第百十八話【決め技応酬!熱い彼女へクールに接し…吹き飛ばしますわ!】
抜け目無い戦いを見せる鳳華音にやや押され気味の美鈴。
しかし形勢逆転のキッカケは意外な所にありました。
さて、前回とは言え美鈴を圧倒した得意の式神チャクラムを放って優位に立とうとする鳳華音だったが。
美鈴の方も龍の爪なる新しい武器を使って式神チャクラムからの攻撃を防いでいた。
「まるで意思でも持っているように私の式神チャクラムの攻撃を防いでる…一体その武器は何?」
「それは…。」
「それは?」
「ヒ・ミ・ツ…ですわ♡」
きゃはっ♪とブリっ子する美鈴。
オオオーッ!!
観客席が湧いた。
今の美鈴のブリっ子にものすごく湧いてる!
チーム美鈴の四人も瞳が♡になってるぞ!
…オマエら脳の中身が沸いてるんじゃないか?
あんなガワだけブリっ子な前世オトコがカワイコぶったって…。
…て、鳳華音、オマエもか!?
「メイリン…♡」
鳳華音はポーッと美鈴に見惚れていた!
「あ、あのー、鳳華音さん?」
美鈴もボケーッと突っ立ってるように見える鳳華音への対応に困っているようだな。
「…はっ?!」
鳳華音は片手でピシャッと頬を叩いた。
漸く正気を取り戻したらしい(ヤレヤレ…)。
「う、迂闊でした…私ともあろう者が!」
「黎美鈴さん!色仕掛けとは何たる卑怯な手段を使いますの?!」
剣先を美鈴に向けてプンスコ怒ってる鳳華音。
…いや、さっきの何処に色気があった?
「い、言いがかりですわ?別に貴女を籠絡したりあの程度で隙を作ろうなんてコレッポチも…(汗)。」
「いいえ決めました!」
「乙女心を弄ぶような貴女は女の敵と見なし、この私が成敗致します!」
…あの、美鈴も一応生物的には女なんだが女の敵認定になるのか?
「何やら誤解されてるようですわね。」
「ならばその誤解は剣で晴らして見せますわ!」
美鈴もまた剣先を鳳華音へと向けた。
本来は貴族学院生徒代表同士による決勝試合なのに、完全に私闘の様相を帯びて来たな。
いや、最初に鳳華音のヤツが美鈴に勝った暁にはボディーガードにする、なんて言い出した時から二人にとってはとっくに私闘だったのかも知らんが。
そんな二人の掛け合いにまたもや盛り上がる観客席。
「おおーっ、ヒートアップしてますわあー!」
「どっちが勝つのか?」
無責任に盛り上がる観客達と対戦している二人。
それとは別に二人の頭上でガキガキン!とやり合い続ける式神チャクラムと龍の爪、もはやこの両者は空気と化していた。
と、ここに来て式神チャクラムの方には綻びが出始め、その小さな破片が銀粉となって鳳華音の目の前に落ちて来た。
「え?強化したハズのチャクラムが磨耗して来てる?」
「さすがは私の龍の爪ですわ♪」
「…くっ、こうなったら!」
鳳華音が剣を天に翳し、炎の闘気を燃え上がらせた。
これは火の魔力だな。
そしてその炎はチャクラム軍団を包みこんだ。
これはまさか…!
「もしや、その技は?」
「そうよ…私の決め技!」
鳳華音の瞳がギラッと輝く。
チャクラム軍団を包んだ炎が、
…そう、これは鳥の形だ。
「喰らいなさい!」
「ファイアーバード…スマッシューッ!!」
ズバアッ!
大きな火の鳥が美鈴を襲った!
これをスウェーバックで上体を反らす事で躱した美鈴だった。
直撃すれば防御アミュレットによる防護シールドは呆気なく粉々に砕け、服や皮膚も無事とはいかないだろう…そう思わされた。
チャッカリ龍の爪とやらは回収してたところは抜け目無い美鈴らしかった。
コイツ豪快そうな戦いするのに割とセコイ所もあるんだよな?
ファイアーバードスマッシュが後方に飛び去ったのを見た美鈴は直ぐ様、防御アミュレットによる防護シールドを視認可させて被害を確認した。
「うん…どこも問題ありませんわね。」
と、その時。
「美鈴さんっ!後ろーっ?!」
明花の金切り声が聞こえた。
「!」
考えるより感じろ。って良く言われるよな?
