第十話【ツンデレ教師と不思議系先輩現る】
残りの攻略対象、まとめて登場します。
教師は少し怖そうですけど案外単純でチョロそうでもあります。
三年生の先輩は少し謎があります。
しかし性格も掴み所が無さそうにも見えます。
「私が担任となる范燕巫だ。」
中々の美人教師が教壇に立っていた。
身長も高く、170㎝はありそうだ。
スタイルは良く、まさしく大人の女といった美貌の持ち主。
そして知的さを感じさせる眼鏡スーツ姿のクールビューティーな女性。
早くも周囲ではポワワワ~っとなるお嬢様や側仕えが現れた。
(ああ、これはもうこの子達、この教師にやられてしまいましたわね。)
(この女教師、いえ…。)
(百合ゲー攻略対象の教師ヒロインに!)
【その通り!】
【だが安心しろ。彼女は他のヒロイン達と違って特に攻略したり好感度ポイントを無闇に上げる重要性も、必要性すらも無い。】
(じゃあ、何のために用意されたキャラですの?)
【それは勿論、彼女の機嫌をあまりに損ねれば各種評価駄々下がりにされてしまうからだ。下手すりゃ例え主席だろうと留年だ。】
(ひ、酷すぎる設定ですわね、これ考えたスタッフ、アホですか?…やってる時は気が付きませんでしたけど。)
【俺もまだ高校一年生になって間もない頃にやった最初のプレイで「オバサンヒロインは要らねーや」て無視してたら留年でゲームオーバーにされたからな。】
【まあ、それ自体は俺の若気の至りだったとはいえ、正直その時の印象が強すぎて今でもあまり好かんキャラだ。】
(十代前半の男子って、歳上好みが多いという印象がありましたが。)
【人それぞれ、ケースバイケースだな。その時の自分の年齢から見ればやはり年齢差が気になったし、たまたま当時の俺の歳ではまだ射程内に届かなかったってだけだ。】
【でもまだ二十代前半って設定だから近い年齢で歳上好きなヤツには充分ヒットすると思うぞ。】
【中年層には断トツ人気かもな?俺も死ぬ前の歳なら試しにプレイしてみたかも知れないしな。】
(…まあ、つまりは攻略云々ではない理由でポイントを適度に重ねなければならないワケですね?)
【そう。言うなれば、ポイント的にプレイヤーの足を引っ張りつつゲームバランスを保つ役目も背負わされたキャラ、それが攻略対象も兼ねた歳上の女教師の存在理由でもある!】
(そう聞くと、そこそこ不憫な扱いの方に思えて来ましたわ…。)
(で、彼女の評価を下げないようにするにはいかがいたしますの?)
【普通に優等生らしく振る舞ってれば大丈夫だが】
【他のヒロイン達と仲良くなり過ぎると噂となり、コイツの耳に入る。そうするとコイツが嫉妬してポイントが下がる。】
(結構面倒くさい女ですわね。)
【だから、危険ゾーンに達するとゲームでは警告が入る。】
(それ、ゾーンに入ってからでは遅いのでは?)
(そう言えば、たまに何か鳴ってましたわね。その後で他のヒロイン達の印象が少し悪くなってましたわ。)
【それがコイツが持つ主人公の足を引っ張る能力の真骨頂だ。】
【具体的にこの世界ではどうするかと言うと、陰口や悪い噂を流したりしてヒロイン達の主人公への評価や好感度を落とすとか、だな。】
(い、陰湿ですわ…。)
【兎に角、アイツには嫌われない事に徹するんだ、いいな?】
(何だかそんな相手、攻略どころか相手する気にもなれませんわ。…ハナから攻略するつもりもありませんけど。)
考えながら担任を知らず知らずジロジロと見ていたらしい。
「黎美鈴さん、私に何か?」
「あ、いえ。先生がどんな方か考えておりまして。(嘘はついておりませんよ?)」
「それで出来れば先生の自己紹介をしていただきたいのですがいかがでしょうか?」
「私の、自己紹介?」
【お、僅かに好感度が上がった。】
「…私は大学を出てここに教師として赴任してまだ二年目。」
「皆、不慣れながらもよろしく頼む。以上。」
「い?!…先生、そうでは無くてですね。」
美鈴がどうしたものかと考えていると助け船が入った。
「范先生、先生のご実家の事とか、ご趣味とか、好きな事とか、そういったことを黎さんは知りたいのだと思います。」
文明花の側仕え、宋芽友がそう語った。
