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慈悲深い仮面の剣豪は、実は血を見るのが苦手な中華風TS美少女です!  作者: 長紀歩生武
第一章【高等部入学編】
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第十二話【決戦!美鈴(メイリン)VSドラゴン】


宋芽友ソン・ヤーヨウがベッドで眠り続ける安月夜アン・ユーイーを見守っている。


あれから保健室まで愛麗アイリーが担いで連れて来たのだ。


アン先輩は今、保健室の先生による催眠で眠らされている。


范燕巫ファン・イェンウー先生が取り敢えず封じ込めている霊獣ドラゴンも、今は眠っている。


だが何れ目を覚ますと取り返しの付かない崩壊をこの学院にもたらすだろう。


ファン先生は学院長をはじめ、全教職員に事情を話して午後の授業を自習に切り替えさせた。


今は放課後までアン先輩と美鈴メイリン明花ミンファ、そして自分の霊力や魔力、体力を回復させているところだ。


宋芽友ソン・ヤーヨウファン先生に尋ねる。

「先生、これから一体どうやってこの先輩を助けるおつもりでしょうか。」


それに問に答えるファン先生。

「放課後に校庭にその子を移動させてそこの結界内でドラゴンを安月夜アン・ユーイーから引き離す。そして文明花ウェン・ミンファに彼女を保護させ治療、黎美鈴リー・メイリンにドラゴンを弱らせたところで私が霊界へとドラゴンを追い払う。」


「それでは、あまりに黎美鈴リー・メイリン様が危険過ぎるのではありませんか?」


「いや、私も他の教師らの援護を進言したのだが、当の本人がそうしたいと言って聞かないらしくてな。」


「た、確かに美鈴メイリン様は中等部では無双だったと聞いておりますが。」


「決してまだ国内最強と確証されたワケではない。当学院高等部代表になら十分候補になれるだろうが…。」


「何か、とっておきの手でもおありなのでしょうか?」


「さあな…?」


二人は不安げに眠り続ける安月夜アン・ユーイーを見守るのだった。


彼女は食堂で苦しんでいた姿が嘘のように、まるで頬笑むように眠り続けている。


楽しい夢でも見ているかのように。



…………。



「はあ。自習は退屈ですわ…。」


「そうですか?私は楽しいですよ?」


美鈴メイリン愛麗アイリーの手違いで教科書を一冊屋敷に置き忘れてしまっていた。

それも愛麗アイリー自身の教科書も一緒に。


余程その教科、数学が大嫌いだったのだろう。

罰も兼ねて、美鈴メイリン愛麗アイリーに屋敷まで教科書を取りに戻らせた。


今から屋敷に戻ってまた学院まで来るとなると夜になってしまうだろう。


これは出来ればドラゴン退治の現場に愛麗アイリーを留めたくは無いという美鈴メイリンなりの思いやりなのだという事を明花ミンファは気が付いていた。


屋敷まで教科書を取りに戻っている愛麗アイリーが教科書を届けに来るまでの間、隣の明花ミンファに教科書を見せてもらうしかなかったが故に、机をピッタリくっつけて肩と肩もピッタリ寄せている。


明花ミンファ美鈴メイリンの頭の中が今は安月夜アン・ユーイーを救う事でいっぱいなので、少しでも美鈴メイリンとの距離を縮めておきたかった。

そうしないと美鈴メイリンの心が先輩に奪われやしないかと気が気でないのだ。


そんな彼女にとってこれは嬉しい出来事だった。

文字通り二人の距離自体はこれ以上無いほど縮まっている。

(今のままでは安月夜アン・ユーイー先輩に美鈴メイリンさんを取られてしまいそうです!こうして少しでも美鈴メイリンさんの意識に私を植え付けておかねば…!)



………だが、実はグイグイ来る明花ミンファに対し必死になって心の平静を保とうとする美鈴メイリンなのであった。


観自在菩薩かんじーざいぼーさー行深般若波羅蜜多ぎょーじんはんにゃーはーらーみーたー…)

そのため気を紛らわそうと般若心経を心の中で唱える始末であった。


(一切は空!色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき!)


