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過去編1部−優しい時間

『うわぁ……凄いや。ねぇ、見てよ! お父さん、お母さん。』

 僕は生まれてから初めて訪れた丘を見て凄くはしゃいでしまっていた。

 ここは【青空の見える丘】

 僕達が住んでいる永久音村の外れにある小さな丘だ。




 ここからはたくさんの物が見渡せる。

 ここにはたくさんの音が奏でられている。

 ここはたくさんの優しい気持ちを与えてくれる。

 見上げた空は蒼く澄み渡り、気持ちを穏やかにさせてくれる。

 空に浮かぶ入道雲は白くて、大きくて、とても面白い形をしていて笑わせてくれる。




 丘にある岬から望む海は青く透き通り

 丘から見渡せる山々は初夏の緑に覆い茂り

 丘を一面に広がる夏草達は鮮やかな緑色をしている。

 時折、丘を駆け抜けるそよ風にサワサワと草の波が押し寄せる。

 それは、とても綺麗な緑の海。

 降り注ぐ太陽は燃えるような赤

 光は綺麗な金色の色を呈している。

 風に乗って聞こえてくる蝉の声は、風と共に暑い午後の日差しを和らげてくれるように感じる。

 鳥の声、風の音、潮騒、揺れる草の音。

 この丘は世界中の何処よりも素晴らしい場所だと、幼いながらに確信していた。




『こらこら、彼方。そんなにはしゃいでいては転んでしまうぞ。』

『そうよ。お父さんの言う通りよ。少し落ち着きなさいな、彼方。ふふっ。』

 お父さんとお母さんは、僕のあまりのはしゃぎ様を見てクスクスと笑っていた。

『だって、だって、こんなに凄いんだよ!! 僕、今までこんなに綺麗な景色見たことないよ!』

 僕の興奮はまだ収まってはいなかった。

『はははっ、それはそうだろう。お父さんもお母さんと結婚してこの村に来るまでは、こんなに綺麗な景色は見たことがなかったぞ。』

『お父さんも最初は彼方ほどではないが驚いていたよ。』

 お父さんは最初は誰もが驚いてしまうんだとそう言った。

『ふふふっ、そうかしら。あの時の行君ったら今の彼方にそっくりだったと思うのだけど。』

『いい大人が

「見て見ろ夕乃、凄いぞこの場所は!! 俺は今までこれほどの綺麗な景色は見たことがないよ。」だものね。ふふふっ。』

 お母さんがお父さんを見て笑いをこらえている。

 今のお母さんの話からすると、お父さんも実は、初めて来た時に僕と同じようにはしゃいでいたらしい。

『こっ、こらっ、夕乃。彼方の前でそんな昔の恥ずかしい事を話さなくてもいいじゃないか。』

 お父さんは少し動揺しているように見えた。

『ふふふっ。だって、ねぇ。ふふっ。今の彼方に本当にそっくりで面白かったんだもの。ふふふっ。それにそんなに昔の話でもないでしょう?』

『ん…んっ、んん…ごほん!』

 お父さんは咳払いをしてごまかしていた。多分お母さんの言っていた事は全部本当のようだ。

『ふふっ。ふふふふふ。』

 お母さんは必死に笑いをこらえようとしているが、我慢出来ないみたいだった。

 よほどその時のお父さんは今の僕に似ていたのだろう。

 お父さんは少し照れながら頭をポリポリと掻いていた。




 それから、お父さんとお母さんは楽しそうに昔を思い出しながら語って、笑っていた。

 僕は病室とは違い、本当に楽しそうにしているお母さんを見ていてとても幸せな気持ちになることができた。

 僕はお父さんとお母さんの思い出話を邪魔しないようにと思い、一人先へと進んで行った。

 そして途中で立ち止まり、

『ありがとう。綺麗な景色を見せてくれて。』

『ありがとう。お母さんを笑わせてくれて。』

『ありがとう。僕達に幸せをくれて。』



『本当に………ありがとう。』

 僕は頭を下げ、丘に心からの感謝をした。




「ヒュ〜 ヒュヒュ〜」


 僕が頭を下げた時丘の上をとても涼やかな優しい風が通り抜けた。




『あはははっ。返事、してくれたのかなぁ。』

 僕は嬉しくて本当に心から笑って感謝をしていた。

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