第百十五話【受け取りなさいな魔力技、お渡ししますわ巨竜の叫び!】
硬い鱗による鉄壁の防御を誇る巨竜。
美鈴と白百合のプリンセスは魔力を用いた攻撃を繰り出すのですが…。
果たして今回の騒動、どんな落とし所があるのか?
巨竜は怒っていた。
ドスドスと地面を踏みつけながら王都へと迫ってゆく。
彼?は自分の頭の上に瓦礫や土砂を落として逃げ去った翼竜や像やらカバやらのようにも見える四つ足動物をユックリ追いかけていた。
(アイツラを追いかけてれば誰の指示だったかわかるはず。)
巨竜は本能任せな考え無しに目の前の連中を追いかけてるわけでは無かった。
つまり知能はある。
やがて城壁が見え出すと、巨竜の追いかけていた動物達は突如消えた。
(ふん、何者かの術だったか。)
つまりそれはこの城壁の向こうに犯人がいるという事だ。
彼?は荒れ狂う怒りのままにその犯人をぶっ殺す事は容易だと思っていた。
だが術者は所詮ひ弱な人間、それをやっつけたところで何の自慢にもならない。
それに瓦礫が落ちて来たとはいえ水の抵抗で当たっても全然痛くも無ければ怪我すらなかった。
だから何も相手を殺したり危害を加えてやり返す必要も無い。
だが一言文句くらい言わなければ気がすまないのもまた事実だった。
…………俺は意識を集中する事でそれらの巨竜の心情を理解した。
詰まる所、張本人である月夜を巨竜の前で頭を下げさせれば何の被害も無く全て解決、と言うことだな?
後はこの事を美鈴か仮面の剣豪・白百合のプリンセスである闘姫に知らせれば…
…あれ?
「「そこの巨竜、お待ちなさ〜い!!」」
翼を生やした少女と仮面の少女の二人が突如闘技場から飛び出した。
言わずと知れた何時ものコンビだ。
【あ…待てって。】
だがその二人はまるで聴こえなかったようで、そのまま王都の城壁の向こう側へと降りて行った。
遅かったか…。
ストッ、と二人の少女が城壁と巨竜との間に舞い降りる。
『何だ?そこをどかんと踏み潰すぞ?!』
巨竜は足を止めて喋った。
「はじめまして。私はこの王都を守護する八大武家の内が一つ、黎家の長女・黎美鈴と申しますわ。」
「そして私はこの国と美鈴さんの守護を仰せつかった仮面の剣豪・聖練潔白。」
「又の名を白百合のプリンセスと申します。」
二人はペコリとお辞儀をした。
「此度は私共の先輩が貴女に失礼致しました事を、先ずはお詫びいたしますわ。」
『そんな三下共が謝罪したところで我の怒りは治まらんわ!本人を出せ!』
「いえ、その方に危害を及ばせるわけにはゆきませんので。」
「私で良ければ貴女のお怒りを向けて下さっても一向に構いませんことよ?」
美鈴がジャリ…と一歩踏み出す。
「美鈴さんを守る為、そしてこの王都を守る為に私も貴女のお相手を務めます。」
白百合のプリンセスもまた、ザッ…と一歩踏み出した。
『小娘ら…我を舐めておるのか?』
巨竜は美鈴達を見るため下げていた頭を持ち上げた。
頭をもたげたその大きさはかなりのものだった。美鈴達目線で見れば、それは侵入者を防ぐ為かなり高く作られている城壁よりも更に高い。
そうだな…それこそ高さにして30メートルはありそうだ。
口から尾の先を含めた全長ならば50メートルを超えて70〜80メートル近くに達するかも知れない。
前に美鈴が戦ったフレイムドラゴンですら全高なら10メートル程度だっただろうか?
臨海学校で美鈴が切り裂いた巨大水棲生物の群れなら最大で全長50メートルくらいはあったのかな?