更に文明花も立ち上がって話しかける。
「私も知りたいです。皆さんも知りたいですよね?」
この声に教室中に賛同の声が出始める。
「………ふう、わかったよ君達。話そうじゃないか、私の事を。」
拍手が教室を包む。
拍手が止むと、ゆっくり范先生は語り出した。
…………。
「…………少し長くなってしまったな。これでHRを終わる。」
この先生、語り出したら意外に沢山自分のプロフィールを語ってくれた。
特に食べ物や人物などの好き嫌いについて饒舌だった。
【人間誰でも自分の事を知って欲しいし、興味を持たれれば嬉しいもんだ。良い機転だったぞ、美鈴。】
(いえ、今回はあの二人が私のフォローをして下さったからですわ。)
「先程はフォローしていただきありがとうございました、宋芽友さん。」
「いえ、私はお嬢様のお友達の貴女の補助をさせていただいただけでございます。」
「明花、貴女もありがとう。実は私、先生の機嫌を損ねないかヒヤヒヤしてましたの。」
「いえいえ、美鈴のお役に立てたのなら嬉しいです。」
芽友と明花の主従コンビは満足そうだった。
「お嬢様、すみません。私、こういう事には疎くて。」
申し訳無さそうに愛麗がショボンとしていた。
「何を言いますか?尻拭いするのは私の方の役目です。貴女は精一杯仕事をすれば良いですし、私は友達だからと言って無闇に助けを求めたりはしませんわ。」
「でも、お嬢様の新しいお友達はきちんとお嬢様のフォローをきてくださったのに、それに引き換え…。」
「もういいです、終わった事だし私は気にしてないんです!」
「それでも貴女の気が治まらないんなら、幾らでも折檻してあげますから、もう忘れなさい?」
「…お嬢様の、折檻………!」
「め、美鈴さん?流石に折檻までは可哀想です。」
「愛麗さんは悪くありません、許してあげては?」
「二人とも、ちょっと待ってください。愛麗の反応を見てもらえませんか?」
「愛麗さんの、反応?」
愛麗がぶつぶつ呟く。
その様子になにやら危ない雰囲気を感じ出す明花と芽友。
「折檻、折檻………お嬢様、の、………折檻!!」
クワッと上を見上げる愛麗。
『ご褒美、キターッ!!!』
突如叫ぶ愛麗。
「な、何ですの?」
「どうかしましたか?」
クラスメイト達がざわめく。
美鈴が愛麗の顔前に手をやると、フラッとよろける愛麗。
それを咄嗟に抱える美鈴。
「あらあらー、どうしたのかしら愛麗?」
「全く、これだから夜中の勉強は程々にしなさいと申しましたのに。」
「皆さーん、この子体調を崩したみたいなので、保健室に連れていきますわ。」
「次の授業は出られないと先生に伝令お願いいたしますわ!」
美鈴は愛麗を抱えて教室を出る。
「私達もお供いたします!」
これに明花と芽友も続いた。
保健室の、これまた美人先生にベッドを借りると愛麗をベッドに寝かせた。
「私だけで大丈夫でしたのに。」
「すみません、愛麗さんがきになったもので。」
(お嬢様、嫉妬されたのですね?いい傾向です!)
要らぬ好評価をする芽友のお腹を軽く明花がつねった。
「これはこの変態を手っ取り早く鎮めるため魔法で眠らせたのですわ。実際この子疲れていたし丁度良いと思いまして。」
「そうだったのですか。なら心配無用ですね。」
「お嬢様方、私は授業に復帰いたしますので、お二人はごユックリと………。」
「や、芽友?」
芽友は気を利かせて保健室を出る。
「あ、あの。隣、よろしいですか?」
「…はあ、私は構いませんが。」
【メインヒロイン、積極的だな。】
(シナリオでこんなイベントありましたっけ?)
【うーん、ゲームやノベルのシナリオは大まかな部分だけを取り上げてるから実際にはこんな知らなかったシナリオも存在していたのかも知れないな。】
「明花さん、授業出ないと単位が………。」
「それはお互い様です。」
「その、だから…暫く、貴女のお顔をこうして眺めていても、良いでしょうか…?」
潤んだ瞳がキラキラしている明花。
そんな顔で見つめられれば、彼女の相手が男性でなく女性であっても心を奪われてしまいそうだった。
(くっ、こ、これは………これはっ………!)
(あ、危ないところでした………明花さん、恐るべき百合パワーですわっ…!)
