第百一話【鳳華音からの要求、逃げろ不可視擬、美鈴!そして白百合のプリンセスは…?】
仮面の剣豪・不可視擬は暴走式神チャクラムを迎え撃ち鳳華音を守ります。
一方連絡を受けた白百合のプリンセスは赤服集団の方へと向かいます。
仮面の剣豪・不可視擬。
一対多という数的不利な状況においてのスペシャリスト。
その容姿はツインテールの髪型と紫色のチャイナドレスとハイヒール、そして双剣。
そのスピードもさることながら、柔軟な身体と予期せぬ動きにより相手を幻惑するのが最大の特徴だ。
更にはその動きにも型やパターンが存在せず、正に自由気まま、傍若無人な戦い方をする。
しなやかなその身のこなしと俊敏さと気ままさは猫のようだ。
ヒュンヒュン、ヒュヒュヒュン!
不可視擬の双剣が唸る。
更には跳躍、空中での停止。
その予測不可能な不可視擬の動きには如何に外部から多人数によって操られているとはいえバラバラに動く式神チャクラムもさすがに対応出来なかった。
バキッ、バキバキッ!
式神チャクラムは瞬く間にその約半数が不可視擬の変幻自在な動きから繰り出される双剣の攻撃によって叩き落とされ真っ二つとなって地面に墜ちた。
「ご無事ですかお嬢様?」
不可視擬(フカシギ=美鈴)が貴女の味方アピールをするため微笑を浮かべて振り返る。
すると鳳華音からの反応は…。
「アアーッ!?私の大事なチャクラムがあ〜っ?!」
彼女は不可視擬に助けて貰った事よりも自分が持っていた式神チャクラムが真っ二つに斬り落とされた事の方が意の一番に頭にあったようだ…。
「何て事するのよもう!」
「え…。」
これには不可視擬も唖然とした。
「これは弁償してもらわないとね!貴女中央学院の生徒なの?!」
凄い剣幕で不可視擬に迫る鳳華音。
(これは不手際でしたかしら…迂闊にもついチャクラムを斬り落としてしまいましたわ…。)
式神チャクラムは結構高価な武器なんだろうか…そう言やあ学院代表選抜大会で剣の部門決勝で美鈴に自慢の剣を壊された生徒が修理を迫ってたっけ…アイツあれからあの剣どうしたんだろ?
…じゃなかった、そうそう、チャクラムだったな。
式神として使うチャクラムなんてそうは見かけないから彼女の家系秘伝か何かで希少価値の高い武器かも知れん。
…つうかそんな大事なモノなら試合で使うなよな。
「わ、私は通りすがりの仮面の剣豪…貴女の身をお守りしたまでです。」
「なら見守りついでに弁償なさいな!」
「そ、それとこれとは…(汗)。」
「…ちなみにお値段はお幾らで?」
「う〜ん…考えてみれば店で売ってるものでも無いしねー…。」
と、ここで鳳華音の瞳が輝いた!
「そうだわ!貴女今日から私の家の人間として雇われなさい?私専属の用心棒なんてどう?」
「はえっ?」
この予期せぬ言葉に仮面の剣豪こと不可視擬こと美鈴は思わず変な声を洩らしてしまった。
そんなやり取りをしているとまだ残り半数の式神チャクラムが隙あり!とばかりに襲いかかってきた。
「今度は式神チャクラムを(真っ二つに)斬らないで下さいね?」
「…招致致しました…。」
(これ以上変な請求されたら困りますものね!)
不可視擬はチャクラムの三分の二を、そして鳳華音は三分の一を。
チャクラムを真っ二つに斬ったり折ったりしないように剣の腹で叩き落とした。
パキパキパキッ、カ、カカカン、カキキキン!
