第百十九話【相対関係から相愛関係に発展…なんて事は有りえませんよね、美鈴(メイリン)さん(涙)?!】
明花です。
遂に…学院代表対抗戦の決勝戦も決着となります…!!
果たして勝敗の行方は?
そして…まさかの事態に?!
美鈴さん、私は信じてますからね?!
ズドオオオン!!!
火炎壁が竜巻斬を受け止めた!
その衝撃は圧力となって火炎壁の後ろにいる鳳華音の身体を押した。
彼女の足が後ろへ三十センチメートルほど滑った跡がクッキリと残っている。
火炎壁は竜巻斬の風圧を防いでいるものの、ビリビリ震える空気の振動を鳳華音の身体へと伝えている。
「な、何という風圧なの…?」
彼女は火炎壁を支えるように両腕を伸ばして魔力を送り続けていた。
「これに耐えますか…流石は北の代表選手ですわね。」
現在、竜巻斬の三重の竜巻のうち一番外側の竜巻が火炎壁にぶつかっている。
その竜巻の勢いが弱まり始めた。
「おや…思ったより火炎の抵抗がお強いようですわね?」
「こ、このまま、持ちこたえてみせる…!」
が。
ヒュウウン…。
外側の竜巻と火炎の壁の拮抗が保たれたまま、両者は消え失せた。
「嘘…私の火炎が…。」
「外側の竜巻が消失するなんて…やりますわね、鳳華音さん…!」
鳳華音は自分の火魔法である火炎壁の火炎が消された事にショックを受けていた。
が、まだ障壁自体は残されている。
「まだまだ!火炎の第二波を追加すれば…!」
華音は皿なる火魔法を障壁にかけようとした。
その時。
ピッ、
ピキキキッ…、ビキッー!
「行けっ、私の竜巻斬!」
竜巻の中側にいた第二の竜巻が障壁を打ち破ろうとしていた。
「させるものですか!」
鳳華音は残された障壁を援護するため新たな火炎の魔力を障壁へと送った。
「突破なさいな!」
美鈴が竜巻斬に障壁突破の為の発破をかけた。
グオン!
竜巻斬の中側竜巻の勢いが一瞬増した。
それは遂に華音の障壁を貫くのだった。
そこへ竜巻斬の一番中心にあった竜巻が、細いドリルのような形状となって障壁に穿たれた穴から飛び出した!
「行けえっ!」
「させませーん!」
攻める美鈴の竜巻斬、それを防がんと鳳華音から放たれる火炎魔法!
勢いのある火炎がドリルの突風に挑んだ場合どうなるのか?
如何なる高熱火炎であろうとそれが大気中に発生した炎である限り、大気の塊である竜巻斬に適う筈も無い。
ズバッ!
難なく竜巻斬は鳳華音の火魔法による火炎を貫いた。
「嗚呼っ?!」
鳳華音は無意識に剣でその竜巻斬を防ごうとした。
ガキッ!!
彼女は剣を楯にして歯を食い縛る。
「ん!ングウウッ…グッ!」
貴族のお嬢様にあるまじき形相で必死に竜巻斬を耐える鳳華音。
美鈴は構えのまま、それを、ジッと見据えていた。
敢えてか追撃をしようとはしなかった。
華音がこれをどう耐え切るのか見届けたかったのかも知れない。
けど限界は意外に早く訪れた。
バキイン!
「あ…。」
剣が。
鳳華音の剣が、折れたのだ。
その時、竜巻斬の突風もまた消えた。
「剣が折れれば勝負有り、ですわね?」
そう誰もが思った。
「なら、まだ終わりじゃないわね?」
スラリ…と折れた長剣から短い剣が引き抜かれた。
そうだった。
鳳華音の剣は双剣だったんだ。
一本の長剣の中にもう一本の剣か隠されている作りとなってる双剣。
「主たる長剣部分は折れたけど、まだ私にはこのもう一つの短剣部分が…あるっ!」
残された短剣を左手で逆さに構える鳳華音。
更には。
「い出よ、炎の小太刀よ!」
ゴオオッ!
右手には炎で作った片手剣を出現させた。
…てか、アレって熱くないのか?
「か、カッコいい…!」
「そうよ、まだ諦め無いで鳳さーん!」
「美鈴に目にモノ見せてやれーっ!」
ワーワーと観客席の鳳華音ファン達が騒ぎ始めた。
その応援を受けてか、さっきまでの攻防で疲弊していた鳳華音の顔に生気が戻り始める。
「まだ…勝負はこれからよ、美鈴!」
ニヤリと不敵に笑う鳳華音。
「言いましたわね、華音!」
それを受けた美鈴もまた、ニコッと笑って返した。
…て、いつの間にか呼び捨てで呼び合ってる?!