測って無いから知らんけど。
「私達はそれなりに腕に憶えがありますので、遠慮など為さらずかかってきて下さいな?」
「しかし城壁の向こうへは一歩足りとも侵入させません!」
美鈴と白百合のプリンセスはそれぞれの得物を出現させた。
白百合のプリンセスはいつものレイピアを、そして美鈴は霊斬剣を。
【…ん?なんか霊斬剣のデザインが少し変わったような気がするぞ。】
(あらわかりまして?)
美鈴が鞘から剣を抜き、天へと翳す。
「これぞ霊斬刀…太陽丸ですわ!」
「霊斬刀?」
【前の霊斬剣も一応日本刀だった筈だが何が違うんだ?】
白百合のプリンセスと俺はそれぞれ美鈴にツッコんだ。
「まあ平たく名前の通りなのですわ。」
「太陽の力を得て太陽の力を放つ…そんな刀ですのよ。」
『そのようなチャチな剣如きが我に通じるとでも思ったか?』
「さあ…それを確かめさせて下さいな。」
不敵な笑みを浮かべる美鈴。
…て、言うか衛兵はどうしたんだ?
巨竜が王都の目の前なんだから守りに来るのがホントだろ?
…?
何やら月夜が話し込んでる。
相手は鎧を着込んだ兵士のようだが…。
「…あ、あの黎家の御息女が対処なされてるのですか?」
「ええ。しかも彼女に引けは取らない強さを誇る魔法剣士が傍にいますから心配無用です。」
「寧ろ下手に兵士を向かわせれば彼女らの攻撃の巻き添えを食って余計な被害を被るかも知れませんよ?」
「そ…それは確かに…。」
「ならば我々は城壁内の守りを固めます!」
「ええ、是非そうして頂戴♪」
こうして兵士達は城門と城壁内側にズラリと並んで巨竜侵入の警戒に当たる事となった。
これを見た月夜はしてやったりとばかりにニヤリと笑った。
(よっしゃー!これで私の不手際はバレ無いようですね!)
ああ、自分のせいで巨竜がここまで来たと知れたら責任が問われるだろうからな〜。
…さて、城壁内でそんなドラマがあったとは露知らず美鈴と白百合のプリンセスの二人が巨竜と対峙していた。
多分、巨竜は人間の剣など自分の鱗を通さないと思ってたんだろう、かなりの余裕だった。
『お主らを蹴散らすのは容易い…が、その身の程知らずな生意気顔が驚きと恐怖に歪むのを見るのもまた一興。』
『良いだろう、その太陽…とかいう剣で我を突いてみよ。』
「太陽丸ですわ、ちゃんと憶えておいてくださいな。」
チャキ…。
美鈴は手に翳した霊斬刀・太陽丸の切っ先をそのまま巨竜に向けて頭上で構えた。
キラッと陽光が太陽丸に反射する。
…しかし太陽丸って…まるで漁船の名前みたいでイマイチだな?
そう言えば某未来から来たロボットの道具にそんな名前のがあったような…。
等と考えてると、キラキラ光ってたのは太陽の光の反射だけじゃなかったようだ。
そのうち刀身そのものが太陽みたいに眩く輝き始めた。
「こ、これは?」
白百合のプリンセスが手で目を隠す。
俺もサングラスをかけてこの光景を見てる。
一応千里眼で見てるからサングラスに意味は無いかも知れんが、そこは気分だ。
するとサングラスをかけたことで、千里眼で見える映像にも上手く太陽丸の輝きが程良い明るさまでセーブされて見れた。
その理屈は知らん、俺のサングラスをかけたというイメージが意識に反映されてそう見えたのかも知れない。
と、輝く太陽丸片手に美鈴は巨竜に飛び込んだ。
「やああーっ!」
両手で太陽丸の柄を握ると、跳び上がりながら巨竜の胸元を斬りつけた!
ギイン!
「…硬い!」
ズザアッ!
