第百十一話【影の使い手VS風の使い手!幾ら何でもソレは大き岩あ〜っ!?】
爽やかで明るい常夏海…それは表の顔でした。
果たして彼女の真の姿とその力とは…?
試合開始と共にいきなり常夏海は仕掛けた。
「シャドウスネーク・バインド!」
美鈴はその声に常夏海の影を注視した。
が。
「えっ?」
突然、思わぬ場所からその影の手は伸びて来た。
ニュルニュルニュル!
「な、何ですのコレはあ?」
跳び上がって回避する美鈴。
数十メートル眼下に見たソレは、あろう事か美鈴の影から伸びる無数の手だったのだ。
しかも時折、蛇のように凶悪な口を開き牙を光らせもしてるし。
正にシャドウスネークと言うべきだな。
「ひ、人の影を勝手に使うんじゃありませんわ!」
「ていうか貴女自分の影以外も魔法使えたんですの?」
「そうで〜す☆両方どっちからも出せますよ〜♪」
これは厄介だ。
「なら…!」
「有翼飛翔魔術っ!」
バサアッと美鈴の背中に翼が生え、彼女は空を舞い続ける。
地上に下りれば自分の影から触手のような手が拘束しようとしてくるんだからな、オマケに噛み付かれるかも知れないんだからここはコレしか無いだろう。
さて観客席では。
「こ、こんな手を隠してらしたの…あの女…!」
観客席で鳳華音していた鳳華音がワナワナと怒りで震えていた。
「お嬢様、気をお鎮め下さい。」
「確かにお嬢様の影から影の手を出さずに負けた常夏海に憤りを感じますが、もう終わった試合です…また来年決着を…。」
「あんな空飛ぶ魔術なんて私との試合の時には使わなかったじゃございませんか?!」
「あ、ソッチの…美鈴様の方でございますか(汗)…?」
小雀が苦笑して頬をポリポリと掻いていた。
…つうか、使わなかった、というより単にその時頭の中に無かっただけじゃねえの?
それに確かアイツが有翼飛翔魔術は公式試合で使ったのはコレが始めてじゃなかったっけ。
つまりそれまで使う必要を感じなかったって事だろう。
何かと色々引出しの多いアイツはそれを身分的には隠さないといけないから学院への公式発表以外の魔法は最低限の使用に留めてるし。
いや、幾らか割と大っぴらに使ってるかもな、試合以外で。
そう言えば前にも雷魔法の電撃を咄嗟に絶縁体の金属で全身メタルコーティングするなんていう秘密にしてた魔法を使いやがったっけ。
あんなの俺も知らなかったから、多分ゲーム設定とは別にアイツが新しく作った魔法だろうな。
…て事はちょっと苦戦してるようなこの状況をひっくり返す何かをまだ隠してるのか?
まあ試合の経過を観察すればいずれわかる事だけど。
と、俺が考え事をしてるその時。
「空を飛べるとは驚きで〜す☆」
「でもぉ?」
「御自分の影だけ注意してれば安心と思ってませんか〜?」
「え?」
今度は美鈴の小さくなった影とは別の方向から黒い塊が飛んで来た。
ヒュン、ヒュヒュン!
「おっとお?」
「こっちの影からは蛇みたいな触手の手が?」
「そして常夏海さんの影からは砲丸みたいなモノが飛んでくるとはあ?!」
美鈴は巧みにそれらを躱し、時には剣で弾いた。
「名付けて影弾丸で〜す。」
「私の影と貴女の影、その両方から同時に私は攻められるんですのよお〜?」
常夏海が高笑いする。
「さあさ、何時までそうやって躱し続けられますかしらあ〜?」
「…まずいですわね…。」
美鈴の顔が僅かに歪んだ。
この物量攻撃の前に防戦一方だからな、無理もな…。
「なんかあの方をふっ飛ばさないと気が済まなくなりそうですわ…フフフ…。」
あ、悪役顔になりやがった。
美鈴が剣に風魔法を纏わせる。
「竜巻斬…」
美鈴の剣からはブワッ!と複数の旋風が舞う。
「そんなタダの風魔法の風くらいでは私の影魔法には通じませんよお?」
確かに最初の突風による影響は全く受けなかったが…。
しかし。
ビシュビシュビシュッ!!!
