第百十三話【刃と刃のぶつかり合い!制するのは…?】
常夏海との試合、決着!
竜巻斬・改は三つの渦を巻きながら常夏海の放ったサウザンドブレイドとぶつかる。
幾千もの刃は、その悉くが竜巻斬の突風に巻き上げられた。
そして竜巻の中に潜ませていた風の刃に寸断され細切れへとその姿を変えてゆく。
それでもサウザンドブレイドの名は伊達では無いようだ。
竜巻斬を逃れた数十の刃が美鈴へと向かっていく。
「何の!」
美鈴は自身の剣に魔力を纏わせたまま、その剣を振った。
すると。
スルッ。
(まさかっ?!)
「ふん!」
咄嗟に全身から闘気を発してこの刃を粉砕する。
「チッ、防がれましたかー。」
残念そうに舌打ちする常夏海。
「影の刃を潜ませてたとは、中々やりますわね!」
美鈴は残りの刃が襲って来ないか警戒していた。
しかし常夏海は思ったよりも頭が回るらしいな。
「…どうやら全ての刃を撃ち落とせたようですわね。」
「な、なら今度はー…」
「おや、まだ貴女に次のターンは訪れません事よ?」
美鈴がニヤッと笑った。
…だからその笑い方やめろよ、どっちが悪役が分からなくなるだろ?!
と、それは置いといて。
美鈴の言葉の意味。
それは先ほど彼女の放った竜巻斬は何もサウザンドブレイド二対する防御だけでは無かったって事だ。
ビュウッ!
竜巻斬の突風が止んだ中からまだまだ健在の風の刃が一斉に常夏海へと向かったんだ!
「小賢しいですねーっ?!」
影の槍を振り回し、影の刃を発射してこれに対抗する常夏海。
すると。
「隙あり、ですわ!」
美鈴が猛スピードで飛翔し、一気に
常夏海との距離を詰めて来た。
バキバキバキバキッ!!
風の刃と影の刃が激突し砕け散る。
その間隙を縫って飛び込んで行く美鈴。
「…ま、まだまだあー?!」
常夏海が影の槍に魔力を込めようとする。
「それはなりません!ですわっ!!」
美鈴は片手で魔法を放った。
その魔法は影の槍にヒットした。
『うおっ?…こ、これは…!』
何だ?影の槍が…喋った…?
(どうやら一時的に彼女を操ったのはあの槍のようですわね!)
影の槍はみるみるうちに凍りついた。
常夏海はそれを見て驚く。
「ば、馬鹿な?」
「魔力が…影の槍から魔力が感じられない…?」
「別に不思議じゃございません、今その影の槍は一切の活動を私の凍結魔法の魔力で封じられたのですわ。」
「た、たかが氷如きで?」
「タダの氷ではございませんわよ?それは私の魔力による凍結魔法の氷ですから。」
つまり自分の魔力でもって相手の魔力を封じてるんだな。
ついでに影の槍とやらに宿ってる邪悪な意思も封じたらしい。
「得物を失った貴女に勝ちは無い…これでチェック・メイト、という事ですかしら?」
美鈴が常夏海へと剣を向ける。
これ以上は戦いにならないから負けを認めろ、という事だ。
トドメに防御アミュレットを壊したり無効化する事も出来るが…さて、常夏海の反応は?
「…まだ、まだ負けてませーん!」
背中のシャドウ・ウイングの尖端が数本の鋭い刃へと変わった。
「これでくたばるでーす!」
不味い、これも影魔法だ!
影の槍の攻撃同様、普通の剣はすり抜けるし、それにこの数を至近距離では避け切れない…?!
ボソッ。
「甘く見られたものですわ。」
美鈴の背中に生えているウイングフライトの翼もまた尖端が剣へと変わった。
ガガガガガッ!!!
そしてシャドウ・ウイングの悉くをその剣で受け止めるのだった。
「な、何故…?」
常夏海は影魔法による攻撃がすり抜けず受け止められた事が信じられないようだ。
けど答えは簡単だ。
「このウイングフライトの翼自体が魔法そのものですもの、当然ですわ。」
「それに貴女の影魔法は標的となる物以外には単なる影…しかしウイングフライトの翼は私から生えてる私自身でもある。」
「加えて私の魔力が貴女の魔法を相殺してしまうのだから影魔法で私を倒す事は叶いませんわよ?」
「影魔法を相殺する魔力…?」
「えと、つまり貴女の影魔法に込められた魔力量に対して単純に私の魔力量の方が大きかった、という事ですわ!」
…………結局力技って事か?
