛麗アイリーだった。


「あ、もうすぐ始まりますよ?」

「それでは皆さん、お静かに。」

芽友ヤーヨウの一言で全員が静かになった。


ゴニョゴニョ。

(お二人とも、先ほどは事故とはいえ申し訳ございませんでしたわ。)


(い、いえ…)

(それほど…でも…)

明花ミンファ闘姫ドウ・ヂェンは歯切れが悪かった。


どれどれ、この二人の本心は…。


(………どうせならもっとムードある時にしてほしいものです!)

…これは闘姫ドウ・ヂェンだ。

そうか、触られた事よりそのタイミングに憤ってたのか?


んで、明花ミンファは…?


美鈴メイリンさん…もしかして、アレはワザとですか…?)

(私だけならともかく、闘姫ドウ・ヂェンさんまで触る事ないじゃありませんか!)

明花ミンファの場合は単なる嫉妬か。


(だから。)



(もう私以外の人に手を出しちゃダメですよ♪)


………え、ちょっと喜んでない?この人…。


結局のところ、二人とも美鈴メイリンの行為そのものに怒ってるわけじゃなかったのか。


驚きのあまり、感情が上手く制御できなくなってたのかな?


…う〜ん、やはり女の子の心は良くわからん。


美鈴メイリンも一応女に転生したんだから俺より女心に詳しいハズなんだが…。

やはりTS転生の元オトコな分、精神面が女のコになりきれてないのかも知れん?


…等と考え事してて気が付くと最後の弁論は始まっていた。


『…つまり、今の社会システムでは魔物の大量発生に対応仕切れ無い危険があるのです!』


ザワザワ…。


会場がざわめいていた。


『故に!』

『才能ある血筋を集めて結束し国の防備に当たらなければならないのです!』

『その為には旧来の血筋ではなく多方面の才ある血筋を結集し国の要所につかせねばならぬのです、結果、古い血筋など不要でしかない!』


そうだそうだ!とステージ手前から同調する声が上がってる。

…サクラを用意してるのか?

それに学院祭イベントの弁論大会にしてはヤケに扱いにくいテーマだな…。


「な、何をおっしゃってますの、あの方は…!」

美鈴メイリンがワナワナと怒りを抑えていた。


「確かに事ある毎に上の指示や判断を仰ぐ命令系統では大きな有事に対して遅れを取るかも知れませんが…。」

明花ミンファが真剣な顔で考えている。


それに対し闘姫ドウ・ヂェンは王族や貴族側視点でこう語る。

「その場合、間を取り次ぐ貴族や領主に問題があるのは確かでしょう。」

「縄張り意識や派閥、そして利権…組織が拡大すれば程度の差こそあれ、その粗は目立ってくるものです………が…。」


まだこの時の俺達は政治や社会のシステムが正常に機能している前提でしか物事を考えられていなかった。


当然俺も美鈴メイリンも、このゲーム世界のシステムでも同じようにしか考えられなかった。


世情を不安定にさせる思想が悪意から発せられた社会全体への攻撃だなんてまだ知らなかったんだ。


そしてそれはいつの間にか身近な部分から仕掛けられていたという事も。



何やら不穏な空気が漂う弁論大会。

この後何も起こらなければ良いのですが。

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