第百二話【白に魅せられた赤へと不可視擬の白刃が舞う!】
美鈴が鳳華音との試合を再開してる間、赤服集団と対峙していた白百合のプリンセスですが…?
白百合のプリンセスは扇状に自分を取り囲む赤服集団に向けて攻撃するためレイピア片手に一歩踏み込んだ。
が。
ニュルッ。
「えっ?」
白百合のプリンセスが前に出した右足は地面にめり込んだ。
と、言うよりも土の方が沈んで白百合のプリンセスの右足首を包みこんだみたいな?
「きゃっ!」
片足を土に取られ、白百合のプリンセスは転んでしまう。
「わ、私とした事が…」
両手を地に付け立ち上がろうとする白百合のプリンセス。
しかし。
グニュルル…。
「…え。」
その両手にも土が絡み付いた。
そしてその土は右手の指を強引に開くと、レイピアを白百合のプリンセスから奪うのだった。
「しまっ…」
彼女が気が付いた時、目の前には赤服集団がすぐ傍まで近寄っていた。
そして一人が白百合のプリンセスに向けて短剣を投げつける。
ビシュッ!
「何の!」
白百合のプリンセスは瞳を光らせ目からビームを放った。
こんな事が出来たとは驚きだ。
このビームで短剣を撃ち落とすと、ほんの僅かかも知れないけど白百合のプリンセスは安心して油断したのかも知れない。
だが手足の自由を奪われた時点で彼女の運命は決まっていた。
「残念だったな。」
赤服の一人が既に彼女の目の前に立っていたのだ。
多分投げつけられた短剣が白百合のプリンセスの注意を逸した隙に近付いてたんだろう。
そしてソイツは思い切り白百合のプリンセスの顔面を蹴った!
ガツッ!!
「…ぐっ…。」
ユックリと、白百合のプリンセスの上体が後ろへ倒れてゆく。
パサッ…
白百合のプリンセスは白目を剝いたまま気絶した。
口は半開きで涎が垂れていた。
顔を蹴った赤服の一人は彼女の首に首輪を嵌めた。
「魔法封じの首輪だ。これでコイツは私達から逃れる術を失った。」
相手がハイヒールを履いてなかったのは不幸の幸いか。
その場合ヒールが顔に刺さって大怪我になっていたかも知れないと思うと、ゾッとする。
しかし彼女、まさかとは思うが防御力というか直接的な物理攻撃には案外弱いのかも知れない…。
或いは赤服集団が魔力か何かで身体強化でもしてるんだろうか。
赤服達は彼女にトドメを刺そうと思えば出来た。
けど幸いそれはしなかった。
何故なら、別の意味で彼女を害しようという欲望が連中に芽生えてきたからだった。
「……ゴクッ。」
赤服集団全員から唾を飲み込む音がした。
「………中々にそそるじゃないか…。」
白百合のプリンセスが大の字にノビているその姿を見て赤服集団は欲情しているみたいだった。
彼女の決して自分ちいさくは無い胸の膨らみ、はだけたスカートの奥から見える健康的な太腿、影に隠れて見えなかった白い布…。
こっちまで変な気分になりそうな眺めだった。
「…なあ、北学院の代表なんかほっといてコイツで楽しまないか?」
「そっちはオマエ達が行け、コイツは私達が何とかする…そう、色々とな…。」
「それは無いだろう?どうせ念動力による暗殺は失敗したんだからコイツを全員で楽しんでから手土産にしようや。」
「ふむ…まあそれも悪くは無いだろう。」
横になったままの白百合のプリンセスに赤服集団の手が伸びる…。
ビリビリイッ……!
ビリッ、ビリイッ…!
辺りに布が引き千切られる音が響いた。
…それからあまり時間を置かずに小さな悲鳴が聴こえたような気がした…。
…………………。
白百合のプリンセスが現場に到着してからここまでの光景は後になって俺が確認したものだ。
この時の俺はまだ美鈴の試合を見ていて白百合のプリンセスの身に何が起きていたかまでは気が付かなかった。
俺が確認出来たのはここまでだった。
何故なら試合を終えたばかりの美鈴が直ぐには帰宅せずに、既に現場へと到着してるであろう白百合のプリンセスの応援へと向かっていたからだ。
「…トウッ…!」
彼女は仮面の剣豪・不可視擬に変身して木々の合間を跳躍して森を飛び抜けた。
彼女の身体は天地逆さの姿勢で空中を舞っている。
その眼下には試合会場から見つけた小高い丘が有った。
そう、例の赤服集団のいた場所だ。
連中は何やら森の前で一箇所に固まってワラワラと群がり、蠢いていた。
「居ましたわね…!」
しかしふと彼女は気が付いた。
「白百合のプリンセスさん…まだ来ておられないのかしら?」
と、赤服集団の隙間から白い手足が見えた。
そして散乱する白い布切れ。
((まさか…?))
