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現在編1部−生まれ育った故郷へ

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「…ねぇ…彼方っ…。」




彼方

「んぁ?…んんん……。ん〜ん。」

 俺は背伸びをした。どうやら、寝てしまっていたようだ。それも夢何だろうか?を見るほどの熟睡っぷりだった。

彼方

「……ん〜〜。ふぁぁ…。今、夢の中で誰かに呼ばれたような気がしたんだけどなぁ…。う〜ん…。」

 俺は、まだ寝ぼけている頭で必死に夢の内容を思い出そうとした。何だかその夢は、俺が失っているとても大切な物を含んでいたような気がしたからだ。

 だが、思い出そうとすればする程、霞がかかるように曖昧になっていく気がした。

彼方

「う〜ん、駄目だ。思い出せない。本当に俺が忘れている何かが、そこに有ったような気がしたのに…。」

彼方

「…でも、こんなに頭を働かせても思い出せないのだから、本当は思い出したくない物だったのかも知れないなぁ…。」

 俺は、そう考えて考える事を止めた。

 そして、窓を開けて外の世界に目を移した。


『ガタン…ガタンゴトン…ガタン…ガタンゴトン…。』


 窓を開けると、生暖かい初夏の風が吹き込んできた。

 その風に乗って、線路を走る列車のありきたりな音も聞こえてきた。

彼方

「おおっ!外はこんなにも暑かったのか…と言うより…冷房の効いている車内にいるのに、窓を開け放った俺が馬鹿だったのだが……閉めるか?」 俺は、他に乗っている人が居るかと思い、座席を立って周りを確認した。

 無意識の内に窓を開けてしまっていたので、誰かに迷惑を掛けてしまったならば謝らなければと思ったからだ。

 だが、幸いにも俺以外は誰も乗ってはいなかった。

彼方

「ふぅ、良かった。誰も乗ってなかったみたいだな。それじゃあ、ちょっと暑いけども外の景色を見たいからもう少し開けさせてて貰おうかな〜。」

 俺は、誰にも迷惑が掛からないならと、窓を閉めるのを止めて外の景色を眺めることにした。

彼方

「……うん。……田舎だなぁ。周りに何もないや。」

彼方

「…絶えず押し寄せる人の波…鳴り止む事のない喧騒…排気ガスで薄暗く曇った空…天まで昇るような高層ビルの林…。」

彼方

「…ここには、そんな物は…一切無い。有るのは…青い海…蒼い空…緑に覆われる山々…。後は何処までも続く…田園風景だなぁ…ははっ(笑)。」

 ちょっと皮肉るような笑い…俺は、空を見上げた。

 そこには、俺が住んでいた都会の街の空とは明らかに違う…蒼く、蒼く澄んだ空があった。

 その青空には、大きな入道雲が一つ、二人と浮いていた…。 俺は、この空をしばらくの間ボーっと眺めていた。

 どの位の間眺めていただろうか…

車掌

「え〜、次の駅は永久音とわね村〜、永久音村〜。お降りの方は…。」

 目的地を告げるアナウンスが流れた。

彼方

「おっ。次の駅か…持ち物を整理しないとなっと…。」

 俺は、窓を閉めて降りる為に荷物の整理を始めた。

彼方

「でも整理と言っても、それ程荷物は持って来なかったし、車内で散らかしたわけでもないからな。」

 俺は、足元に置いてある荷物と上のボックスに置いてある荷物を下ろして、隣の空いている座席の上に置かせてもらった。

 中くらいの旅行バックが一つと小さなアタッシュケースが一つずつだった。

 俺が持って来た物は、必要最低限の物だけだった。

彼方

「これで良しっと…あとは何か足りない物があれば、村で買えばいいか。流石に都会ほどとはいかないだろうけど、何とかなるだろうし…おっと、もうすぐ着くな。」


『キー、キキー、キー、キー。』

 列車のブレーキ音がして、窓の外の景色がゆっくりと流れ出し、そして緩やかに止まった。

車掌

「永久音村〜、永久音村〜。お降りの方は足元にお気を付けてお降り下さい…。」

 俺は、荷物を肩に担ぐと降車口へと向かった。

彼方

「よいしょっと。」

 俺は列車から降りた。そして辺りを見回した。彼方

「……無人駅か。まあ、こんな田舎の駅に人なんて寧ろ必要ないと思うけどね。…改札口も…当然、無いよな…。…切符入れは有るかな?………おっ、有った有った。」

 俺は切符入れに切符を入れると小さな無人駅を出た。

 駅前にはバス停が有るには有ったのだが、1日に1〜2本という都会では有り得ないような少ない本数だった。

 バス停の他には建物らしい建物は何も無く、何処までも続く田園風景が広がっていた。

 都会にある駅前というイメージが、ここには全くと言っても良いほど感じられなかった。

彼方

「ふむ。ある程度想定はしていたけど…ここまでですか…しかも、この初夏とはいえ真夏の炎天下の中をバスではなく、歩いて行けと言うわけですか…。」

 辺りには陽炎が立ち上り、蜃気楼も見えるようだった。

 日陰も少なく、俺がこれから世話になる家に行くためには、田んぼの中の一本の畦道を歩いて行くしか他には無かった。

彼方

「…ハァ。」

 俺は溜め息をついた。

彼方

「何が悲しくて俺はこんな田舎にまで来たんだっけかなぁ。まあ、親父に付いて海外なんぞに行くよりは余程マシだろうとは思ったけどさ…。」

 俺は、今置かれた自分の状況に少し後悔しつつ、どうしてこんな事になったのかに考えを巡らせたのだった。

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