そうか、つまりもうお互いに一切の遠慮は無用って事か?
「やあ嗚呼ーっ!!」
キイン、ガキッ!
「はあ嗚呼ーっ!」
ガキガキン!
「まだまだ、火炎飛翔の術っ!」
全身全霊注ぎ込むかのような鳳華音が剣を翼にして飛び、闘技場を舞う。
その踵からはジェット噴射のような火炎が放射されていた。
そして空から美鈴への斬撃を繰り出す。
その剣の舞を受け止める美鈴もまた右手に霊斬剣、そして左手には疾風を刃にして纏い、鳳華音の短剣と火炎の小太刀と打ち合った。
「空を飛ぶならこちらも!」
「これこそ飛翔魔術の元祖、有翼飛翔魔術!」
ズバッと美鈴の背中から魔法の翼が生えた。
「行きますわよ!」
闘技場を二人の天使が舞う。
片や翼を生やし手から突風の弾丸を放つ。
片や両手剣を翼とし踵の火炎噴射で飛翔、火炎の弾丸を放つ。
二人からの流れ弾が観客席を防護する魔法障壁に時たまぶち当たる。
その度に肝を冷やす観客もいれば、そのスリルを味わい試合に興奮する観客もいた。
「どちらも引けをとらない戦い…息が詰まりそうです。」
明花の従者である芽友は溜息とともにそう洩らした。
「芽友、私のお嬢様が負けるわけがありません!」
愛麗は常に主人の勝利を信じて疑わない。
「これは…思ったより鳳華音さんもやりますね。」
「貴女はどちらが勝つと思われますか、明花さん?」
闘姫は少し意地悪するように明花に質問してみた。
「ええっ?…そ、それは勿論、美鈴さんだと思いたいですけど…。」
「私もそう思います、ただそのための条件となると…何が勝敗を分けるか、です。」
(流石に彼女にはわからないでしょう。)
(やはり戦いに於いて美鈴さんの横に並んでいられるのはこの私…)
「あ、単純にこれがスタミナや魔力量の問題なら間違い無く美鈴さんの勝ちですね?」
「エエ~ッ?!」
(な、何でわかっちゃうんですかあ〜っ?!)
闘姫はこの明花からの答えに動揺した。
「美鈴さんの真の実力は正直掴み所が有りませんし、鳳華音さんがどのような手の内を隠しておられるのか私にはわかりませんけど…。」
「ただ、普通に考えたならあの規格外な美鈴さんが人間同士での剣の勝負に負けるなんて想像もつかないんですよねー♪」
「た、確かに…。」
闘姫は軽く目眩がして頭を抱えた。
(そ…そうですよね、普通に考えたらそうなりますもの…。)
(なのに私ったら何を彼女より優位に立とうと浅知恵出したのかしら?)
闘姫は変な自分の焦りを自嘲した。
実は観客席でもこのような二人だけの恋の戦いらしきものがチラッとだけあった。
そして本来の試合。
その均衡も遂に破れる時がやって来た。
シュウウウ…!
それまで順調に飛行していた鳳華音だが。
シュウウ………ぷすっ…。
「あ、あれ?」
スカッ、
「えっ?」
………説明しよう。
鳳華音が魔力切れを起こし、彼女の踵からの火炎噴射が停止した。
ソレにより彼女の身体は墜落を始め、美鈴が華音の剣目掛けて放った斬撃が空を切ったのだ。
剣の動きに関係なく、狙ったハズの剣が持ち主ごと落下を始めたので美鈴の剣が届く頃にはそこに華音の剣が存在しなかったのだから当然そうなる。
「あ、あれえ、…キャーッ……!」
グングンと速度を上げて落下してゆく鳳華音。
そんな高く飛んでいなかったので地表は直ぐ傍まで迫っていた。
「華音!!」
美鈴は猛スピードで追跡した。
「〜、美鈴っ…!」
「ま、間に合いませんわっ…!」
ガシッ!と美鈴が華音の身体を強引かつ力任せに抱き寄せた!
でももう地面は直ぐそこだった!
ズドオオオンッ!!!
