閑話1 王都警備隊長の記録
閑話です
王都警備隊長の記録
ここ最近魔物の数が増えてきている、まだそれほど問題ではないが少し気になる
警備隊に注意喚起をしておくとするか
冒険者が魔物によって怪我を負わされたという報告が増えていた
初級ならともかく中級や上級まで怪我を負わされる事態になっているのは看過できんな
冒険者ギルドへ使いを出し情報共有を図る事にしよう
その日の夜報告書が届き目を通してみる
数が多いだけでなく以前には見かけない魔物まで出没するようになっているとの事だった
これはいささか状況が悪いかもしれない
上に報告を上げて対処を願い出る事にした
翌日の昼に王都騎士団、副騎士団長からの書状が届いた
書状によると付近の町でも魔物の活性化が起きているとの事
数が多くまた強い魔物も見かけるようになってきたとの事
騎士団は魔物討伐の為に1部隊を森へ遠征させる事が決まったそうだ
その間の警備体制は厳にする事
冒険者ギルドと共同で対処に当たる事と書いてある
これはかなりまずい状況らしい
一体何が起きてるんだ
俺は全警備隊の衛士に魔物による被害を抑える為の注意勧告を怠らないように指示を出した
同時に冒険者ギルドにも情報の共有をしておく事にした
それから2日たった昼の事だった
騎士団が森から帰還したそうだ
だが半数以上が怪我をしていて重傷者も居るそうだ
騎士団1部隊を以てしてもこれだけの被害が出る魔物が居たと言うのか
詳しく話を聞くと森の魔物の数が予想をはるかに超えるほどだったそうだ
魔物が数百ならまだ対処できただろう
だが魔物の数は1000を軽く超えていたそうだ
これからもっと増える可能性すらあるそうだ
この事を国王陛下に報告し対処を検討して頂く事になった
俺達警備隊は厳重警戒を怠らぬようにと命令が下った
これは大変な事になったぞ
冒険者ギルドからも動けるものは周辺警戒と王都の警備に加わって貰う事になった
そして翌日の事だった
魔物の大群が姿を現したのだ
その数...数万を超えているように思う
流石にあの数の魔物を相手には勝ち目は無いだろう
だがそれだけでは終わらなかった
薄闇が晴れる朝の事だった
巨大な影が2つ魔物の群れの中に存在していた
頭が5つある巨大な蛇の様な魔物だ
王都の城壁よりもでかいその体は見るものに絶望を与えるには十分だった
そしてまだ終わらなかった
魔物の群れの中に一際禍々しい気配を発する存在が居た
その者は俺達にこう語った
『我は偉大なる力を手にし魔物の王なり、この世に蔓延る邪魔な存在を全て消し去る為にやって来た、愚かなる者共よ、わが力の前に平伏しその命の灯を消すがよい、この世との別れの時をくれてやろう、1日生きる資格を与えよう、せいぜい余生を満喫する事だ』
という内容だった
全くふざけた奴だ、俺達を虫けら同然の扱いしかしないなんて、くそっ
まだ諦めちゃだめだ、王都は完全に包囲されたわけじゃない、援軍の到着を待てばまだ何とかなるはずだ
商人たちは一早く逃げだした後だった、だが彼らはこの情報を持って逃げだしてくれた
各町でこの情報が流れれば、各地を治める貴族の兵士たちが王都へ駆けつけてくれるかもしれない
それまで何としても王都を守らなくては、俺は警備隊に守りを固めて持久戦をする準備をさせた
魔王を名乗る者の言葉通り魔物達は王都から離れた場所に陣取りにらみ合いが続いていた
だがもうすぐ魔王の宣告した時間になる、援軍は早くても2日はかかるだろう
それまで何としても守り通さなくては
突如外から唸り声が聞こえて来た
ついに始まった
魔王軍の侵攻が始まったようだ
城壁から火矢を飛ばし魔物を懸命に倒していく
中庭に設置した投石器も使い魔物の軍勢に立ち向かう
魔術師の射程に入ると一斉に魔法が放たれた
魔物の軍勢は目に見えて勢いが衰えていった
だがそれも一時の事に過ぎなかった
後から押し寄せる魔物の軍勢の数が多すぎる倒された魔物を足蹴にして魔物達は押し寄せて来た
城壁に取り付かれあちこちで戦闘が始まった
騎士団も総力を出して戦っているが数が違い過ぎる
俺達警備隊も善戦はしているものの怪我人が増え持ち場をカバーできる人材が減りつつあった
そしてついに城壁に到達されてしまった
城壁内での激しい戦闘が行われる
一人また一人と戦死者が増える
くそっこのままじゃ1日どころか1時間だって持たないぞ
更に外からこの世の物とも思えない咆哮が上がった
巨大な影が動いてる
5つ首の蛇が動き出した!