美鈴メイリンは頭の中を空っぽにして教科書の知識を頭に詰め込む事だけに集中していた。


百合嫌い・百合アレルギーなハズの美鈴メイリンが何故かこの頃、明花ミンファにだけは危うく心が揺さぶられそうになる。


愛麗アイリーとは親しいが、やはりあの変態に迫られると恐怖で拒否ってしまう。


あくまでも友情などエロさのない関係なら平気なのだが、恋愛的感情を同じ女から向けられるとどうしても生理的に受け付けず恐怖してしまう。


なのに、明花ミンファは相手にそんな気分を微塵も抱かせないのだ。


明花ミンファの百合パワーは、美鈴メイリンにとってある意味ドラゴンよりも強敵なのかも知れない。



………因みに美鈴メイリンが般若心経を知っているのは前世でゲームやラノベに影響を受け、忍者の小説や時代小説も読んでいたからだ。



自習時間も終わり、ホームルームで全校生徒は避難所へ誘導された。


美鈴メイリン明花ミンファを除いて。


「では明花ミンファさん、参りますわよ?」


「はい。足手まといにならないように頑張ります!」

二人は真剣な表情で校庭に向かう。


【よーよー美鈴メイリン、マジでドラゴンとやり合うつもりか?】


(やるしかないでしょう、今更何を?)


【言いたか無いが、まだ今のお前じゃ善戦は出来ても勝ち目は薄いぜ。】


(シナリオでは勝ってましたわね。確か仮面の剣豪になって。)


(イザと言う時、頼りにしてますわよ?名尾ナビ君。)


【だが仮面の剣豪になるための条件覚えてるよな?】


(ええ。結界の一部を壊されて、そこへ吹き飛ばされる…。)


【あれは全くの偶然で皆の前から姿を消せた。狙って出来る事ではないだろう。】


【一部だけとはいえ、結界を壊し更にお前を吹き飛ばす程の力を持つ霊獣が相手だ。下手をすりゃ命は無いぞ?】


(…上手くいく保証はありませんが、それをやらねばこの先のシナリオをこなす事などできませんわ。)


美鈴メイリンが仮面の聖霊との念話による会話を済ませると、そこは既に校庭だった。


明花ミンファ美鈴メイリンの腕にしがみつく。


校庭の中央には祭壇が設けられ、既に范燕巫ファン・イェンウー先生が立っていた。


祭壇の上には白装束に着替えされられた安月夜アン・ユーイー先輩が横たわっていた。

その彼女の白装束と素肌の露出している手足、そして顔には何か呪文のような文字や紋様が描かれている。


「良く来てくれた二人共。」


「準備はオッケーですわ。」


「わ、私は先輩の側に付いてないといけないのですね?」


「ああ。美鈴メイリンの側は危険だ。私達と共に中央の結界に入ってなければ命に関わるだろう。」


「そして霊獣が抜け出た後の彼女の治療も頼みたい。名残惜しいだろうが、こちらに来てくれ。」


「………明花ミンファさん、行ってくださいな?私の事なら大丈夫です。」


「でも、でも…!」


中々離れようとしない明花ミンファ美鈴メイリンはやや冷たく言い放つ。

「戦いのみにおいては、貴女は足手まといにしかなりません。」


「!」

ショックを受ける明花ミンファ


だが、すぐに柔らかい表情と優しい言葉で明花ミンファが受けたそのショックを癒す美鈴メイリン

「ですが、貴女にしか出来ない事があります。それは先輩を救う事であり、戦いで消耗した私を癒す事です。」


明花ミンファさん、貴女の命を私に預けてくださいな?代わりに貴女に私と先輩の命を預けさせていただきます。」


美鈴メイリンさん…。」


「…わかりました。私、先輩を救います。それから貴女を信じて待ちます。」


「良かった。…さあ、早く!」


「はい!」


明花ミンファ美鈴メイリンの腕にしがみついていた自らの腕を解くと中央の祭壇へと駆け寄った。


「先生、お願いいたします。」


「うむ。ならば、始めるぞ!」


ファン先生が紙で作った式神を四方に投げると、それは一旦四方を守護する聖獣の姿に変化し、次に炎となって篝火を灯した。


「乙女の奥底に眠る霊獣よ、ドラゴンよ、我々の前にその姿を見せたまえ!」


呪文を唱えながら先生の指先から光線が放たれる。


その光線は幾何学的模様となり空間を覆う。


そして西洋の魔方陣、東洋の呪符の紋様となってそこから光の奔流が流れ出す。


先生が両手人差し指と中指を立てて手を合わせると、その指先をアン先輩へと向ける。


そして念を込めると指先が眩しく光る。


「…喝!」


指先から光が迸り、その光がアン先輩のお腹へと注がれる。


(………来ますわね!)