「さて、今度こそ終わらせますわよ?」
ピッ。
美鈴の剣が常夏海の防護アミュレットの鎖を切ると、アミュレットはスルリと地上へ落下した…。
影の槍を封じられた常夏海に最早、美鈴の剣を防ぐ手立ては無かったのだ。
…………………。
ガクッと項垂れる常夏海。
それに寄り添う従者。
常夏海の明らかに美鈴の生命を奪いかねないやり過ぎた攻撃に対して取り調べを受ける事になったのだ。
加えるなら彼女の意思と身体を一時的であれ乗っ取った影の槍。
アレの出所も調べる必要があるからな。
場合によってはこの国の治安にかかわる案件となりそうだから仕方ない。
せめて常夏海が重い罪に問われず学業に復帰出来ると良いんだがな…。
二人は衛兵に連れられて闘技場を去る羽目となった。
その姿を見送る美鈴と明花を始めとする仲間達。
「勝つには勝ちましたけど…何だか後味悪いですわね…。」
「美鈴さんがあれだけの攻撃を受けてご無事なのです、それで良しとしましょう。」
「そうですよ、今度ばかりはホントに皆心配したんですから。」
美鈴の傍に闘姫と明花が寄り添う。
「ええ、心配していただきありがとうですわ。」
美鈴が二人の肩に手を回し、そっと抱き寄せた。
「キャッ?」「め…美鈴さん?」
まさか抱き寄せられるとは思っても見なかった闘姫と明花が小さな驚きの声を上げた。
「…こ、これはその…」
「し、親愛の情、ですわ!」
少し照れて赤くなる美鈴。
「クスッ…でしたら♡」
明花は思い切り美鈴に抱き着いた。
「な?」
今度は美鈴の方が驚いた。
「なら、私も…」
闘姫もまた美鈴に抱き着いた。
「ふ…二人共…?!」
慌てる美鈴に対して二人はこう答えるのだった。
「あら、先に私達を抱き寄せたのは美鈴さんですよ?」
「そうそう、こうなる事は予想出来ますよね?」
「ううう〜、そ、それはあ…(汗)。」
何か言いあぐねる美鈴。
と、美鈴の身体からスルリと抜け出た二人は悪戯っぽく笑いながらそれぞれ美鈴の手を取った。
「「さ、帰ってご飯にしましょう?」」
「…ですわね♪」
そんな三人の様子を近くの椅子に腰掛けて遠巻きに見ていた側仕えコンビ。
ズズッと湯呑みで茶をすする芽友。
「あ〜、お茶が美味いですね愛麗。」
それに対して口いっぱいに頬張っていた食べ物をゴクンと飲み干し愛麗もこう言うのだった。
「…お団子とポップコーンも美味しいですよ芽友?」
この二人からは
「アタシ達ゃ、一体何見せられてるんでしょう?」
「あーお腹いっぱい過ぎてお菓子食べたくなるわー。ゴチソーさまー?」
…と、心の声がダダ漏れだった。
かくいう俺も。
【あー見てらんねー!】
だった。
因みに翌々日の午後、全勝優勝の美鈴と二位の鳳華音の決勝が行われる事に決定した。
翌日と翌々日の午前中は闘技場の修繕と掃除に費やされるそうだ。
常夏海のヤツが色々やってくれたからなあ…。
…………………………。
その日の夜。
部屋で寛いでいる美鈴が唐突に俺へと話しかけて来た。
(ねえ名尾君、常夏海さんは何故私の命を狙って来たのでしょう?)
【さあ…?】
(ゲームのストーリーにあった新血脈同盟ルート、アレに関係するんじゃありませんこと?)
【美鈴はそれについて何処まで知ってるんだ?】
(いえ、私そこまでプレイした記憶がございませんので…)
【実は俺も大まかにしか知らないんだ。】
【なんせあのルート、特に気に入った攻略対象がいなかったから…】
(えっ?!)
(新たな攻略対象?!)
(私、そんなの聞いておりませんでしたわよ?!)
【そ、そう喚くな?!】
【まあ居るには居るんだよ、そのルートでだけ攻略出来る攻略対象と言うのは。】
(そ。それで?その攻略対象とは一体誰の事ですの?!)
【おい。うっかり口に出すなよ?この部屋には愛麗も居るんだから。】
チラッと美鈴に見られた愛麗が一瞬キョトンとするも、直ぐにニコッとしてから洗濯物の整理に戻った。
(あ、あのコは仮面の聖霊の事知ってますわよ?)
【それでも、まさか俺達が転生者でここが百合ゲー世界だとは知らないだろ?】
(ホントに完全な百合ゲー世界かはさておき…)
(百合恋愛の攻略対象とかがあのコにバレると色々面倒臭いかも知れませんわね…。)
【ついでにオマエが前世で男だった事もな?】
(い、今は見ての通り完全な女の子なんですの!)
プイッと横向く美鈴。
【そうかー?百合ゲー世界なのに明花達の想いに気付かないフリしてるくせによー?】
オレは何時もの調子でからかった。
(…女の子だから…女の子として女の子との恋愛は、その…)
モジモジしだす美鈴。
【何だ、相変わらず煮え切らないな。】
(そ。そうでは無くて!)
(女の子だから…だから好きになる相手は…。)
ちょんちょん、と両手の指先同士をくっつけてブツブツ言ってる。
あれ?なんだかヤケにしおらしくないか?
(…こ、このお話しはもうオシマイ、ですわ!)
美鈴は話しを一方的に打ち切った。
何だあ?そっちから話しを振ってきたクセに?
(名尾君の…バカ…。)
あれ?何でそこでオレへの不満が出るわけ?
…まあいい、それより問題はさっきの話しの新血脈同盟だ。
この調子なら決勝が終われば直ぐそっちのルートに突入しそうだな。
そして、新攻略対象。
…流石にまだ美鈴には言いにくいかな。
だってソイツはもう美鈴達の目の前に現れてたんだから。
ナゾの新血脈同盟とは?
そして名尾君の語る新攻略対象は既に美鈴の前に現れていた?!
謎が解き明かされるのは決勝戦が終わり新章に突入してから!!