後方へと飛び退いた美鈴が巨竜の顔を見上げる。
「なるほど、おっしゃるだけの事はありますわね。」
『どうだ、我の鱗は人間の盾より遥かに強靭なのだ。』
巨竜はフレイムドラゴンと違って羽根が無い。
その代わりその強靭な鱗による硬い防御力が強みのようだ。
しかし。
ピッ。
ピキイイッ。
「おや?その御自慢の鱗にヒビが入りましてよ?」
『なぬ?』
先ほど美鈴の一太刀を入れられた部分を見た巨竜が驚いた。
「さすがは美鈴さん。」
「では今度は私が!」
白百合のプリンセスがレイピア片手に突進する。
「ハアアアアーッ!」
ドビュドビュビュッ!
突きの三連撃を巨竜に浴びせる白百合のプリンセス。
そして咄嗟に離れる。
ヒットアンドアウェイ、高速戦術こそが彼女本来の持ち味らしい。
『こ、コイツも…?』
見ると、こちらもレイピア三連撃の剣先が巨竜の鱗を穿って小さな穴を空けていた。
「やりますわね、プリンセスさん。」
「いえいえそちらこそ。」
ニコニコ微笑みあう美鈴と白百合のプリンセス。
『小娘らよ、人間にしてはそこそこやるようだな。』
『だがこれしきの攻撃、我にダメージを与えるにはまだまだだぞ?』
「ですわね。」
「では、少し真面目な攻撃を致しましょうか?」
「魔力を込めるんですね?では私も…。」
二人の剣が魔力の光に包まれた。
所謂ビームサーベルとかレーザーブレードとか呼ばれるアレみたいだな。
「裂光剣!」
「シャイニングビート!」
ズバッ!と斬撃を喰らわす美鈴。
そしてさっきより更に高速の連続突きをズガガガガガッ!!と打ち込む白百合のプリンセス。
『!』
これには流石に不味いと思ったのだろう、巨竜は咄嗟に魔法陣を発生させた。
ガギイイイン…!!
「ええっ?バリアですの?」
「それはナシではありませんか巨竜さん?」
『いやいや、幾らコッチが受け止めるだけとはいえ遠慮無さ過ぎだぞキサマら!』
『見ろ、咄嗟の事で魔力をあまり込められ無かったとはいえ魔力バリアが粉砕されとるではないか!?』
あ、確かにさっきのバリアが美鈴達の魔力攻撃で無くなってら。
「あらまあ。」
「思った以上に攻撃力が増してたようですわね、流石は私の太陽丸ですわ♪」
「わ、私は鱗を割るだけに留めたつもりですので…は、八割型は美鈴さんの攻撃のせいですよ(汗)。」
『あのなキサマら、我とて本気で戦えば負けるつもりは無いがあくまで力試しにワザと攻撃を受け止めてやったのだぞ?』
「あ、やっぱりそうでしたの?」
『それに我はキサマらの守ろうとするヤツに岩やら瓦礫やら土砂やらを上から被らされた文句を言いに来ただけなのだ、別にこの城壁の中を壊したり人間共を襲いに来たのでは無い!』
「で、では本人も向こうにいらっしゃるのでここから思い切り文句を叫んでは如何でしょう?」
「それでスッキリされて大人しく戻られるなら私達もこれ以上の事をするつもりはございませんわ!」
『そうか、それならいい。』
『これ以上キサマらが技を受放ち続けるなら本当に我と人間の不毛な戦いに発展してしまうからな
、我も流石にそれは望まん。』
(いいんですか美鈴さん、月夜さんの失態が巨竜の口から白日の下に曝される事になりますが…?)