「…風刃バージョン(笑)、ですわっ!」
シャドーブレットもシャドースネークバインドの手も全ては旋風の中に仕込まれていた風の刃によって切り裂かれ散ってしまった。
「な?!バカな?!」
「タダの風魔法じゃなくて残念でしたわね?」
驚く常夏海とは対照的に、ニヤァと笑う美鈴。
うーん、美鈴の悪役面が様になってる。
これはつまりノリノリの絶好調という事だな。
「確かにタダの風魔法…つまり今迄の竜巻斬では貴女の影魔法は素通りしてしまう…。」
「しかし剣仙の「剣の気」を纏わせた風の刃を無数に宿したこの竜巻斬・改の前には…。」
「切れぬモノ無し!」
「か、改〜?」
常夏海の顔には「そんなのズッコーい!」と書いてあった。
オマエらお互い様だから、まあ気にするな。
「さてこれでもう貴女の影魔法は私に通じません事よ?」
「な、な〜にをおっしゃいますか黎美鈴さんとやら?」
「あら、ではもっと影魔法の攻撃を叩き込んでくださってもよろしくてよ?」
「どちらかの魔力量が尽きるのが早いか勝負致しませんこと?」
「…ぐ、ぐぬぬぬ…!」
常夏海は歯軋りした。
…妙だな?
代表に選ばれるくらいだから自分の魔力量にも結構自身持ってると思うんだが…。
まさかコイツ、美鈴の魔力量が高等部入学してからのここ数ヶ月で膨大に膨れ上がってる事を知ってるというのか?
でも…何でだ?
或いは相当、美鈴に関する研究をしたとして、それでもその情報はどっから得たんだろうか?
そんな事を考えてる間にも試合は次の展開を見せていた。
「ならば至近距離でこの影の槍を貴女の身体に突き立てるのみ!」
常夏海が自分の影の中に沈むと、彼女の影も幻影のように消えた。
「な、なんですのアレは?」
観戦中の鳳華音は息を呑んだ。
「自分の影の中に入り込んだ…しかもその影が消えた?」
従者の小雀はゾッとした。
一方、美鈴陣営の観客席では。
「不気味ですね…一体何を仕掛けるんでしょうか?」
明花は常夏海を初めて不気味だと感じた。
ビキニアーマーや明るい雰囲気から今まで気が付かなかったが、闇魔法に近い影の魔法の使い方からして常夏海はもしやヤバい相手なのでは無いのでは?
と、明花は勘繰ったのだ。
そして闘姫は美鈴を見つめたままこう言った。
「彼女は言いました。」
「この槍を美鈴さんに突き立てると…とすれば。」
芽友がコレを聞いてハッとした。
「常夏海さんが何時でも自在に、しかも唐突に何処からか現れる、と言う事ですか?」
「えっ?それって、どこから出て来るんですか?」
愛麗はキョロキョロした。
「おそらくは…」
闘姫は美鈴から目を逸らさなかった。
キラッ。
上空にいる美鈴の小さく写っている地上の影から更にホンの小さな光を美鈴は見逃さ無かった。
「フッ。」
それを見下ろす美鈴は益々悪役じみた顔になった。
突如、次の瞬間にはその影から何本ものシャドウスネークバインドが…
いや、コレは!
「影の槍ですわね。」
美鈴は剣に魔法を纏わせた。
「アイスシールド!」
自分と地上にある自分の影との中間に氷の壁を形成する美鈴。
だがその氷の壁を穿ちながら影の槍が突き破って来た!
シュバババッ!!
「むっ!」
美鈴は魔力を込めた風の刃でコレらを打ち砕く。
バッキイイイン!!
「チョロいですわ。」
フッと笑い余裕を見せる美鈴。
…が、その余裕が仇となった。
「隙ありですよお♪」
「!」
影の槍の破片が集まる。
その中から至近距離で更に漆黑の一筋が美鈴を…。
ガッ…!!!
「きゃあああ〜っ?!」
観客席の至るところから悲鳴が挙がった。
辺りは騒然となった。
…何故なら!
美鈴の額に影の槍を突き立てている常夏海の姿がその空中に顕現していたからだ!
「…め…」
「美鈴さあーん?!」
明花が絶叫した。
空中で止まったままの二つの影。
「ま…まさか…。」
闘姫はその光景に目を疑った。
「お、お嬢…様…?!」
「美鈴お嬢様ーっ?!」
側仕えコンビはただ叫んだ。
「これにて勝負あり、ですねー。」
ピースサインをしてケラケラ笑う常夏海。
…………。
と、
ピク…と美鈴の身体が動く。
「貴女…危ないじゃございませんこと…?」
「へ?」
間の抜けた声が常夏海の口から溢れた。
「顔面を狙うのは危険だから反則…このルール、憶えてらっしゃらなかったのかしら?」
美鈴がワナワナと震えている。
「あらー残念〜、槍が身体まで届かなかったのかしらー?」
「思ったより頑丈でしたのね、防御アミュレットの防護シールド〜。」
何処まで本気で言ってんだこのオンナ?
この態度には俺もカチンと来た。
「いえ、防護シールドはしっかり貫いておりましたわよ?」
(だからこそ私が激オコだというのにこの…!)
「こんな事もあるから反則とルールに明記されておりましたのに…知らなかったとは言わせませんわよ?」
しかし常夏海はしらばっくれやがった。
「そでしたかー?手元狂っちゃったみたいでーす♪」
「でもルールではこう続きあった筈でーす。」
「それは…防御アミュレットが無効となれば勝敗が決する、でーす!」
常夏海は全身でグッと槍に力を込めた。
そうだ、防御アミュレットのシールドがある程度破壊されるか選手が戦闘続行不可能になれば…!
