メリーさんの見た流れ星
ひだまりのねこ様より、メリーさんのイメージイラストを頂きました。
ひだまりのねこ様、イメージイラストの使用を御快諾頂きありがとうございます。
空気の澄んだ、ある寒い冬の夜の事。
人気の無い夜の住宅街の片隅で、一人の女の子が街灯に照らされていました。
ウェーブした髪は金色で、宝石みたいに大きな瞳は青色。
フリルで飾られたピンク色のブラウスとロングスカートを着た姿は、まるで舶来品の西洋人形のようでした。
寄りかかった郵便ポストに隠れる程の小柄な体格から考えますと、小学校の低学年位の年頃でしょうか。
だけど、こんな小さな女の子が夜の町に一人でいるなんて、普通では有り得ませんね。
すると女の子は、持っていた小振りのバッグからスマホを取り出し、何処かへ電話を掛けたのです。
「もしもし。私、メリーさん。今、あなたの家から一番近い郵便ポストの前にいるの。」
そうして電話をかけ終えると、女の子は何事もなかったかのようにスタスタと歩き始めたのでした。
「最初は泉佐野駅のホームで電話をかけて、今は郵便ポストの前。その次は、家の前で電話をかけなくちゃね。」
何とも奇妙な独り言を呟きながら。
きっと皆さんの中にも、「メリーさん」という怖い話を聞いた事のある人はいるでしょう。
夜中に掛かってきた電話を取ると、「もしもし、私メリーさん。」という可愛らしい女の子の声が、自分の今いる場所を伝えてくるのです。
それから電話の度にメリーさんがこちらへ近付いていき、最後には「あなたの後ろにいるの…」と直接呼び掛けてくるという…
皆さんもお気付きのように、さっき誰かに電話を掛けた金髪の女の子は単なる人間ではありません。
現代の闇に生きる妖怪のメリーさんは、今宵も誰かに狙いを定めたのでした。
しかし、ヒッソリと寝静まった町を歩くメリーさんは、少し憂鬱そうな顔をしていました。
「こないだは面倒な人間に電話しちゃったなぁ…まさか仰向けになって床に寝っ転がるなんて。あれじゃ後ろを取れないじゃない。」
このメリーさん、どうやら悪知恵の働く人間に一本取られてしまった御様子。
その事が心残りになっていて、「また同じ目に遭うんじゃないかな?」って心配なんですね。
そんなメリーさんですが、狙った相手の家が見える所まで来た以上、電話を掛けない訳にはいきません。
「遅いなぁ、早く出てよ…」
怖気づいてしまったのか、電話口の相手はなかなか出てくれません。
メリーさんはイライラしてきました。
待ちくたびれたメリーさんが余所見をしてしまった、その時です。
「あっ、流れ星!」
空気の澄んだ冬の夜空に、キラッと光る物が尾を引いたのは。
「今度は怖がってくれますように…今度は怖がってくれますように…」
−流れ星よ、消えないで!
祈るような思いで、メリーさんは願い事を唱えました。
残るは、あと一回です。
「今度は怖がって…ああっ…!」
しかしメリーさんの祈りは虚しく、三回目のお願いの途中で流れ星は消えてしまったのです。
ところが、メリーさんの不幸はまだ終わりません。
『もしもし、メリーさん?メリーさんだよね?』
メリーさんのスマホから、声が聞こえてきたのです。
−しまった、発信を切っておくんだった!
今さら悔やんでも、どうにもなりません。
「もしもし。私、メリーさん…」
『メリーさん、流れ星にお祈りしてたでしょ?最後まで言えなくて、残念だったね…』
メリーさんの声は、相手に全て聞こえていたのでした。
「もしもし。私、メリーさん。そういうあなたこそ、私を追い払ってくれるように流れ星にお願いしたんでしょ?今日の所は、流れ星に免じて帰ってあげるわ!」
−妖怪である自分が、人間なんかに弱みを見せられない。
そう考えたメリーさんの、懸命の強がりでした。
『えっ?私、そんな願い事なんか…』
「もしもし。私、メリーさん。強がりはよしなさいよ。せいぜい、この幸運に感謝する事ね!」
相手に最後まで言わせず、メリーさんは通話を切ってしまいました。
「はあ…」
スマホをバッグにしまったメリーさんの口から、深い溜め息が漏れます。
強がりを言っているのが自分だという事は、メリーさんだって百も承知だったからです。
それからメリーさんは、星が見える程に空が晴れた冬の夜には、誰かに電話を掛けるのを控えるようになりました。
また流れ星が降ってきたら、今度こそお願いを伝えたいからです。
空気の澄んだ冬の空に、流れ星が煌めく夜。
あなたが星に向かって願い事を伝えている時、メリーさんも一緒にお祈りしているのかも知れませんね。