「まあ見てて下さいな。」
美鈴は巨竜の前に風魔法を発生させ、更にソレを大きな壺のようなシールドで覆った。
「あまり大きな声で叫ばれますと皆がビックリされるのでこの中に叫んでいただけます?」
「お声は後ほど本人にしっかりお届け致しますので♪」
『有無…では。』
『くぉらあ!捨てる場所は選ばんかいボケーッ!』
『昼寝邪魔しやがってふざけんなよチクショーッ!!』
『…と、まあこんなもんかな。』
「す、スッキリされましたか?」
『直に本人に言いたかったが、まあ我が無理矢理城壁の向こうに押し入ったりしたら大騒動になるのは目に見えてるからな。』
『今日のところはこれで帰る。』
「溜飲を下げられたようで何よりですわ。」
『今度からああいうのはパワー火山とかにしてくれ。あそこなら溶岩で大抵溶かしてくれるからな。』
『海や川に捨てるのは環境破壊だからやめろ、いいな?』
「よーく言って聞かせておきますわ!」
「うむ…小娘、黎美鈴とか言ったな?」
「ええ、また機会があれば手合わせをお願いしますわ。」
『冗談はよせ、オマエとは生命のやりとりになりそうだからそれはゴメンだ。』
『それよりそこの砕けた鱗の破片、これを鍛えれば有効な武器になるぞ、拾って持ち帰るが良い。』
「あら?」
良く見れば確かに美鈴の足下には巨竜自慢の硬い鱗らしき破片が無数に散らばっていた。
『バリアで防いだものの防ぎ切れなかったダメージによりヒビや穴が出来ていた鱗は欠けてしまったようだ。』
『それはオマエ達の力量を試すという楽しい時間を過ごした礼だ、受け取るが良い。』
ノッシ、ノッシとユックリ帰路に付く巨竜。
「ありがとうですわ、お達者でーっ!」
巨竜は美鈴の言葉に尾を小さく振って答えた。
……………。
「流石ね美鈴さん、白百合のプリンセスさん、さ、食べて食べて♪」
「…いただきます。」
「遠慮なく、ですわ♪」
美鈴と白百合のプリンセスは月夜の実家である屋敷に招待されお礼のご馳走を振る舞われていた。
「こんな若くて可愛い子達があんな巨竜相手に…強いんだね君たちは。」
「お陰で王都も娘も無事で良かったわ、ありがとう。」
「いえいえ、八大武家の一人として当然の事ですわ。」
「私も王国と美鈴さんを守る事が使命ですので。」
和やかに食事は進んだ。
「それで、これが巨竜の鱗の破片なのですけど」
「王城に納めなければならないと思いここに持参しましたが、如何いたしましょう?」
美鈴と白百合のプリンセスはここの召使い伝手にハンカチで包んだ破片を安家の夫妻へと渡した。
「それは賢い判断だ。」
「けれどこれは王都を巨竜から守った君たちへの報酬として受け取りなさい。」
「いいんですの?」
「戦場に立つ機会の多い者が持ってこそ真価を発揮する物だ、私達魔法使いの家が持っていてもあまり使いこなす機会も無いからね。」
夫妻は召使い達に美鈴達の手元へと返却させた。
「それはそうと、いよいよ明日は決勝だね?頑張りたまえ美鈴君。」
「ありがとうございます、ご期待に添えるように頑張りますわ。」
「…ねえ二人とも、父役母様と母様にはプレゼントあるのに私だけ貰えないの?」
月夜が何故かジェラシーを持ち出してきた。
というより多少からかい半分の皮肉混じりといった感じだが。
「ああそうそう思い出しましたわ!」
美鈴は口周りをナプキンで拭いた。
既に目の前の食器は空だった
白百合のプリンセスもコップの水を飲み干すと
「ご馳走様。」とフォーク、スプーンを置いた。
「実はコレを月夜さんにお渡ししようと思ってましたのよ。」
「まあ、私に?」
美鈴から少し大き目な箱を受け取る月夜。
「何かしら?…壺?」
「その中にプレゼントしたいモノが詰まっておらますの♪」
「何何?ジャムかしら?それとも蜂蜜?」
ウキウキしながら壺の蓋を開けようとする月夜。
「それでは私達はこの辺で!」
美鈴と白百合のプリンセスは窓から飛び立った。
…その三秒後。
『くぉらあ!捨てる場所は選ばんかいボケーッ!』
月夜の屋敷の窓から巨竜が叫んだあの言葉が聴こえてきた。
それを聞いた途端、空中で寄っかかり合いながらゲラゲラ笑い会う美鈴と白百合のプリンセスだった。
巨竜さんはやられた事への文句を叫んでスッキリ、美鈴と白百合のプリンセスはご馳走を振る舞われ貴重な武器素材も入手。
…月夜、今度は気を付けようね?