第百九話【私達を酔わせる芳醇の紅(くれない)…♡】
こんにちは、明花です。
鳳華音さんの試合を観に行ってその帰り、私達は鳳華音さんと小雀さんのお二人と一緒にお食事する事になったのですが…?
「いっただっきま〜〜〜す!!」
テーブルに並べられた料理に舌鼓をうつ美鈴達。
中華風の王国だけに俺の前世で知られる中華風の料理が主に並んでいた。
その中には欧風な肉料理やスープもあったが、これは主に北貴族学院の二人が好んで食べていた。
「モグモグ…鳳さん達は欧風料理の方がお好みなのでして?」
美鈴から質問された鳳はニコニコしながら口に運ぶスプーンを止め、ナプキンで口元を拭ってから返事をした。
「はい、元々この国の北側は欧風国家が多いのでこのような料理の方が食卓にあがり易いのです。」
「私も王都で食する事が出来て感激しております。」
鳳の従者である小雀も機嫌良さそうに微笑んでいた。
「気に入っていただけたのなら何よりですわ。」
美鈴はグラスに注がれていた赤い飲み物をグビッと飲んだ。
「ふぁらっ?」
げふっとゲップした美鈴がふらついた。
「め、美鈴さん?」
慌てて隣にいた明花が美鈴の身体を支えた。
「あ…これはワインですね。」
白百合のプリンセスが冷静に眺めた。
「そのようですね、こちらに置かれるはずだったのに料理の皿が多すぎてそちらに置くしか無かったのかも知れませんわね。」
鳳もそれ自体は特に気にしてなかったようだ。
「…もしかして、美鈴さんはお酒が駄目でしたか?」
白百合のプリンセスは愛麗に尋ねた。
「う〜ん、どうだったのでしょう?」
「少なくとも黎家では食卓にお酒の類は置かれてなかった気がします…。」
芽友は驚いた。
「じゃあ、これが始めての飲酒?」
鳳は気不味そうに尋ねた。
「あの、そもそも高等部に上がる年齢なら飲酒出来るのではありませんか?」
「…一応、そうだったような…。」
明花が困ったように答えた。
皆、飲酒そのものに興味が無かったんだろう。
あまり其の辺については認識してないようだった。
百合ゲー世界でのこの国、中華風っぽい中華王国(現実の中華人民共和国とは成り立ちの設定からして全くの別物)の成人年齢は一応十五歳で高等部入学時点で成人扱いとなる。
なので法律上は問題無い、のだが…
だからと言ってお酒が飲める体質なのかどうかは飽くまで個人差があるのだった!
「私達の地方では冬の寒さがありますので、普通に中等部からは少量という決まりはありますが飲酒が許されていたので…。」
鳳は「ぬかった…」という表情をしていた。
「美鈴さん、美鈴さん?!」
ユサユサと身体を揺する明花。
「ふにゃああ〜♪」
美鈴は目が回ってるのか朦朧としてる。
「でも信じられない…幾らお酒に弱かったからと言っても、たった一口でベロンベロンになるなんて…?」
正直、鳳華音は呆れた。
それに対して明花は真剣…というかかなり慌てていた。
飲酒量からして問題無さそうだけど、もしかしたら急性アルコール中毒を疑ってないか?
「わ、私は美鈴さんを安静にさせますから皆さんはお食事を続けて下さい!」
「お、お嬢様?私も…」
「芽友はそこにいて!貴女には役目があります!」
「あ、私もお供に…」
「愛麗さんは美鈴さんのお食事分を持って帰ってあげて下さい!」
そして美鈴の懐から例の小切手を抜き取り愛麗に預けた。
「は、はい…。」
「白百合のプリンセスさんは全員の護衛、良いですね?」
「はあ…構いませんが…」
「ではお願いします!」
言うが早いか、明花は美鈴の身体を背負い、店を出て行った。
チーム・美鈴のメンバーは皆、明花の剣幕に呆気に取られていた。
「明花さんてあんな怪力の持ち主でしたっけ?」
白百合のプリンセスは芽友に尋ねた。
「まさか…ウチのお嬢様はあんなに力持ちなんかじゃありませんでしたよ?」
「愛の力、ですかね?」
愛麗が呟くと、皆が神妙な顔でうなづいた。
「え…と…あのお二人、そういう関係でしたの?」
鳳と小雀の二人は顔を見合わせた。
ズダダダダ…!
医学が前世の世界より発展してないこの世界では病院は王都といえどそう簡単に見つかるものじゃない。
とにかくどこか休める処を、と明花は探していた。
「あ!ここなら!」
安宿街らしき一区画を見つけた明花はそこに駆け込んだ。
彼女はこの時思いもしなかった。
そこはタダの宿屋街では無かった事を。
……………。
「な、何だか派手というか…赤みがかった照明が多い、宿屋街ですね…。」
ヨイショッと崩れかけた美鈴の身体を背負い直し、ヨタヨタ歩き始めた。
さっきまで気合いで駆けて来た明花だったが、この気合いが抜けそうな雰囲気を漂わせる街の様子を見るうちに身体から力が抜けそうだった。
オマケに。
「…ん…。」
ドキッ。
首元で美鈴が吐息を洩らし、その息が明花の首筋にかかる。
(い、いけない、しっかりするのよ明花?)
