第百二十一話【学院祭初日…】
学院対抗代表戦と打って変わり、平和な学院祭。
ちょっとだけ出番の少ないあの方を思い出しながらつつがなく学院祭初日は終了します。
ドドン!
パパパン!!
秋晴れの空に花火が上がる。
ふと美鈴がこんな事を呟いた。
(花火を見ると思い出しますわ…)
(フレイムドラゴンをぶっ飛ばして夜空の花火に変えた日の事を…。)
【何とも風情の無い思い出だな…。】
美鈴にロマンチックな思い出を期待するのが土台無理というものか。
…それはともかく、今日は学院祭初日なのだ。
山や街路樹には紅葉が目立ち始め、いよいよ本格的な秋の到来を思わせる、この11月。
しかし上旬を過ぎれば冬の訪れを予感させる晩秋、早朝に吐く息は白くなり出す。
そして秋の学院祭を辛うじて間に合わせる事が出来た新旧生徒会メンバー。
「この学院祭が終われば、今度こそ本当にご勇退ですね。」
「あら何をかしこまってるの多彩蜂さん?」
「いえ、月夜会長には色々とお世話になりましたから…。」
「ふーん、確かに魔法部門決勝に於いては手を煩わせてくれたものね?」
「そ、それは…あの時は勝負でしたから〜!!」
多彩蜂は頬をポリポリと掻いた。
「フフフ、冗談よ♪」
「そんな貴女がここまでしっかり新生徒会長としての任を引き継いでくれて正直ホッとしてるのよ。」
「これで安心して私達も卒業出来ますね、月夜元生徒会長。」
「そうね、元副会長♪」
アハハと笑い合う月夜と副会長だったコ。
「月夜さん、私達は安心材料になりませんの?」
多彩蜂新生徒会長ばかり話題にされて少々不服なヤツがココにいた。
「も、モチロン貴女達にも期待してるわよ?」
「何せ多彩蜂さんの後釜を任せられるのは貴女方一年生ですものね、」
「美鈴さん?」
「ハイ!…まああまり期待されても困りますけど?」
「もう〜、美鈴たらー?」
「ウフフ、貴女も大変ね明花さん?」
「ハイ!…あ、い、いえ別に大変では…(汗)」
慌てて言い繕う明花だった。
思わず本音か出ちまったみたいだな?
「…闘姫さん、…美鈴さん達の事、よろしくお願いしますね?」
「…ハイ…それが私の使命ですから…。」
美鈴が明花と少しいいカンジなのが面白く無いのか拗ねてる?
「ウフッ。」
ガバッ。
「えっ?」
「きゃっ?!」
月夜はいきなり美鈴と闘姫の二人を抱き締めた。
「ゆ、月夜さんっ?!」
突然の事に明花の声が上擦った。
「…やっぱり私、…貴女達の事、大好きよ。」
二人の後頭部を軽く撫でた後、ユックリと月夜が離れる。
「その…私も八大武家の守るべき四大名家のご令嬢として、そして気さくな先輩として月夜先輩の事は大切に思っていますわ。」
「…その、色んな意味で貴女が私に好意を寄せて下さってた事は知っておりますので…。」
闘姫はやや複雑じみた笑顔だった。
「ええそうね、姫さんとは色々あったものね…クスッ。」
ちょっとだけ月夜の瞳が妖しく光った。
もう淫魔の影響は二人には無かったはずだけど、それなりに心の奥底では思うところがまだ残ってたのかも知れないな。
まだ夏が終わってそんなに時間も経過してないから無理も無いか。
「…なんか湿っぽくなっちゃったけど、まだ私達旧生徒会メンバーは卒業まで協力出来る範囲で協力するから、何時でも声かけてね?」
「元副会長の私からもお願いするわ。」
「あと、この学院祭が終わるまでは私達もまだ生徒会だからよろしくね?」
「ハイ月夜さん、元副会長さん。」
多彩蜂はガッシリと月夜、元副会長と握手を交わした。
「そういうわけだからお願いするね、闘姫副会長!」
「わかりました、多彩蜂生徒会長。」
………そうなのだ、報告が遅れたけど新副会長はまだ一年生の闘姫が選ばれたのだ。
明花は会計、芽友は書記。
そして我らが美鈴とその側仕えである愛麗は。
「私達は無職で気楽ですわよね〜、愛麗?」
「アハハ、じゃ今迄通り遊んでいられますね〜、お嬢様〜♪」
「何言ってるの?」
「お二人も立派な生徒会役員なんですからね!」
役職名は参与とか言うらしい。
俺も前世で生徒会なんてやった事無いから知らんかったけど、そんな役職あったんだな。
まあ、平たい話しが雑用じゃね?