その言葉通りなのか、美鈴は反射的に地面を転がった。
あわや美鈴にファイアーバードスマッシュが直撃かと思われたが、そのファイアーバードスマッシュが通過した土埃の中には既に美鈴の姿は存在しなかった。
既に数メートル先で美鈴は起き上がっていたのだ。
どうやらファイアーバードスマッシュが通り抜けたのは美鈴の残像だったようだな。
明花の声が美鈴を救ったらしい。
これは別に反則にはならないから問題無い。
まあ頻繁に同じ事したら流石に明花は会場からつまみ出されるだろうけど。
と、そんな危機一髪を救われた美鈴だったけどファイアーバードスマッシュの攻撃はまだ収まらなかった。
「しつっこいですわねー!」
美鈴は不意打ちを食らわないよう常にファイアーバードスマッシュを睨みながら躱していた。
「何やってるの、早く仕留めなさい!」
鳳華音は苛立ってた。
何せ必勝のつもりで出した大技だけど下手に美鈴に近付いて攻撃に加わろうモノなら自分まで巻き添えを食ってしまうからな。
こうして離れて見てるしかないのだ。
「フォ…鳳華音さん!」
「何かしら?降参するの?」
「まっさか?ですわ!…それより!」
「貴女、私に勝ったら私をボディーガードにするおつもりらしいですけど…」
ヒュン、とギリギリでファイアーバードスマッシュを躱す美鈴。
防御アミュレットが発生させる防護シールドで一応護られてるハズだけど、それでも少しばかりチリチリと何か焦げるような匂いがした。
それだけファイアーバードスマッシュの熱波が美鈴の衣服や髪の毛にまで及んでるのかも知れない。
「確かに貴女をボディーガードとして傍に置きますけど、それがどうかして?」
ピタッと美鈴の足が止まった。
「そんな自分よりも弱い相手をボディーガードなんかにしても役に立たないのではありませんの?」
「え?」
今度は鳳華音の顔に困惑の色が。
苦し紛れにか美鈴の放った戯言に
「え、そうなのかな?」と僅かでも疑問に思ったらしい。
そんなん気にしなきゃいいんだが、気になっちやったんだろうな。
それが鳳華音から放たれている魔力に僅かな揺らぎを生じさせた。
そしてその影響は当然ファイアーバードスマッシュの本体である式神チャクラムにも伝わったのか、動きに一瞬のタイムラグが生じた。
この好機を美鈴が逃す理由が無かった。
「今ですわ!」
美鈴は霊斬剣の切っ先をファイアーバードスマッシュへと向けた。
そして剣の腹に左手を添わせて十字を組む。
この技は、まさか…。
【氷雪魔法剣・白雪の女王!】
やっぱりそうか!
剣の刃から粉雪が舞い、女王を形作る。
そして女王の口から凍気が噴射されるのだった。
凍気は広範囲に撒き散らされた。
するとそれに触れたファイアーバードスマッシュの勢いが削がれたように動きが鈍った。
「ど、どうしたの?どういう事? 」
「何で私のファイアーバードスマッシュ…式神チャクラムの動きが鈍ったの?」
「何、簡単な事ですわよ…火消しに吹雪をぶつけた迄ですわ。」
狼狽える鳳華音に対し、
美鈴は淡々と語るのだった。
簡単そうに言うが、これは鳳華音が決め技として繰り出したファイアーバードスマッシュを形成している火魔法の魔力よりも美鈴の白雪の女王が放った凍気の凍結魔法に込められた魔力の方が高い威力だと言う事だ。
つまり、魔法のレベルと魔力量、これらが決定的に違うのだ。
即ち美鈴の魔法が鳳華音のそれを凌駕してるという事だな。
やがて。
パキイン…!
何と、ファイアーバードスマッシュはその鳥の姿の炎ごと凍りついてしまった!
「う、嘘でしょ?」
「まさかそんな、炎ごと凍りつくなんて…!」
流石に炎が凍りつくなんて物理的にあり得ない。
だからこれは炎で形成された空気中の水分子が炎の鳥の形に合わせて型取られていたのが、そのまま凍ったと考えるのが妥当だろう。
…単なる推測だけど、今はそのくらいしか思い付かない。
まあ何にせよ、これで鳳華音の式神チャクラムは氷が溶けるまで使い物にならなくなったと言う事だ。
と、なると。
「では…今度はコチラのターンですわね?」
美鈴は霊斬剣を大きく振りかぶり上段に構えた。
「来るわね?」
鳳華音は火炎壁を発生させた。
「これは防御シールドと火魔法の組み合わせ、鉄壁の防御!」
「破れるモノなら破ってご覧なさい?!」
「では…御言葉に甘えまして…。」
【真・竜巻斬!】
剣を振り下ろす美鈴。
その切っ先にはこれまでに無い程の魔力が集まっていた。
「知ってるわよ?そんなただの突風技で私の火炎壁を突破出来るものですか!」
「言いましたわね?」
「では試してみますわ!」
ゴオッ!!!
最初に出現した竜巻がドンドン細くなり、その周りに次の竜巻が。
その竜巻もまた細くなり、更に一回り大きな竜巻がそれらを包む。
計三つの竜巻が、さながらドリルの様に唸りを上げ回転していた。
「行きなさいっ!」
美鈴が叫ぶ。
すると
『グオオオン!!』
と、咆哮を挙げ竜巻斬は鳳華音の作り出した火炎壁目掛けて発射された。
果たして、このぶつかり合いの結果は?
厄介な式神チャクラムを凍結魔法で封じた美鈴。
今頃、「勝ちましたわ、風呂入って来ますわ♪」
等と思ってるのかも知れません。
彼女の自信通りに竜巻斬は火炎壁を突き破る事が出来るのでしょうか。