何とか耐えきった美鈴はまだ眠り続ける愛麗を置いて明花と一緒に保健室を出る。
「お昼休みに迎えに来ればさすがに起きると思いますわ。次の授業には出ましょう。」
「はい。まだ休憩時間には早いですから他の部屋を覗いて見ませんか?」
「そうですわね、一部屋くらいなら別に構わないかしら。」
「渡り廊下は誰かに見られ易いと思うので、…あ、あそこの湯沸し室とかはどうでしょう?」
「…………?何か、良い香りがしません?」
「言われてみれば。」
二人が湯沸し室を覗くと、そこには一人の生徒が立っていた。
まるで西洋人のようなプラチナブロンドの髪を伸ばした白い肌。
美鈴の肌も黄色人種としてはかなり白めな美肌だし、そこまででは無いにしても綺麗で健康そうな肌の明花だが、その二人が霞みそうな程の美しさと桃色のリップとコバルトブルーの瞳。
二人が覗いている入り口には目もくれず、コンロの火を見つめながらお湯を沸かしている。
ティーポットから漂うのは紅茶の香りだった。
その生徒は片手に持つカップの紅茶を啜りながら静かに声をかけた。
「…貴女達も、どう?」
「よ、よろしいのですか?」
思わず声が上擦った。
「ええ。これは自前の茶葉なので学校側からの文句など言わせませんわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「すみません、お名前を教えてください。
私は一年生の文明花。
こちらの方は同じクラスの黎美鈴さんです。」
「初めまして、紹介に預りました黎美鈴です。」
「これはご丁寧に。私は三年生の安月夜。」
「安先輩、先輩は…。」
「月夜でいいわ。」
「月夜先輩はこんな時間に何で紅茶を楽しまれてるんですか?」
「…………この香り、落ち着くでしょう?」
「はい…。」
「確かに美味しいですけど。」
「心の落ち着きは、魔力も落ち着かせる。」
「私はね、時々こうしてお茶の香りで心を落ち着かせる事にしているの。」
「落ち着かせないと魔力が制御出来ない…そういう事ですね?」
「ご名答。だから私は日に四杯、紅茶を飲むの。」
「人は私を、給湯室の紅茶姫とも呼ぶわ(笑)」
「さ、さすがにそれは無いのではないですか?」
「あらどうして?黎美鈴さん。」
「美鈴とお呼びください。」
「それで先程の呼び名ですけど、授業時間中に給湯室を利用出来るのはほんの数名、それも教員に限られます。」
「そうか!授業中にここで月夜先輩を何度も見かける生徒なんていない。つまり呼び名を作るような生徒はいないワケですね?」
「あら、バレちゃった(笑)」
「それより先輩、先程の魔力制御の話しですけど…。」
「ああ、これは家庭教師に与えられた試練なの。」
「魔力制御、試練…………。先輩、私にはアレしか思い付きませんが。」
「そう、知ってるのね。」
「明花さん、召喚魔術を知ってらっしゃる?」
「いえ、あまり詳しくは。」
「異界、霊界、精霊界など様々な世界の生物を召喚して契約し、従わせるのだけど。」
「その中には霊獣を自身に宿らせるという危険度の極めて高い修行方法があると聞いた事がありますわ。」
「お、恐ろしい修行もあるんですね。……え?まさか、その修行を先輩が?」
「物知りね、美鈴さん。」
「何故そんな恐ろしい修行をしなければならないのですか?あまりに危険です!」
(勿論知ってる。ゲームの初期に登場したキャラだからその理由も。)
「ごめんなさい、そろそろ移動するわ。」
月夜はカップを濯ぐと流し台に置いて給湯室を出て行く。
「…また会いましょう。」
「何だか変わった…というか不思議な感じの先輩ですね?」
明花が呆気に取られて話しかける。
(これで、ゲーム初期の一年生で登場する攻略ヒロインは三人揃いましたわ。)
【ツンデレ教師と不思議系先輩、そして親しみやすい元庶民の同級生。】
【さあ美鈴、お前なら誰を選ぶ?】
(ここでいきなり三択ですか?!)
(私は選んだりしません!)
【そうか、二年生か三年生で後輩狙いなんだな?】
(そんな事は言ってません!)
考え事を始めたように見える美鈴を見て明花は不安になった。
(まさか美鈴さん、月夜先輩を好きになられたのかしら?)
二人はそれぞれが違う思惑に悩んでいた。
そして彼女らの側仕え達は。
(明花様、今頃は美鈴様と仲を深めておられるのでしょうか?)と、芽友は一人ほくそ笑んでいた。
そして愛麗はお菓子を腹いっぱいに頬張る夢を見ていた。
残りの攻略対象達にも好感度は高そうな美鈴。
全員と上手く付き合っていかないと一年生で攻略エンドになりかねませんね。
メインヒロインの明花もライバルが強力で大変だあ(棒)。