「わかってますわよ、冗談ですわ明花さん(笑)。」
「ええー?私達遊んでられないんですかー?」
「そんな楽な役職無いに決まってるでしょ、愛麗?!」
芽友の言う通りだ。
…まあ現実の国会議員は国会テレビ中継中に居眠りこいてたらしいから案外国会議員はそんな感じなんだろうか?
知らんけど(笑)。
さて、そんなこんなで新旧生徒会役員が見廻りしながら学院祭は行われた。
まあやってる事は良くある文化祭みたいなもんで、各学年各クラスで趣向を凝らしたコーナーや店をやったりしてる。
講堂のステージ上では演劇部による劇や合唱部による歌、吹奏楽部による演奏が披露された。
劇は歴史上の物語をアレンジしたもの、歌は教会の歌、演奏曲自体は古典的宮廷音楽、がメインだった。
だったが。
ジャララン♪
おおっ?これはギターの音色っ?!
…何でギターがあるのかは知らん。
お前世の記憶や知識がどの程度かは知らんけど、おそらく別の転生者が入れ知恵でもしたんだろう。
(そうなんですの?)
それしか考えられんわ!…知らんけど。
曲は…う〜ん?何やら、ちと古いメロディーのような…良くわからん。
(オリジナル曲でしょうか?)
…かもな?
そんな、俺と美鈴だけが通じる念話で会話してる間にも劇は進んでいた。
【来るか悪党!】
【貴女達の企み、この仮面の剣豪が許しません!】
【かかって来なさい!】
何故か美鈴が変身して姿を見せた三人の仮面の剣豪が悪役を前に立ち回ってる活劇が披露されてた。
一人は今やすっかり有名になった白百合のプリンセス。
麗しく優雅なダンスを交えた剣舞を披露している。
剣の方が闘姫や美鈴達に及ばないのはともかく、踊りの方はその二人に負けてないと思う。
二人目は紫のチャイナドレスを着た不可視擬。
こっちは体操選手みたいな軽業を披露してアクションシーンを頑張っている。
現実の不可視擬の戦い方とはちょっと違うけど、アレを真似しようにも無理があるからそれらしく思わせる表現にしたんだろう、中々頑張ってると思うぞ。
…そしてもう一人が。
【…く、喰らええっ…!】
重たそうな甲冑を着込んでフラフラしながら大剣を振るう、最初に現れて以来出番の無い仮面の剣豪、電光裂火…あ、以前に美鈴が超速星とか名乗った形態だな?
「あんな重い甲冑なんか着込んでるから…見てられませんわ。」
ファ〜ア、と欠伸をかます美鈴。
電光裂火はその鈍重そうな外見に似合わずその名の通り瞬間移動の如く猛スピードで動き回る。
しかも魔法を全身に纏いながらハイパワーな攻撃を繰り出す。
正に対モンスターにうってつけな形態なのだ。
特に巨大モンスターに関しては絶大な威力を誇る。
…まあ、その分魔力の消耗も激しいのがネックなんだが。
そんな欠点もあるので普段はオールラウンドな白百合のプリンセスこと聖練潔白、多人数相手のスペシャリスト不可視擬の出番が多くなるのだ。
もっとも、当の変身前の美鈴そのものが規格外の戦闘力を誇るので流血を見て失神する欠点が暴露されない限り美鈴がそのまま戦闘する場面も多い。
当初は八大武家ご令嬢としてあまり大っぴらに活躍して手の内や実力をひけらかさないように仮面の剣豪に変身する必要があったんだけど…もう美鈴の化け物じみた戦闘力の噂は学院内外に広まりつつあるんでそれも何処まで必要なのか?
まあそんな美鈴とて無敵じゃない。
彼女…いや、前世で元々男だったから俺からしたらそう呼ぶのは若干抵抗もあるけど…てことでヤツ!…これも現世のアイツにはしっくりこないか…ええい、アイツでいいわい!
で、その、今のアイツより強いヤツはまだ沢山居るだろうし不利な状況もあるだろうから仮面の剣豪に変身する意義自体はある!