更に。
ギュ…と美鈴がしがみつく。
(せ…背中に…?)
美鈴の身体の前面が明花の背中に押し付けられた。
(…や、ヤバいです、これ以上は…!)
自分で自分を抑えられなくなりそうな…というか体力が尽きて崩れてしまいそうになる明花だった。
(と、取り敢えずあそこに…!)
明花は一番近くにあった宿屋に何とか飛び込んだ。
ガラッ。
「二名様いらっしゃ〜い☆」
二階に通された明花は宿屋の受付け係の力を借りて美鈴を運んだ。
「酔わせてこんなとこに連れ込むなんてお嬢ちゃんもかなりやるねえ〜♪」
「そ、そんなんじゃ…(汗)」
「でわでわ、ごゆっくり〜♪」
受付係は楽しそうに下の階へと下りていった。
「もう…ホントにそんなツモリじゃ…」
目線を落とす明花の目にベッドに寝かされた美鈴がいた。
少し汗をかいている。
「暑いのかしら?」
美鈴の上着を脱がせてあげる明花だった。
「む…胸元も少し開けた方が…いいわよ、ね…?」
誰に聞くでもなくそう呟く明花。
一つ一つ、ゆっくりボタンを外してゆくと美鈴の胸元をそっと開いた。
美鈴の白い肌と、そして更に真っ白なブラがチラ見した。
(可愛い…♡)
ドキドキ胸が昂る明花。
思わず美鈴の肌へ口づけしたくなるような衝動にかられる明花だった。
「い、いや駄目よ?こんなタイミングを利用するなんて!」
「…で、でも…。」
(もう、我慢出来ないかも…?)
自分で自分に言い訳しながら、そっと明花が顔を美鈴の唇に近づけていった………。
…………と、
「うぷっ。」
唐突に美鈴の口から声が漏れた。
「いっ?!」
その声がするや反射的に明花は飛び退いた。
そして美鈴は口を手で押さえながら上半身を起こした。
(これってまさか…。)
「うぶ…。」
美鈴の顔が真っ青だった。
「せ、洗面器!」
明花は慌てて部屋中を探し回った。
…………………。
敢えて描写は避けよう。
あ〜見たくも無かった(笑)。
そんな展開も漸く落ち着いた。
二人はベッドで横になっていた。
「…落ち着きました?」
「ええ…やっと、ですわ。」
美鈴の手を優しく明花が握っていた。
「それにしても驚きました、美鈴さんてホントお酒に弱いんですね?」
「あれがまさかお酒だったなんて…美味しくて未だに信じられませんわ。」
「鳳さんの傍に置かれるはずだったのが間違えて美鈴さんの方へ置かれたみたいですね。」
「私ってそんな呑みそうな顔に見えますの?」
「さあ?」
そして二人はクスクス笑いあった。
「しかし折角の会食でしたのに皆さんにはご心配おかけしてしまいましたわ。」
「大丈夫ですよ、そんな公的な集まりでも無かったんですし。」
「お食事代の方はお支払い出来ましたのかしら?」
「美鈴さんの小切手を愛麗さんに渡して置きましたから大丈夫ですよ、きっと。」
「…まあ、芽友さんや白百合のプリンセスさんもご一緒でしたから多分そうですわよね。」
ギュッと美鈴の手を握る明花の手の力が強くなった。
「あの…美鈴さん?」
「はい…。」
「わ、わた…私…。」
明花は身体を起こして美鈴に覆いかぶさった。
「私、貴女の事を…!」
明花はそのまま顔近づけてくる。
「み?明花、さん…?」
美鈴はドギマギした。
「ちょ…ちょっと、落ちついて…?」
美鈴の腕力なら簡単に明花を引き離せる筈だ。
だけど何故か振り解けない、いや振り解こうともしなかった。
真っ赤な顔をして凍りついたように身体が微動だにしない。
「あ…あわあわ…。」
完全に頭がフリーズしてやがる。
【情け無い、しっかりしろ!】
(ん、んな事を申されましてもお〜〜(汗))
【…もお〜、じゃねえ!オマエは牛か?】
(知りませんわ、もお〜〜ッ!)
(か、身体が…金縛りみたいに動けませんのよおお〜〜っ?!)
【………やれやれ。】
その時、フッ…と目を閉じた明花の顔が美鈴の顔に落ちて…
(も、もう覚悟を決めるしか…無いんですの…?)
美鈴は緊張のあまりグッと目を閉じた。
トサッ…
(〜〜〜〜〜!!………)
(…………!…………)
【おい。】
(………んんん〜〜〜っ………)
【おい、いい加減目を開けろ。】
(あ、開けられませんわあ〜っ!)
【良いから横を見てみなって。】
(〜〜〜〜〜!!!)