美鈴メイリンがやや姿勢を低くして身構える。


すると、彼女の頭上の空間に大きな穴が開く。

モクモクと沸き上がる雲が螺旋状にゆっくりと吸い込まれていく。


暗黒のその奥で、何かが光った。


その様子を、呪文を止めたファン先生、そして先輩の側にいる明花ミンファが呆然と立ち尽くして見ていた。


「来なさい、ドラゴン!」


「第11代目・リー家当主が娘、この黎美鈴リー・メイリンが貴女の相手をして差し上げますわ!」


鞘付きの剣を頭上の空間の穴へと突き付け、堂々と宣戦布告する美鈴メイリン


【面白い…。】


上空の空間の穴から重く低い声が響いた。


「………まさか、喋った?」


「人間の言葉を?」


先生と明花ミンファが驚いている。


【我に楯突く小生意気な娘、その度胸に免じて我との手合わせを許そう。】


「その上から目線の言葉、地上に降りたらそっくりそのままお返しいたしますわ!」


【たわけめ。地上に我が降りればオマエの命なぞ風前之灯よ!】


穴が大きく広がると、そこから一匹のドラゴンが抜け出してきた。


そして地上に降りて美鈴メイリンと対峙するその姿は東洋の竜とは違う、西洋の悪役ドラゴンそのままの姿だった。


身体の色は黒く、狂暴そうな爪の生えた太い手足を持ち、先端に鋭い爪のある蝙蝠のような翼を背中に生やしていた。


【来るがよい、娘よ。オマエの武技がどれ程のものか、我が確かめてやろう。】


「…はあ~。」

溜池を吐く美鈴メイリン


「…無茶苦茶余裕たっぷりにこいてますわね。」


「どこまで自信過剰なのでしょうか、この阿呆ドラゴンさんは。」


【フフン、自信過剰なのはどっちだ、小娘の分際で!】


「あら、イラつきましたの?デカい図体の割には肝が小さいようですわね?」


【キサマの武器はその悪口か?その手には乗らんぞ、フフ。】


「あらバレましたか?なら仕方ありませんわ、最初のお言葉に甘えさせてもらいます!」


いきなり俊足を生かしてドラゴンの懐に飛び込む美鈴メイリン


【むっ?】


「まずは…小手調べっ!」


美鈴メイリンが鞘付きの剣を袈裟斬りに振り回した。


剣の鞘切っ先部分がドラゴンの胸部から腹部にかけてを斜めに寸断する。


勿論刃の出ていない剣では切り裂く事など出来ない。


だが。


【うっ、があはあっ!】


その剣圧に全高10メートルはあるドラゴンの身体が3メートル近く後退りした。


【な、な?】


「あら、先ほどまでの余裕はどうされましたの?」

鞘付きの剣を担いでニヤニヤ笑う美鈴メイリン


「う、嘘だろ?何てバカ力の剣なんだ…!」

先生が唖然とする。


「す、凄い!凄いです、美鈴メイリンさん!」

明花ミンファが感激する。


これまで人間飛ばしで相手を100メーター程度ぶっ飛ばしてきたのは伊達ではない。

我々の現実世界の地球よりも重力が弱いから可能なのだがそれを差し引いても、とても人間技ではない(笑)。


とは言え相手が人間だと精々50~60㎏程度の体重に装備重量を加えても70㎏程度。


対してドラゴンはその全高こそ人間の約6倍だが全体の質量は人間のおよそ100倍。


つまり体重は5トンにもなる。

大型トレーラーに匹敵するそんな相手を下がらせただけでも美鈴メイリンの剣圧が持つ力は相当な破壊力だと言える。



【む、娘。オマエ本当に人間か?】


「紛う事なき、立派に人間でございますけど、それが何か?」


続けて剣を左右に二振りする美鈴メイリン


ドラゴンは慌てて翼をばたつかせてやや上空にて待機する。


【成る程。オマエの剣、確かに我は少々見くびっていたようだ。】


【だがどうする?ここまでは自慢の剣も届くまい?】


「あら、そんなの魔法を使えばイチコロですわ?」


【…何?オマエ、まさか魔法も使えるというのか?】


「ええ、例えば…。」


美鈴メイリンが指を翳すと突風が巻き起こり、ドラゴンの周囲を包み込む。


【…な、な、何い?】

周囲の空気が乱され、激しい風に煽られたドラゴンは姿勢を乱され滞空するだけでも精一杯にさせられた。


「チョイッとな?」

美鈴メイリンが指先を下に向けると、一気にドラゴンの身体が上からの風圧に押されて落下する。


【ぐあああ~?】


ズダーン!