モウモウと土煙が巻き起こった。
ザワザワ………。
「い、一体どうなってるんだ?」
「二人は、二人は無事なのっ?!」
「早く、早く救出をっ!」
観客席の防護壁が解除されるや、魔法師達により風魔法で土煙が吹き飛ばされ始めた。
「早く救助兵を!」
闘技場には防衛専門の衛兵のみならず負傷者救出専門の救出兵や魔法医師も常駐していた。
当然。
「私達も行きましょう、明花さん!」
「ハイッ!」
闘姫が手を伸ばし、それに明花も応じた。
二人の身体光に包まれて跳躍し、ゆっくり闘技場のグランドへ着地した。
「芽友、私達も!」
「うん、捕まって!」
芽友に愛麗が抱き着くと、二人は瞬間移動でグランドに現れた。
「美鈴さんー!」
「美鈴さん、鳳華音さん?!」
「お嬢様ーっ!」
「美鈴お嬢様、そして相手の方も大丈夫ですか?」
四者四様に言葉を口にしながら駆け寄るチーム美鈴の四人。
そこで四人が見たモノとは。
「美鈴〜、強く抱き過ぎ…♡」
「ご、ゴメンなさい、つい必死であの、…痛かったですか?」
「ちょっとだけ…もう、今度からもっと優しく、ね?」
「は、はい………え?…今度、から、とは…?」
グランドに空いた穴の中でヒッシと抱き合う二人だった。
しかもなんかイチャついてるように見えるような…?
【な、何やってるんですかっ、
二人ともーっ?!】
明花が絶叫した。
さっきまでの心配そうな顔が嘘のように明花は怒りに燃えていた。
…まあ、どっちにしても必死なのは間違い無さそうだけどさ。
「お、落ち着いて明花さん…!」
そう言って今にも飛び出しそうな明花を抑える闘姫もまた
ギロッ!と美鈴&鳳華音を睨みつけていた。
(オマエらドサクサに紛れて何しとんじゃ、ワレェ〜〜ッ?!)
…と、俺だったら叫んでておかしくない光景だわな、コレは。
「お、お嬢様〜っ…?!」
「貴女も少し静かにしてなさい?」
愛麗の方は芽友にスリーパーホールドをかけられ、ジタバタと藻掻いていた。
「嗚呼っ、お嬢様…せめて時と場所をお考え下さいませ…。」
鳳華音の従者の小雀は観客席から途方に暮れつつ主人達の破廉恥な有様を眺めていた。
その喧騒にやっと我に返った美鈴。
「あ。あのー、ところで勝負がまだついてないので離れて下さいな?」
「勝負なんて、もう着いちゃってるじゃない?」
「ふえ?」
間の抜けた声の美鈴。
鳳華音は少し身体を離すと、ゴソゴソと自分の胸元を弄っていた。
「ほら…私のアミュレット、こうなっちゃったもん。」
ヂャラン。
その手には、砕けた防御アミュレットが。
「美鈴のは大丈夫なんでしょ?」
「え?えーと…。」
美鈴も自分のアミュレットを探ってみる。
チャラ…。
「あ、…私のは砕けてませんでしたわ…。」
「貴女は自分の身体を楯にして私を庇ってくれた。」
「その時身体を強化してたんでしょ?」
「その強化がそのアミュレットにもたまたま及んでいた…偶然だと思うけど。」
「あ、つい必死で考えが及ばなかったというか…。」
「いいのよ、アレはしょうがなかったんだし。」
「だから私の負け。」
美鈴から自ら離れて立ち上がる鳳華音。
美鈴も遅れて立ち上がる。
「それ、貸してくださいな。」
美鈴から無事なアミュレットを受け取り、自分のと両方を掲げる。
「ご覧の通り、私のアミュレットは砕けてしまいました。」
「しかし美鈴選手のは無事。」
「よってこの試合、美鈴選手の勝利です!」
オオオオオーッ!!!
観客席が一斉にどよめいた。
二人の無事も合わさり、大騒ぎとなった。
かくして、鳳華音自らの勝敗宣言により、騒乱のうちに今年の貴族学院代表対抗戦は幕を閉じた。
そして試合の翌日、表彰式が執り行なわれた。
優勝は…やはり美鈴さんでした!
鳳華音さんも善戦しましたけど、一歩及ばずでした。
…ん?一歩、だけなのかな?
それより、まさか鳳華音さんの方は…美鈴さんを…?
わ、私の考え過ぎ、ですよね?
そ、それはともかく、次話にてこの章も終了です!
本当に信じてますからね、美鈴さーん?!