第百話【鉄輪の輪舞曲は狂騒曲に変わる!いざゆけ仮面の剣豪・不可視擬(フカシギ)!】
呑気に部屋で観戦するチーム美鈴の面々。
一方で手の内を見せた鳳華音ですが試合は思わぬ方向に…?
今回の学院代表対抗戦は休日中に行われている。
平日なら放課後に行われ、希望者を講堂や体育館等に集め魔道具による鷹の目を通した魔法の大画面とでその様子を観戦するという運びになるのだが…。
ポリポリ…。
「ふぁ…むぁたお嬢様のあっひょうれひょうかへえ…。」
「愛麗、お菓子を頬張りながら喋るのはお行儀が悪いですよ?」
芽友が注意する。
「まあまあ(笑)…それにしても姫さんも鷹の目魔法が使えたんですね?」
「いえ、これは仮面の聖霊から承った光と音の投影魔法を魔法研究部の魔法画面に映したモノです。」
明花、愛麗、芽友の三人は白百合のプリンセスの生徒姿である闘姫の部屋で寛ぎながら観戦していた。
しかも明花手作りのお菓子やクッキーを頬張りながら芽友の淹れてくれた紅茶を飲むという至れり尽くせりのオマケ付きだ。
休日であるこの日の美鈴が出場している試合は休日中の生徒達にとって居間で寛ぎながら午後のスポーツ中継を観戦しているようなモノに近かった。
つまり応援するというよりは娯楽扱いにされてるようなもんだ。
明花は何気なく闘姫に尋ねた。
「それはそうと、今回は白百合のプリンセスとしてパトロールに行かないんで良いのですか?」
「私は前回誘拐されてしまうというしくじりをしてしまいましたから今回は動きがあるまで自重しようかと思いまして…。」
「ああ…そう言えば…。」
「捕まえた犯人の二人は以前口を割らないそうです、学院生でない事は判明しておりますが。」
「それはともかく、今回は試合会場にしっかりした結界を張り、その中で試合されるそうなので試合中は門だ無いと思われます。」
「では、何かあるとすれば…。」
「はい、試合が終了し結界を解かれた時です。」
「その時直ぐ出られるよう何時でもスタンバイオーケーです。」
闘姫は胸の谷間から仮面を取り出した。
「な、なかなかセクシーな場所に仮面を入れてらっしゃるのですね…?」
明花は赤面し照れ笑いした。
「あ、これは美鈴の前でするつもりだったのについ…。」
闘姫はイタズラっぽくペロッと舌を出した。
これに対し明花は。
「ふ、ふ〜〜〜ん…?」
………少し苛立った。
すると横にいた芽友が肘でツン、と明花をつつき耳元で囁いた。
(お嬢様も何かこう…セクシーかつ積極的なアピールを考えませんと!)
(な、なな…何をアピールさせる気なのですか貴女は?!)
ワナワナとする明花を楽しそうに闘姫は見ていた。
(明花さんて純情な方ですのね。)
………そんな風にワチャチャしながらチーム美鈴の面々が観戦している美鈴VS鳳華音の試合だが………。
鳳華音の腰からジャラン♪という金属音がした。
と思ったら。
チャリチャリチャリチャリリリリン!
…チャリと言っても自転車の事ではない。
「わ、輪っか?」
美鈴は鳳華音の頭上を見上げた。
それは鳳華音が腰に付けていた金属製の輪っかだった。
凡そ二十枚近くはあるだろうか、その輪っかは鳳華音の頭上で円陣を組んだ。
その様子につい見入ってしまった美鈴。
シュッ。
彼女は空気を切り裂く音にハッとした。
ガキン!
日々の鍛錬による反射がその攻撃から彼女を守った。
練習は嘘を付かない。
「余所見してる余裕等ありませんよ?」
鳳華音はニコッと微笑った。
「ええ、そのようですわ…」
美鈴が最後まで言い切らないうちに次の一手は既に彼女に迫っていた。
ヒュッ…
微かな音に反応した美鈴は鍔迫り合いから相手の剣を弾くと側転した。
先ほどの金属製の輪っかがいつの間にか美鈴の背後に回り込み突っ込んで来ていたのだ。
「おっと!」
鳳華音は危うく自らの放った輪っか全てを自身で受け止めるところかに見えた。
だが輪っかの列は鳳華音の手前で二手に分かれ、これを回避した。
その様子を見ていた美鈴は考えた。
(あの距離で避けた?)