校庭にドラゴンが落下し、彼の落ちた部分の地表が約50センチメートルほどの深さに抉れた。


【ゴホッ、ゲホッ、…な、中々やるではないか?】


まだ余裕を見せるドラゴン。


「減らず口はそこまで。まだ私にはもう一つ魔法が使えますのよ?」


【何?ま、まだあるのか?】

嫌そうなドラゴン。


「まあまあ、そう言わずに。例えば、こんなのとか?」


ピキピキキ…。


ドラゴンの腕、そして足の表面を氷が覆う。


【と、凍結魔法だと?】


「ええ。…ねえドラゴンさん?私は別にあなたを退治するつもりはありませんの。このまま大人しく霊界に帰ってくださればこんな無用な戦いはせずに済みますから。」


【それは、聞けぬ!】


「まあ、何故ですの?」


【我は久しぶりにこの世に実体化できたのだ、このままろくに戦いを楽しめもせぬまま帰るワケにはいかぬ!】


【それにだ。我は契約を結んでおる。おめおめ霊界に戻っては契約違反となるからな。】


「その契約とは?そして契約を結んだ相手とは誰なのですか?」


その美鈴メイリンの問いに対し、明花ミンファが口を挟んだ。

「待ってください?確かアン先輩は家庭教師から修行としてそのドラゴンさんを宿されたと言っておられましたよね?」


それに対し美鈴メイリンはこう答えた。

「本当にそうでしょうか?」




「え?」


「何を聞きたいんだ、美鈴メイリン君?」


美鈴メイリンの真意がわからない明花ミンファと先生。


アン先輩がそう言われたのは事実でしょう。しかし、その家庭教師が本当にアン先輩のためを思ってやった事だとは私には到底思えない。」


「私はそこに悪意を感じる。」


「さあ、答えてください、あなたは誰とどんな契約を結んだのですか?」


【シナリオで知ってる癖に、大した演技だなー?】


(シッ!ここは盛り上がる場面なんだから黙っててください!?)



【我の契約主の名前までは、知らん。】

【だが我はヤツにこう頼まれた。】


【その娘、安月夜アン・ユーイーの魔力を食らい尽くせ、とな。】

ドラゴンはそう言ってニヤリと笑った。


「そんな?アン先輩の魔力を…そんな事すれば、先輩の命は!」

ぐぐっと剣の柄を強く握りしめる美鈴メイリン

シナリオ通りのセリフとはいえ、目の前の生きている安月夜アン・ユーイーの命が奪われそうだと実感すると平静ではいられなかった。



【さてと、お喋りはここまでとしよう。】


【小娘、美鈴メイリンとか言ったな?】


【ここまではオマエの力を見切るために受けに回っていただけに過ぎん。】


ドラゴンの身体から炎が燃え上がる。

すると、手足を覆っていた氷は呆気なく溶けて蒸発する。


【申し遅れた。我の名前はフレイムドラゴン。】


黒い竜は真っ赤な焔の竜と化していた。


「やれやれ、人間にも炎龍イェンロンと呼ばれる阿呆がいましたけれど、つくづくその手のとは腐れ縁みたいですのね、私は。」


【今度はこちらから行くぞ!】


不動の置物のようだった先ほどまでとは違い、俊敏かつ予測出来そうにない動きで襲いかかってくるフレイムドラゴン。


その姿を眼に映しながら美鈴メイリンは思った。


(あーあ、これはそろそろどこかで仮面の剣豪になりませんと、シナリオイベントをこなせませんわね。)


このままコイツを倒してしまうとゲームのシナリオが狂ってしまう、そんな心配をする美鈴メイリンだった。


(まったく、ゲームではシナリオをただ眺めてるだけの展開なのに、いざ自分でそれをこなすとなると、結構面倒ですわね!)


美鈴メイリンはドラゴンの攻撃をかわしながら時折適当に反撃して仮面の剣豪へと変身する機会を伺うのだった。


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