【…オマエ、初心な反応はそこまでにしろって。】
【前に事故とはいえ明花とファーストキスしてんだろ?】
(こ、今回は事故ではすみませんわあ〜〜っ)
【いや事故だよ】
【未遂で終わるという事故だがな。】
(………?)
(未遂…え…)
漸く恐る恐る目を開ける美鈴。
その顔の横には「くーくー」と寝息を立てる明花が。
「み…明花さん…?」
明花の身体を横たわらせて起き上がる美鈴。
【余程オマエの事が心配で気が張ってたんだろうぜ、緊張の糸が切れたらしい。】
「…あ、さいでございますか…」
ホッとした美鈴もまたドッと疲れが出たようだ。
「あ〜、私もついでにこのまま寝ちゃいますわ…おやすみなさあ〜い…。」
二人とも力尽きたようにドップリと深い眠りについてしまった。
【変なカップルだなあ。】
俺にはどう考えてもさっきの美鈴は迷ってたように見えた。
このまま明花とマブダチとしての一線を越えてしまうべきか、それともまだまだマブダチとしての一線の手前で踏み止まるべきか、てね。
さっさと恋人関係を認めてしまえば良いのに…それとも白百合のプリンセスとどっちにするか迷ってるて事は無いよな?
それはそれで…俺がちょっと面白く無いような…。
多分、他に理由は無いよな?
あ、でもコイツがこの時点で明花と結ばれてしまったらこの先の展開への影響はどうなるんだろ?
う〜ん、やっぱまだそういう関係になるのは早いんかな?
コイツが白百合のプリンセスを狙ってる可能性もあるし、まだカップル成立は先でもいいかもな。
…いや、白百合のプリンセスをコイツにくれてやるのは勿体無くないか?
ああ〜、この世界がゲーム世界で無ければ俺が白百合のプリンセスを落としたいんだけどなあ?!
でも仮面の聖霊はゲームシステムでは本来名も無い裏方みたいな処遇だったからなあ〜。
俺にはチャンス無いのかなあ…グスン。
…………い、いかんいかん!
今の俺は仮面の聖霊…の役だからな!
…でもゲーム世界のストーリーがエンドになれば、案外俺にもワンチャン…?
………等と堂々巡りの思考を繰り返していたらいつの間にか朝になってた。
正確にはまだ午前5時くらいか?
美鈴と明花は…
ろ、露骨に抱き合ってる!?
オデコをくっつけ合ってる…このままキスしたりしないよな?
…二人が起きた時どんなリアクション取るか見ものだ(笑)。
そして5分後。
案の定、二人はビックリして飛び起き、離れた。
二人はそのままドキドキしながら身支度を済ませて宿を出る。
が、その宿屋街は連れ込み宿が軒を並べてた事に気が付き、パニクりながら駆け足で宿屋街を後にするのだった。
学院寮に帰ってからも二人はかなり周りから冷やかされたようだ。
幸い教師の耳には入らないように皆気を付けてくれていたようだが。
「二人ともお互いのほっぺたにキスマーク付けながら帰って来たんですよ?信じられません!」
俺は精神世界の部屋へ招待した白百合のプリンセスからその時の状況をウンウン、と頷きながら聞いてあげた。
「そりゃ大変だったなあ〜、あ、お茶おかわりする?」
「ください!」
ガチャン!とカップを乱暴にテーブルへ置く白百合のプリンセス。
(やれやれ、これが紅茶じゃなくてワインだったらそれこそとんでもない事になるところだったかも?)
とはいえ白百合のプリンセスが酔った時どんな反応するかは興味津々な俺だった。
で、この騒動の元の二人はというと。
「もうお酒は懲り懲りですわあ〜。」
「あ、ところで鳳華音さんは美鈴さんを試合に招待したのは結局何だったんでしょうね?」
「…あ。」
すっかり忘れられた存在の鳳華音だった。
で、その頃…その鳳華音もまた当初の目的を美鈴の「一口で酔い潰れ騒動」のせいで忘れてしまっていた。
「わ、忘れてましたあ〜〜〜!!!」
ジタバタする鳳華音をジト目で眺めながら従者の小雀はこう言った。
「はいはい、今度は私達が美鈴さんの試合を観戦に行きましょうね。」
「よしっ、今度こそ美鈴さんをボディーガードに勧誘します!」
「…ところで隣の席におられた仮面のお方、あの方も仮面の剣豪さんとやらかしら?」
「少なくとも不可視擬さんとやらでは無さそうでしたけど…はて?」
鳳華音は会食の場にも居た白百合のプリンセスの事を聞き逃していたのだった。
というわけで、今回付かなかったあらゆる決着は美鈴の次の試合後へと持ち越されるのであった!
………は、恥ずかしいです…!
わた、私…よりにもよってあんな…キャッ♪
………え?単なる未遂だろ?ですって?
ち、違うんです!
つい勢いで?あ、あんな事を私から…(汗)。
き、嫌いにならないで下さいね?美鈴さあ〜〜〜んっ!!!