しかし白百合のプリンセスに関してはその母体となる聖錬潔白の霊体が受肉して闘姫という別人格として常に存在している。
聖霊の仮面から独立してる為、本来の仮面の剣豪として聖霊の仮面の加護を受けられないから闘姫の前世本来の力しか発揮出来てないのがネックだ。
…て、そんな今更な事は置いといて、だな。
「何より動きにキレが無い!剣の技術もとても本人達にも及びませんし…!」
「まあまあ、そもそも学院祭の、しかも劇なんですから…(笑)。」
明花は苦笑しながら憤慨する美鈴を宥めた。
「そ、そうです、闘姫さんはどう思われますか?」
明花は冷静な判断をしてくれそうな闘姫に話しをむけたんだが…。
「…そうですね。私達を主役に起用すればもっとマトモな剣技をお見せ出来るというのに…!」
「闘姫さん、貴女もですか〜?!」
明花はマトモな意見を期待した投姫まで美鈴寄りの発言をしたので呆れた。
と、
ボソボソ…。
「そう言えば超速星って一度現れたきり見かけないよねえ…。」
「確かに出現した時は盛り上がって銅像まで作られたのに、どうされてしまったのでしょう?」
「私、白百合のプリンセスしか見たことない。」
「私たまたま不可視擬ちゃんを見かたけた事あるけど、結構可愛かったよー♪」
「やっぱ仮面の剣豪と言えば白百合のプリンセス様よねえ〜♡」
「うんうん、あの高貴で麗しいお姿…素敵ですわ♪」
「不可視擬ちゃんの魅力に気が付かないとは、お主らまだまだモグリよのう?」
「ちょっと、それ何のキャラ(笑)?」
キャハハハと生徒らの笑い声がする。
これが耳に入ったのか、超速星こと電光裂火の動きは益々精彩を欠いた。
単に甲冑が重くて疲れたのかも知れないが。
そして劇は仮面の剣豪達が勝利して雄叫びを挙げたところで終幕となる。
「さてとお仕事に戻りますわよ。」
「超速星様、現実の出番が少ないせいか役者も覇気が感じられませんでしたねー。」
愛麗、その物言いはストレート過ぎるぞ。
ツカツカと講堂を去る新生徒会役員の面々。
俺は今まで勝手にチーム美鈴と呼んでいたのだが、これからは新生徒会と呼ぶべきかもな。
彼女らは休憩を終え、これから学院祭の見回りや雑務をこなしていた旧生徒会役員と引き継ぎするところだ。
その道中、
(闘姫さん、名尾君、今宵精神世界で白百合のプリンセスと二人きりでのお話しがしたいのですけどよろしいですか?)
この唐突な美鈴からの念話に、
闘姫は歩きながらドキッとした。
彼女の後ろを歩いていた明花はその様子を見るや、
「?」と首を傾げるのだった。
「どいたどいたー!」
突然、新生徒会一行を追い抜く生徒達。
「どうかされましたのー?」
「展示してた卵の雛がかえりそうなんで産屋にはこんでるんですー!」
ピューとその生徒達は駆けていった。
闘姫が呟いた。
「この学院でニワトリでも飼ってたかしら?」
これには明花が苦笑いした。
「ニワトリの卵なんて展示しないと思いますが…。」
ピキーンと美鈴の目が光る。
「まさか、魔物の卵?」
「まっさかあ!お嬢様じゃございませんし!!」
「ですよねー。」
側仕えコンビが笑った。
「そ、そうですわよね〜。」
アハハハと笑い合う新生徒会役員達。
と、ここで美鈴がハタと気が付いた。
「…て、何ですってー?!」
「しまった!ディスったのがバレました!」
「バレない方がおかしいでしょ愛麗?」
スタタ!と逃げる側仕えコンビ。
「待ちなさーい!」
美鈴が追いついて側仕えコンビの首根っこを捕まえようとした途端、コンビは瞬間転移で逃げてしまった。
「うう〜っ、後で覚えてらっしゃい二人共!」
頬を膨らませる美鈴を笑って見ている明花と闘姫。
まあ結局、美鈴の方もそんな本気で怒ってるわけでもなかったけどな。
夕食の時に何も側仕えコンビについて言及しなかったし。
そして学院祭初日は特に大きなトラブルも無く、
月夜を狙った暗殺も起きずに幕を閉じるのだった。
学院祭後編となる二日目もこのまま無事だといいな…。
今回は特に何もトラブルが起きませんでした。
後半二日目、このまま何も無く終わるのか…?