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現在編1部−生まれ育った故郷へ−父との対話

「父さんは…転勤で海外に行かなければならなくなった…。」

 リビングにあるテーブルに座り親父と朝食をとっていると、急に親父が話を切り出してきた。

彼方

「…モグモグ、モグモグモグ…ふ〜ん。モグモグ…。」

 俺は、特に驚くと言うこともなく、食べながら話だけは聞くことにしていた。親父も気にせずに話を続けた。

「ああ…そのまま食べながらでも良いから聞いてくれ。」

「急な話ですまないな彼方。父さんも断ろうと思ったんだが、他に適任者が居ないらしくてな…。」

彼方

「そんなに長くは無いんだよな?どの位なんだ?」

 俺は簡潔に要点だけを聞いた。その間も俺の目線は飯へと向けられていた。

「…どの位なのかはっきりとは分からないんだ…ただ、少なくとも事業が起動に乗るまでは、帰っては来れないだろうな…。良くて1年。最悪3〜4年はかかるかも知れない…。」

 それを聞いた俺は、食べるのを止めて少し考え込んだ。

 親父の問題であるから俺には差ほど関係無いし、短期間であれば俺にもなんら支障は出ないと思っていた。2〜3ヵ月位なら適当にやっても一人で生活していけるだろうと…。

 だから、聞き流して居られたのだが……長期間とあれば話は別だった。

 何故ならば、俺にも色々と面倒な事がついて回って来るからだ。

彼方

「…で、俺は一体どうすればいいんだ?ここでそんな長期間、一人暮らしをしていろと?」

彼方

「先に言って置くけど、俺は海外にまではついていく気は無いからな。」

 はっきり言って、俺は海外にまで行くのは御免だったので先に親父に断っておいた。

「…あ、ああ、父さんもそうしようかと思ったのだが…やはり親としてはまだ一人暮らしをさせるのは心配でな。」

「…かと言って一緒に海外に連れて行こうとも考えたのだが……恐らく、断られるだろうなと思っていたよ。だから、期待はしていなかったさ…。」

 親父は、少し残念そうに溜め息をついた。

彼方

「それで結局の所、俺はどうすればいいんだ?」

 俺は、食べ終わった食器を片付けながら親父に尋ねた。

「その事なんだが…叔父の所で面倒を見てもらおうと思う。一応、叔父の方にも先に了承は取っておいた。後は、彼方がそれでも良ければだがな。」

 親父に兄弟姉妹はいない。だから、叔父と言えば母さんの兄と言うことになる。

 だが、母さんが俺が幼い頃に病気で亡くなって以来、一度も挨拶さえろくに行ってはいなかった。

 それどころか、母さんの墓参りでさえ、亡くなってからは何故か一度も行っていないのだ。

 母さんの墓は実家のある永久音村にある。叔父の家もその村にあるのだ。

彼方

「………他に選択肢は無いんだ、俺もそれで構わないよ。」

 少し考え込んだ後、俺は親父にそう答えた。

彼方

「一人暮らしするよりは楽そうだしさ。それに了承も取れてるみたいだし万事OKって事だろ。」

彼方

「何年振りかの挨拶がてらにでも行ってくるよ。」

「…分かった。では、叔父の方には父さんから伝えておく。いつ頃になるかはまた後でな。」

 そう言うと、親父は仕事にいく支度を始めた。いつの間にか親父も飯を食べ終わっていたようだった。

彼方

「それじゃあ、俺も学校には一応伝えておくよ。まあ、入学したばっかりで転校するとなると驚くだろうけどさ。ははっ(笑)」

 俺は嘲笑していた。

彼方

「ん?まてよ…対人関係が出来る前だから一番良かったのかも…別れが悲しいだの何だのって、嘘泣きしなくていいしな…ぶつぶつ…。」

 俺が独り言していると親父がまた、何か言ってきた。

「彼方。」

彼方

「ぶつぶつ…ん?何だ親父?」

「向こうの学校への転入手続きは父さんがしておくから心配しなくていいからな。」

 親父は玄関で靴を履きながらそう言っていた。そして、出て行く前に…

「………母さんの墓参りをしてやってくれ。」

「………亡くなってから一度も行ってやらなかった、いや、行ってやれなかったから………。」

彼方

「了解。」

 何故か、親父の声はすごく弱く聞き取りにくかった。 

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