叩き落としたチャクラムに慌てて近寄る鳳華音。
「…いかがですか?」
「う…ん…このくらいなら大丈夫かな?」
「式神としてはまた使えそうですか?」
「大丈夫、一時的な機能停止状態だから。」
再び悪さをしないように鳳華音は印を結んでチャクラムの式神を封じた。
「これでもう大丈夫。」
「そうですか、なら私はこれで失礼。」
安心した不可視擬は今のうちに、とばかりに床運動の体操選手のように連続でバク転を決めるとそのまま周囲の景色に溶け込むように消えてしまった。
「あ、あれー?」
「あん、そんなぁ…折角雇おうと思ったのに…。」
残念そうな顔をする鳳華音の背後から美鈴が素知らぬ顔をしながら近寄る。
「鳳さん、あの…もう大丈夫なのですか?」
「え?…あ、貴女今まで何処にいらしてたの?」
「いえ、式神チャクラムとやらがおかしくなったという事で私は下手に近付くべきでは無いと思いましてそこらの茂みに避難を…。」
「呆れましたあ!私が危なかったというのに貴女という方は…!」
仕方が無い事とはいえ、これで美鈴に対する鳳華音の印象は最悪になったかも知れないな。
「…良し決めました!」
「貴女、お詫び代わりとして不可視擬の代わりに私のボディーガードになりなさい!」
「ええっ?!…そ、それは流石にちょっと…(汗)。」
「………と、言いたいところですけど先ずは貴女がボディーガードに相応しい腕があるかテストしないといけません。」
鳳華音は再び双剣を構える。
「さあ、と言うワケで試合再開しますよ!」
「…は、はい。」
また剣の斬り合いが始まった。
更には鳳華音は式神使いとしてだけではなく水魔法を用いて攻撃を仕掛けて来た。
だが水魔法なら美鈴も負けていない。
寧ろ同じ水属性の凍結魔法にかけては美鈴の方に一日の長があった。
最後は美鈴が氷の壁に鳳華音を閉じ込め未動きを封じ、防御アミュレットヲ無効化し試合を終了させた。
「ううう………こ、こんなハズじゃあ…。」
氷の壁を消去して解放されるなり、鳳華音はガックリと項垂れた。
「式神チャクラムを外部から操られさえしなければまだ勝負はわかりませんでしたわね、貴女は充分強かったですわ。」
…ぶっちゃけ超加速魔法を使えば全てのチャクラムを破壊し決着つけられる。
まあそれを言ったらこれまでは勿論この先の試合もそうなのだから身も蓋もない、それに。
(式神チャクラム全部使用不能にされたら彼女の怒りと悲しみで何を要求されるかわかったもんじゃありませんからね。)
鳳華音が可哀想だからと言うよりも何をふっかけられるかが気になる美鈴だった。
(あ…そうでしたわ!)
急がないとまたコイツからボディーガード云々を迫られるぞ!
試合会場の防御結界が消えた。
「では、試合は終わりましたのでこれにて!」
美鈴はすかさず跳躍して遠くの丘へと消えて行った。
「ああん、お待ちなさいったらあ!」
跡を追おうとする鳳華音だが既に美鈴の姿は何処を見渡しても影も形も見当たらなかった。
「全く逃げ足の早い…防御結界が消えるなり直ぐ居なくなるなんて…。」
(…ん?)
鳳華音は何かが引っかかったようだがそれが何に対してなのかは本人にもまだ気が付いていなかった。
…………そして式神チャクラムが仮面の剣豪である不可視擬に全て打ち落とされた時間に遡る。
攻撃手段を失った謎の赤服集団達は次の手段に打って出ようとしていた。
「我らの念動力ではここまでか。」
「ならば、この結界破壊爆弾を用いて内部に侵入するぞ。」
先頭に立つリーダー格の女が片手で持てる程の小さな球体を掲げた。
その時。
「お待ちなさい。」
小高い丘の崖を背にした赤服集団の背後の森から一人の少女が飛び上がった。
フワッとドレスのスカートをたなびかせるその美少女に作戦遂行中にも関わらず、赤服の誰もが見惚れた。
ついでにスカートの奥からチラチラと見える白き布と雪のような肌にも別の伊美で見惚れていたが…。
………て、ええい!ソコは見るんじゃねえ!
ソコ見ていいのは俺だけ………、いや失敬、まだ彼女とはそんな間柄でもなかったな、チクショウ。
そんな俺の口惜しい呟きは置いといて…。
…………スタッと着地した白百合のプリンセスに向かって赤服達は口々にこう言った。
「何奴!」
「何だ貴様?」
「どこぞの姫様みたいな格好しやがって、名を名乗れ!」
自分達の方が充分怪しいのだがそれは関係ないらしい。
そんな連中を前に白きドレスの美少女は名乗りを挙げた。
「私の名は仮面の剣豪、聖練潔白。」
「またの名を…白百合のプリンセス!」
白き戦闘用ドレスを身に纏い、金色の仮面と金色のティアラを冠して金色の長髪の女神が今、戦場に舞い降りた。
ヒュン!
銀色のレイピアを掲げ…そして振り下ろす白百合のプリンセス。
「さあ、今度は貴女達が自分達が何者か名乗りなさい。」
すると赤服集団はグルリと白百合のプリンセスを取り囲むが如く扇状に並んだ。
白百合のプリンセスはその扇の要の部分に当たる場所に居る。
「我らの正体を知りたくば我らを叩き伏せてみる事だな。」
赤服集団全員の目が光った。
キョロキョロとその集団を見やる白百合のプリンセス。
(何か…企んでる…?)
前回力負けして捕まえられるという苦い経験をした白百合のプリンセスとしては今度こそこの集団全員を纏めて捕らえたいところだろうな。
(だが相手の出方を伺っていては向こうの思う通りにされかねない!)
白百合のプリンセスは赤服集団の真ん中へ斬り込もうと踏み込んだ。
その時。
「…!」
グッと地を踏み締めたその前足に彼女は違和感を感じた。
鳳華音からの弁償代わりにボディーガードを要求された不可視擬、不可視擬の代わりにそれを要求された美鈴、共に逃亡して有耶無耶にしました。
一方、赤服集団と対峙した白百合のプリンセスですが…?