でもここからまさか流石に相手を殺しに迄は行かないだろうけどな。
ちょっと額に傷付けて勝ちを貰いに行くだけかと俺も含め観戦してる皆が思った…けど。
「何をそんなに力を込めておりますの?」
「まさかこの私を殺すおつもりでも?」
さっきまで怒っているように聞こえてた美鈴の声だったが、今はせせら笑うかのような声色に聞こえた。
グググ…。
「ん!…んん?…。」
「な、なぜ槍が…?」
幾ら常夏海が力を込めても槍はそれ以上進まない。
「…え?…あ…あれっ…?」
「…こ、こんな事って…?」
徐々に青ざめていく常夏海の表情。
闘姫は視力を強化して美鈴を見た。
すると。
ホンの僅かな美鈴の前髪が常夏海から押し込まれている影の槍を受け止め進ませなかったのだ。
「貴女、私の鋼気功を知らなかったようですわね。」
クスリと笑う美鈴。
闘姫が安堵した。
「あ…。槍が当たってません!おそらく前髪を固めてるのでしょう、それで防いでました…。」
「美鈴さん無傷です!」
「ええっ?…あ、本当です…よ、良かったあ〜。」
心配で立ち上がってた明花は力が抜けて客席にふにゃっと腰掛けた。
何時もながら信じられん事をするヤツだ。
【つくづく人騒がせなヤツだなあ】
(あらっ?私の事を心配してくださったのでございますか、名尾君?)
【う、うっせ!】
(そ…そうですか、そうですのねっ…?)
(ウフッ、ウフフフ…♡)
なぜか美鈴が上機嫌な笑顔になったぞ。
そのせいかな?
常夏海は怪訝そうにこう言ったんだ。
「な、何笑ってんですかあ?気色悪い!」
こ、コイツホントに気持ち悪がってる(笑)。
だが俺もこれには同意する。
美鈴が変に上機嫌な時は、また何か変な考えでも浮かんだんじゃないかって警戒したくなるからな。
「ウフフフ、貴女ラッキーですわ(笑)。」
「私今、とっても機嫌がよろしいんですの♪」
「ですので、今なら軽く手足の一本程度の骨折くらいで済ませてあげられそうですわ!」
良くわからんが機嫌が良くなった?美鈴が、ここから反撃に移るところが見られそうだな。
常夏海はといえば影の槍の届くギリギリの間合いまで少し離れた。
「その減らず口、先に手足の骨折一本もらうのは私の方でーす!」
「シャドウ・ウイング☆」
常夏海は日光で出来た自然の影とは別に幾つもの影を、まるで羽根のように背後から伸ばした。
そのまま空中に留まってから空を自在に飛び回ると、そこから一気に接近して槍を突きまくってきた。
「!」
ガキガキガキッ!!!
影の槍が美鈴の剣をすり抜けて防護アミュレットが形成する防御シールドにぶち当たる。
「むむっ、思ったより頑丈ですね〜、このシールドは?」
「嫌な予感がしたから案の定、ですわ…。」
美鈴は冷や汗だったようで、ふうっと息を吐いた。
「その槍、こちらの武器をすり抜けられるのですわね?」
「あらあ、そう言えば言わなかったですねえ♪」
「念の為、防護アミュレットのシールド表面付近に鋼気功の気を纏わせておいて正解でしたわ。」
「ええっ?勝負判定でもある防護アミュレットのシールド強化は反則じゃありませんか〜?」
先に顔面攻撃という反則しておいて何を言わんや?
「確かに防護アミュレットのシールド強化は反則ですけど、私は単に負傷しないための気を張り巡らせただけですわ(笑)!」
「たまたまそれが防護アミュレットの発生させる防御シールドの外側にあっただけの事ですの、おわかり?」
「な、何ですってええ〜?!」
…ああ言えばこう言う、という不毛な言い合いを続ける二人(汗)。
まあギリ美鈴の方は反則とは言えないかもな?
「ええい、こうなったら!!」
(お、私の防御を破る為に本気の魔法をぶつけるつもりですわね?)
【ワクワクしてんじゃねえよ、嬉しそうに!】
今度はどんな影魔法を出すんだろう?
俺は興味深く見守った。
…と。
常夏海は全速で闘技場の壁際まで後退した。
「これで如何に貴女が頑丈でもペシャンコで〜す!」
彼女がパチンと指を鳴らすと、地面に大きな影が現れた。
「…な、何か、嫌〜な予感がしま…」
美鈴が頭上に視線を向けながら言い終える前に、彼女の上空数百メートル?には巨大な岩盤が出現していた!
これまで相手の攻撃を正面から受け止め打ち破ってきた美鈴でしたが、流石にこれは…?