美鈴と俺に嫌な予感が走った。
美鈴…不可視擬はクルクル旋回しながら双剣を手放し着地する。
ト…ン…。
まるで質量が無いように不可視擬の爪先が軽く地に触れる。
「何をなさっておられるのでしょうか、アナタ方は?!」
いきなり声をかけられ思わず振り返った赤服の一人がこう言った。
「…んだよ、イイトコロなのに邪魔すんなや…」
ソイツが言い終わる前に不可視擬の姿は消えた。
次の瞬間、肉を叩く重低音が轟く。
ド、ド、ド、ドドドッ!!
「何だあ?」
「一体どう…」
「は?」
次々振り返る赤服達。
だが声を洩らした者からガクガクッと崩れ落ちる。
そして倒れた赤服達の身体の向こうに掌底を突き出し構える不可視擬の姿があった。
「な、何だオマエ?いつの間に?!」
「で、敵か?皆、構えろ!」
赤服達は印を片手で組みながら短剣を構える。
まだ立っている赤服達の目が赤く光った。
ギイイイイ………!
(う…?)
不可視擬は軽い目眩を感じた。
(これはいけません!)
掌底を突き出す構えのまま不可視擬は全身からオーラを発した。
バシイン!!
大気が弾けた。
ズズン、と浴びた衝撃波に赤服達は自分達の念動力が跳ね返された事を感じ取った。
「ば、馬鹿な?!」
「わ、我らの念動力を弾いただと?」
どうも話しの内容からして赤服達は念動力を持ってして不可視擬の身体の自由を奪おうとしたようだ。
しかし不可視擬はその全身から霊力を迸らせ念動力を遮り無効化したらしい。
「なるほど、念動力と来ましたか。」
「ならばこれはどうです?」
不可視擬が両手をクネクネと動かす。
すると。
ビュン、ビュビュン!!
ガシッ!ドバッ!
剣の振り回される音がしたと思ったらその次に聞こえたのはやはり肉を叩く音。
「ぐあっ?」
「うごっ!」
ドサドサッと数名の赤服が地に伏した。
「こ、今度は何だあ?」
まだ倒れていない赤服はこれで片手の数程まで人数を削られていた。
ヒュンヒュンヒュン…。
クルクル旋回する双剣が空から不可視擬の両手に舞い戻る。
パシッ。
不可視擬がその両手で双剣を掴み、十字に構えた。
「いかがでしたか、私の念動力による双剣の舞いのお味は?」
【倒れた相手に聞いても答えられないと思うぞー。】
(そこの立ってる方達に聞いたのですわよ!)
【ソイツらには当ってないから余計に剣の味とやらは分からないと思うぞー。】
(ぐぬぬぬ………。)
…と、呑気に突っ込んでる場合じゃなかった!
(そ、そうでしたわね?…コホン)
「これでおわかりになりましたか?私にアナタ方の念動力とやらは通じません、さあどうなさいますか?」
「ひ、怯むな!相手はたった一人、我らはまだ五人、こっちが数で有利だ!」
「そ!そうだな、行くぞ!」
「こ、コンチクショー!」
残り五人の赤服が不可視擬へと短剣片手に襲いかかる。
しかしもうこうなれば不可視擬に負ける要素など無かった。
「はあ〜っ…。」
かったるそうにため息を吐いてから不可視擬がこう呟いた。
『…不可視擬・幻夢の舞い。』
…………そこからは、ほんの一瞬の出来事だった。
不可視擬が宙に舞ったと思うと、その姿はいつの間にか赤服達を通り過ぎていた。
フワッと不可視擬が着地する。
すると、バタバタと音を立てて赤服達は倒れていった。
その表情は一体何が起きたのか気が付かなかったかのように厳しい表情で正面を見つめたままだった。
「安心しなさい、峰打ち………もとい、刃をシールドで覆っているから斬れたりしていません。」
【斬って血が出るの見たら気絶するもんなー?】
(それは他言無用ですわ!)
美鈴は仮面を外すと変身を解いた。
【お、おいまだ変身解かない方がいいんじゃないのか?】
(剣には麻酔効果の波動を纏わせておきましたから半日は寝たままですわ。)
なるほど、なら安心だ。
「さて、それにしても白百合のプリンセスさんは一体どこに…」
そう言いかけた美鈴が一瞬固まった。
俺もギョッとした。
何故なら、美鈴の目線の先で倒れていたのは木陰でよく見えなかったが白い肌を露にされた白百合のプリンセスその人だったからだ。
【なっ…】
【お、おい美鈴、あれって白百合のプリンセスじゃあ…?】
この時の俺はまだ白百合のプリンセスに何が起きてたのか知らなかったからこんな反応しか出来なかった。
…そして美鈴はと言えば…?
ブ〜〜〜ッ!!
盛大に鼻血を噴射しながら貧血で気絶してしまうのだった。
【あ〜もう、世話の焼けるうー!】
俺は愛麗に念話を送って事情を説明し、芽友の瞬間転移で明花をコチラに向かわせるのだった…。
赤服集団に襲われた白百合のプリンセスは大丈夫なのか?
そして鼻血で貧血になってしまった美鈴は?
………まあ美鈴の方は普段から血の気が多そうですから直ぐに復活する事でしょう(笑)。