駄目だあれはどうにもできない
ここまでか...
ヒュルルル~~~
カッ!ドゴォ~~~ン!!!
うわっ!
ヒュルルル~~~
カッ!ドゴォ~~~ン!!!
なんだっ!
バチバチバチッドシュッ!ヒュンッ!
ズドォーーーン!!!
あの光は何だ!何が起きてる!
城壁から外を見ると俺は自分の目を疑った
なんだこれは...何が起きたらこうなる?
そこには巨大な蛇の代わりに地面が抉れた跡があった、それも2か所、そして魔王が居た辺りも似たような状態になっている、いやもっと酷い有様の様に見える、魔王の姿は見つけられなかった、別の場所に居るのかあるいはもしかして...
後回しだ!今は詮索をしている余裕はない!
俺は城壁に登ってくる魔物を突き落とし、これ以上の進行を止めるのに躍起になった
「魔物を倒せ!、これ以上の進行を許すな!、テッド!後ろだ!」
「うわっ!」ガスッ!
「ちっおら~!」ザシュッ!グサッ!
「隊長!」
「ぐっ油断した、お前ら~気合入れろ~もうすぐ状況は変わる!」
「「「「「はい」」」」」
俺は足を槍で刺されてしまった、だがその甲斐あって部下を失わずに済んだ
足を負傷しても休んでいる訳にはいかない、まだまだ魔物は大量に居る
幸い魔物達の統制が無くなり、あるものは逃げ、あるものは互いに殺し合いを始めた
魔王はあの光に飲まれたのだろう、あの光はいったい何だったのか今となっては分からない事だ
魔物の残党を討伐するのにそれほど時間はかからなかった
城壁が被害を受けたがこれなら修復は可能だ
だが人的被害はかなり大きかった
騎士団の戦死者は50名に上る
警備隊の戦死者は30名ほどだった
冒険者の戦死者は20名ほどだった
いかに騎士団の負担が大きかった事かが伺える
住民への被害が0だったのが何よりもありがたい
俺達は生き残ったのだ!
謎の光が無ければ不可能だっただろう、何に感謝をすれば良いだろう
神か?それとも....分からない、だがありがとう
もう一度言おう、俺達は生き残ったのだ!
未来を手にする機会を得る事が出来たのだ!
神か神のような存在よ
ありがとう
これが俺が今回の騒動で感じた事をまとめた記録だ
この記録は誰にも見られる事は無いだろう
俺の家の棚の小さな箱に仕舞われて忘れられるだけの存在だ
だが俺はあの光に感謝してる、あの光の正体については色々と調べようとしてる者も居る
だがそれは無駄だろうと俺は思う
仮に分かったとして俺達にどうこう出来るものでもないだろう
魔王すら一瞬で消し飛ばすほどの存在だ
むやみに突いて王都が消し飛んだらどうするつもりだ
俺は今回の事で警備隊長の任を解かれる事になった
魔物の進行によって足に大きな怪我をしてしまった
これでは満足に戦えない、王都を守った英雄の一人として報奨金が払われる事になった
このお金で余生をのんびり過ごす予定だ
俺は妻も無く身寄りも居ないからな、残りの人生をゆったり過ごす事にしよう
前々からやりたかった園芸をするのも良いな、丁度家も庭もある、お金も貰える予定だしな
俺は窓から射し込んでくる光を眺めた
今日もいつもと変わらぬ日が昇る
次話はバカンスだ~
南の島だ~