(彼女がアレを操っているのならあのタイミングで輪っかを避けさせるのは間に合わないはずですわ。)
体勢を整え直した美鈴は周囲に霧を発生させた。
これは防御の為の布石だ。
「その輪っか、腰に付けていた物のようですが…武器でしたのね?」
「武器というか補助的魔道具ね、ちゃんと私の魔法として登録されてるから違反じゃないわよ。」
「これはチャクラムという武器に使い魔…と言うより式神を宿したものよ。」
「式神…まさか…陰陽道ですの?」
「良く知ってらっしゃるわね。」
「さあ、この変幻自在の式神チャクラムの攻撃に加えて私の剣技、いつまで受け続けられるかしら?」
鳳華音はイキイキとした表情で剣を振り回す。
「はっ?」
美鈴は嫌な予感がした。
彼女の発生させた霧を切り裂く見えない斬撃。
カキキキン!
(あ、危ないところでしたわ!)
このチャクラムという武器からは気配が感じられないようだな。
式神ならば意識があるから気配が感じられても良さそうなもんだが。
美鈴も片手では避けきれないと感じたのか、左手に風魔法の刃を発生させてこれに対応していた。
このチャクラムは数も多いが突然予期せぬ軌道から襲ってくるし襲いかかるテンポやリズムもバラバラ。
たまにチャクラム同士がぶつかりそうなくらい連携を無視した動きをしていた。
これが鳳華音による誘導ならまだ動きや攻撃パターンも読めそうなもんだが、その鳳華音本人も隙を見て攻撃に参加して来るからたまったもんじゃないだろうな。
もっとも。
ヒュウン!
ガキッ!
「あ、危ないですね?私まで攻撃するんじゃありません!」
自分が勝手に攻撃に加わってチャクラムに当たりそうになってりゃ世話ないな。
美鈴は自分への攻撃を防ぎながらもこれを横目で見ていた。
「鳳さん、式神使いなら式神の躾くらいちゃんとしてくださいますか?」
「…るさいですね!貴女に勝てさえすればいいんですのよ!」
「いえ、貴女が御自分のチャクラムで防御シールドを破損されて自滅負けされたりしたら本当の私の勝ちにならないのが我慢ならないのですわ!」
等と言い合ってると。
フイイン…!
シュン!
「おわっ?」
「なんと?!」
さっきまではちゃんと美鈴だけを狙ってたチャクラムが、今度は鳳華音までを狙い出した。
「ちょ、ちょっと?何でこのコ達私まで…!」
「え?それってナンダカおかしくありませんですの?」
「そ、そうよ、何かおかしいのよ!」
鳳華音もこの異常に冷静さを欠いたのか、お嬢様らしい言葉使いでは無くなっていた。
…しかし考えてみれば変だ。
さっきまでは感じなかったが、チャクラムの動きからはまるで敵意でもあるみたいな…?
「フォ…鳳さん?何か貴女に向かって行くチャクラムが多くなったような気がしませんこと?」
「へ、変ね?確かにそんな気が…!」
鳳華音は双剣を光らせた。
「アナタ達、いい加減にしなさい!」
鳳華音が一喝する。
………しかし効き目は無かった。
「な、何でー?!」
鳳華音はチャクラムから逃げ出した。
だが一斉にチャクラムは鳳華音を追いかけた。
「こ、これはもしやマズイ事が…?」
美鈴はチラチラと周囲を伺った。
…あ。
(あれですわね!)
遠くの丘からコチラを覗き込んでいる集団があった。
例の如くソイツらは赤い服装をしていた。
目を閉じ両手の指で印を組んでいる。
(あれがチャクラムを操ってるのですわね!)
(名尾君、白百合のプリンセスさんに連絡を!)
【よしわかった!】
(では…私は。)
美鈴は茂みに隠れた。
そして。
ビュン!
「あっ!」
鳳華音が躓いた。
そこへ全てのチャクラムが一斉に襲いかかる。
「しまっ…」
防御シールドを発生させるアミュレットがあるとはいえこれは一度攻撃を受けた部分は破損してしまう。
そこへ追撃されたら負傷は免れない。
「…!」
鳳華音は思わず目を瞑った。
その時。
ガキイーン!!
全てのチャクラムが一瞬にして弾き返された。
チャクラム陣形を組み直すため再び離れた。
「ご無事ですか?」
キョトンとその声に反応する鳳華音。
「は、はあ…?」
「あの、貴女は…?」
「私?私は…。」
「仮面の剣豪・不可視擬、ここに見参!!」
そこには双剣を構える紫のチャイナドレスの剣士が仮面を付けて鳳華音の目の前で庇うように立っていた。
鳳華音との試合にも邪魔が入りました。
前回の如く赤い服装をした連中、その正体とは?
そして鳳華音の窮地に久しぶりに仮面の剣豪・不可視擬登場!